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【第十八話】アリス、魔女と遭遇する

 次の日。


 アリスたちは朝からトリアンへと向かった。

 トリアンに着いて、アリスたちは驚いた。

 昨日まで荒れ果てた土地だったのに、なんと、整地されていたのだ。


「すごーい!」


 マルコが区画整備されているとは言っていたが、図面どおりになっていた。

 畑にしようと思った場所は少し高く、道は歩道もつけてみた。


「ずいぶんと道が広いが?」

「うん、馬車がすれ違っても問題ないくらいの道幅をとったの」

「なるほどな」


 せっかく一からやるのだから、計画的に進めたい。

 測量してもらったら、図面を元に区画を作る予定だったのが、マルコのおかげで省くことが出来た。かなり腕がいい測量士だと、アリスは思った。


「さて、それでは、畑を耕しますか!」

「その前に家を建てないのか?」

「あー、それね。ちょっとお母さまと意見が合わなくて、難航してるのよ」


 アリスは機能性を重視した家がよかったのだが、マリアはそれだと面白くないとお城のような外観と中身もシャンデリアが燦然としたものを推してきた。

 この不毛だった土地にそんな建物があったらかなり浮くし、なによりもメンテナンスが大変だと思うのだ。


「いっそのこと、テント生活にしようかしら」

「却下」

「じゃあ、コテージ」

「テントよりマシって程度だな」

「畑の中にあるコテージって素敵だと思うんだけど」

「それより先に家を建てる土地を見せてくれないか」


 レオンの要請に、アリスは出来たばかりの道に馬車を走らせ、家を建てる予定地へ行った。

 アリスが家を建てようと思っているのは、トリアンのど真ん中。

 結構広く、贅沢に畑四面分の敷地を取ってみた。王都の屋敷より敷地は広い。

 ここに家を建てて、マリアのために訓練場を作るのもいいかもしれない。

 それとも、敷地が広いのをいいことに、アリスとマリアと別々の建物にして、真ん中に食堂やお風呂といった共同施設を設置するのもありかもだ。

 そんなことを考えていたら、レオンがおもむろに口を開いた。


「アリス、悪いことは言わない。専門家を雇って設計してもらえ」

「そうね、そうした方がよさそうね」


 素人が下手に考えても、いいことはない。

 宛はないが、また、マテウスに頼ればいいだろう。

 それに、アリスが住む家の件もあるが、トリアンを囲むように建てようと思っている集合住宅の件もある。こちらは専門家に任せた方がいいだろう。


「それにしても、本気でトリアンの土地、全部を畑にするのか」

「そうよ」

「管理が大変そうだな」

「大丈夫よ、精霊たちに力を借りるから」

「それ、アリスだから可能なんだからな」


 アリスは最初、毎日、畑を見て回るつもりでいた。

 そのために道を広く取ったし、トリアンくらいの広さならば、見て回れると思ったのだ。

 しかし、忘れがちだが、アリスは中身はともかく、六歳だ。

 学校に通うか、家庭教師をつけて勉強するかしなければならない年齢だ。

 ここのところ、サボっているけれど、アリスは家庭教師に勉強を教わっているところだ。

 余談だが、アリスが今、教わっている家庭教師だが、少し考えが偏っているため、近々、他の人に変わってもらおうと考えていたところだった。


「レオンは勉強はどうなんですの?」

「オレは魔法しか駄目だな」

「魔法って言っても、エルフしか使えない魔法でしょう?」

「魔法はそうかもしれないが、魔法言語は教えられるぞ」

「ほんとっ?」


 アリスの魔法は、ほぼ独学だ。

 家にあった魔法書を読みあさり、後は前世の記憶をたどって使っている。

 魔法がある世界と知ったとき、最初に試した魔法は国民的RPGでお馴染みの回復魔法だった。

 それは残念ながら不発に終わったが、そもそもがアリスは回復魔法の適性が低かったから失敗したようだった。

 ちなみに、風魔法や炎の魔法は問題なく発動した。水、地、木の魔法も使える。

 光魔法は苦手だけど、闇魔法はそこそこ使える。

 これだけの複数の魔法が使えるのは、珍しいと言われた。


「魔法は回復は苦手だが、それでも使える。ほぼ全属性使えるって訳か」

「精霊たちのおかげだよ」


 今もアリスの周りを精霊たちが飛び回っている。


「応じない気難しい精霊もいるのに、アリスに掛かれば赤子も同然だな」

「そんなことないよ!」


 たぶんだが、アリスの金色の髪に秘密が隠されているような気がする。

 こんなに精霊が寄ってくるようになったのは、髪を伸ばし初めてからだった。


「畑の管理は精霊とあいつら五人か」

「ううん、あの五人には別の仕事を振るわ」


 とは言ったものの、グスタフとは話をしたけれど、他の四人とは今後の具体的な話をしていない。


「五人とは面接ね」


 奴隷紋を取ったら好きにしていいとアリスは言ったような気がしたが、五人は律儀にアリスに付き合ってくれている。


「家の場所は分かった。今日はここの近くの畑を耕すか」

「うん!」


 レオンのその言葉に、アリスは馬車から畑を耕す道具を取り出した。


 五人がかりで午前中掛けて、畑を耕した。

 アリスは身体が小さく、力もあまりないということで、早々に戦線を離脱していた。

 柔らかい手のひらにマメがたくさん出来ていて、かなり痛い。


「ここは内陸だけど、水はどうする?」

「上下水道を設置しないと駄目なのよね」


 インフラが整っていない今、早急に手配して設置を急がなくてはならない。


 そんな話をしていると、風がピタリと止み、周りにいた精霊たちが蜘蛛の子を散らすようにいなくなった。


 アリスとレオンは不穏な空気を読み取って、臨戦態勢を取った。

 その途端、アリスの金色の髪がバサリと宙に舞った。


「っ!」

「ごきげんよう、アリス・アールグレーン」


 アリスとレオンの前には、黒いローブを着た人物が立っていた。フードを深く被っているため、顔は見えないが、声と背格好で女性だとかろうじて分かった。

 目の前の女性が放つ殺気が、ピリピリと痛い。


「あなた、探したわよ」

「…………」

「あなたがそんな態度を取るようなら、アリスがどうなるか、賢いあなたなら分かるでしょう?」


 レオンは前に出て、背後にアリスを隠した。

 アリスはレオンの背中にピタリと張り付いた。


「それで、この間の返事は? 色よい返事が聞けると思っているけれど?」

「前も言ったとおりだ。断る」


 レオンの冷たい声に、黒いローブの女性は高笑いをした。


「おほほほ、冗談が上手いのね」

「冗談ではない、本気だ」


 レオンのつれない言葉に、黒いフードをバサリと外した。

 フードの下には、黒い髪。

 それを見て、アリスはすぐに目の前の女性が魔女だと分かった。

 しかし、アリスには魔女の記憶がない。


「いいことを教えてあげるわ」


 魔女は赤い唇をニュゥと歪め、レオンとアリスを見た。


「おままごとの恋は、いつか壊れるものよ」

「おままごとなんかじゃない」

「それは本当かしら?」


 魔女は目をすがめ、レオンを見た。


「このわたくしが、栄誉ある魔女の伴侶にすると言ったのに、そんな乳くさい女を選ぶなんて、あなた、見る目がないわ!」

「おまえこそ、見る目がないな」


 レオンの言葉に魔女はなにを思ったのか。


『深い死の淵から目覚めし者よ』


 アリスは詠唱を聞き、マズいことに気がついた。

 あれは、人に死を与える禁断の魔法。


『魂を刈り取れ!』


 成功率は限りなく低い。

 とはいえ、死ななくてもあの術を食らえば、よからぬことが起こるのは間違いない。


『天より光、来たれ』


 闇魔法には、反対属性の光の魔法。

 あまり得意ではないけれど、そうは言っていられない。

 アリスはとっさに光のバリアの魔法を唱えていた。

 それが吉と出たのか、凶と出たのか。

 レオンに向けられていた魔女の放った死の魔法に当たり、角度を変えてアリスへと向かってきた。


『光は闇を跳ね返し、闇は影へと帰っていく』

「アリス!」


 反射の魔法を唱えたが、一瞬、遅かった。

 魔女の放った死の魔法が、アリスにモロに当たった。


「っ!」


 アリスの身体にまとわりつく、黒い霧のような闇。

 アリスはその気持ち悪い闇を振り払うと、簡単に消え去った。とはいえ、ごっそりと体力を奪われた。


「アリス!」


 レオンはアリスに駆け寄り、崩れ落ちる前にその身体を抱きとめた。

 アリスは力の入らない身体で、レオンを見上げた。


「アリス、死ぬな!」

「大丈夫、死なないから」


 アリスはレオンに支えられながら、少し身体を起こした。


『光よ!』


 アリスはありったけの力を込めて、魔女に光を投げつけた。

 魔女の瞳が驚愕に開かれる。


「わたしとレオンの邪魔をしないで!」


 光は魔女に当たり、魔女の悲鳴が辺りに響き渡った。

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