呼び方
思えばここは誰でも通れる道であり、ましてや自分の家や部屋というわけではないのだ
そう。そんな場所で僕は大声で泣き喚いたあげく小柄な女の子に抱きしめられていたわけだ。当然周囲の人からは好奇の目で見られる。それに僕が気付いたころには手遅れであった。そういうわけで僕は顔を真っ赤にさせながら目的地である八百屋に向かっている。
しかも手をつなぎながら。
「それでアス君。どうしてそんなボロボロになってるの?」
彼女が先ほどの質問をしてくる。確かに先ほどのでは回答にはならないと思い僕は答えた
「あぁそれは。魔盲がよく思われていないのは知っているよね。」
「まぁ、ある程度には」
彼女はまるでそれは不満だというかのようにそう言った」
「うん。それが原因で僕は、まぁ簡単に言うといじめられてるんだ」
そう言った瞬間。あの男たちとのやり取りの時のような恐ろしい雰囲気にかわる。
先ほどは慌ててわからなかったがこれは魔力だ。彼女の体から明らかな怒りの感情を帯びた魔力が漏れ出しているのだ。魔力を外に放出することは誰でもできるがこれほどまでにはっきりとしたのを僕は今まで経験したことがない。
その魔力に圧倒され僕はひと言もしゃべることができなかった。
「ごめんね。びっくりさせちゃって。続けていいよ」
そう彼女が言うと流れ出ていた魔力はピタッと止まった。
「う、うん。まぁ多分なにをされているかってとこが知りたいと思うんだけど。魔法の試し撃ちとか教科書を捨てられたりとかかなぁ。その他には無視されたりとか」
「…それは誰から?」
「えっとクラスメイトとかかなぁ。あと先生」
そこで彼女は話さなくなった。どうしたのかと思い彼女を見ると先ほどの僕のように眼尻に涙を浮かべ必死に泣くのを堪えていた。
「そっか…そっかぁ。つらかったんだね。よく、頑張ってこれたね」
そう彼女が言う。また涙が出そうになったが今度は堪えることができた。
「もう、慣れちゃったかな」
「そっか…」
それから八百屋につくまで僕らは一言も話すことはなかった。
「お、坊主。今日も買い物かい…おっとなんだよ!坊主も隅に置けねぇなぁ!まさかあの坊主が女の子を連れてくるなんざ!」
八百屋の店主のヴォルフさんだ。この人は僕が魔盲と知っていても態度を変えない数少ない人の一人だ。
なんでも両親が現役だった時に世話になったとかどうとか。
「ち、ちがうよ!!!彼女とはそんな関係じゃない!大体今日あったばっかだよ!?」
どうやらヴォルフさんは彼女のことを僕の交際相手だと思っているらしい。
「違うの?」
「違うでしょ!?」
この美少女は突然何を言い出すのか。
「ところで坊主。今日は何をしに来たんだ?冷やかしなら容赦しねーぞ?」
言葉とは裏腹ににからかうような笑みを浮かべてヴォルフさんは聞いてきた
そうだつい話し込んでしまったがそもそもここには晩御飯の材料を買いにきたんだった
「えっと…」
それから僕は晩御飯に必要だった野菜を種類買って帰路につくことにした。
「えっとそれで君はどうする?」
自然と敬語で話すことはなくなった。
というよりかはあんな恥ずかしいことをしてしまった手前いまさら敬語でしゃべっても、と感じたのだ。
「ルカでいいよ」
さすがに女の子を呼び捨てで呼ぶのは僕にはとてもできそうにないのですが。
でも彼女がそう言ってるしなぁ。
「えっと、じゃあルカさん」
「ルカでいいよ」
これでもダメですか!?
「……」
「……」
「わかった。僕の負けだ。それでルカはこれからどうするの?僕はやることは終わったし後は家に帰るだけなんだけど。」
ルカは僕が呼び捨てで呼んだことに満足したらしくニコニコとしている。
「えっとね。出来たらでいいんだけど。ボクも一緒に晩御飯食べてもいいかな?」
はいいいいいいいいいい!?この美少女は何度僕を驚かせば気が済むんだ。
それはつまり僕の家にお邪魔しちゃうということですか?何度目になるかもうわからないけど今日あったばかりなんですよ!?
「えっと、てことは僕の家まで来るって…ことかな」
「ダメ…かな?」
若い女の子が若い男の家に行くっていうのはわりとダメだと思うのですが。
僕が彼女に流石にダメだと言おうとすると
「…ダメ?」
彼女が寂しげに上目づかいで僕を見つめて、もう一度尋ねてきた。
…女の子ってずるいと思う。
「…ご飯食べたら帰るんだよ」
「…‼うんっ!」
お母さん。お父さん。今日、初めて女の子が家に来ます。