第八話 魔法の修行と奇妙な生物
エリオットの魔法講座を受けたその日、俺は興奮しているためか、なかなか寝付けずにいた。だって、光属性に加えて、風、火、土、水の四属性も使えるようになったんだぜ?これでテンションが上がらない訳がない。
目が冴えてしまった俺は、ベットに寝ころびながら明日の予定を考える。とりあえず、いつも通り身体を鍛える、これは必ずやる。毎日やることが大切で、継続は力なり!と思っているからである。
でも、クタクタになるまではやらないでおこう。色々と魔法を試してみたいからな。
ああしよう、こうしようと考えているうちにいつの間にか寝てしまっていた。
翌朝、いつものトレーニングをこなしたあと、俺はメルギアの森へと向かった。
攻撃魔法の練習をするのであれば、人がいるところでやるのは危険だということ。そして、エリオットから、複数属性を扱えることは、あまり知られない方が良いとのことで森で練習することにしたのである。
複数属性を扱えるということは羨望の眼差しだけなく、それを疎ましく思うものいるのだとエリオットは言っていた。少ない魔法使い同士仲良くすれば良いのにと思ってしまうのだが・・・。
ちなみにメルギアの森は、すでに安全の確保がされているが町の人はあまり来ない。事件と言えば、泥棒が出るくらいのことしか起きないこの町であんな惨事が起きたため、いくら安全だと言われても、足が遠のいてしまっているようだ。まあ、こちらとしては都合がいいんだけど。
俺は練習するのにちょうどいい場所を探して森の中を歩いた。そして、少しだけ開けた場所を発見し、そこで練習を開始する。
「よし、まずは昨日のおさらいだな。っとその前に、魔力があるうちに魔力を動かす練習をしておくか」
いきなり、攻撃魔法を放とうとして、エリオットに言われていたことを思い出した。魔力を動かすのであれば、魔力が身体の中に多くある方がやりやすいだろう。俺は、目を閉じて自分の身体の中にある魔力を動かす。全身にめぐらせたり、魔力を小分けにしてみたり、色々と動かしてみた。
色々動かしているうちにあることを思い付く。魔力そのものを打ち出した場合どうなるんだろう?
マナに魔力を捧げずに放った場合、どうなるのか気になった俺は、少し開けた場所にポツンと立っていた木を的にして、魔力を放つ。木は「ドンッ」と音がするとともに少し揺れたので、どうなったのか確認するために木に近づいた。
「うーん。少し、凹んでる?魔力による衝撃といったところか。となると、魔力のみを放った場合は無属性ということかな?でも、エリオットさんから無属性があるとは聞いてないけどなぁ」
俺は少し考えた後、考えることを放棄する。分からないことを考えるより、今は、昨日使えるようになった魔法を練習した方が良い。また、エリオットに会った時にでも聞いてみようっと。
俺は、木から距離を取って、魔法を放つ。まずは、風属性。風の刃が飛び出し木の表面を切り刻む。
「うんうん、イメージはウィンドカッターだな」と呟きながら次は、火属性。火球が飛び出し木の表面を焦がす。というかちょっと燃えてる。これはまずいと思い、すぐに水属性の魔法を放つ。水球を燃えた箇所に当てて鎮火させる。
「当たり前だけど燃えたか。まあ、すぐに水の魔法で鎮火出来るからいいかな?ただ、攻撃として、水球をぶつけるだけというのは威力が物足りないなぁ。いっそのこと、凍らせたら良いか?」と思い水を凍らせることをイメージしながら魔法を放ってみたが水球しか出なかった。
「あれ、出ないな。イメージが悪い?それとも、魔法使いとしての熟練度が低い?凍らせた水を尖らせて飛ばせば威力がありそうだったのに。残念だ」
出ないもの仕方がないと割り切り、最後に土属性。土の塊を木に放つ。これも土の塊を硬化させて尖らせれば威力が出るだろう。
四属性を一通り使った後は、威力を変えてみる練習をした。やはり、魔力を多く消費することで威力を高めることが出来るようだ。
しばらく練習をして、魔力を大分消費してしまったので今日はそろそろ帰ろうかと思ったとき、ふと、練習で的にしていた木を見やる。幾度と攻撃魔法を受けた木は幹が剥き出しになり、悲惨な状態となっていた。
流石にこのままなのは、なんか申し訳がないと思った俺は閃いた。
「魔法で回復したら良いじゃない」
早速、木に近づいて治癒魔法で最も回復力の高い光属性を掛けることにした。すると、少し不思議なことが起こる。光属性の治癒魔法を使用すると本来、白い光につつまれる。でも、今、木がつつまれている光は淡い緑であった。
「あれ、いつもと色が違うけどなんでだろ?・・・でも、とりあえず、木は元の通りになったし問題ないな」
こうして、次の日からも毎日、同じ場所で魔法の練習をする。威力を変えるほかにも、同じ魔法を複数一度に出してみたり、違う属性を同時に出してみたりと色々と試し、練習の最後は木を治してから家に帰るのを繰り返した。
そして、練習している中で一つ気が付いたことがある。魔法を飛ばさずに留めることも出来るのではと思い、手のひらに火球を出していた時だ。
「おお、なんというか、ライターになった気分だな」と手のひらから出る火球を眺めていて、ふと気が付いた。そういえば、全然熱くない。右手で火を出していた俺は、左手で火球に触れてみると熱いというよりかほのかに暖かいと感じた。
「どういうこと?」と思い、試しにすぐそばに落ちていた枝を拾って、火に近づけてみる。
「・・・普通に燃えるな。ということは、魔法を使用している属性に対して、耐性が付くということかな?自分で使った魔法で自分がやられるとか情けない話だしな」
「さてと、そろそろ魔力も少なくなってきたことだし帰るとしますか」と言いながら俺は、木に近づいて治癒魔法を掛ける。相変わらず、光属性を使っているはずなのに光の色は白ではなく淡い緑であったが、木はしっかりと治っているから何も問題はない。
「それにしても、この木、前よりちょっと大きくなったような気がするけど・・・気のせいかな?」と思ってはいたのだったが。
さらに、数日が経ったある日、いつも通り練習場所へと向かう途中で事件は起こった。
のんびりと森の空気を感じながら歩いていたら、何かが足に絡み付いてきたのを感じる。
「ん、何だ?つた?」と思った瞬間、足に絡み付いたそれに思いっきり引っ張られる。
引っ張られた俺は、そのまま仰向けに倒れて、後頭部を強打。「痛い」と思った矢先、さらに引っ張られ続けそのまま引きずられる。
「え、ちょっ、何!?削れる削れる!!」
ガリガリと引きずられるのが終わった頃、俺はいつの間にかいつもの練習場所にいることに気が付く。
「うぅ、一体何が。それになぜここに?ぐっ身体中が痛い。頭はズキズキするし、擦り傷だらけ。とりあえず、回復しとこう」と俺は涙目になりながら治癒魔法を使用していると首元に何かが触れるのを感じて思わず振り返る。
「へ!?」
俺は、目を見開いて驚く。いつも練習の的にしている木から何本ものつたが伸びて俺に絡み付こうとしている。何事かと思って思わず身構えた。すると、木はビクッと一度揺れた後、つたは元気をなくしたかのようにシュンと垂れた。
「もしかして、お前が俺を引っ張った?」と問いかけると「うん」と言うかのように木は一度揺れる。
それにしても、何だろうこの生物。一瞬、魔物か?とも思って警戒したのだが・・・。今は、つたが俺にじゃれついてきており、少しこそばゆい。なんというか、子犬にじゃれつかれているような感じがする。
「悪意は感じないけど。やっぱり、魔物だよな?でも、なぜ?」と混乱していた俺にさらにつたがじゃれついてくる。少しからかなりこそばゆい。
「く、っくく、あはは、アハハッ、ちょ、やめ、やめなさい!」とあまりにもこそばゆかった俺は、強めの口調でそう言った。すると、またもや木は、ビクッと揺れた後、つたが垂れる。
どうやら、こちらが言ってることを理解するだけの知性はあるらしい。
とりあえず、どうしたものかと思ったが一つ大事なことを木に聞いた。
「魔法の練習したいんだけど、今日も的にして大丈夫か?」
木は「任しとけ!」と言ってるかのように元気良く一度揺れた。
とりあえず、原因は、恐らく俺の魔法を受け続けたせいなのだろうけど、この世界だと普通のことなのだろうか?まあ、何にしても悪意はなさそうだし、魔法の練習が出来るなら問題ないかな?と考え、魔法の練習を始める。
練習終了後、いつも通り、木に治癒魔法を掛ける。木はこころなしか気持ち良さそうに少し揺れている気がする。なんだろう、なかなか可愛いところがあるじゃないか。
「よし、折角だから名前でも付けるかな。動ける木だから・・・。ウィスピと名付けよう。ということで、お前の名前はウィスピな!」
木は、喜んでいるように揺れる。
「あっと、そうだった。今日みたいにつたで俺を引っ張って連れてくるのは禁止な。あれ、すごく痛かったんだぜ?」と俺は聞いたが木は、無反応であった。どうやら、明日も無理矢理、引っ張るつもりらしい。
くそ、絶対避けてやると妙な対抗心を燃やしながら、俺は家に帰るのであった。