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「『好きではない』と言われ続けていますが…。ようは『嫌いでもない』と言う意味ですよね?」
「…ああ、嫌いじゃない。だけどお前は俺が『好き』だと言ったら…!」
「変わりませんよ。僕があなたを好きなことは、変わりません。…ご迷惑になっていることは、自覚していますが…」
「めっ迷惑だったら…」
「はい」
「…いつまでも側に置かない」
「えっ?」
「だから! 俺は本当に迷惑だと思っていたら、側には置かないんだ!」
「そう…ですか」
…でも彼が僕を思う気持ちと、僕が彼を思う気持ちの種類が違うことには変わりない。
「俺がお前のことを『好き』と言ったら…お前が離れそうな気がした」
「そんなことっ…ないですよ。逆に今以上に、離れられなくなるだけです」
「それならっ!」
いきなり掴んでいる手を引っ張られ、顔が間近に迫った。
「ずっと言い続けていろよ。俺のことを『好き』だと」
「でもそれは…」
彼にとっては苦痛なのではないのか?
「ずっと俺の側で、言い続けていれば…」
「…愛してくれますか? 僕のことを」
僕は掴まれている手を、強い力で握り返した。
「それはまだ…分からない。でも今はとりあえず、お前が俺の側から離れるのがイヤだな」
「そう、ですか。なら、今はそれでも構いません」
彼が誰より側に置きたいと思えるのが僕自身ならば、今はそれだけで構わない。
いつか気持ちが溢れ出し、また彼を困らせることになるかもしれないけど…その時はその時だ。
「うしっ! 何かスッキリしたし、昼飯食べに行くか」
「まだ食べていなかったんですか?」
「お前を待ってたせいでな。すっかり夕方だ」
確かに窓の外は夕日の色に染まりつつあった。
「せっかくだから、花見に行くぞ! 待たせた罰として、お前のオゴリな!」
そう言って嬉しそうに僕の手を引く彼を見て、思わず笑みを浮かべた。
「…分かりました。気の済むまで食べてください」
「おうよ!」
楽しそうに屋台のことを語り出す彼を見つめながら、ふと一つの言葉が思い浮かんだ。
『嘘から出た実』
―嘘のつもりであったものが、結果的に、はからずも真実となること―
…彼のあの言葉が、いつか現実となることを、願わずにはいられない気持ちだった。
【終わり】