生活水準向上計画・上
長くなりそうなので二つか三つに分けたいと思います。
あれから一年と少し経った。現在二歳で季節は人生三度目の春だ。今更だがこの世界も日本同様一年は365日であり、サルマリーは少し暖かいが春夏秋冬の季節区分がある。
ルークは春生まれなので人生三度目だというわけだ。
この一年間必死に魔法を使い続けてMPは格段に上がった。10だったのが一年使い続けた今1000となった。100倍である。
普通ここまでの上がり方はしないのだが、幼少期は魔力量の成長期のようで爆発的に上がるのだ。
ただ幼少期に意識して魔法を使えるような人はいないので、現実的に不可能な方法として知られているそうだ。
勿論魔法の練習をするときは誰もいないことを確認してからした。毎日パーティーだとさすがに迷惑だ。
MNDの方は、苦痛というのをあまり受けなかったのでMPほど顕著ではないが、MPが上がると多少は上がるようだ。50から150となった。結果どちらも上がったというわけだ。
あとは全体的に成長したことでステータスが上がったが、この二つ以外は一桁、多くても10程度だ。
他には変わったこというと、一人で完全に歩けるようになったことと、ようやく話せるようになったことだ。
話せるといっても単語のみの状態で普通に話せるようになるにはもう少し時間がかかりそうだが。
今思うと二歳でいろいろ話せていたエドは相当賢いらしい。
何よりも嬉しいことは、あと一年弱で歌織が生まれるということだ。そのためにも生活水準は是非とも上げておきたい。
歌織のためなら身を粉にして働く所存である。まだ二歳だが。
そんなこんなで今日はこの世界の生活を見直そうと思う。
◯
「ご飯だぞ!早く起きろ~!」
朝になると毎日父さんが子供部屋まで来て起こしに来てくれる。
ちなみに家は二階建てになっており、一階はリビング、キッチン、ダイニング、トイレで二階は子供部屋と両親の部屋、そして物置となっている。
朝は毎日父さんが作ってくれる。夜も父さんが作ってくれる。母さんが作ってくれるのはお昼だけだ。たまに気が向いたら朝と夜も作ってくれるのだが、そんなことは滅多にない。
「……はーい……」
「はい」
「はーい!」
レイは朝が弱いのかいつも寝惚けている。エドはレイとは反対に朝には強いらしくすぐに自分の布団を畳んで、レイを起こす。これが子供部屋での日課だ。
「ふふふ、三人ともすごい寝癖よ。直してきたらどう?」
リビングに行くと母が椅子に座って編み物をしている。編み物は内職などではなく、ただの趣味だ。この辺りの村人は言わば富裕層なので、生活に余裕があるのだ。
それに普通の村人は寝癖など気にしない。暮らしの豊かさがわかる一言である。
「ついでに水を汲んできてくれるかしら?」
「「「はーい」」」
ルークたちはレスティアに言われた通り外にある井戸の方に行った。
「あ、メリーじゃない!」
井戸に行くと、お隣のアルドーナ家長女であるメルクトリが母であるアイリスと一緒にいたのだった。メリーはメルクトリの愛称だ。
将来姉になる存在である。
「ほら、レイちゃんに挨拶は?」
「お、おはよう?」
アイリスに言われてペコリと頭を下げた。疑問系なのはまだ言葉を理解してないからだろう。
「あぁぁ!!やっぱりメリーは可愛いわ!」
そう言ってレイはメリーに抱きついた。
田舎で人が少ないこの地では、必然的に子供の数も少なくお隣さんでもない限りそうそう会うことがないのだ。それに加えて兄弟は男ばかりなので、レイは特別メリーのことを可愛がっているのであった。
「レイ~!」
メリーも構ってくれるレイのことが大好きらしく抱き返した。百合の波動を感じる光景である。二人とも幼女だが。
二人はしばらく抱き合って遊んだあと、
「そろそろ帰りますよ!」
「はい」
レイと後で遊ぶ約束をしてメリーは家に帰っていった。
「じゃあ私たちも帰るわよ!」
目的は達成したかのような、爽やかなそれでいてホクホク顔でレイは家に戻ろうとする。
「水は?」
「寝癖は?」
バケツを指差していうルークと、頭を指差すエドの言葉により再び井戸まで戻ってくるのだった。
◯
「じゃあお母さん行ってくるわ!」
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
エドとレイはレスティアに見送られてマリーのところに遊びに行った。
「あら?ルークは行かないの?」
「うん」
ルークはレスティアと共に二人を見送るだけで、自分は遊びに行かなかった。目的は生活水準向上のためいろいろ見て回るためだ。
でき得る限り、歌織が不自由なく暮らせるように環境を整えなくてはならない。そのためにも遊んでいる暇などないのだ。
「はたけ、見たい」
拙いながらも頑張って自分の意思を伝える。現代日本の知識を用いて農業改革をするのが目的だ。
ただ体が二歳児の子供なため、どうすればやり方を教えれるかが未だに思い付いていないが、それは追々考えるとして、今はどの程度なのか知る必要があった。
今まで親が仕事をしているところをルークは見たことがないのだった。
「農地が見たいの?ふふっ、わかったわ。ついて来て」
農業に興味のある子供がそんなにおかしいのだろうか?ルークは疑問に思いながらも笑う母の後ろを追いかけて行った。
◯
「うわぁあ!」
ルークの口から自然と感嘆の声が起こった。
「どう?」
「すごい!」
ルークは素直に称賛する。はっきり言って日本よりも凄いと言えるかもしれない。
何故ならそこには色とりどりの精霊と仕事を手伝うゴーレムがいたからだ。
色とりどりの精霊たちのおかげで景色は幻想的になっており、精霊が魔法を使う様は美しくて言葉が出ないほど圧巻だ。
ルークはずっと不思議に思っていたのだ。どうやって二人で機械もなしに農場を回しているのかと。お手伝いさんや奴隷がいるわけでもないのにどうしていたのかと。それに母はよくサボるので父一人でどうやっていたのかと。
その答えが全てここにあった。
「二人ともこんなところでどうしたんだ?」
アルベルトは高台のようなところから降りてくると二人の所に近づいてきた。
「ルークが見たいって言うから連れてきたの」
「うん」
「そうかそうか!」
農業に興味があることが嬉しいのか頭をがしかしと乱暴に撫でた。
嫌じゃないけど髪が崩れるんだよな。
ルークはレスティアのところに逃げて髪を整えてもらう。母が注意する光景を見て内心ほくそ笑む。これに懲りてもう少し優しく撫でれるようになってほしいとルークは願う。
「ゴホンッ!な、何か教えてほしいものはあるか?」
アルベルトは気を取り直すように咳払いをするとレスティアの後ろに隠れるルークに向かってそう言った。
ルークはいろいろ聞きたいことはあるがとりあえず先程までアルベルトがいた高台を指差す。
高台の見た目はプール監視員が座ってるような足の高い椅子だ。
「これか?これはゴーレムに細かい指示を出すために使うんだ。どれ、乗ってみるか!」
アルベルトはルークを抱えると高台に登って自分の膝の上に乗せた。
「どうだ凄いだろう!」
高台から畑を一望でき、ルークは改めて土地の広さを知った。確かにこの広さを二人で経営するのは不可能だ。
「〝三番〟第二エリアに移動」
アルベルトが指示を出すと〝三番〟と呼ばれたゴーレムは少し離れた別の畑に移動した。
「ゴーレムはマスターの声で動くようにできてるんだ」
「ますたー?」
「ゴーレムについてる魔石に魔力を注ぎ込んだ人をマスターと呼ぶんだ。って言ってもわからないか」
「難しいこと言ってごめんな」
そう言って今度は優しくルークの頭を撫でた。
難しい訳ではないけど、変に勘づかれると面倒なので、ルークはわかってないふりをした。
だってそこまでの理解力があるとばれたらまたパーティーになりそうだから……
次回は中編or下編です。
この話が終わったらついに歌織ちゃん誕生です