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【第十三話】アリスと魔女

 アリスたちは、持ってきていたお昼ご飯を馬車の中で食べた。

 本当は外で食べたかったのだが、敷物もなく、不毛の大地は風が吹くと砂を巻き上げていたので、断念した。

 お昼に用意したのは、サンドイッチ。

 この世界にはサンドイッチはなかったので、アリスが説明して、作ってもらったものだ。

 レオンたちは食べるのが初めてのようで、最初はおっかなびっくりといった感じだったが、一口食べて、美味しさに無言で食べていた。

 もちろん、セヴェリも一緒に食べていた。


 お昼を食べ終わってからは、二人一組になってもらって、辺りの探索に出た。

 レオンはフーゴと一緒に出掛けていった。

 アリスはセヴェリと留守番となった。


「ねぇ、セヴェリ」

「なんだ」

「さっき話していた魔女って」

「あぁ」


 アリスは馬車の影に入って、セヴェリに問いかけた。

 セヴェリは日射しの元に立って、それから遠くに目をやった。

 アリスは目を細めて、セヴェリを見た。


「魔女は、魔女だ」

「いや、それだけでは分からないのだけど」

「長い黒髪をなびかせて、魔女はやってくる」


 そういえば、とアリスは思う。

 こちらの世界で黒髪の人を見たことがないような気がする。

 アリスは金髪だし、レオンも同じく金髪だ。亜人たちも茶色の髪をしていた。


「黒は、罪の色」

「罪の色……」


 前世では黒髪だったアリスとしては、なんとなく微妙な気分だ。


「それよりも、アリス」


 セヴェリに名前を呼ばれて、ドキッとした。


「なに?」


 なんでもないかのようにアリスは返事をしたけれど、声が少し震えていた。

 セヴェリはそのことに気がついていないようだったので、アリスはホッとした。


「ぼくの嫁にならないか」

「は?」

「ぼくの嫁になれ」

「はいっ?」


 嫁になれと言われたように聞こえたが、聞き間違えだろうか。


「セヴェリ、意味が分かって言ってる?」

「分かっている。伴侶の意味だろう?」


 分かっていたようだった。


「ごめんなさい、お断りします」

「何故だっ!」

「何故と言われても、わたし、レオンと約束したもの」

「レオンとは、あのエルフか」

「そうよ」

「……殺す」

「えっ?」

「あのエルフを、殺す!」

「なに言ってるのよ、駄目よ! 殺したりなんてしたら、大嫌いになるわよ!」


 アリスの言葉に、セヴェリはカッと目を見開いた。


「ぼくのことを、嫌いになる……?」

「嫌いじゃないわ。大嫌いよ」


 アリスの訂正に、セヴェリはうなだれた。


「わたしに嫌われたくなかったら、レオンを殺すなんて言わないで」


 これ以上、セヴェリと話したくなくなったアリスは、馬車の扉を開けて、中に入った。

 セヴェリは、日射しの下で呆然としていた。


 アリスは馬車に乗ったのはよかったが、特になにかをすることがあったわけではない。

 馬車の窓を開けて、ぼんやりと窓の外を見ていた。

 日射しは強いけれど、吹き抜けていく風は爽やかだ。


 アリスは、先ほどセヴェリに言われた言葉を考えていた。

 いきなり、嫁になれと言われた。

 意味が分からない。


 嫁になれと言われる前に話していたのは、確か魔女のことで……。


「魔女、か」


 セヴェリはアリスに魔女のことを知っているかのように言っていたけれど、アリスは知らない。

 黒髪といえば、アリスの前世がそうだったけれど、地球には黒髪の人なんて珍しくなかった。むしろ、日本はほとんどの人が黒髪だった。


 アリスは、自分の髪を摘まんでみた。金色に輝く髪は、六年経っても違和感がある。

 マリアと同じ茶色の髪の色だったらと思うことがたまにある。

 アリスは暇に任せて、髪の毛を指先に巻いてみた。くるくると巻いては、離してみる。緩いウェーブのかかった髪は、アリスの指に絡まっては、離れた。


 ぼんやりとそんなことをしていると、探索に行っていた人たちが帰ってきた。

 アリスは馬車から降りて、帰ってきた人たちをねぎらった。


「なにかあった?」


 アリスの質問に、三組とも首を横に振った。

 草一本も生えていない大地がずっと続くだけのようだった。


 となると、まず最初にしなければならないのは、この土地を耕すことだろうか。

 気がついたら、日がとっぷりと暮れ始めていた。


「とりあえず、今日は帰りましょう」


 馬車に乗り込もうとしたアリスを、グスタフが呼び止めた。


「嬢ちゃん、この土地をどうするつもりだ?」

「どうするって、畑にして、花を植えようかと思ってるんだけど」


 アリスの言葉に、グスタフたちは顔を見合わせた。


「領地経営って、そういうものなのか?」

「うーん、どうなんだろう」


 領地経営などしたことのないアリスは、どうするのが正解か、分からない。

 だけど、ここは王都の隣。街を作ったとしても、王都には勝てない。それに、好き好んでこんな不毛の土地に引っ越してくる人がいるとは思えなかった。


「嬢ちゃんが許してくれるのなら、ここに家を建ててもいいか?」

「家?」

「俺たちは、奴隷だった」


 それは言われなくてもアリスは知っている。奴隷紋を外したのは、なによりもアリスなのだから。


「奴隷として売られるところを、嬢ちゃんに助けられた。だから、今度は俺たちが嬢ちゃんを助けようと思う」

「うん、ありがとう」


 だから、とフーゴが続けた。


「ここがアリスさんの土地というのなら、まず、アリスさんが住める家を建てて、そこを足がかりにして、領地を整えるってのはどうだろうか」


 フーゴの言うとおりだったので、アリスはうなずいた。


「そうね。毎日、屋敷からここに通うのは大変よね」


 それに、領地をもらったら、そこに住まなければならないのだ。

 家がなければ、住めない。


「まず、家ね」


 そう決まれば、早速屋敷に戻って、マテウスとマリアに相談だ。


「方針が決まったし、帰りましょう」


 行きと同じ割り振りで、馬車に乗り込んだ。

 行きと違うのは、セヴェリが増えたことだろうか。


 アリスたち八人は、王都にある屋敷へと戻った。

 屋敷に戻り、マテウスとマリアにまず、セヴェリが増えたことを報告した。


「セヴェリという名前に、聞き覚えがあるのだが」

「えっ?」


 マテウスはジッとセヴェリを見た後、目を見開いた。

 緑の髪に緑の瞳、そして茶色の肌。


「あなたは、もしかして……!」

「お父さま、セヴェリを知ってるの?」

「あぁ、なんということだ」


 マテウスは、頭を抱えた。

 アリスは訳が分からなくて、首をかしげた。


「魔女が、魔女がやってくる……!」


 ここでも魔女という言葉が出てきて、アリスはマテウスに詰め寄った。


「お父さま、魔女とはっ?」

「黒い髪をした、魔法使いだ」


 顔面蒼白なマテウスは、ドサリと音を立ててソファに崩れるように座り込んだ。


「おまえが産まれた日にも、魔女がやってきた」

「えっ?」

「『逃げても無駄だ』とだけ言って、帰って行った」


 逃げても無駄……。

 その意味するところは、アリスにはまったく分からなかった。


「セヴェリは、魔女に呪いを掛けられていたって」

「彼は、どこにいた?」

「トリアンの結界の中」

「……陛下は、どういうつもりでトリアンを領地にと言ってきたのだろうか」


 マテウスは大きくため息を吐いた。


「お父さま、わたし、トリアンに家を建てるわ」

「アリス」

「魔女になんて、負けないわ」


 アリスはグッと拳を握り、決意を固めた。

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