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約束を果たすために  作者: 楼霧
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第八十六話 王様からの呼び出し 前編

・・・なぜだ、どうしてこうなった?


カジィリアに王様からの召喚命令が届いていると聞かされたその翌日、朝食を終えて少しすると、騎士らしき鎧姿の格好をした女性が御者を引き連れて訪ねてきた。俺は朝食を終えると同時に慌ただしくラフィに着替えさせられていたので、出かける準備だけは万端だ。


俺の意志が介在する余地はないので、ただただ俺は流されるまま、準備された馬車に乗る。王様が準備してくれたという馬車は、ご丁寧に俺が考案した領域を発生させる魔術具が取り付けられていた。そのため、雪で立往生して困るということはない。雪深くて馬車が走れないため、王城には向かえないという事態に陥ることがないのは、痛恨の極みと言える。


・・・観念するしかないのかぁ、はぁ。 


俺は馬車の窓から見える王城をぼんやりと眺めながら、売られた仔牛気分に浸る。だか、このままでは駄目だと気持ちの整理をつけてから、俺は同乗している騎士のお姉さんに話しかけることにした。もしかしたら、王様が召喚命令を出した理由を知っているかもしれないという淡い期待と、誰かとお喋りすることで気分を紛らわそうと思ったからだ。


「あの騎士のお姉さん?どうして俺に召喚命令が出たかご存知ですか?」

「ルート様、大変申し訳ございませんが存じ上げません」

「そうですか」


騎士のお姉さんは任務中のためかキリッとした顔で一言、簡潔に答えると黙ってしまう。欲しい答えは返ってこなかったばかりか、会話が全く続かずに終わってしまった。馬車の中に再び静寂が訪れると車輪がカラカラと回る音しかしなくなる。


・・・なるほど、私語厳禁ということなのだろう。うん、そうに違いない。そう思うことにしておこう。


騎士のお姉さんと優雅に世間話をするような雰囲気でないことを察した俺は、一つ息を吐いてから、召喚命令が出た原因を考えることにする。何もせずにいるよりも、何を言われても答えれるように、色々と想定しておいたほうが建設的である。


俺は王都に来てからのこと指折りに思い返す。王都について早々、王命を聞かされたこと、大きな屋敷で生活を始めたこと、自分が貴族であったこと、学園に入学して学生生活が始まったこと、魔法祭に参加したこと、魔法剣の講師する羽目になったこと、そのせいで収穫祭に参加しそびれたこと。思い返せば、中々に濃い一年だったと思いながら俺は頷いた。


・・・うん、何だかんだ言って、やらかしたことが多すぎて、身に覚えがあり過ぎる。


俺は心の中で「おおぅ」と叫びながら頭を抱えていると馬車が動きを止めた。どうやら城に着いたらしい。御者が、馬車の扉を開けてくれると騎士のお姉さんが「どうぞ、お降りください」と先導してくれる形で、俺も馬車を降りる。当たり前だが、目の前には悠然と佇む城があり、俺は城を見上げながら感嘆の息を吐く。


・・・遠目で見てもでかいと思ったけど、近くで見たらより一層、迫力あるなぁ。


西洋風の石造りで出来た城の大きさに目を奪われて感動していると「ルート様こちらです」と騎士のお姉さんに声を掛けられる。城の扉は俺が訪問するためか開け放たれており、騎士のお姉さんはすでに城の中へと入っていた。俺は慌てて城の中に入る。


「ふわぁ。すごい・・・」


城に入ってすぐのエントランスの広さに思わず声が漏れていた。エルスタード家の屋敷のエントランスでもビックリしたというのに、屋敷のエントランスとは比べ物にならないほど大きいかったのだ。しかも、驚きなのはそれだけじゃない。


天井には豪奢なシャンデリアがいくつも取り付けられており、それら自身が光を放っているところを見るとランプの魔術具になっているようである。床、柱、天井には大理石を使っているようで、磨きに磨かれて鏡のようになっている。それがシャンデリアの光を反射して、広いエントランス全体がとても煌びやかな雰囲気になっていた。


・・・さすが、国で一番偉い人の住まいなだけはあるなぁ。


城の内装にうんうんと満足して頷いていると騎士のお姉さんに「ルート様?」と不思議そうな顔をされてしまう。俺はコホンと咳払いして「何でもありません」と言って、案内をお願いした。


騎士のお姉さんに連れられて、エントランスから通路に入り、しばらく城の中を歩く。途中で騎士のお姉さんが立ち止まると「私がご案内出来るのはここまでです」と左腕を胸の前に掲げながら言った。俺は何ことか分からず首を傾げていると「では、ここから私が案内役を務めます」と騎士のお兄さんが現れた。


次は騎士のお兄さんが案内役として俺の前を歩き始める。そして、しばらくするとまた案内役が交替になった。それからも代わる代わるに別の騎士に連れられて歩くというの何度も続く。それだけ、城の通路は妙に入り組んでいた。


・・・何これ、本当は城じゃなくて、巨大迷路なんじゃないか?


「城というよりは、ダンジョンみたい。まさか、この入り組みようはここがラスダンか?」と思い始めた俺は、その時案内してくれていた騎士のおじさんに疑問をぶつける。どうして、こんな造りをしているにかと。騎士のおじさんはニッと笑顔を見せてくれると「ルート殿が城に来られるのは初めてでしたかな?それはさぞ、驚かれたことでしょう」と言った。


騎士のおじさんの話によると城が入り組んでいるのは、敵に攻め入られた時、簡単には王様の下に向かわせないためのものらしい。城攻めを想定した城の造りに、俺はついつい物騒な話だなと思ってしまう。こちらの世界に来る前は、平和な時代を生きていたのだから仕方がない。それでも、交通事故には要注意なのだが。


・・・近隣諸国とは友好的な関係を築いてるこの国に攻め入ってくるとしたら、やっぱり魔族領か。


ちなみに、案内役がコロコロと交替するのは、それぞれに教えられている通路が違うためらしい。城の中を警護する騎士たちは、それぞれに与えられた範囲があるらしく、それに係わる通路しか教えてもらっていないのだそうだ。


知らない通路に入ると騎士のおじさんでも確実に迷子になると得意げに言った。だが、迷子になる人は一人もいないそうだ。それは、そもそも担当区域以外の通路に入ることは固く禁じられており、それを破るという行為そのものが、王様に対する背信行為だと見做されるそうである。


話を聞いた俺、口には出さずに「ふむふむなるほど、徹底してるんだなぁ」と顎を触りながら納得していると、ふとあることに気が付いて「あれ?だとしたら、これって不味くね?」と心の中で呟く。


俺は常日頃から索敵魔法を使用している。索敵魔法の熟練度を上げるためと魔力を薄く広げる索敵魔法は魔力制御の訓練にも適しているためだ。当然、今も絶賛展開中な訳なのだが、薄く広げた魔力から城の内部の構造を頭の中でしっかりとマッピングしてしまっている。


・・・だって、ほら、一見分からないけどそこの壁の裏には、隠し通路が・・・って、だからそういう場合じゃない!


どう考えても知ってはいけないことを知ってしまっている状況に、俺は冷や汗が止まらない。


「おや、ルート?浮かぬ顔をしておるがどうかしたか?」

「・・・」


ここまで案内してくれた騎士たちからは「ルート様」や「ルート殿」と呼ばれてきた。だが、今、声を掛けてきた人は、俺を呼び捨てに出来る立場に居る人である。聞き覚えのある声に、最悪のタイミングだと思いながら俺は顔を上げる。


「お久しぶりですカルスタン卿。ちょっとお城の大きさに驚いているだけなので大丈夫です」

「そうか。確かに子供の足では少し広いやもしれぬな」


・・・現在の騎士団長、ここに現る。「うげっ」と声に出さなかった自分を褒めてあげたい。


カルスタンはカラカラと笑った後、「目的の場所はもう少しなので安心せよ」と言って、踵を返して歩き始めた。俺はカルスタンの後についていくが、正直なところ、気まず過ぎて一緒に居たくないと思ってしまっているため、ちょっと距離を空けながら歩く。


「時にルート。君は随分と面白いことをしているな・・・。む?どうして、そんなにも離れて歩いておるのだ?」


カルスタンが俺に話しかけようとして振り返り、距離を空けて歩いている俺を見て怪訝そうな顔をする。俺は少し疲れた表情を浮かべながら「ちょっとだけ歩き疲れました」と子供らしい月並みな返しで対応だ。


・・・ちょっと俺の顔が引きつってるような気がするけど大丈夫かな?大丈夫だよね?


「ふむ、思ったよりも体力がないのか?それではいかんぞルート。もっと身体を鍛えねば。・・・だが、王の客人に無理をさせては元も子もないか。よし、私が目的地までおぶってやろう」

「・・・そのお心遣いだけありがたく受け取っておきます。ですが、大丈夫です。自分で歩けます。もう少しで目的の場所なのでしょう?」


カルスタンの提案に俺は内心どぎまぎしてしまう。折角、距離を取って歩いているのに、おんぶで密着するとか何の罰ゲームだと。カルスタンは「そうか?」と言って、何事もなくまた歩き始めたので、何とかおんぶを回避することに成功した。ただ、これ以上変に疑われるのは嫌なので、俺は少し駆け足でカルスタンに近寄って、すぐ後ろをついて歩くことにする。


「それでだなルート。先ほどの話だが」

「そう言えば、何か話そうとされていましたね。えっと、確か面白いことが、というお話でしたか」

「ああ、魔法剣のことだ」


カルスタンは俺を見下ろしながらニヤッとした笑顔を浮かべる。こういう顔をする人が、次に何を言わんとしてくるのか、身に覚えがある。何やら不穏な空気に間違いなく面倒事に違いないと感じた俺は、先手を打っておくことにする。


「来年の風の季節に卒業される三年生の騎士コースの先輩方の中には、魔法剣を習得された方がいらっしゃいます。騎士団の中でも魔法剣を習得されたい方がおられるのでしたら、聞いてみてはいかがでしょうか?」

「ふむ、私としては考案者のルート直々に指導をしてもらいたいと思っているのだが?」

「さすがに部外者の、しかも子供から教わるのは、騎士団の方々が良しとしないのでないでしょうか?それよりも、同朋となる騎士コースの先輩方からの方が良くありませんか?」


やっぱりかと思いながら、何とかカルスタンのお願いを回避しようと俺は理由を付ける。だが、俺の返答にカルスタンは首を横に振って見せた。


「いや、その方が、角が立ってしまうのだ」

「なぜですか?」

「考えてもみよ。新米の騎士に教えを乞うという形となるのだ。中には私のように老齢の者もおる。それの方が受け入れられぬ者が多いだろう。それに新米騎士も自分が優位であることをむざむざと捨てるような真似をしたいとは思わぬだろうな」

「あぁ、なるほど」


騎士団内の地位は実力主義となっており、さらに縦社会の構造となっているという話をカジィリアに聞いたことがある。俺が王都に来て間もない頃に、食事を共にするカジィリアとの会話に困った時の頼みの綱として騎士団の話を聞いていた。


そんな騎士団の中で、魔法剣を習得した騎士は、優位な立場にあると言える。折角、魔法剣というアドバンテージを持って入団するというのに、それを投げ捨てるような真似をする奴はいないということだろう。世知辛いが実力主義なら確かにそう考えそうだと、俺はカルスタンの説明に思わず手を打って納得してしまう。


「そこで君だ。ルートは自分を部外者と言ったが、完全に部外者という訳ではあるまい。代々が騎士団長を務めてきたエルスタード家の血を引いており、何より前騎士団長であるアレックスの息子なのだ。君が教える分には何も問題がない」

「え?あ、いや、でも・・・」

「それにだ、騎士団の中で君に興味を持っている者が多いのだ。あのソフィアを倒したと噂される弟が一体、どんな人物なのかと。それに他にも噂が流れておるだろう?ソフィアに結婚を申し込みたければ弟を倒せという噂が。騎士団では無暗やたらに挑まぬように、と申しつけているのが現状なのだが・・・。一度、君の実力を見せておけば、声高に君に挑みたいと言う者も居なくなるだろう」


畳み掛けるように話しかけてくるカルスタンは、言外に「騎士団をけしかけられたくなかったら、魔法剣を教えろ」と脅してくる。口調としては、かなり優しく語りかけてくれており、脅している雰囲気は全くない。だが、何よりも顔が雄弁に語っているで間違いない。


「すぐでも、と言いたいが今は寒い季節だからな。ルートの体調を考えて、風の季節、暖かくなった頃にお願いしたいのだが、頼めるか?」

「ア、ハイ」


一枚も二枚も上手なカルスタンに、俺はぐうの音も出なかった。


「そうかそうか、それは良かった。では、ジェイド卿と同じく冒険者ギルドに依頼を出すから宜しく頼む」


カルスタンは満足そうな顔をして頷く。どうやら、俺は名指しの依頼で騎士団向け魔法剣講師を受けることになるようだ。最早、観念しているので、逃げるつもりなど更々ないが、逃げ道を塞ぐ徹底ぶりには舌を巻くしかなかった。


城中のマッピングという秘密を抱えていることとは、別の意味で気が重くなった俺は、肩を落としながらとぼとぼ歩く。「今日は厄日だ、厄日に違いない」と自分を慰めていると、カルスタンが急に立ち止まり、目の前にあるドアを指差した。


「さて、着いたぞ。この部屋で待っていてくれ。時期に王がお見えになる」

「そうですか。ご案内頂きまして、ありがとうございますカルスタン卿」


カルスタンはドアを開けてくれると部屋の中で待つようにと促されたので、俺は言われるがまま部屋の中に入る。案内された部屋は、エントランスの豪華さがまるで嘘だったかのように、こじんまりとした部屋だった。「こんなところに王様が来るのか?」と一瞬思ってしまうが、部屋に置かれている長机と八脚の椅子には綺麗な装飾が施されており、王族が所有するに相応しい作りをしていると言えた。


・・・それにしてもここは、応接室というよりも小会議室って感じだな。


「まあ、急な召喚命令を受けて不安な気持ちになるのは分かる。だが、本日の召喚は王の私用なので安心せよ。ではな」


ドアを閉めながらカルスタンそう言った。俺はカルスタンの言ったことに疑問を持ったのだが、内装を眺めていたせいで反応が遅れてしまう。ドアの方に振り返りながら「え?それはどういう意味ですか?」と口にした時には、すでに扉が閉まった後だった。


・・・王様の私用とは一体どういう意味だろう?・・・それよりも、俺は待っている間どうすればいいんだろうか。立って待っていた方が良いのか。はたまた、座って待っていた方が良いのか。いや、でも、座るにしてもどこに座る?いわゆる上座というやつは、この世界にもあるっぽいんだが、この場合は、一番奥のあのお誕生日席がそれだろうか?


俺は王様が来るまでの間、どうやって待っているのが正しいのか悩む。今更ながらに、その辺りのマナーをカジィリアに聞いておけば良かったと腕を組ながら後悔していると、不意にドアが開き俺は驚いた。


・・・ちょっと待って、まだ心の準備が!


俺は自然と開いたドアの死角になる部屋の隅の方に、咄嗟に動いていた。


・・・って、あれ?


「あら?ルゥ?そんな部屋の隅に突っ立ってどうしたの?」

「ナンデココニイルンデスカソフィアネエサマ」

「え?」


部屋に入ってきた人物を見て、俺は大きく目を見開いた。なぜなら、ルミールの町の実家に帰っているはずのソフィアが姿を現したからだ。ここに居るはずのないソフィアの登場に、緊張の糸が切れてしまった俺は、なぜか片言になっていた。


ソフィアは扉を閉めると部屋の隅に居る俺に近付いて「何言ってるの?」みたいな顔を向けてくる。その疑問は最もなのだが、俺にも疑問はある。俺は誤魔化すようにゴホンと咳払いをして、ソフィアに疑問をぶつけた。


「失礼しましたソフィア姉様。居るはずのない姉様が入ってきて、ビックリしただけなのです。それよりもどうしてここに居るんですか?ルミールの町に帰ったはずですよね?」

「ええと。それ何だけどね。私も急に・・・」


ソフィアがここに居る理由を話してくれようとした時に、バーンッと音を立てて勢いよくドアが開く。今度は何だと開いたドアに目を向けると緑色の髪をした見覚えのある男性が部屋に入ってくる。今度は間違いない。紛うことなきレオンドル王その人だ。


「やあ、やあ、待たせたな!!・・・ん?二人とも、なぜそんな隅におるのだ?椅子に座れば良いだろうに」


・・・ん?あれ?王様ってこんな感じの人だっけ?


魔法祭の時に感じた威厳の欠片も感じさせない、思った以上に気さくな感じのレオンドルの登場に、俺は呆気に取られてしまう。そこで俺はハッとした。「もしや、よく似た他人、影武者か?」と。だが、俺の隣に居るソフィアが苦笑いを浮かべているのを見て、「あぁ、やっぱり本人なのか」と納得した。


だが、どれだけ気さくであっても、急な王様の登場にどうしたら良いか分からない。そんな空気を流してくれたのが、レオンドルの後に続いて入ってきた女性である。部屋に入って早々、呆れ顔をしながら手に持っていた扇子で軽くレオンドルの頭をパシンと叩くと「何をしているのですか」とたしなめる。


「はぁ、やはりついてきて正解でした。全く貴方はいつまで経っても子供のようなのですから。初めてではないソフィアはともかく、かわいそうにルートが困惑しているではありませんか」


レオンドルと同年代ぐらいに見える女性。腰まで届きそうな淡い金髪がふわりと波打っている。ドレス姿や佇まいは、王様に引けを取らない気品さがある。王様の頭を叩いても、それが許されている人で、格好や王様相手に親しげに話せる所から察するに王妃様なのだろう。


・・・それにしても、王妃様はどことなく誰かに似ているような気がする。見ているとちょっと安心するのはなぜだろう。


王妃様が「とりあえず、座りましょうか」とニコリと微笑みながら言ってくれたので、俺とソフィア、レオンドルと王妃様に分かれて椅子に座った。全員が椅子に腰を掛けて落ち着いた所でソフィアが口を開く。


「レオンドル王、本日、なぜ私がここに呼ばれたのかお伺いしたいのですが宜しいですか?」

「ソフィア。今日は公式な場ではなく私的な場だ。だから、いつものように義伯父と呼んでくれて構わない。というよりも、義伯父と呼べ」


・・・はい?え、何?どういうこと?


「では、遠慮なくレオ義伯父様。私、突然、用事があるからと無理矢理馬車に乗せられて、王都に連れてこられたのですけど?」

「ハッハッハ、いや何、馬車に取り付けて雪を溶かしながら走ることが出来る魔術具があると聞いてな。丁度、ルート一人で呼び出すのは、少しかわいそうかと思ったのでソフィアにも来てもらうことにした、という訳なのだ」

「確かにルゥを一人でレオ義伯父様と会わせるのは不安なので、呼んでもらって良かったとは思います。だけど、同乗していた魔法使いの方たちは、魔術具の魔力供給をするのに大変そうでしたよ」


ソフィアがレオンドルと親しげに話している様子を、俺はただただポカンと見ているしかなかった。状況が全く飲み込めず完全に置いてきぼりの状態なのだ。そんな状況を察してくれたのは、またもや王妃様である。俺の王妃様に対する好感度はうなぎのぼりだ。


「ハイハイ。レオもソフィアも一旦、そこまでです。レオがソフィアを呼んだのは、わたくしも英断だっだと思います。・・・どうせ、驚かせるのが目的だったのでしょうけど。ソフィアも不満はあるでしょうが、自分のことばかりではなくルートのことを気に掛けてあげなさい。話についていけなくて、どうしたらいいか分からないといった顔をしていますよ?」

「はわわ、ごめんなさいルゥ」

「ええと。大丈夫ですよソフィア姉様。ただ、出来れば状況を説明して頂けると嬉しいです」

「では、まずはわたくしの自己紹介が先ですね。そうでなければ話が先に進みませんから」


レオンドルとソフィアの二人を制した王妃様が、優しく微笑みながら自己紹介をしてくれる。


「改めて、初めましてルート。わたくしはリーリア。察していると思いますがレオの妃です」


リーリアが向けてくれる微笑みを見て、ふと、何とも言えない懐かしさがあること感じた俺は、思ったことが口から滑り出ていた。


「母様に似てる・・・」

「それはそうよルゥ。だって、この方は母様のお姉様なんだから。似ていて当然よ。ね、リーリア伯母様」

「ふふ、ソフィアの言う通り、わたくしはリーゼの姉です。こういう私的な場では、気軽に伯母と呼んでくださいな」

「リーリア伯母様・・・。なるほど、やっと頭が整理出来てきました。それで、王様のことをレオ義伯父様とソフィア姉様は呼んでいた訳ですね」


やっと状況を理解して、俺はホッと胸を撫で下ろす。だが、すぐに俺は重要なことに思い至る。


・・・んん?ちょっと待った。ということは、義理とはいえ遠からず王様が親族に含まれてくるってこと?これ以上、厄介事の種になりそうな状況はいらないんですけど!?


「まあ、そういうことだ。ちなみにアレックスとは、学園に通っていた時代からの悪友の間柄なのだ。その息子であり、義甥でもあるルートとも仲良くしたいと思ってな、それで呼び出したという訳だ」

「あの、でしたら、なぜ召喚命令という形だったのでしょう?」

「立場的な問題だな。王であるが故、気軽に義姪や義甥に会うこともままならぬのだ。だから、召喚命令という体裁をとったという訳だ」

「そう、ですか」


フフンと鼻を鳴らして「名案だろう?」と胸を張るレオンドル。俺はわざわざ体裁を整えてまで王様に呼び出されることに「何の悪い冗談だ?」と思いながら肩を落とす。ちょっと、いや、かなりお茶目なレオンドルに、魔法祭で初めて目にした時に感じた王様としてのカリスマ性が、音を立てて崩れさった。


・・・そうかぁ、随分とお茶目な王様だなー。


「さあさあ、レオの馬鹿話はどうでも良いのです。それよりもお話をしましょうルート。わたくし、あなたとお話をするのを楽しみにしていたのですよ?」

「馬鹿とは失敬だが、リーリアの言う通りだな。俺もルートの話を聞きたい。何せそなた、王都に来てからというもの、色々なものを生み出しているだろう?一体、どんな発想をしたら、そんなことを思い付くのか興味があったのだ。さっきの馬車の魔術具も最近、そなたが考えたものであろう?」

「ええと。その、面白い話ではないですよ?ただただ、自分が欲しいと思ったものを形にしただけなので。そう言えば、ソフィア姉様も魔術具を付けた馬車でここまで来たんでしたよね?さっき言っていた魔法使いの方が、と言うのは何のことですか?」

「私が王都に着くまでの間に、魔術具の効果が途中で切れたりしないように、騎士団所属の魔法使いの方が同乗していたのよ」


ソフィアを王都に連れてくるために、魔術具の魔力供給要因として騎士団所属の魔法使いが二人、馬車に同乗していたらしい。馬車で往復するだけ六日、急いでも五日は掛かる行程を、交替しながら魔力供給していたそうなのだが、魔術具の魔力消費の激しさにひぃひぃ言って供給をしていたそうだ。


「見兼ねて私も手伝いましょうかって聞いたのだけど。私たちの役目ですって断られたわ」

「それは・・・何と言っていいのか。その、騎士団の方は、任務に忠実ですね」

「うむ、与えられた任務を自らの力で遂行してこその騎士団の団員と言える。当たり前の行動だな」


レオンドルはソフィアの話を満足そうに聞いている。俺も心掛けは大切なことだと思う。が、今回のその任務は中々ハードだろうにと俺は思った。何せあの魔術具は本当に燃費が悪いのだ。二人交替とはいえ、ずっと魔力供給をしていたんだろうなと思うと二人に同情を禁じ得ない。ちなみに帰りもその二人が担当するらしい。


・・・本当にご愁傷様です。


俺は心の中で魔法使いの二人に合掌しておくことにした。「俺のせいじゃないよ」と付け加えながら。

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