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プロローグ

作者: いちのせあつき


仕事を、辞めた。


10年間働いて来た職場に別れを告げ、俺もついに28だ。ちなみに、転職先は決まっていない。都会を離れ、田舎にやって来た。


実は、結婚間近だったのである。話が無くなり、結婚資金として貯めて来たお金も使い道がなくなった。もともと結婚願望とかは無くて、良くしてくれる女と付き合ってるつもりはなかったが7年間交流を続け、結婚しようとなり、色々と決まってから結婚が無くなった。夢の多い女だった。結婚式はこういう所でこんな事がしたい、新婚旅行は海外に行きたい、すぐにマイホームを買いたい、その夢のために俺はただ当たり前のように働き、使い道のなかった金に目的を与えていた。


ところがどうだろう、また使い道を失ったのである。


そいつに、俺はまた目的を与えることにした。


収入を無くせば、減るだけである。

もう28だが、まだ28だ。1年間くらい遊ぼう。そう思った。俺は田舎に来たのである。


住むところもない。これから考える。通帳と印鑑とキャッシュカード、財布と免許証と保険証、携帯と充電器、数日分の着替えだけを持ってここに来た。


今は初夏で、少し日差しがきつい。

小学校らしき建物があった。

数人の子供達が、近くの草むらで遊んでいる。俺はそれが見えるバス停の椅子に腰掛けた。

どうやら隠れんぼをするらしい。懐かしいな。


すると、1人の白い髪の毛の女の子がバス停に来た。


『おじさんも隠れんぼ?』


やれやれおじさんか。仕方ないな28だしな。

でもこの子、さっきの子供達の中に居なかった気がする。


『きみは?隠れんぼ中?』

『あたしがさきにきいたんだよ』


やれやれ。ませた子だな。

おじさんの優しさを見せてあげよう。


『そうだよ。一緒にここに隠れよっか?』


すると女の子は、じっと俺の目を見つめて、すこしリラックスした様子になった。


『あたしはちがうの。でも、ここはだめ。すぐみつかるから。いいばしょおしえてあげる』


気に入られてしまったのだろうか。

まあ俺には時間もお金もあるし、ないのは目的だけだ。

付き合おう。


『それは助かるね。連れて行ってよ』

『うん、きて』


草が俺の身長くらいまであるひどい草むらに連れてこられた。良くこんなところ迷わず歩けるな。


『あたしの、ひみつのまちがあるの』

『秘密基地?』


可愛いなぁ、俺も昔やった。…やったかな?

わからないけど、懐かしい。

永遠に続くこの草むらをかき分けて歩くが、いつまでたっても到着しない。

迷ったのだろうか。


『大丈夫?あとどのくらいでつくかな?』

『それはわからないよ』


わからない?本当に迷ったんじゃないか?


『おじさん』

『ん?』

『おじさんはなぜここにきたの?』


女の子は、立ち止まった。


『おじさんはねぇ。うーん。都会に住んでたからね。休みたくなって落ち着いたところに来てみたんだよ。』


女の子は、すこし難しそうな顔をした。


『あたしの、ひみつのまち』

『ん?』

『とてもいいところなのよ』

『うん』

『たぶん、おじさんが、もとめているものが、そこにあるわ』

『うん?』

『あたしは、ほしくてほしくて、しかたなかった』

『ずいぶん大人の言葉をたくさん使うね』

『おじさんは、あした、とかいにかえる』

『え?』

『これはほんとうよ』

『何言ってるの?帰らないよ』

『かえりたくないっておもってるだけ、かえるのよ』

『どうして?』

『あたしには、わかるの』


俺はつい黙り込んでしまった。

この子は一体何者なんだ?

なんで明日の俺のことがわかるんだ?

こんな何もない草むらに連れてこられて、意味のわからないことばかりを言われ、困惑していた。

─俺は帰るのか…?


『こわくなった?』


なんだこの子は。


『かえりたくないでしょう?』


怖い。


だがここでこんな小さな子を草むらに置いて逃げることなんて出来ない。


『あたしの、ひみつのまち』


『そこにいけば、ずっとくらしていけるわ』


秘密基地…ではなくて、ひみつのまち、って何なんだ?

ここは田舎だけどもっともっと奥に素敵なまちがあるというのだろうか?

確かに今ここにいても、寝泊まりする場所がない。何とかなるとは思っているが、この子がそんなに言う、ひみつのまち、そこにいけばうまくやっていけるのではないだろうか。


『あなたは、あした、とかいにかえる』

『いや、もういいから、やめてくれないか』


聞きたくなかった。


『どこにあるんだい、そのまちは』

『いきたいのね』

『ああ、興味があるよ』


女の子はふわりと笑った。


『じゃあ、だっこして』

『え?』

『つかれたの、だめかしら』

『いや、いいけど、こんなに遠かったら大変だね?』

『ううん、いつもはそんなとおくないから』

『うん?』

『もうすぐつくはず』


その女の子を抱っこして十数歩歩いたら、景色が変わった。草が無くなり、冷たい空気が肌に触れた。広がっているのは、まちの、あかり。


そう、まちがそこにあった。

振り返ると、きちんと背の高い草むらが向こうに広がっていた。

夢ではなさそうだ。

こんな田舎のさらなる奥に、静かで綺麗なまちがあるなんて、まるでファンタジーのようだった。


プロローグというタイトルであり、プロローグではありません。これで完結です。

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