第六十九話 魔法祭 後編
魔法祭五日目が終わった。結局、見学しに来てくれたのは身内だけという有り様である。大々的に宣伝をした訳ではないし、そもそも、展示場所の主会場である闘技場から少し離れているということもあり、見学者が少なかったのだろう。
でも、一人で何人も相手しなければならなかった、かもしれないことを考えると不幸中の幸いではだろうか。俺は屋台を片付けるために手を動かしながら、そう言うことにしておくことにした。が、やはり深い深いため息を吐かざるを得なかった。
・・・全く注目されないというのは、やっぱり寂しいものがあるなぁ。
「何だ、何だ?ため息なんか吐いて。ルートらしくもねえな」
「あれ?ノースさんじゃないですか。どうしてここに?あ、もしかして、警備の依頼を受けたのですか?」
ため息を吐いていると不意にノースが現れる。ノースはため息を吐いている俺を見て、片眉を上げながら腕を組んだ。学園内でノースと会うのは初めてのことだ。なぜここにいるのかと思ったが、俺はソフィアが冒険者ギルドで警備の派遣依頼を受けて、学園に来ていることを思い出す。だが、ノースがここに居るのは別の理由らしく、俺の問いかけにノースは首を横に振った。
「いや、俺は来賓の護衛をしていたんだ。で、さっき五日目が終わっただろう?それで依頼は終わったんだが、こんな機会しか学園に来ることないだろう?学園に許可なく入ったら問答無用でとっ捕まえられるしな。で、折角だから、帰る前にルートの様子でも見ておこうかと思ってな」
ニカッと笑顔を見せながら俺に会いに来たというノースだが、目は俺のことを全く見ていない。何やら別の何かを探すように視線がさ迷っている。どうやら、ここに来た目的は別にあるらしい。
・・・ははぁーん、なるほど。そういうことですか。
俺は屋台をばらす手を止めて、密かに通信機のスイッチを入れながらノースに話しかける。
「ノースさん、ノースさん。エルレイン先生ならこの校舎の三階に居ますよ?」
「そ、そうなのか?あ、いや、別にエルレイン先生に会いに来た訳じゃねえからな」
「本当ですか?」
「う、その、なんだ。会いに来たという訳でもないこともない」
頬をポリポリと掻きながら目が泳ぎまくっているノース。実に分かりやすい表情だ。俺はニヤニヤしながら、エルレインにも話しかける。
「エルレイン先生、ノースさんがいらっしゃってますよ」
「・・・・」
「エルレイン先生、せんせー?聞こえてますか?聞こえてますよね?」
「・・・・」
エルレインからの応答が全くない。鐘が鳴ってからまだそれほど時間は経っていないので、間違いなく研究室に居るはずだ。多分、緊張して声が出ないだけだろう。エスタがその場に居たら、日頃の仕返しとばかりにエルレインを弄ったに違いない。
・・・どうやらエスタは、間も悪いらしい。
通信機に話しかける俺の様子を見たノースが訝しげな顔をしながら聞いてくる。
「どうしたんだルート?そんな小さな箱に話しかけて」
「これが今回、俺が作った魔術具なんです。離れた位置に居る人と話が出来るんですよ」
「へぇ、そいつはすげえな。って、ちょっと待った。それじゃあ、さっきした会話をエルレイン先生は聞いていたのか?」
「うーん、先生の反応がないので何とも言えませんね」
俺は素っ惚けながらノースに返事をするとノースは「目が笑ってるぞ?」と凄みのある笑顔になる。ノースはおもむろに手を伸ばして俺の頭をガシリと掴まえると、俺はノースに髪の毛がぼさぼさになるほど頭を撫で回された。
・・・おおぅ、ちょっと、目が回る。
「地面が揺れてます」
「いやいや、お前が揺れてるだけだルート」
「さてと、それはさておき、エルレイン先生。ノースさんがご一緒に昼食はどうですか?だそうです。もちろん、ノースさんの奢りです。どうせ後は、片付けだけですし、先生は行ってきてください」
俺がよたよたしている様子に苦笑していたノースだったが、急に立ち直った俺の言葉を聞いてギョッと目を丸くして、俺の肩に掴みかかると小声で文句を言い始める。エルレインに聞かれないようにするためだと思うが、この距離だと全部聞こえてると思う。
「うぉ、おいルート!いきなり、何てこと言い出すんだ!」
「おやおや、ノースさんは行きたくないのですか?」
「愚問だな。そんなの行きたいに決まっている」
「ふふ、じゃあ、問題ないですね」
エルレインに聞こえてないと思ってか、完全に開き直ったノースは正直に答えてくれる。だが、未だにエルレインからは一言も応答がなかった。もしかしたら、完全に固まっているのかもしれない。そう思った俺は一つため息を吐いてから、「ちょっと待っていてください」とノースに声をかけた。
俺は、樹のマナに働きかけて、つたを校舎の三階の窓まで伸ばす。その伸びるつたの先端を持って一気に三階まで上がり、窓から研究室の中に入った。研究室に入ると顔だけじゃなく耳まで真っ赤にしたエルレインが、椅子に座ったままカチンコチンになって固まっていた。
「はぁ、エルレイン先生?固まってないで、行ってきてください。ノースさんが下で待ってますよ?」
「で、ですが急にそんなことを言われても。あの、その。ほら、格好が・・・」
「魔法使いなのですからローブ姿でもおかしくないでしょう?往生際が悪いですよ。それとも魔法少女の姿で行きますか?」
「それは恥ずかしくて死んでしまいます」
・・・あ、一応、恥ずかしい格好だとは思っていたんだ。
とりあえず、埒が明かないと思った俺は、エルレインの手を引いて研究室を出る。口では嫌々な素振りを見せていたエルレインだが、俺が手を引っ張ると抵抗することなく付いてきた。つまり、本心では行きたいと思っているが勇気が足らないといった感じだろう。
校舎の下までたどり着いたらノースにエルレインを押し付ける。二人ともちょっと挙動不審だったが、その辺りは、ノースの男っぷりに任せるしかない。口に出して応援すると余計なプレッシャーを与えそうだったので、俺は二人を見送りながら心の中で、「二人ともファイト!」と応援しておくことにする。
翌日、ついに魔法祭は最終日を迎えた。魔法祭の参加者は初日と同じ様に闘技場の観客席に集まっている。これから魔獣討伐演習が行われるとあってか、闘技場全体がざわざわと熱気を帯びたような状態となっていた。
俺はその雰囲気が一年前、冒険者になるのを賭けてソフィアと決闘した時の雰囲気に似ているなと、ちょっと懐かしい気分になる。そして、やはり娯楽が少ないこの世界では、こういった催しが最高のエンターテイメントだろうなと改めて思った。
・・・だからこそ、出場者として選ばれるだけでも栄誉なことなんだろうな。まあ、俺はこんな大勢の前で目立つのは嫌だけど。
ざわめいていた闘技場内に授業開始の鐘の音が鳴り響くと、自然とざわめきが納まり、辺りは静寂に包まれた。そんな中、北側の観客席に設けられた舞台にエリオットが立つ。
「エリオット学園長がなぜあんなところに?」
「なぜって、そりゃあ、進行役を学園長が務めるからだ。当たり前だろう?」
マリクは苦笑しながら、呆れたような声で俺に教えてくれる。言われてみればその通りだ、と俺は手をポンと打って納得した。出場者が学生であるのだから、その最高責任者が音頭を取るのは当然だろうと。そう思ったところで、エリオットの声が闘技場内に響き渡る。
「これより魔獣討伐演習を執り行う。学生の諸君には、日頃の鍛練の成果を思う存分に発揮して欲しい。まずは、騎士コースからだ。出場者入場!」
エリオットの掛け声とともに、騎士コースの出場者八人が南側の出入り口から闘技場内に入ってきた。皆が皆、誇らしそうに一歩一歩、闘技場の中央へと歩いていく。そんな出場者を歓迎するように大歓声が上がり、拍手が巻き起こる。そんな中、魔法使いコースの先生たちと魔法使いコースの上級生が怪訝そうな顔をしている。
「今年は重装備の者が一人も居ないじゃないか。どうしたんだ一体?」
マリクの呟きに同意するかのように、怪訝そうな顔をしていた皆が頷いた。そして、誰かが「盾役になる者が居ないのはおかしい」と口にする。例年は、盾役数名で魔獣の注意を惹きつけて、その間に攻撃役が斬り付けて、じわじわとダメージを与えて倒すらしい。だが、今年の出場者は全員、軽装備で盾を装備した者は一人もいない。
いつもとは違う状況に「なぜだ?」と首を傾げていたマリクは、急にハッとした顔をして、俺のことを見る。
「何をしたルート?」
「いかにも悪いことをしたような目で、俺を見るのは止めて頂きたいです先生」
「では、ルートは何もしてないと?」
「何もしてないと聞かれたら、してなくはないですね」
怖い顔で睨んでくるマリクは「やっぱりしてんるんじゃないか!」とちょっと声を荒げると頭が痛いと言わんばかりにこめかみを押さえる。
「別に悪いことはしてませんよ?ちょっとお節介をしただけです。後は騎士コースの皆が努力した結果ですから」
「それで?何をしたんだ?」
「それは見てからのお楽しみということで」
マリクが「はぁ」と大きなため息を吐いたところで、歓声がより一層増した。闘技場に目をやると、北側の出入り口から魔獣の入った檻が荷馬車で運ばれてくるのが見える。
「うげっ」
「どうしたんだよルート?そんな声を出して」
「あ、いや。魔獣が・・・」
俺の呟きを拾ったフレンが不思議そうに聞いてくる。運び込まれてきた魔獣は俺と因縁がとても深い、狼の魔獣クリムだったからだ。今、俺が宿る身体の元の持ち主であるルートを死に至らしめた魔獣。それを久しぶりに目の当たりにして、俺はしかめっ面になる。
「そういえばルートは一年前の風の季節に、クリムに襲われて瀕死になったんだったな?」
「ええ、そうですマリク先生」
「うそだろ?ルートがあんな小さい魔獣にやられたっていうのか?冗談じゃなく?」
「・・・襲われた頃の俺は、魔法を使えませんでしたからね。あの頃は本当に、何も出来ないただの子供だったんですよ」
フレンは驚きの声を上げながら俺のことを見る。ただ、俺がしんみりとした感じに返事をするとフレンはそれ以上のことを聞いてこなかった。どうやら、フレンは空気を読んでくれたらしい。本当は事情を聞きたそうな顔をしているフレンに申し訳ないと思いながらも、俺はそっと息を吐く。
・・・いい思い出じゃないからな。あまり思い出したくないし、思い出そうとするとちょっと頭が痛い。
「それはそうと、たった一匹のクリム相手に八人で闘うんですか?ただの弱い者いじめじゃないですか?」
「心配しなくてもこれからだ。ほら、始まるぞ」
俺は話題を変えるべく、思ったことを口にする。すると、マリクからクリムを見るようにと促される。闘技場の中央に下ろされた檻に、教員と思われるローブ姿の男性が近付いていくと、教員は赤く鈍く光る石を檻の中に投げ入れる。クリムはバクリとその石を食べた。
「あれはもしかして魔石ですか?」
「ああ、そうだ。弱い魔物に魔力をたっぷり込めた魔石を食べさせて、進化させるんだ」
・・・クリムが進化?つまりクリムギアになるってこと?それもあまりいい思い出じゃないんだけどな。Bボタン連打しなきゃ。あ、石を使った進化だから無理か。
俺が馬鹿なことを考えているとマリクが「ほら、進化し始めたぞ」と闘技場のクリムを指した。クリムは唸り声を上げながら、ググンと身体が爆発的に大きくなると檻からはち切れんばかりとなった。ついには、身体が檻よりも大きくなったことで、檻は壊れて弾け飛んだ。その壊れた檻の屋根に使われていた鉄板が、天高く飛ばされると、観客席に向かって飛んでいく。
「危ない!?」
「いや、心配しなくても大丈夫だ」
俺は思わず叫んでしまったが、マリクは冷静な顔で首を横に振る。檻の屋根は観客席にたどり着く前に結界に阻まれると、そのまま闘技場内にガコンと大きな音を立てて地面に落ちた。俺はその様子を見て、そう言えば騎士コースとの戦闘訓練の時に「闘技場は特殊な結界で守られている」という話を聞いたことを思い出す。
クリムは元の大きさから数倍の大きさになり、上位種であるクリムギアとなった。俺がルミールの町で闘った時よりも、一回りか二回りは大きいように見える。そのクリムギアは、魔石を投げ入れた教員が魔法障壁で取り囲み、身動きを取れないようにしていた。
「あれ?魔法障壁で囲むんだったら、檻が壊れる前から囲んでいたら良いんじゃ?」
「まあ、なんだ。あれは演出だ。あまり、突っ込みを入れないように」
・・・観客を楽しませるためのものか。臨場感を味わせるためかな?
「準備は整った。それではこれより開始する。始め!」
エリオットの掛け声とともに魔法障壁が解除された。騎士コースの学生は開始の合図とともに抜剣して、クリムギアに向けて構える。クリムギアは剣を向けられてたことで、学生たちを敵と見做したようで、クリムギアはギロリと学生たちを睨むと「グルルゥ」とお腹に響くような唸り声を上げる。
そして、クリムギアは「ワォーン」と高らかに遠吠えをすると、自身の周りに複数の火球を作り出した。しかも、人一人は余裕ですっぽりと入るぐらいに大きな火球だ。
「クリムギアが攻撃魔法を?」
「上位の魔獣は、魔法を操ることが出来ると習っただろう?って、まだお前は習ってなかったな」
「それって二年生で習う話ですよね?俺はまだ一年生なんですけど?」
「お前は妙に色んな変なことをよく知ってるから、ついな」
俺は「変なってどういう意味でしょう」とマリクをジトっと睨むと「あっはっは、すまんすまん」と一切、悪気のない顔でマリクは笑い飛ばす。そして、話題を変えるように「しかし、盾役がいないのにどうするつもりだ?」とマリクは呟いた。
「盾役が居ないんじゃあ、あの火球を防げんぞ?」
「ああ、それなら大丈夫でしょう」
「何?」
マリクは不思議そうに目を瞬きながら俺のことを見るので「見ていれば分かります」と俺は答えた。
「ルーフェイドとユイリアラは魔力を込めることに集中だ。私たちは、クリムギアの注意を惹くぞ!散開!」
「「「「おう!」」」」
リーダーの指示が飛び、周りの学生が気合いの入った掛け声を上げたのと同時に、名指しを受けた二人を残して、六人が散らばるように移動を開始した。その先陣を切ってクリムギアの注意を惹き付けたのはアウラだ。クリムギアは一番に近付いてくるアウラに向けて、火球を一つ飛ばす。
「はあぁぁぁぁぁぁぁ!」
アウラは飛んできた火球に向かって、剣を大きく振り下ろす。アウラは火球に押されて、後ろにズルズルと戻されるが、火球は剣に阻まれて勢いを失った。すると、アウラは「ハッ!!」と気合いの込めた声を上げて、剣を振り切って火球をクリムギアに弾き返す。アウラの振り切った剣からは、赤い光が零れて軌跡となって残る。
アウラがクリムギアの攻撃魔法を弾き返すと観客席が一気に盛り上がりを見せると「すごい!」「かっこいい!」という賞賛の声が上がる。だが、そんな盛り上がりの中には、どよめきが混じっている。特に俺の回りに座っている魔法使いコースの学生と教員は、「一体、何が起こった?」と目を丸くしている。
通常、剣で攻撃魔法を逸らすことが出来ても、押し留めたり、ましてや弾き返したりすることは出来ない。今のアウラみたいに火球を真正面から斬りかかっても、火球に包まれるのがオチだ。だが、そうはならなかった。魔法のことが分かっている者であれば、今、起きたことは不思議で仕方がないことだろう。
弾き返された火球はクリムギアの身体を掠めていった。自分で放った魔法であり、火属性でもあるクリムギアにダメージは全くなかったが、プライドはかなり傷付けられたらしい。悔しそうに牙をむき出しにしながら、ギロリとアウラを見つめて離さない。そして、クリムギアは火球を掻き消すとアウラに向かって突進した。
「お前の相手は一人だけではないぞ!」
アウラがクリムギアの注意を惹きつけている間に、クリムギアを取り囲むように陣取っていた他の学生。その内の一人が、突進するクリムギアの背後から斬り付ける。その騎士が持つ剣からは黄色い光が見て取れた。
そこからは、一年生から連携を叩き込まれる騎士コースの学生たちの本領発揮であった。クリムギアが誰かを襲おうと動き出すのに合わせて、死角からクリムギアを斬り付ける。そのせいで、クリムギアは注意を逸らされてしまい、まともに攻撃が出来ずにいた。
しかも、クリムギアは魔法剣により着実にダメージを受けていた。魔獣の毛は意外と硬く、それ自体が鎧のような役目を担っている。だから、普通の剣でダメージを通すことが難しい。だが、魔法剣であればダメージを通しやすくなっている。属性に左右される部分も確かにあるが、今はこれで十分だろう。
「十分に魔力を込めたぞ!」
「こちらも溜まりました!」
魔力を剣に込めていたルーフェイドとユイリアラの二人は声を上げた。二人の剣は青い光を帯びている。他の六人の剣と比べて、より一層輝いていることから見ても、十分に魔力が込められていることが分かる。
「分かった!一気に方を付けるぞ!」
リーダーの掛け声で六人が一斉に、クリムギアに襲い掛かる。それに合わせてルーフェイドとユイリアラはクリムギアの死角に入るように左右に分かれて近寄ると、剣を振り抜いた。
「たあぁぁぁ!」
「せい!!」
ルーフェイドの剣がクリムギアの首元を捉える。剣はいとも簡単にスッとクリムギアの身体に入るとルーフェイドの剣がクリムギアの首を斬り落とした。さらにユイリアラがクリムギアの心臓に近い胴体部分を斬り付ける。こちらも豆腐を斬るようにスッと剣が入ると斬り付けたところがパクリと割れてクリムギアの魔石が露出した。
・・・さすが弱点属性である水属性の攻撃。素晴らしい切れ味だ。
ユイリアラはすかさず露出した魔石に手を伸ばして、魔石をもぎ取る。魔石を取られたクリムギアは、身体がドロリと溶けて消えて無くなった。
「そこまで!!」
エリオットの終了の声が闘技場内に響き渡ると割れんばかりの歓声が起こる。俺も騎士コースの健闘を称えて拍手を送った。アウラたち騎士コースの学生は、やり切ったという満足げな顔をしている。自分たちの努力が実った結果だと言っていいだろう。
騎士コースの学生が退場すると次に魔法使いコースの学生が六人姿を現した。興奮冷めやらぬといった雰囲気の観客席を見え上げながら、少し困惑する表情が見える。
「あ、やっぱり、こっちは人数が少ないんですね」
「そりゃそうだ。騎士コースと比べて、少人数で、かつ、短い時間で魔法使いコースが勝つというのがセオリーだからな。だというのに、どうやらルートのせいでぶち壊しのようだがな」
マリクはうりうりと俺の頬を突いてくる。そんな不満を俺にぶつけられても困るし、地味に痛いので止めて欲しい。俺はマリクの手を払いのけながら、自分の考えを口にする。
「要は、魔法使いコースが騎士コースよりも早く倒せば良いだけの話でしょう?それを俺に文句を言うのはお門違いだと思います」
「だが、例年に比べると驚くほど早く、騎士コースの学生は魔獣を倒した。魔法使いコースがこれに勝つのは少し厳しいかもしれん」
「その場合は、魔法使いコースの学生の鍛練不足でしょう。それこそ俺に文句を言われても困ります」
何を言っても聞き入れられないと悟ったマリクは、眉根を寄せながら俺に尋ねてくる。
「お前は一体、どっちの味方なんだ?」
「どっち、とはおかしなことを聞きますね先生。俺はどっちの味方でもないですよ。もちろん敵でもありません。強いて言うなら自分の味方でしょうか」
俺の回答にマリクは処置なしといった感じに呆れた顔をしながら肩を竦める。周りで聞いていたフランたちクラスメイトは「ルートらしい」と苦笑気味だ。
・・・それほどおかしなことを言った覚えはないんだけどな。解せぬ。
結局、魔法使いコースの学生たちはクリムギアを倒すのに、騎士コースよりも時間が掛かってしまった。討伐自体は、さすがは三年生ということもあって、しっかりと連携は取れていたし、放たれる魔法は高威力であった。だが、場の雰囲気に飲まれたのか、騎士コースが想像以上に素早く魔獣を倒したことに焦ってしまったのか、時間を追うごとにミスが目立ち始めてしまう。その時間が、勝敗を分けてしまった。
本来であれば、魔法使いコースが勝つということが前提の魔獣討伐演習は、大波乱の結果で幕を閉じた。前代未聞の結果に、騎士コースが魔獣を素早く倒したことに歓声を上げていた観客席も、さすがに今はざわめいている。誰かの「どうするんだこれ?」と焦りを含んだ呟きが聞こえてくる。
そんな状況を収拾するために一人の男が動き出す。王様だ。王様は舞台の上に移動して、エリオットと並ぶようにして立つとエリオットから音声を増幅する魔術具を受け取った。
・・・遠目で見ると王様とエリオットさんって雰囲気が似てるな。主に髪の毛の色が。
「ふむ。今年はなかなか、面白い結果に終わったな。よもや、騎士コースが勝つ日が来るとは思わなかった。エリオット。騎士コースが見せたあの光る剣について聞かせてもらえるか?」
王様自ら前代未聞のことだと笑い飛ばした後、鋭い口調で騎士コースが見せた魔法剣について、エリオットに説明を求めた。王様から魔術具を返されたエリオットは一つ頷くと、まるで対岸に居る俺を見ながらエリオットは口を開く。
「かしこまりました。ですが、それを説明するには一人、紹介しなければならない学生がおります」
後編と付けましたが終わりません。
(いつから後編だと話が終わると錯覚していた?)
ということで、もう少しだけ魔法祭は続きます。