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【第十九話】アリス、レオンに決別を告げる

 アリスの放った光の魔法は、魔女に当たった。


「ぎゃあぁぁぁ」


 魔女の悲鳴が辺りに響き渡る。

 まさかここまで威力があるとは思っていなかったアリスは、呆然と魔女を見た。

 魔女は白い光に包まれていて、姿が見えない。


 レオンに支えられてようやく立っていられるアリスだったが、違和感があった。

 なんとなく、自分の視界の端が黒いのだ。

 馴染みはあるけれど、なにかがおかしい。

 顔を振ってみて、その違和感の正体が分かった。


「えっ、なんでっ?」


 アリスの呟きに、レオンはアリスを見て、目を見開いた。


「アリス、だよな?」


 レオンの声に、アリスは顔を上げてレオンを見た。

 視線が合って、レオンは見覚えのある紫色の瞳にホッとしたが、髪の毛の色が──。


「黒く、なってる」


 アリスは自分の髪の毛を手に取り、確認する。

 金色だったはずの髪の毛が、一瞬にして黒くなっていた。

 考えられるのは、一つ。

 魔女の死の魔法を受けたせいとしか思えない。


 アリスとしては黒髪は見慣れたものなのでなんとも思わないが、この世界の人たちには、黒髪とは呪われたもので、罪の色である。

 まさかその黒髪になるとは思っていなかったアリスは、戸惑った。


「レオン……」


 黒髪になるのは別にいい。

 だけど……。


 アリスはとっさにレオンから身を離した。レオンに支えられてようやく立っていたために、かなりふらつく。


「アリスっ?」


 レオンは慌ててアリスに近寄り、腕を伸ばした。

 しかし。


「────っ!」


 アリスはとっさにレオンの手を払いのけていた。

 まさかそんなことをされるとは思っていなかったレオンは、驚き、目を見開いた。


「わたしに、近寄らない、で……っ」


 フラフラのアリスは、ペタリと地面に座り込んだ。

 レオンは首を振ると、アリスに近寄った。


「嫌っ!」

「嫌じゃない」

「離してっ!」


 アリスはイヤイヤと手を振り回したが、レオンは構わずアリスに近寄り、抱えた。


「レオンっ!」

「ったく、なに急にワガママを言うんだ」

「髪の毛がっ!」

「髪の毛がどうした」

「だって、黒く!」


 そう口にして、アリスの目から涙があふれた。

 別に黒髪になったのはいい。アリスとしては特に抵抗はない。

 だけど、この世界の人たちにすれば、黒髪は罪の色で、忌み嫌われている。


 髪の毛が黒くなったことで、レオンに嫌われたら嫌だ。

 そうだ、アリスがなによりも恐れているのは、レオンに嫌われることだ。


 前世では、好きな人はいなかった。

 だけど、この世界で、好きな人が出来た。

 一目惚れと言っていい。

 金色に輝く、エルフ。


「やだ、離して!」

「フラフラなのに、なにを言っているんだ」


 黒髪は、罪の色。

 魔女の魔法を受けて、アリスは呪いを受けた。

 この呪いが、レオンに移るのが恐ろしい。

 大好きなレオンまで、黒くなるなんて──!


「レオン、離してよ!」

「一人で立てるのか?」

「立てるわよ!」


 レオンの腕が緩んだ隙に、アリスは慌てて離れて、立って……立てなかった。

 フラリと身体が揺れて、レオンが支えてくれた。


「ほら、立てないじゃないか」

「嫌……嫌よ」


 アリスはポロポロと涙をこぼしたが、レオンは離してくれなかった。


「泣くほどオレのことが嫌いになったのか?」


 アリスは慌てて首を振った。

 レオンのことは好き、大好きだ。

 そのレオンにも魔女の呪いが移ったら、アリスはそれこそ死ぬほど後悔する。

 あの魔法を阻止できて、アリスは良かったと思っている。

 レオンに当たらなくて、良かった。


「じゃあ、なんで嫌と言って泣くんだ」


 そこでふと、アリスの冷静な部分が囁いた。

 レオンに嫌われるのは嫌だ。

 だけど、レオンにこの呪いが移るのも嫌だ。

 それでは、どうすればいい?


 レオンのことが嫌いになったと告げて、アリスからできるだけ離れてもらおう。

 そうすれば、呪いは移ることはない。

 アリスは涙を拭って、レオンを睨みつけた。レオンはまっすぐにアリスの視線を受けた。

 金色の髪も、整った顔も、碧い瞳も、やっぱり好きだ。

 アリスを呼ぶ甘い声も好きだ。

 金色の、美しいエルフ。

 レオンは綺麗なままでいて欲しい。


「レオンの、馬鹿っ! 大っ嫌い!」


 アリスのそばにいれば、呪いが移るかもしれない。

 だから、できるだけ遠ざけよう。

 そうだ、エルフの里に帰ってもらおう。


「もう顔も見たくない! エルフの里に帰っちゃえ!」


 アリスは心にも思っていないことを口にした。

 しかし。


「アリス、知ってるか?」


 レオンはニヤニヤしながらアリスに近づいてきた。その顔は、今まで見たことのないものだった。

 それでも思わずアリスは見蕩れていた。

 やっぱりレオンのこと、好きだ。


「エルフは人の嘘を見抜けるって」

「嘘じゃない!」

「人が嘘を吐くとき、利き手とは反対に視線が向くそうだ」


 アリスは嘘を吐いてないとアピールするため、レオンにまっすぐに視線を向けていた。しかし、無意識のうちに視線がそれていたのかもしれない。

 いや、これはレオンの鎌掛けだ。


「それ、別にエルフじゃなくても見抜けるわよ! それに、嘘じゃないし!」

「ほんと、アリスは困った子だな」

「子ども扱い、しないでよ!」

「今のは嘘じゃないな」


 見た目が子どものために子ども扱いされるが、アリスはそれが苦手だった。

 仕方がないのだけど、それこそなんだか騙しているみたいで、居心地が悪いのだ。

 レオンは甘やかしてくるけれど、平気だった。


「アリス、心にもないことを口にするな」

「本当だもん!」

「また嘘を言う」


 レオンはため息を吐くと、アリスと同じ目線になった。


「アリスが嫌がること、なにかやったか?」


 なにもしてない。

 いや──。


「これ以上、わたしに近寄らないで!」


 本当はレオンに抱きつきたい。

 ふらふらするから、支えて欲しい。


「おまえたち──!」


 その声に二人はハッとした。

 そうだった、すっかり忘れていたけれど、魔女がいたのだ。

 アリスとレオンは同時に魔女に視線を向けた。

 白い光はすっかりおさまり、そこには真っ白な髪になった魔女らしき女性がいた。


『深い死の淵から目覚めし者よ』


 その詠唱に、アリスは目を見開く。

 またあの死の魔法を放たれたら、今度こそ防げない。

 それでも気力を振り絞って、詠唱しようと口を開きかけたその時。


 アリスたちと魔女の間に、電撃が落ちた。

 アリスとレオンは同時に防御魔法を展開した。

 魔法の表面を舐めるように雷が通り抜ける。


「くっ」


 思った以上の威力だったが、どうにか防ぎきった。


「ミルヴァさま!」


 上空から声がしたので見上げると、灰色の髪の男がドラゴンに乗っていた。ドラゴンはゆっくりと降りてきて、砂ぼこりを巻き上げて、地面に降り立った。


「オッリ」


 魔女は顔を歪め、忌々しそうにアリスを見た。


「今日のところは引くが、次に会ったときはおまえの命はないと思え!」


 魔女はフラリと立ち上がると、ドラゴンに近寄った。

 ドラゴンから飛び降りたオッリと呼ばれた男は魔女を支えながらドラゴンの背に乗り、飛び立った。


 二人は見ていることしかできなかった。


 ドラゴンが去った後、レオンはアリスの頭に触れた。


「っ! 触らないで!」

「アリス」


 レオンは再びアリスと同じ目線になると、真っ直ぐな視線を向けてきた。


「アリスの考えはだいたい分かった。黒髪は罪の色だとか、呪いが移るだとか思ってるのだろうけど、それはない」

「な……んで」

「髪の色が金色だろうが、黒だろうが、アリスはアリスだ。それに、魔女の呪いは本来、不本意ながらオレが受けるものだった」


 アリスは首を振った。


「オレはね、アリス。すごく悔しいんだ。好きな女も守れず、そればかりか守られて。すごく情けない」


 レオンの吐露に、アリスはどう返せばいいのか分からなかった。


「アリス、もしオレが呪いを受けて髪の毛が黒くなっても、嫌いになるか?」

「……ならない」

「それと一緒だ。それに、呪いがオレに移って、アリスが解放されるのなら、喜んで受けるさ」

「駄目よ! レオンは綺麗なままでいて!」

「ばーか、それはオレのセリフだ」


 レオンはそう言うと、アリスを抱きしめた。


「アリス、ありがとう」

「レオン……」

「それより、アリスの両親が卒倒しないか心配だよ」

「……うん」

「まぁ、あの二人なら、アリスはアリスだって分かってるから、大丈夫だ」


 アリスは恐る恐る、レオンの身体に腕を回した。

 レオンは力いっぱい、抱きしめてくれた。

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