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【第十四話】アリス、レオンと市に行く

 アリスは自室に戻り、机に向かっていた。

 机の上には、一冊の本。家にあった、植物図鑑だ。

 パラリと捲ると、二ページに一つの花が絵付きで紹介されていた。

 種の入手方法から、栽培方法まで書かれていた。

 セヴェリが言っていた、イベリスも載っていた。


 アリスは育てやすく、種の入手が容易な花をいくつかピックアップした。

 後はもう一冊の図鑑を見て、薬草類もいくつかチョイスした。

 最初から大規模な畑では育てきれない自信があったので、少量ずつから始めよう。そう、家庭菜園ぐらいの規模で。

 これで上手くいけば、徐々に面積を広げていけばいい。


 アリスは方針をそこまで決めると、ふぅと息を吐いた。

 時計を見ると、思ったより遅い時間だった。


 ちなみに、この世界は、地球と同じく二四時間制だった。一週間も七日だし、一ヶ月は三十日だ。世界が変わればルールも違うのかと思っていたアリスは意外に思っていた。


 灯りを消して寝ようとしたところで、ドアが叩かれた。

 叩き方でそれがレオンのものだと分かったので、アリスはドアを開けた。

 予想どおり、ドアの向こう側にはレオンが立っていた。


「どうしたの?」


 こんな遅い時間に部屋を訪ねてくるのは珍しい。なにかあったのかと思ったが、レオンはジッとアリスを見ているだけだった。

 アリスは目をそらせず、レオンの顔を見上げていた。

 碧い瞳が真っ直ぐにアリスを見ている。

 瞳が綺麗とジッと見つめていると、レオンの目元がふっと緩んだ。


「アリス」

「なぁに?」


 名前を呼ばれたので返事はしたけれど、レオンは黙ったままだった。

 どうしたのだろうかと疑問に思って小首をかしげたら、レオンは困ったような笑みを浮かべた。


「困ったな」


 レオンの呟きに、アリスはレオンの袖を掴んだ。

 アリスもだけど、レオンもすでに寝間着になっていた。


「ねぇ、レオン」

「なんだ」

「また怖い夢を見そうだから、一緒に寝よ?」


 このままレオンと別れるのが嫌で、アリスはわがままを口にしてみた。

 レオンはアリスのその言葉を待っていたのか、仕方がないなという表情を浮かべながらも、嬉しそうに部屋に入ってきた。


「寝ようと思って、ふと廊下を覗いてみたら、アリスの部屋から灯りが洩れてたから、気になってきてみた」

「調べ物をしていたの」


 アリスは机の上に視線を向けて、本を読んでいたことを示した。


「なにか見つかったか?」

「うん。明日は市に行って、種と苗を手に入れたいわ」

「分かった、着いていこう」


 今日は別行動だったため、レオンと何気ない会話をすることがすごく嬉しい。


「市に行くのなら、早く寝なければな」

「うん」


 そう言って、レオンは灯りを消すと、先にベッドへと入った。

 アリスも続いて、ベッドに入る。

 レオンの横に寝転がると、近寄ってきて、ギュッと抱きしめてきた。


「アリス」

「ん?」

「セヴェリになにか言われなかったか」


 聞かれて、そういえばと思い出した。

 言いにくいけれど、隠しておくものではないと思ったアリスは、素直に答えた。


「その……嫁になれって」

「やはりか」


 レオンの表情が不機嫌なものになってきたので、アリスは慌てて否定した。


「で、でも! レオンと約束してたし!」

「してなかったら、受けたのか?」


 思った以上に低い声に、アリスは大きく首を振った。


「受けないよ! だってわたしが好きなのは、レオンだから!」


 そう口にした後、アリスは真っ赤になった。

 レオンのことは大好きだ。

 お嫁さんにしてとも言った。

 でも、そういえば好きと言ったのは初めてのような気がする。


 アリスに好きと言われたレオンは、赤くなっていた。

 しかし、灯りを消した部屋では、お互いの顔色は見えない。


 しばし二人の間に、静寂が訪れた。


 アリスはギュッとレオンの寝間着の衿を掴んだ。


「アリス」

「はい」

「アリスはオレの嫁だからな」

「はい!」


 アリスは嬉しくて、レオンの胸に顔を埋めた。

 レオンはアリスを抱きしめた。


 * * * * *


 目が覚めると、レオンの寝顔。

 アリスは嬉しくて、レオンのほおを撫でた。


「ん……?」


 レオンの寝ぼけた声に、アリスは思わず笑ってしまう。

 いつもはしゃっきりしているのに、朝は苦手なのか、アリスの方が先に目を覚ます。


「レオン、おはよ」

「んー、もう朝か」

「早く起きて、市に行こうよ」


 アリスはベッドから抜けて、クローゼットへ向かった。着替えを出して、サッと着替えた。

 レオンはまだ、ベッドの中だ。


「レオンって朝が弱いよね」


 エルフは朝に強そうなイメージがあったけれど、レオンを見ていると違うようだ。


「んー、もう少し寝かせて」

「レオン、起きて」


 レオンは仕方がなさそうに身体を起こすと、眠そうに大きなあくびをした。


「アリスは朝から元気だな」

「レオンのおかげでよく眠れたから」

「オレはいつまでもアリスと一緒に寝ていたい」


 レオンは名残惜しそうにベッドから出ると、アリスの側に立った。


「アリス、改めておはよう」


 アリスの前髪をサラリと上げて、おでこにキスをした。

 アリスは嬉しくて、レオンに抱きついた。


 レオンは自室に戻って、着替えてきた。

 手をつないで食堂に向かうと、セヴェリがいた。


「セヴェリ、おはよう」

「おはよう」


 いつもなら席に着けば食事が運ばれてくるが、人数が増えたために、ブッフェ形式になった。

 セヴェリの席の前にはパンとおかずが置かれていた。

 アリスとレオンも用意されているパンやおかずをお皿に取り、並んで座った。


 朝ご飯を食べ終わると、アリスはレオンとともに朝市へと向かった。

 セヴェリが着いてこようとしたが、説得して、レオンと二人で出掛けられた。


「レオン」

「なんだ?」

「レオンは調合はできる?」

「あぁ、できる」

「それなら、今度、教えて?」

「いいけど、それは領地経営の一環か?」

「うん。花だけじゃなくて、薬草類もいくつか植えようと思うの。それで、調合して薬を売ればいいかなと思ったんだけど」

「なるほど。いいんじゃないか?」


 そんな会話をしていたら、あっという間に朝市にたどり着いた。

 

 アリスは目についたお店を片っ端から見ていった。

 朝市なので、野菜や果物、肉や魚といったものが多かったが、アリスの目当てである種や苗なども売ってあった。

 アリスは次々買っていく。

 結局、予算すべてを使い切り、結構な数の種と苗を手に入れた。


 持って帰るのが大変だと分かっていたので、帰りは馬車に迎えに来てもらった。


「たくさん買えたね」

「こんなに種類があると、管理が大変だな」

「そうね。でも、すぐに植えられるのと、植えられないのがあるから、大丈夫よ」


 苗はすぐに植え替えないといけないけれど、種は植えなければいい。

 土地も耕してみなければどれだけの面積を確保できるか分からないし、やってみなければ分からないことばかりだ。


「後でまた、耕す用の道具を買いに行きましょう」

「今日は忙しいな」

「そうね。でも、レオンと一緒なら、楽しいよ」


 レオンはアリスのその一言に、苦笑を浮かべた。



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