妹の召喚
今回からシスコン、ブラコン要素を解放していきたいと思います!
「本当にそれでいいんだね?」
神は響揮の願いに確認を取った。響揮は何の躊躇いもなく頷いた。それがさも当然の選択のような顔で。
神は戸惑った。目の前にいる少年は願いを叶えると言ったら態度が打って変わった。今までの人間もそうだったが響揮は明らかに違った。
今までの人間は自分の私利私欲のために願い事を使うのが大半だった。だが響揮は自分のためではなく他の人のためにたった二つしかない願い事を使ったのだ。それも何の躊躇いもなく。
神はたまたま選んだにしては面白い人間を選んだものだと思いながら快くその願いを聞き届けた。
「あぶらかたぶら?」
「何で疑問系なんだよ!」
「別に呪文を唱える必要がないからさっ!こういうのは気分だよ気分!」
呪文のような物を唱えると響揮の横に光が集まりだす。光は人間を形作っていき、形が整った時、頭の部分から光が消えていく。その代わりそこには見覚えのある人物が現れた。
その人物は勿論響揮の妹である音無歌織であった。
歌織が目を開けるや否や、響揮は歌織を抱き締めた。
「もう会えないかと思った……」
二人の感動の再開のシーンだった。実の兄妹でなければの話だが。
「御兄様、こんなところで抱きつかれては恥ずかしいのですが……ってここはどこですか?」
歌織は照れながらもこの空間について質問した。
響揮も重度のシスコンだが、歌織も響揮に負けず劣らずのブラコンだった。歌織は響揮の三つ下で中学二年生なのだが、英語や国語などの課題で出されたり、自己紹介での好きな○○は全て兄のことを語っているというくらいブラコンだった。
閑話休題。
響揮は歌織にこの空間のことと、自分達が死んだことを打ち明けた。そして自分の願いで共に異世界に転生することになったというのも。
「御兄様……大切なお願いを私なんかのために使って戴けるなんて……私、一生御兄様についていきます!」
「立場が逆だったら歌織も同じことしたんじゃないか?」
「勿論です!御兄様のいない人生に意味などありません!」
「俺も同じだ。歌織のいない人生に意味などないと思ったから願い事を使ったんだ」
「御兄様……」
「歌織……」
二人の距離は次第に近づいていき……
「僕の存在を忘れるのはやめてくれないかな?流石の僕も泣くよ?」
神の悲しそうな声で二人は急に冷静になり少し距離を取った。どうやら神は寂しがりやなようだ。これは要らない情報か。
「さ、さあ二つ目の願いを聞こうじゃないか」
神は二人のことを完全に引きながら聞いた。無論二人はその視線に慣れているのでどうということはない。
「そうだな~。じゃあ無制限異次元倉庫で」
無制限異次元倉庫とは名前の通りゲームに出てくる無限にアイテムが入る鞄のようなものだ。さらに鞄のように現実世界にあるわけではなく、異次元にあるため持ち運びや取られる心配もないし、そこの空間は時間が止まっているため、物が腐る心配もない。そんな四次元○ケットのようなものだ。
「へーい!りょーかい!」
神は指から光を出すと、その光は響揮の中に吸い込まれていった。
響揮は自分が無制限異次元倉庫が使えるようになったのを直感的に理解した。
使い方は考えただけで物を出し入れできるらしい。無制限異次元倉庫の中身は頭の中で常に思い出すことが可能で、さらに自分と同格以上の生き物でも相手の了承を得ることで入れることが可能ならしい。
「じゃー次は妹ちゃんの方だね!」
歌織はうーん腕を組んで考える。
「少し時間をいただいてもいいですか?」
「ついさっき来たばっかりだしね!別に構わないよ!」
神からの了承を得たので歌織は真面目に願い事をどうするか考えた。
「じゃあその間にこっちは天職を決めよっか!」
そう言って神はルーレットのような物をどこからか持ってきた。
ここは全てが真っ白な空間なのに、本当に何処から持ってきているのだろうか?謎である。
ルーレットには、勇者、賢者、魔王、村人、吟遊詩人、聖者、商人、職人、国王、etc…とたくさんの職業がかかれている。無論、職業によって的の太さが違い、四割は村人、三割は商人、二割は職人、残りが他の職業となっている。勇者とか賢者とか魔王とかの枠なんて無いに等しいレベルだ。
そんなポンポン勇者や魔王が出られたら困るって話なのだが。
「これは天職のルーレットと言って、その人の天職を決めるルーレットさ!天職じゃなくても職にはつけるけど、天職とそうでない人では凄い差が出てくるようになっているのだ!因みに村人とそうでない人が畑を耕した時、村人の方が割合が三割ほどよく収穫できるようになってるよ」
「三割というのはかなり大きいな……」
「それくらいこのルーレットは重要なのだよ!さぁさぁでは天職ルーレットをロールするぜ!なんちゃって」
神はダーツを渡した。
「……」
響揮は面白くない神の親父ギャグをシカトして自分のなりたい職業を考える。
そしてその天職が頭の中で決まると響揮はダーツを投げた。
当たったのは吟遊詩人だ。
「おめでと~!村人じゃないのは久ぶりに見たよ~!じゃあ吟遊詩人の説明に入るね!」
神はノリノリで吟遊詩人がどういう職業かの説明を始めた。
久ぶりに村人以外を説明するからなのかテンションが上がりすぎててうざかったので、こちらでまとめさせてもらう。
吟遊詩人とは楽器と歌を使ってお金を稼ぐ職業のことだ。一ヶ所には留まらず旅をして、その旅で感じたことを歌にする場合が多いらしい。
戦闘面においては、魅了や精霊魔法、後は魅了した動物や魔物などを使役したりすることができるらしい。
長くなりそうなので魅了や精霊魔法については今回は割愛させていただく。
要はゲームなどに出てくる、広場でハープみたいなやつを引きながら英雄譚を語るようなキャラだ。
戦闘向きではないし、お金を凄く稼げる訳ではないが、それでも世界をのんびり旅のできるいい職業だそうだ。
「という職業なんだ~!ん?そろそろ妹ちゃんも決まったでしょ!」
神はスキップしながら歌織に近づいた。
「はい、私は叡智の権能と、御兄様との共有でお願いします」
「叡智の権能というのは?」
神は叡智の権能というものがどういうものなのかわからなかったらしく、歌織に質問をする。
「簡単に言えば、その世界のありとあらゆる知識、言語を全て知っている能力です。例えば地形の場合、頭の中に地図と現在位置がわかるみたいな感じです。他には魔法の知識や市場価格、歴史に至るまでを知っている能力です。勿論新しい知識が広まれば自動的にアップデートされるようにお願いします」
知ることができるではなく、知っているな辺り抜かりないと響揮は思った。
知ることができるでは頭の中で、又は本が与えられるのかは知らないが知るという段階を踏む必要があるが、知っているだとその必要はなく、さらにいつでもその知識を引き出すことができるということだ。
ただし、人間の脳に与えられる負荷は大きく普通の人間では耐えられないだろう。それを叶える辺り神の御業なのか、はたまた異世界人の脳が強いのか。そんな事響揮に分かるわけがないので考えるのをやめた。
結論妹が無事ならなんでもいいのだ。
「おお、なるほど!それは便利な能力だね!それで共有というのは?」
今まで頼んだ人がいないらしく、叡智の権能の神受けは凄くよかった。
「共有というのは私と御兄様の能力を共有すること。それと思考と位置情報の共有です」
共有って言われただけでは響揮本人もどういう能力なのか理解できなかったが、歌織の説明でやっと理解することができた。
これは二人の能力を共有、つまり歌織は響揮の無制限異次元倉庫を使うことができるし、響揮は歌織の叡智の権能を使うことができるということだ。
それに加えて思考の共有というのは、テレパシー能力だ。考えていることを共有するということは、口に出さず相手に意識を伝えるということだ。それはテレパシーと殆ど同じことだろう。
位置情報の共有は多分GPSみたいなものなのではないかと思う。これは叡智の権能の地図があって初めて成り立つ能力だ。
あの一言でここまで推論できたのは兄である響揮だからであり、神はすぐに理解できなかった。そのため二人で力を合わせて説明する。
神が能力について理解するのにはもう少し時間がかかるのだった。
次回は妹の天職と兄の以外な特技?というか能力?を披露します。