永訣の儀
更新してない日でもPVが増えていて嬉しい限りです。
これからも頑張りますっ!
あの後ルークはいつも通りオリヴィエに会いに行った。
行く途中精霊契約の事を念話で伝えたらイフを見られると大変なことになると言われて、どうにかして不可視状態ができるようにしたのは記憶に新しい。
ただ単にイフが魔力の消費量を抑えるようにしただけなんだけども。
その状態でも人間の姿なのは変わらず、他の人には見えないようになっているだけだった。話をするときは契約前のように念話でないといけないそうだが。
まあ実のところあの姿を見ているのもルークだけなので、他の人に見えるのかは疑問が残っているが、口で話して耳で聞こえることから、姿も見えるのではないかと予想している。
閑話休題
その日からはいつも一緒に行動している。というかイフが離れられないというのもあるが、本人はそこまで嫌がっていないため由としよう。
あとわかったことがあるとすれば、イフといると熱い。火精だからなのだろうが、夏になる前に対策を考えなくてはならない。
そんなこんなで午前は畑でのんびりしたり、歌の練習をしたりし、午後はオリヴィエにベッタリとくっついてるという毎日を過ごしていると、気が付けば父さん達が帰ってきていた。
オリヴィエが生まれてからというもの体感時間が100倍速くらいな気がする。
「帰ったぞ、我が子供達よ!!」
「五月蝿いですよ?」
空気を読まずに満面の笑みで興奮気味に帰って来たアルベルトをレスティアが冷たい声で静める。
帰って来て早々、事情も知らずこれは可哀想だと思ってしまったが口には出さなかった。
「ごめんなさい……」
アルベルトはしょんぼりとしながらエドとレイの方に行った。
「私もお父さんが悪いと思うわ!」
奥の方でレイにも怒られるアルベルトを見て不憫だと思ってしまった。
事情を知らないということに加えて、愛する人たちに久しぶりに会えたのだ。興奮するのは仕方がない事だと思う。
だって事情を知っててもオリヴィエ相手だったら同じことすると思うし。
後ろで父さんが怒られているなか、ついにオルクさんが険しい表情で帰って来た。
「何かあったようだね?」
だいたいのことは察しているのか、オルクは帰ってすぐにアイリスに事情を聞いた。
「やはりあの歌はそういうことか……」
「はい……」
どうやらあの時の歌はオルクさんにまで届いていたらしく、頭の中に響く歌に自然と涙が出てきたそうだ。
「というか範囲広すぎだろ!」というツッコミは頭の中だけにしておいた。ファンタジー世界に無粋なツッコミは出来る限りしないようにしようと思う。だってキリがないから。
「アイリスさんのせいじゃないよ……」
「ですが……」
「アイリスさんは頑張ったと思います!」
「僕もそう思います!」
アイリスさんの責任ではない。だがそれでも自分を許せないのだろう。オルクさんは勿論のこと、レイとエドも励ました。
ルークの歌のおかげで気持ちは楽になったが、完全に罪悪感とかが消えるわけではないのだ。
「悔やむのはいつでもできるわ。それよりも先にあの子の永訣の儀をする方が先でしょう?」
「はい」
レスティアの言葉にアイリスは顔を上げた。
永訣の儀は本日行われる。
前々から教会の神父さんに、オルクさんが帰ってきたらすぐに儀式を行うと伝えていたからだ。
遺体の方は既に教会の方に運ばれているので準備は整っている。後は教会で儀式を行うだけという状態だ。
ルークはオルクやアイリスの表情を見て俄然やる気が出てきた。今まではオリヴィエが聞きたいと言ったからという理由だけで歌う予定だったが、二人を見て、二人の悲しみを今日1日で終わらせてあげたいと思った。
悲しそうな表情で常にいられるとこちらまで気が滅入るし、オリヴィエも可哀想だ。
あとは個人的に死んでいった赤子に感謝してるというのもある。オリヴィエを守ってくれた恩を返さなくてはならない。両親の心を守るという形で返すことにしよう。
ルークは今一度気を引き閉めた。
○
儀式に参加するアルドーナ家とクライシス家の全員が椅子に座ると神父が入場してきた。
「永訣の儀を始めます」
いつも白色の服を着ている神父さんが、今日は黒色の服を着ていた。永訣の儀用の所謂喪服みたいなものだと思っている。神父だから御坊さんの着ている袈裟が近いかもしれない。
逆にアイリスさん達はいつもの格好だ。黒色の服を着てお葬式という文化はこの世界にはないらしい。
ただしルーク一人だけは別で黒色の服を着せられていた。歌を歌うだけだというのに儀式をする側に含まれるそうだ。
「それではルーク君お願いします」
歌は一番最初にやるらしい。
ルークは椅子から立つと赤子の眠る祭壇の方に歩いていった。
祭壇の前につくと、目を閉じて集中する。歌い始めるタイミングはこちらにお任せとのこと。
「~♪」
ルークはゆっくり口を開き、言葉を紡いだ。口を開いた瞬間から、どこから流れているのか出所のわからないバックミュージックが流れる。
前回はサビで気分が高揚したため魔力が込もってしまったが、今回は初めから意識的に魔力を込めた。
歌に魔力を込めるというのはそれほど簡単な事ではない。これは歌いながら呼吸しているような物だ。歌うとき呼吸してるのでは?と思うかもしれないがそういう意味ではない。
言うなれば二つの口を使って、一つは歌い続け、一つは息を吐き続けるという感覚だ。
口は一つしかないためこの難易度がわかり辛いだろうから、イメージとしては口で吐きながら鼻で吸うのが近い。
さらに込める魔力はほぼ一定でなくてはならない。魔力を一定に出すのは、複式呼吸で「スー」と息を吐いてる時と似ているのだが、少し気を抜くとすぐに「ふぅー」と息を吹きかけるレベルになってしまうのだ。
また一定でないと、練習に付き合ってもらったイフ曰く、感動が薄れるらしい。ただ、サビは込める量が増えても大丈夫だそうだ。
要は歌と同じで変なところで抑揚をつけてはならないらしい。最初は調節するのに凄く苦労した。
「ご静聴、ありがとうございました」
ルークは歌い終わるとくるりと回ってお辞儀をした。三歳児の仕草でないというのは言うまでもないが、今は誰もそんなことを気にする余裕がなかったようだ。
「うっ……」
「ひっ……うぅ……」
ルークの魔力全開の本気の歌に、場にいる全員涙していて、そんな余裕など無かったのだった。
神父さんも目を拭いて「歳を取ると涙もろくなりますな……」なんて言っている。
(御兄様……私、感動しました!!!)
周りを見て困惑していると、オリヴィエの声が頭に響いた。
(あはは、ありがとう。でも聞こえてたのか?)
(はい!この日のため、必死になって身体強化を維持できるように練習しましたので!)
なるほどしっかりと体のことも考えていたわけか。というか身体強化は聴覚も強化するのか。本当に魔法って万能だな。
「ルーク君ありがとうございました」
涙を拭いた神父さんに言われて、ルークは自分の席に戻った。
「るぅーくぅー!!」
涙と鼻水でくしゃくしゃな顔のレイが前回同様抱きついてきた。せめて鼻を拭いてからお願いしたい物だが、この服は自分のではないためよしとした。
号泣するレイを宥めていると気が付けばメルクトリもこちらに来て、さらにエドも一緒になって抱きついてきた。
子供の体温は高いせいか熱いこと熱いこと。無理に引き剥がすこともできず、三人に抱き締められてしばらくサウナ状態を耐えることになったのだった。
(御兄様、私もそこに入りたいです!)
(できれば助けてくれ……)
ルークのSOSは届くことなく、オリヴィエの希望も叶うことなかった。
「では灰にします」
あの後儀式は進み、ついに遺体を焼くところまできた。今は神父が祭壇の前で火の着いた松明のような物を持っている。
ルークは三人に揉まれて放心状態だったため、今の今まで半分意識を失っていて、どんなことをしたのかは覚えていない。
キッズ三人は相変わらず泣きつかれて寝ていた。
「ではお二人は前まで来て下さい」
呼ばれたアイリスさんとオルクさんは遺体のある祭壇の近くまで歩いていった。これは二人が火をつけるためだ。
遺体に火をつけるのは親、子供、結婚相手の役目なのだ。これらの人がいない場合は神父が代わりをすることになるのだが。
アイリスさんとオルクさんは神父から火を受けとると、赤子にキスをして火をつけた。
火は【聖なる火】と呼ばれるファンタジーな火で、死体以外燃えないようにできているらしい。
あとあと叡智の権能で調べると、転職が神官の人が必ずもらえるスキルなのだそうだ。
戦闘ではアンデットに効果的らしい。
赤子の死体が燃えて骨まで灰になると、袋に灰をいれて渡された。これが遺骨の代わりらしい。
というか骨まで燃やすってどんな火力してるんだよ!
儀式が一通り終わると神父は祭壇の前に立ち、膝をついて祈るポーズをする。
両親も同じポーズをとっているのでルークもその真似をした。
「来世に幸せが訪れますように」
『彼の者の旅に幸多からんことを』
神父の言葉に全員で言葉を返す。
「これで儀式は終わりとなります」
こうして永訣の儀は幕を閉じたのだった。
次回はオリヴィエのステータスになるはずです。もしかしたらもう一つ進めるかもです。