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破壊神の息子  作者: 江川 凛
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母親

 俺の名はアラン、今年10歳になる。

 俺の両親は奴隷だから、当然俺も奴隷として生まれた。

 奴隷以外の生活は当然知らないが、奴隷の生活がろくでもないことは確かだ。


 奴隷とは、まさに主人のモノでしかなく、如何なる命令にも従わなければならない。極端な話、主人に殺されても誰も何もしてくれない。

 ただ、主人のモノ(財産)だから、主人も失うのはもったいないので、そんな命令はなかなかないが、ない話ではない。

 例えば、病気などで使えなくなった奴隷は当然食事代がもったいないので、殺される。


 俺の母親はダークエルフで、かなりの美人だ。

 しかし、奴隷で美人ということが意味するのはただ1つだ。夜になると主人に呼ばれてどこかに行く。

 俺が以前は何をしているのかよくわからなかったが、母親が出ていくと父親が腹いせに俺に暴力をふるうことや、まわりの人の話などから、彼女が何をしているのが今ではよく知っている。


 朝帰ってくると、あざだらけの俺を見て、「ごめんね。ごめんね」と泣きながら謝ってくる。

 しかし、彼女にそれ以上のことはできないのは俺自身が一番よく知っている。

 それでも俺は母親が大好きだった。


 理由は極めて簡単で、彼女以外に奴隷である俺のことを気にかけてくれる者などいなかったからだ。

 それに、ダークエルフと人間の混血である俺は、独特の黒い肌と少しとんがった耳という姿から、正直まわりの人々から嫌われていた。

 俺が他人から嫌われていることを知って、母親はその分俺にやさしくしてくれた。


 もともと彼女は、奴隷になるような人ではなく、公爵だかの貴族の第二夫人をしていたそうだ。

 ところが、第一夫人がいろいろ裏で手をまわして、奴隷にまで落とされてしまったという話だ。


 もちろん、そんなことは母親が話してくれるはずもなく、まわりの噂好きの奴らが俺が聞きたいとかどうとかいうことは関係なしに勝手に話してきた内容だ。

 かつて良い暮らしをしていたものが没落するという話は、他人にしてみれば、それなりに面白いのだろうが当事者にしてみればたまったものではない。


 だから俺も、母親にそんなことは聞いたことはなかったが、俺に文字などを教えてくれたり、それなりの教育をしてくれたところをみると、たぶん間違いのない話なのだろう。


 俺は母親の夫として暮らしている男を便宜上「父親」と呼んでいるが、そうした経緯などを考えると、本当の父親は別にいるのかもしれない。

 ただ、当然こんな話も間違っても聞けるものではない。


 別に希望も何もない毎日だったが、母親が俺にやさしくしてくれたので、それなりに生きていくことができた。

 俺はこんな毎日がこれからも続いていくのだろうとぼんやり思っていた。


 ところが、1ケ月前にかなり身なりの良い、明らかに上流階級であろうとわかる中年女性が家にやってきて、主人に金を渡すと、公衆の面前で母親の服を破くと、いきなり鞭で母親を打ち出した。

 周りに男共は、にやつきつきながら面白そうに見ている。

 俺は泣きながらやめてくれるように頼んだが、当然誰もそんなことは聞いてくれない。


 俺の大事な母親が皆の前で辱められ、痛めつけられている様に、頭が真っ白になってしまった。 

 気が付くと、あざだらけになって、家で寝かされていたから、たぶんその中年女性に殴りかかるなどしたのであろう。


 そんな俺の脇には母親が横になっていた。

 相変わらず、「ごめんね。ごめんね」と謝ってくる。

 しかし、母親はその時の鞭で打たれた傷が原因で、横になっていることが多くなってしまった。


 それでも、夜のなると無理やり連れだされる。俺は本当に腹がたってしかたがなかったが、連れ出そうとする者と争ってケガでもすると、母親がまた謝ってくるので、必死に耐えるしかなかった。

 誰が見てもそんなことが長続きするはずがなく、母親はとうとう自分で起き上がることができなくなってしまった。


 本来ダークエルフはかなりの長寿を誇るが、それはあくまでまともな生活をした場合で、傷ができてもロクな治療を受けることができず、働けなくなって食事も満足に与えられない生活では、長生きなどできようはずがない。

 結果、とうとう亡くなってしまった。


 相変わらず、死ぬまで俺に「先に死んでごめんね。ごめんね」と謝っていた。

 葬式などは当然なく、死体は公共墓地に埋められて終わりだ。

 俺はあまりのことに母親が亡くなったという事実を受け止められないでいた。

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