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長い長い三年間の始まり


 響揮は現在、絶望という名の闇に捕らわれ、生きる希望を失っていた。

 

 

 響揮は物心ついたときからずっと歌織と一緒にいたため、歌織なしの生き方など知らないのだ。というか、正確には歌織なしで生きるなど今後有り得ないと昔は思っていたので、一人でいた時のことなど当の昔に忘れてしまっていた。

 それくらい響揮の中で歌織という存在は大きなものだったのだ。生きるのに必要な酸素と同等かそれ以上と言っても過言ではない。

 

 そんな歌織を、あと三年もなしで生きなくてはならないのだ。生まれて数十分で死にたくなったのは言うまでもない。

 シスコンも拗らせすぎると病気の域になるのだ。

 

 

 ただ今自分が死んでしまうと、三年後歌織に会えないだけでなく、歌織を同じような目に遭わせてしまうのだ。それは兄として何としても避けなくてはならなかった。

 響揮は三年間、孤独に負けず、頑張って生きようと決意するのだった。

 

 

 

 ◯

 

 

 響揮が絶望の闇に捕らわれていたその時、体の方は母親に抱かれて教会へと連れて行かれていた。

 

 

 出産したあと、そこまで時間が経ってないのにも関わらず、赤子を抱いて連れていく体力があるとは、この世界の人間は体が丈夫にできているのだろうか。

 というか衛生観念の方は大丈夫なのか知りたい。神から大体の時代と文明レベルは聞いていたので、心配になったのだ。

 

 ちなみに時代は中世くらいならしい。中世と言えば糞弁が窓から投げられるくらい衛生環境が悪いと聞いたことがある。そんな状態なのに、生まれたばかりの赤子が外に出て病気にかかったりしないのだろうか。

 

 その辺に関しては叡智の権能でもわかることではないので祈るしかない。

 

 

 響揮は目が見えないので知らないが、響揮の生まれた村に関してはそこまで不衛生ではなかった。都市部の街までいくと話は別だが、響揮の生まれた場所はいわゆる田舎で、糞弁などは育てている家畜の餌になるのだ。そのため、窓から投げ捨てるなどといった勿体無いことはしていないのだった。

 つまり、響揮の心配は杞憂に終わる。まあこの事を響揮が知るのはしばらく先になるのだが。

 

 

 

 そんなこんなで響揮が余計な心配をしている中、ついに教会についたのだった。

 

 教会の名前はサルマリー教会と言って、何処にでもあるような普通の教会だ。って叡智の権能で調べた。

 この世界の教会の名前は、基本的にその土地の名前になるらしく、うちの村の名前がサルマリーだからサルマリー教会ならしい。

 

 あと宗教として教会は利用されているわけではなく、どちらかと言えば病院に近い役割だそうだ。勿論宗教としての教会もあるので、その辺り区別が大変だ。叡智の権能がなかったらの話だが。

 

 歌織の能力はさっそく響揮の助けになっているようだった。

 

 

「おやおや、レスティアさん。その子が三人目の子供ですかな?」

 

 中に入ると優しそうな歳のいった声が聞こえてきた。この教会の神父さんだろう。

 レスティアさんというのは母親の名前ならしい。レスティア・クライシスが母の名前だ。叡智の権能で調べた。

 

 叡智の権能はどうやら個人も調べることが可能ならしい。現在までの記録ならスリーサイズから、体重や、視力、など何でもわかるのだ。

 プライバシーもあったものじゃないというのは日本で育った人としての感想だ。まあ使えるものは使わせていただくが。

 

 

 

「はい、つい先程生まれました。元気な男の子です!」

 

 レスティアは嬉しそうに肯定する。紹介のためだけにわざわざ教会まで来たのだろうか?

 響揮は疑問に思った。勿論そんなわけはない。

  

「ではこちらへ」

 

「お願いします」

 

 響揮の体はレスティアから神父に預けられた。

 一体何が起こるのだろうか?叡智の権能を使えばすぐにわかることだが、頼りすぎるのもあまりよくない気がしたので、今回は体験するまで使わないことにする。

 

 

「…………」

 

 神父はぶつぶつと何かを呟き始めた。何を言ってるのかは全く聞こえなかった。

 だがその呟きが原因なのだろうか。ふわふわしていた意識が急に何かに縛られるような、器の中に入れられるような気がした。

 

 これは錯覚ではない。

 

 響揮の意識が体の中に入った瞬間だったのだ。

 

 相変わらず目は見えないし、耳も少し悪くなった気がする。その代わり体温を感じる事ができるようになったのだった。

 響揮はその事に少し喜びを感じていた。

 

 浮遊している意識の中では何かと不安になりやすかったのだ。やはり体あっての魂。魂あっての体なのだろう。

 

 この儀式のことを【生誕の儀】というらしい。

 誕生への祝福と今後の健康を願う儀式のようだ。これにより魂を体に定着させるらしい。

 

 この儀式をしないと、死にやすくなるそうだ。死にやすくなるというのは、事故に遭いやすくなる、病気にかかりやすくなる、といった死の原因ができやすくなるらしい。

 

 これはあくまでも伝承だが、体とは魂を守る殻で、魂が外にあると悪魔がそれ狙って不幸を招くらしい。

 

 悪魔だのは伝承だとしても実際【生誕の儀】をしていない人は本当に早死にするらしいので、よっぽどお金に困っていない限りはするそうだ。

 

 

 

「ありがとうございます!」

 

「いえ、私も健康に育ってくれることを願っています」

 

 レスティアはお礼を言うと再び響揮を抱いて家に帰るのだった。

 

 

 

「儀式は無事に終わったのか!?」

 

 家に帰ると緊迫した様子の男の声が聞こえた。響揮の父親であるアルベルト・クライシスの声である。

 

「無事も何も失敗するような儀式じゃないでしょう?貴方は心配しすぎなんです!」

 

「あはは……そうだっけ?」

 

 アルベルトは凄く心配性なようだ。自分のことを心配してもらってると思うと嫌な気分にはならない。むしろ優しそうな両親の間に生まれて良かったと言えるだろう。

 まあ転生の時から決まっていたことだが。

 

「ゴホン!そうそうレスティア、やっと決まったぞ!」

 

 アルベルト一つ咳払いをして場を仕切り直す。

 何が決まったのだろうか?響揮は聞こえづらい耳を澄ました。赤子の肉体というのは本当にやりづらい。

 

「やっと決まったのね……」

 

 レスティアは呆れまじりで言った。

 

「し、仕方ないだろ!凄く悩んだんだ!でもおかげでいい出来だと思う!」

 

 アルベルトは自信満々に言う。

 響揮はいい加減早く教えろよと思いながら話を聞いていた。引っ張るより早く言った方が滑ったとき心の傷は少ないぞとも考えていた。

 

 響揮がそこそこ失礼なことを考えている中、少し緊張した声でアルベルトが口を開く。

 

「この子の名前は『ルーク』でどうだろう?」

 

「ルーク……」

 

 レスティアは何かを確認するように何度も呟いたあと、顔を上げた。

 

「いいわね!あなたはこれからルーク・クライシスよ!」

 

 こうして響揮改め、ルーク・クライシスが今日、誕生したのだった。

まだまだ三年間は始まったばかりです!

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