表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/50

【第十二話】アリス、花を栽培することになる

 セヴェリの問いかけに、アリスはレオンの腕を掴んだ。


「ねぇ、もしかして、ここに結界を張ってるのって、あなたなの?」


 半信半疑で問いかけると、コクンと頷かれた。


「ここは居心地がよい」


 そう言って、セヴェリは大きくあくびをした。

 アリスはそんなセヴェリをジッと見た。


「だけど、花がすべて散ってしまった」


 その言葉に、アリスは視線を上げた。

 花が散り、枝だけになった樹は、かなり淋しい。


「そうだわ!」


 アリスは樹に近づくと、登り始めた。

 レオンはアリスがなにをするのか分からず、特に止めない。

 セヴェリもジッとアリスを見ているだけだ。

 アリスは木の股にたどり着くと、そこに腰掛けた。

 手に魔力を集め、パッと周りに撒く。


『枯れ木に 花を 咲かせましょう』


 キラキラとアリスの魔力が辺りに散らばった。

 が。

 日本昔話のように、残念ながら花が咲き乱れたりはしない。

 何度かやってみたが、駄目だった。


 そう簡単に花が咲けば、だれも苦労しない。

 分かっていたけれど、もしかしたらできるかもしれないとアリスは思ったのだ。


 下で見ていたレオンは、アリスがなにをしようとして、できなかったのか分かったようだ。


「アリス」

「ん、なに?」

「降りておいで」


 レオンが下で、両手を広げて待っていた。

 アリスは樹から降りて、レオンの胸に飛び込んだ。


「アリス、それだと花は咲かないよ」

「やっぱり?」

「分かっていてやったのか」


 レオンの呆れた声に、アリスは笑った。


「出来たらいいなって思って、試しただけ」

「あれで花が咲けば、アリスはエルフになれるよ」

「ふふふっ」


 エルフのレオンにそんな風に言われると、なんだかおかしかった。


「アリス、花を咲かせるのはこうするんだよ」


 レオンはそう言うと、アリスを抱きしめたまま、大きく息を吸った。


《枯れた樹よ 花を咲かせよ》


 レオンの口から美しい音律が紡がれた。

 レオンの使う魔法はエルフ特有の魔法のようで、詠唱が独特だ。今までは短い詠唱しか聞いたことがなかったが、今回のは長いようだ。


《花は咲き誇り 枯れることはない》


 謳うような詠唱に、アリスはうっとりと聞き惚れていた。


《樹よ 花を咲かせよ》


 レオンの詠唱に呼応して、キラキラと魔力が渦巻き始めた。

 それに引きずられるように、アリスからも魔力があふれ出してきた。


《花を咲かせ 実をならせ》


 レオンとアリスの魔力が混ざり合い、クルクルと樹の周りを回り始めた。

 幻想的な光景に、アリスは息をするのも忘れて見入っていた。

 魔力は枯れた木の枝を撫でるように移動していく。

 魔力が通った後には、つぼみがついていた。


「すごい……!」

「アリスの魔力のおかげだよ。オレだけでは無理だ」


 レオンはアリスを優しく撫でた。

 それが嬉しくて、アリスは目を閉じてレオンの手を堪能する。


 二人を見ていたセヴェリは、おもむろに立ち上がった。


「エルフと娘」

「なに?」

「特に娘よ」

「アリスだって言ったじゃない」


 セヴェリはアリスをジッと見た後、樹へと視線を向けた。


「おまえの望みはなんだ」


 望みと言われて、アリスは首をかしげた。


「わたしは、トリアンで領地経営をしたいの」

「トリアンとは、ここのことを言うのか?」

「うん」


 アリスは周りを見回した。

 この樹以外はなにも見当たらない。

 なにもない土地に一からというのは大変かもしれないけれど、それはそれで面白いかもしれない。


「領地経営というのは?」

「この地を、陛下からいただいたの」

「陛下……? ここはぼくがずっといたよ」


 セヴェリの言葉に、アリスは言葉が詰まった。


「ここを、どうするつもり?」


 セヴェリの質問に、アリスは無言を返した。


 領地経営といっても、具体的になにがしたいとか、なにをしようといった明確なビジョンはない。

 このなにもない土地で領地経営となると、土地を拓き、建物を建てて、町を作るくらいしか考えつかない。

 だけど、セヴェリの様子を見る限りでは、ここでそれをしてはならないような気もする。

 では、畑でも作るか?

 それはそれでありかもしれない。


「畑を作るわ!」

「畑?」

「お花もいいけど、食べ物を自分で栽培するのもいいかもしれないわ」


 それで領地経営になるのだろうかとアリスは思ったが、それはそれで領地経営の一環になるのではないかと考え直した。

 具体的になにを栽培するのがいいかは分からないけれど、特産にして売ればいい。


「食べ物より、花がいい」


 セヴェリのその一声で、アリスは花の栽培をすることになったらしい。


「なんの花がよいの?」

「イベリス」


 初めて聞く名前に、アリスは首をかしげた。


「白や紫、ピンクの花が咲く、かわいい花だ」

「じゃあ……」

「ぼくは君に起こされた」


 そういえば、ここは夢の中とか言っていた。その意味することが分からなかったが、セヴェリを起こしたのは事実だ。


「ここは、夢の世界。夢から覚めたら──」


 セヴェリのその言葉に呼応して、世界が揺らめいた。


「アリス」

「なに?」

「君はぼくを起こした。その責任を取ってもらおう」

「えっ、責任って、なにっ?」


 ユラリ、と空気が揺れた。

 そして、次の瞬間。


 まるで舞台の幕が落ちたかのように、空間が裂けた。


「っ!」

「アリス!」


 レオンは慌てて庇うようにアリスを抱き寄せた。

 しゃらしゃらと涼しげな音を立てて、空間が壊れていく。

 二人の上に空間の欠片が降り注ぐ。


 しばらく二人の上に欠片が降り注いでいたけれど、それは気がついたら消えていた。

 アリスはそっとレオンの腕の間から周りを見回した。

 先ほどまであった草原と樹が消えて、草一本も生えない不毛の大地が広がっていた。


「え……」


 マテウスに聞いていたとおりの不毛の大地に、アリスは唖然とした。


「アリス、無事か?」


 心配そうなレオンの声に、アリスは小さくうなずいた。


「わたしは大丈夫。レオンは?」

「オレも大丈夫だ」


 レオンがゆっくりと身体を起こしたことで、アリスも立ち上がった。

 あんなに草原が広がっていたのに、あっという間に茶色い土がむき出しになっていた。

 そして少し先を見ると、緑の髪に茶色い肌をした青年がこちらに背を向けて立っていた。

 先ほどまでいなかったのに、だれだろうか。


「だれ……?」


 アリスの疑問の声に、青年はこちらを向いた。

 緑の瞳に、整った見覚えのある顔。


「もしかして、セヴェリ?」

「そうだよ」

「髪が……」

「あぁ。呪いが解けたんだよ」

「呪い?」


 またもや呪いと聞き、アリスは思わず顔をしかめた。


「悪い魔女に、呪いを掛けられていたんだ」

「悪い魔女?」


 悪い魔女ってなんだか童話みたいだとアリスは思ったけれど、それより、魔女なんているんだ、とそちらに気を取られた。


「アリスも因縁深い相手だと思うんだけど」

「えっ?」

「知らないのか」

「知らないわよ! なによ、それ!」


 アリスの疑問に、セヴェルは笑みを浮かべた。


「そのうち、分かるよ。それよりぼく、お腹が空いたな」

「へっ?」


 セヴェルの一言に、アリスのお腹もぐーっと鳴った。

 レオンは空を見て、呟く。


「思ったより、時間が経っていたのか。お腹が空くはずだ」


 お腹が空いたけれど、この不毛の大地にはなにもない。

 しかも荷物は結界の外に置いてきた。

 どうしたものかと思っていると、ガラガラという音が聞こえて来た。


「おーい!」


 少し遠くから、聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 声の方を見ると、馬車からハンネスが身を乗り出して手を振っていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。





web拍手 by FC2




― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ