歌織の天職と響揮の秘密
今回で主人公のチートについて明らかになります。
※主人公のチートに関しては正直これだけの予定です。(予定です)
二人の必死の説明により神は能力をやっと理解したのだった。共有なんてのは、ズルにも程があるかもしれないが、神がそれを拒否することはなかった。
まあ拒否されたところで、願い事を何でも叶えると言ったのは神本人だし、約束は破らないと始めに言質は取っているので特に心配はしていなかったが。
「じゃあ~!妹ちゃんにも能力を与えよう!」
そういうと響揮の時と同じように、神は指から光を出すとその光は歌織の中に入っていった。
光が入っていったのは歌織だが、今回は響揮にも影響が出る。それは勿論、共有のせいだ。
共有という能力と無制限異次元倉庫を共有したの感覚としてわかったが、肝心の叡智の権能が共有されていない。これは一体どういうことなのだろうか?
「叡智の権能に関してはその世界についてから付与されるから~。おーけー?」
ならしい。二人はしっかり付与されるなら別に不満はなかった。それに共有によってお互いのことを今まで以上に強く意識できることの喜びの方が何よりも大きかったのだ。
酷いバカップルぶりである。実の兄妹なのだが。
「では妹ちゃん能力付与も終わったし、次は天職ルーレットの時間だぜ!」
響揮は、神のキャラがブレていることにツッコミを入れつつ、さっきのルーレットのところに移動した。
移動したと言っても2、3メートルなのだが。
「じゃあこれを俺がルーレットを回したらこのダーツを投げてね!」
そう言って神は歌織に矢を渡した。
「では、御兄様お願いします」
そう言って歌織は響揮に矢を渡した。
「ん……」
最愛の妹からの頼みを断る響揮ではない。ダーツを受け取って構える。
「ちょちょ!何その一連の流れ!何も聞いてないんだけど!」
神は驚きながら、ルーレットを止めた。ルーレットが止まったので響揮もダーツを構えるのをやめた。
ちなみにここでいう一連の動きというのは、神から歌織、歌織から響揮とダーツが渡ったことを言っている。
「何をそんなに驚いているんだ?」
「きっと御兄様のダーツを構える姿に見惚れてしまったんですよ!」
「それはそれでキモいな」
二人はこんな調子でイチャイチャと二人の世界を作っていた。神なのに一番存在感が薄いというのは言ってはいけない話だ。
二人の様子に唖然としていた神だったが、首を横に振ると気合いを入れるように両手で頬を叩いた。
「『何をそんなに驚いているんだ?』じゃないよ!全く君たちは一体何を考えているんだい?自分の天職を決めるのを他人に任せるなんて頭がどうかしてるとしか思えないよ!?」
神は若干ヒステリーを起こしながらも正論を言った。相手が一般人ならこの正論は通っていたことだろう。一般人なら。
何故二回同じこと言ったのかはご察しの通りこの二人が一般人ではないからだ。重要なことは二回言わなくてはならないのだ。
そして二人の反応はというと、
「歌織は俺の全てだ!」
「御兄様は私の全てだからです!」
二人は声を揃えてこう言ったのだった。
答えになっていない。だが神はなんとなくつっこんだら敗けだということなんとなく察したので、これからは二人の言動をスルーすることにした。
深い深~い溜息を一つついた後、それで後悔しないのか歌織に確認する。
「私は御兄様を信じていますから」
神は諦めたように、そして呆れたようにやれやれといった態度を取りながら再びルーレットを回した。
「御兄様!私、賢者になりたいです!」
「御兄様に任せておきなさいっ!」
歌織の願いに答えるように響揮の投げたダーツの矢は一直線に〝賢者〟と書かれている部分に当たる。
「なっ―――」
神は言葉を失った。賢者は、勇者や魔王などのレア天職と同じくらいレアな天職で、ルーレットの割合は1%にも満たないのだ。
それを的確に響揮は当てた。ダーツが大得意であったとしても、回転している|ルーレット(的)に、ましてや1%にも満たない部分に狙って当てるなんて通常できることではないだろう。
「君たち、どんな不正をしたんだい?今後の対策のために聞かせてもらえないかな?」
別に神は怒っているわけではない。だがそれにしては凄まじい覇気を放ちながら二人に問う。
この覇気を前にして嘘をつくことのできる人間などいないだろう。神はそう考えて二人を見た。
「不正も何も普通に投げただけなんだけど?」
「不正なんてするはずありません!」
二人は覇気を受けてなお堂々と自分達が不正をしていないと言い張ったのだった。
実際二人は不正はしていなかった。不正は。
「じゃあどうして妹ちゃんは矢を渡したんだい?」
自分の覇気が聞いてないのを理解したのか神は覇気を納めながら少しだけ今までの調子に戻った。
「それは単純な話だ。単に俺の運がいいだけのこと」
歌織の変わりに答えたのは響揮だった。
「運がいい?」
それだけでは意味が分からなかったのか神は聞き返した。
「はい、御兄様は生まれた時から強運……いえ豪運の持ち主なのです。自分が望んだものは回り回って全て手に入る。お金も、テストの点数でさえも」
歌織の言うとおり、響揮は生まれた時から豪運だった。お金持ちの家庭に生まれ、恵まれた容姿、運動神経のいい肉体、さらに頭まで良かったのだ。
通常ならここまで揃っているなら、運がいいどころか神に愛されていると言っても過言ではないだろう。しかし響揮はこの程度では終わらなかった。
例えば娯楽。
流行りのスマホゲームを響揮がプレイすると望んだ通りのキャラが毎回出てくるのだ。
勿論じゃんけんでは今まで負けたことがない。
例えば学校でのテスト。
もともと頭が良いのに加えて、山を張れば確実にその山を張った部分が出た。
問題文を見ずに適当に書いた記号問題は全て正解していた。
挙げていくとキリがないこれ以上は割愛させていただくが、響揮は途中から欲というもの失いかけていた。自分の欲求は豪運によって全てが叶ってしまうのだ。満たされ過ぎた要求は響揮を呑み込み壊していった。
そんな時に自分の妹である、当時は凄くドジだった歌織に救われたのだった。
これを話すと長くなるので今回は省略する。
閑話休題。
という事で、二人は事前に能力によって共有された思考でコンタクトを取っていたのだ。
歌織の変わりに響揮が投げることにしようと。
「なるほど……にわかには信じがたい話だな……」
「お前いい加減キャラがブレブレなんだよ!チャラいならチャラいで統一しろ!」
神が真面目に考えているのを見て我慢できなくなったのか、響揮はついにツッコミを入れた。
神は一つ咳払いをすると、最初に会った時のようなチャラい雰囲気に早変わりする。
「それもそーだね!考えるのは僕の役目じゃないなぁ~」
そう言ってニッコリ笑ったのだった。
◯
「さて、やることは全て終わった!いよいよ僕とも、お別れの時間だ!」
二人は天職ルーレットの後、どこに、いつ、誰の子供として生まれるかをサイコロなどを使って決めた。
勿論、全て響揮がやったため全て望んだ通りの結果となった。
そして今に至るというわけだ。
「じゃあ、第二の人生を楽しんで!」
「おう!」
「はい!」
返事をすると二人は、テレビの画面が消えるときのように、一瞬でそこから姿を消した。
「豪運の持ち主か……この転生でさえも彼の豪運がもたらした事だとしたら、恐ろしい話だね」
一人に部屋に残った神は、難しい顔をしてボソッと呟くのだった。
次回はついに異世界に転生いたします!