歌の力
作詞とか作曲とかできたらいいんですけど……
今回はちょっぴり悲しいエピソードとなっております。
いや、したつもりです……
表現苦手ですいません
まだお昼じゃないけどかえっていいわよ!と自称大精霊が言ってくれたので、ルークは畑を後にする。
畑からアルドーナ家までは、全力で走っても10分はかかってしまう。畑が大きいというのもあるが、それ以前に足が小さい。QUIが20は伊達ではない。あまり自慢できることではないけど。
いち早く歌織に会いたいルークは、仕方なしに裏技を使う。
(身体強化LV.1)
ルークが魔法を使用したことにより少しだけ走る速さが上がった。
これは最近覚えた魔法でATK、DEF、QUIの三つのステータスをあげる魔法だ。LV上限は5となっており、最大で発動すると三つのステータスが二倍になる代物だ。
ただし使える天職が限られており、戦士や勇者などの、所謂前衛職なくてはならない。例外として全ての魔法が使用できる賢者は後衛職だけど使用できる。
賢者ではないルークではせいぜいLV.3がいいところだ。そして発動はできるのだがLVが上がるごとに制御が難しくなるのだ。常に体全体に身体強化を行き渡らせないといけないためである。
ルークは一年間必死に頑張ったが、LV.1までしか会得できなかった。意外に難しいのだ。
LV.1では1.2倍ほどしかステータスが変化しないが無いよりはマシなので発動して全力疾走をする。大人の1.2倍は凄い変化だけど、3歳児のステータスでは……まあね?
維持しつつ走ること5分、やっと扉の前に着いた。1.2倍なのに何故5分なのか?
速さに必要なステータスはQUIだけではないということだ。ATK、つまり筋肉量も関わってくる。それらを1.2倍するのだから実際の速さは1.2倍ではないというわけだ。
って今はそんなことどうでもいいっ!
ルークは扉を前にしてひとまず身嗜みを整えた。赤子で目が見えないとはいえ今から好きな女の子と会うのだ。身嗜みを気にするのは当然と言えるだろう。それに畑に先程までいたので泥とかも着いているのだ。
(浄化)
ルークは浄化魔法を使って体の汚れを落とした。浄化魔法でできるのは大きな汚れを落とすくらいしかできないのだが、それでも無いよりはマシだ。
そのあと髪を軽く整えて、息もついでに整えて、扉を開けた。
「る、ルーク!?何してたの!」
家に入るとレイが怒鳴ってきた。
「ごめんごめん……」
ルークは適当に返しながら歌織を探す。不意に精霊の気配がしてその方向へ行った。この先に歌織がいる気がする。ルークの直感がそう告げていた。
そこはリビングではなく二回の子供部屋だ。
精霊に導かれてルークはそこに行く。でも何故ここまで精霊がいるのだろうか?精霊の色は銀色で今までに見たことのない色だった。多分命精だろう。
「母さん!?生まれたって本当?」
「ええ……まあ……」
母はばつが悪そうに目を逸らした。
嫌な予感がする。ルークは精霊の言葉を思い出していた。命精は生まれた時、そして死ぬ時に現れると。
母の態度からして何かあったのは間違いない。
ルークは部屋の奥にいるアイリスのところに近づいた。そこにいたのは二人の赤子。
双子だったということだ。
アイリスは一人を抱えて涙を流している。ルークは血の気が引いていくのを感じた。
「もしかして……その子は……」
その続きは言わなかった。言ってしまったら本当にそうなってしまうかもしれなかったから。
この世界で乳児の死亡率が高いのは知っていた。時代が時代なのだ。2017年の地球でも発展途上国は乳児の死亡率が高いところがある。
ましてやここは異世界で時代は中世だ。死亡率が高いのは当然と言えた。
(歌織!無事なら返事をしてくれ……)
ルークは心の中で叫んだ。
返事は返ってこない。そんなはずはない。信じたくない。だが現実は非常である。
「何でだよ……」
ルークは素の自分が出ているなんてお構い無しに床に手をついて涙した。
よりにもよって何で歌織なんだよ……
「……とりあえず女の子の方だけでも、教会に連れていきましょう……」
レスティアはアイリスの肩を叩いてそう言った。
ルークは今の言葉を聞き逃さなかった。『女の子の方』ということは今抱えられている子は男の子ということになる。
歌織が男として生まれる訳がないのだ。何故なら性別は既に神の部屋で決まっているのだから。
つまりまだ歌織は生きているということである。ルークは涙を拭くと歌織であろう方に近づく。
(無事でよかった……)
レスティアも決心が着いたようで男の子の方を歌織の横に寝かせ、今度は歌織を抱えて家を出ていった。教会に連れて行くのは母親の役目であり、他の人たちは例え家族であってもついていけないので、ここで祈るばかりだった。
ルークは歌織とレスティアが教会に行くのを見送ると子供部屋に戻った。
「ルーク、今までどこにいたの!」
無視し続けたせいでレイの怒りは頂点まで登っていた。別に悪気があって無視していたわけではないのだ。ただ歌織のことで頭がいっぱいだっただけで。
……それはいつもの事だ。
「畑に行ってた」
「どうして!」
「日課だから?」
「にっかって何よ!」
レイが一人でヒートアップしてるのを見兼ねたのかレスティアが割って入った。
「レイ、別にルークは悪いことをしてたわけじゃないのよ。ただ単にタイミングが悪かっただけで……」
チラッとこちらを見た。言い返す言葉もない。
大変だったのは周りを見たらわかる。レイは泣いていた後があるし、エドは現在進行形で部屋の角で泣いている。メルクトリは放心状態だ。レスティアも顔色が悪い。
本当に申し訳ないと思っているが、はっきり言うと自分がいたところで何ができたのだろうか?多分何もできない。なら居ても居なくても変わらないのではと思うのは間違っているだろうか?
間違っているのだろうな……
居るだけで支えになる人というものは存在する。ルークでいうところの歌織のようなものだ。
ルークはこの死んでいた赤子に何も思うところがないわけではない。不謹慎かもしれないが、どちらかと言えば感謝している。
この男の子は歌織を守って死んだのだと。
それならば、泣くのではなく感謝して何かお礼をするのが筋というものなのではないか。
ルークは元の世界の歌。
身近な家族や親友などの死んだ時の別れに歌う歌を、この男の子に送った。
「~♪」
歌のは儚くも寂し気な曲。だけど前を向いてその死を乗り越えよう。そういう曲だ。
アカペラだけどそれは吟遊詩人の補正なのか、まるでバックミュージックが聞こえるようだ。
ルークはサビ入るに連れて自然と気持ちが高ぶった。そのせいなのか魔力が抜かれていく感覚を感じるがそんなことを気にせずに、ただただ歌った。
そして今を生きる人々の希望になりますように……
ルークの込めた気持ちは、この場にいる全員に届いたのか、歌を歌い終わると全員が涙していた。大人のレスティアでさえ。
「ルークゥ~」
歌い終わって一呼吸つくと、レイが飛び込んできた。凄い泣きながら。
個人的に鼻水は拭いて欲しいと思いながらも、そっとレイを抱き締める。
多分レスティアと同じように我慢していたのだろう。子供なのだからこういう時は我慢してはいけないのだ。
そうすると他の子供二人も同じように抱きついてくる。
「ぐすん……」
「ありがとう……ルークくん……」
メルクトリに関しては泣きながらお礼を言われた。別にお礼を言われるようなことはしていないが、水を指すのもどうかと思うのでそっと三人とも抱き締めた。
しばらくの間ルーク以外の皆は泣いていたが、涙が止まると自然と心が晴れやかになっているようで、顔色がよかった。
「ルーク、ありがとう……」
「別に歌っただけでそれ以外は何もしてないよ」
「それでも……」
母に抱き締められ照れ臭そうに何でもないという。それでもレスティアは感謝を伝えたかったようでぎゅっと抱き締められた。
ルークは照れ隠しに気持ちを紛らわそうと部屋に目を向けると、銀色の光でいっぱいになっていた。全て命精だと凄い量である。
(ありがとう。この子も喜んでいることだろう)
((ありがとう!))
一人の精霊が代表してそう言うと、残りの精霊も声を合わせてお礼を言った。
(君の歌は今まで聞いたなかで一番素晴らしかった。今後とも死を前にしたら是非とも歌ってやって欲しい)
(わかった)
命精から直々にお願いされたので、了承を伝えた。特に断る理由もないし、自分の歌でいいならと思ったからだ。
(ありがとう)
命精は最後にもう一度そう言うと、どこかへ消えていった。
ぼうっとその方向を見ていると頭の中に昔よく聞いた女の子の声が聞こえた。
(御兄様の歌、大変素晴らしかったです。ここまで響いてきました)
(歌織!?)
その声の主は自分の実の妹であった歌織そのものだった。
(はい。お待たせいたしまた。それと心配かけてすみません……)
(ううん……無事ならそれでいいんだ)
ルークは優しい声で伝えた。
歌織の無事を確認したからか、安心して涙が出てきた。
「る、ルーク!?どうしたの?」
急にルークが泣き出したことにより、部屋にいる一同はちょっとしたパニックに陥るのだった。
次回は教会から帰って来たアイリスママとか納税から帰って来たパパさんズと歌について話をする予定です。
予告詐欺になったらすいません