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約束を果たすために  作者: 楼霧
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第六十六話 魔法祭 前編

季節は巡り、土の季節一月目となった。その第二週目の風の日から第三週目の光の日までの一週間で魔法祭が行われる。今日は最後の準備が出来る第二週目の光の日だ。本来はお休みの日だが、魔法祭の準備が出来るようにと学園は開放されている。


「おはようございますエルレイン先生」

「おはようございますルート」

「え?あ、ちょっ、ちょっと待ってルート!入ってくるなぁ!!」


魔法祭の準備のために朝一番に研究室を訪れると、随分と賑やかであった。エスタがエルレインとの約束を守って、研究室に訪れているからだ。俺が研究室に入るとちょうどエルレインがエスタの黒装束を剥いでいるところに出くわした。エスタはあられもない姿をしている。


「ああ、お構いなく。俺は気にしませんので」

「ルートが気にしなくてもあたしは気にするよ!」


脱がされた黒装束を胸元に押さえつけながら、顔を真っ赤してエスタが叫ぶ。その仕草は実に可愛らしいが、残念ながらお世辞にもスタイルが良いとは言えない、むしろ、どちらかと言えば幼児体型のエスタの裸を見たところで何とも思わなかった。不本意ながら、俺が女性の裸に耐性を持った原因は一つしかない。


「心配しなくても、俺は女性の裸は見慣れているので大丈夫です」

「な、ルート。お前まだ九歳だろう?その年でそんな・・・」


エスタは耳まで真っ赤にするとゴニョゴニョと喋りながら、手に持った黒装束で顔を隠してしまう。一体、何を考えているのだろうか。いや、ナニを考えているのだろう。エスタのうぶな反応を見て、俺に悪戯心が芽生えるのは早かった。俺はエスタに近付きながらキラキラとした視線を送る。何も知らない極めて純真な子供らしく。


「エスタはどうしてそんなにも恥ずかしそうにしているのでしょう?俺はお風呂に入った時、御付のメイドが身体を洗ってくれるのですが、その際、濡れてしまうのでメイドは裸になっています。それを見慣れていると言っただけなのですが・・・。やはり恥ずべきことなのでしょうか?」

「え?あ、いや、そうなのか?てっきりあたしは・・・。その、まあ、なんだ。ルートはお貴族様なんだから、それぐらいのことは普通じゃないか?多分。べ、別に恥ずかしいことじゃない、かな?」

「では、エスタは何を恥ずかしがって顔を真っ赤にしていたのでしょうか?」


俺は心の中でニヤニヤしながら、改めてエスタに問いかける。少し冷静さを取り戻していたエスタだったが、ナニを考えたのかまたもや顔を真っ赤にした。そして、エスタは恥ずかしさから身体をもじもじさせながら「それはその」と言い淀む。俺は追い打ちをかけるように「なぜですか?」と詰め寄った。


「うぅ~、そんなこと口に出来るか!ルートのバカー!!」


恥ずかしさに耐えかねたエスタは大きな声で叫ぶと涙目で窓から飛び出していく。もちろんエスタは何も着ていない。そんな状態で窓から逃げるとか、つくづく窓から飛び出すのが好きな人だなと思う。


・・・まあ、何も着てない女性に廊下を走られても困るんだけど。って、窓も一緒か。


「ルート、エスタの反応が可愛いのは同意しますが遊び過ぎです。連れ戻しなさい」

「はい、先生。よっと」


エスタ用に校舎に張り巡らされたつたを操り、エスタを研究室内に引き戻す。前のように雑に転がすのではなく、ゆっくりと椅子に座らせた。


「いくら何でも女性がそんな格好で外に出たら駄目でしょう?」

「うぅ、だってだって・・・」

「エスタごめんなさい。まさか、逃げ出すほど恥ずかしいことだとは思わなくて」


俺はしゅんとしながらエスタに謝った。すると、エスタは困ったように目尻を下げながら俺の頭を撫でる。


「・・・いや、ルートが謝ることじゃない。謝ることじゃないんだが・・・。そうだ、ルートがもうちょっと大人になったら、きちんと話してやるからな?」

「はい、分かりました。それじゃあ、楽しみにしてますね」

「お、おう。お姉さんに任せておけ」


落ち込んだように見せかけたことで、エスタが折れる形で話がまとまった。目端にはエルレインの呆れた顔が見えるが無視だ。しかし、自分の思惑通りに事が運んだ訳なのだが、やっぱりエスタはちょっとちょろ過ぎると思う。心配だ。


それはそれとして、今の時点でこれだけ恥ずかしがっているのにエスタは一体、どういう風に説明をするつもりだろうか。こちらから話を切り出さないと一生、話してこないような気がするので、いつかこちらから言及したいと思う。


「ところで先生はどうして、エスタを裸にしていたんですか?」

「エスタの身体を採寸しようかと思ったのです。新しい服を着せ替え、もとい、作るために」

「それって、せめて肌着を着せた状態でも良かったんじゃないですか?」

「・・・それもそうですね。エスタが可愛く抵抗するから、つい」


エルレインの発言にエスタが愕然とした顔になる。そうやって、感情を表に出すから弄られるのだということに、そろそろ気付いた方がいいと思う。だが、俺もエスタのそんな素直なところが気に入ってるので、わざわざ指摘するつもりは一切ない。


「ルートはそろそろ明日の準備をしたらどうですか?ここに居たらエスタが恥ずかしがって採寸が出来ません」

「それもそうですが、先生もちょっとは自重してくださいね。それじゃあエスタ、頑張って!」

「・・・何か、励まされても嬉しくないのは初めだ。あたしは一体、何を頑張ったらいいん、のかしら」


遠い目をしながら窓の外を眺めて呟くエスタ。終始動揺していたせいで、荒っぽい言葉遣いになっていたが最後の最後に女の子らしい言葉遣いになったことに俺は思わず苦笑してしまう。


俺は必要な道具を道具袋に入れて研究室を出て、校舎の外にある運動場を目指した。通信機の魔術具を展示するのは、闇属性の研究室が見える位置として、研究室の窓の真下に展示場所を設けることにした。


展示場所を研究室の真下にしたのにはいくつかの訳がある。一つ目は、展示スペースの問題だ。本来であれば、展示は全て闘技場の中で行われることになっている。だが、与えられる展示スペースは教室の広さと同様に、研究室に所属する人員数よって決まっていた。俺一人しか所属していない闇属性の研究室に与えられるスペースは高が知れていた。


・・・それに他の研究室や魔法ギルドが大々的に人数を掛けて展示を行っているという中で、たった一人、ポツンと居てるのはどう考えても罰ゲームか何かだ。


二つ目に、闘技場の中で展示されるのは、各属性に関する研究報告と言った展示も多いが、色々な魔術具の展示も当然、多いという問題だ。多くの魔術具が放つ魔力が通信機にどのような作用を起こすか分からない。通信機は魔力を受信する形となっているため、もしかしたら、他の魔術具の魔力の干渉を受けて通信出来ないといった状態に陥る可能性ある。


・・・そういった条件下で、通信機の機能実験をするには持って来いなのだが、本番でやることじゃない。


最後に、すでに音声を録音する魔術具があるという問題だ。実用化はそれほどされていないそうだが、録音出来る魔術具は実在するそうだ。通信機から声が出ても、予め録音したものではないかとケチを付けてくる輩が居るかもしれないとエルレインから聞いた。通信機というものが今までに存在しないので、余計にそういうことを言う者が出るかもしれないとの話だ。


だから、決して録音ではないということの証明として、相手の声は直接聞こえないが、相手の様子は見てとれるという形式を取るために研究室の窓の真下を展示場所として選んだ。本番では、俺がエルレインに通信機で話しかけて、エルレインには下から見えるように窓際に立ってもらうことになっている。


・・・初めは窓際に立つのも嫌だとエルレイン先生は断ったのだが、「全て俺一人にやらせる気ですか?エリオット学園長に訴えますよ?」と言って快く協力してもらえることになった。「後で覚えてなさい」と言っていたが全部やらせようとするエルレイン先生が悪い。


「ふぅ、まあ、こんなものかな?」


樹属性で木材を加工して、俺一人で展示場所を作り上げた。土の季節になったとはいえ、日差しが当たるとまだまだ暑い。だから、屋根が欲しいなと思いながら作った結果、出来上がった展示場所はどこからどう見ても縁日の屋台となっていた。これに「たこ焼き」とか「チョコバナナ」とか書いたのれんが掛かっていたら完璧だ。


・・・いっそのこと、そっちの方が受けが良いような気がする。材料がないけど。


俺自身は薄らと氷属性の領域を身体に纏っているため、別に暑さを感じる訳ではない。だが、それでも長時間、展示場所に待機している必要があるため、日向にいるよりも日陰に居た方が気分的に良いだろう。そう思うことにして、展示場所の準備を切り上げた俺は、研究室に一度戻ることにする。今日の準備は終わったので、一声掛けてから家に帰ろうかと思ったからだ。


研究室に再び入るとエスタは黒装束の格好に戻っていた。エスタは机に突っ伏して項垂れており、採寸をしていただけと思うのだが、なぜかクタクタな様子だ。どうやら、エルレインは自重をしなかったらしい。


「エルレイン先生。明日の準備が出来たので、今日は帰ります」

「ええ、それじゃあまた明日」

「あ、ルートが帰るならあたしも帰っても・・・」

「それは却下します」

「・・・はい」


・・・頑張れエスタ!



翌日の朝、学園の全生徒と教職員、魔法ギルドの職員と研究員、商業ギルドで魔術具を取り扱う部門の関係者と実際に魔術具を取り扱っている大店の店主と店員、周辺各国の来賓が闘技場の観客席に集まった。王様の魔法祭開催の宣言を聞くためである。一年生である俺はクラスメイトのフレンたちと共に闘技場の南側の観客席に座っている。王様はちょうど目の前の対岸、北側の観客席に設けられた舞台に立つらしい。


・・・俺を王都に閉じ込めた張本人だ。しかとこの目に焼き付けてやる。


朝の授業が始まる鐘の音が鳴るとどこからともなく王様が姿を現して舞台の上に立った。俺は頑張って目を凝らすが、さすがに対岸まではかなり遠く、肉眼ではよく見えなかった。辛うじて髪の毛の色が緑色をしているということだけは分かった。双眼鏡が欲しいと思うところだが、そんな時に役に立つ魔法をこの間読んだ文献で俺は覚えていた。


・・・視覚強化!


光属性の補助魔法で視覚強化した俺は、舞台の上に立つ王様を食い入るように見つめる。先入観としてトランプのキングのようなイメージを持っていたため、長い髪の毛にパーマが掛かっていて、髭をたっぷりと蓄えた姿を想像していた。だが、イメージと違ってちょっとがっかりしてしまう。


俺が想像していた姿とは真逆で、王様はすっきりとした短髪で髭を生やしていない。くっきりはっきりと顔が見える訳ではないが、思っていたよりも若く見える。


・・・父様と同じぐらいの年齢に見えるかな?もっと、年寄りな人だと勝手に思っていたよ。


俺が食い入るよう王様を見ていると担任のマリクが俺の肩に手を置きながら声を掛けてくる。


「ルート?そんな怖い顔してどうした?もしかして、このあと一人で展示の紹介をしないといけないから緊張しているのか?お前も緊張するようなことがあるんだなぁ」


マリクは俺が食い入るように王様を見ていた顔を緊張しているからと判断したらしい。笑いながらバンバンと俺の背中を叩く。俺だって緊張する時ぐらいあるよと思いながらも、このあとの展示紹介に関しては特に緊張はしていない。自信を持って紹介出来るだけのものは出来たと思っている。


でも、だからと言って、「ちょっと王様を睨んでました」とは言えない。どう考えても不敬罪なので言える訳がない。俺は「結構な人が集まるのですね。ちょっと緊張してきました」と無難に返事をしておいた。


「これより魔法祭の開催をここに宣言する。学生及び魔法ギルドのみなは、日頃の成果を思う存分に披露してもらいたい」


何かを口に当てながら王様が喋ると闘技場内に王様の声が響き渡る。どうやら、手に持っているのは、音声を増幅させる魔術具のようである。そんな魔術具もあるのかと俺は感心してしまう。


・・・それにしてもさすがは王様。伸びのある声で、とても耳に残る良い声をしている。声だけでもカリスマ性を感じてしまった。


そんなことを考えているといつに間にか王様の開催宣言が終わっており、皆が一斉に移動し始めていた。俺は慌てて立ち上がり、フレンたちとマリクに別れを告げて、自分の展示場所である研究室のある校舎へと向かった。



「・・・こうなることは分かっていましたよ。ええ、分かっていましたとも」

「ルート。そんなに気負うことないですよ。魔法祭は始まったばかりです」


魔法祭の初日、俺の展示場所に来た人は誰も居なかった。やはり、メイン会場である闘技場の中からわざわざ外に出て、離れた場所に来る人は居ないらしい。俺は肩を落としながら愚痴るとエルレインが慰めてくれる。


「そもそも、時間が短くありませんか?」

「それは仕方がないでしょう。大勢の人員が集まる魔法祭では、食堂で昼食を賄えませんからね」


実は魔法祭の一日当たりの開催時間はとても短い。時間としては朝の授業が開始してからお昼休みが終わる時間までとなっていた。その原因は食事にあるらしい。魔法祭では、多くの来賓が詰めかけるため、この期間の食堂は、来賓の方が食事を取るための場所として開放されている。


つまり、学生は魔法祭の期間、食堂で食事を取ることが出来ない。そして学園では、基本的に食事の持ち込みは禁じられている。その結果、学生は家に帰って食事を取るしかないということになる。その話を聞いて、俺は「何て非効率な」と思わずげんなりしてしまう。


「ふふ、まあ食事だけが原因という訳でもないのですよ」

「と言いますと?」

「展示物を見て気になるものがあれば、それを魔法ギルドに行ったり、もしくは直接、商店行って買い付けしてもらうという目的もあるのです。来賓の方々が先に全ての展示物を見終え、全員が一斉に魔法ギルドや商店に押し掛けても対応、仕切れませんからね」


エルレインの話を聞いて俺はポンと手を打った。


「なるほど。一気に来られても人員的な問題で対応が出来ないから買い付け時間を分散させる訳ですね。それと、出来るだけ魔術具を売り込むための時間の確保もありそうですね。そして、周辺各国の来賓の方にお金を落としてもらって、エルグステアの経済を回す訳ですね。それならまだ納得出来ます」


俺は「そうやって国を潤わせているんですね」と頷きながら喋っていると、エルレインにひどく複雑そうな顔をされてしまう。どうしてそんな顔をするのだろうとコテリと首を傾げていると、腕組みをしながら難しい顔をして黙っていたエスタが口を開く。


「ルートは小さいのに良くそんなことが分かるな。あたしには全然、先生の話が分からない」

「ええ、本当に。ルートは物事への理解力が高すぎます。全くどうやって身に付けたのでしょう?カジィリア様の教えでしょうか?」

「今の話はそれほど難しい話ではなかったでしょう?どちらかと言えば裏家業のエスタが知らないのはともかくとして」

「あ、ルート。今、あたしのこと馬鹿にしたな?」

「いえいえ、そんな訳ないじゃないですか。考え過ぎですよ?」

「ん?そうか?だったらいいけど」


・・・そうやって簡単に引き下がっちゃうエスタのことがちょっと心配です。


「さてと、じゃあ、エルレイン先生。俺は図書室に寄って帰ります」

「図書室に?あんなお金が掛かる場所に、何しに行くのですか?」

「お金は掛かりますが中々、興味深い資料が多いですよ?どうせ、明日も暇だろうから何か借りておこうかと思いまして。あ、そうだ」


俺は道具袋からカメラを取り出して、エルレインに渡す。今日の暇な時間、カメラの改良をずっとしていた。以前よりも色鮮やかな写真が撮れるようになっている。


「暇だったのでカメラの改良をしました。前よりも鮮やかな写真が撮れます。どうぞ、使ってみてください」

「なんですって!?それは実験しなくてはなりませんね。ですが、今日は手持ちの服が・・・。エスタ、明日も研究室に来なさい」

「えぇ!?今週は、昨日と今日で二回来たじゃない、ですか」

「少なくとも二回と言ったはずです。大人しく来なさい。良いですね?」

「うぐ、はぁい」


肩を落として返事するエスタが顔を上げると俺のことをジトリとした目で睨んでくる。「ルートのせいだ」と言わんばかりの顔をされるが俺は涼しい顔でそれを受け流す。


・・・さっき俺のこと小さいって言ったよね?これはそれに対する罰なのだ。


エスタの視線を背中に受けながら俺は研究室を後にして、図書室を目指す。図書室は文官コースの校舎にある。図書室は教室一つ分ぐらいの大きさの部屋にいくつもの本棚が置かれているが、本は高価なものであるためか、本そのものは少ない。だが、学園の教員や魔法ギルドの研究員が書いたと思われる実験や考察といった手記が資料として束ねられて置いてある。


「失礼します」

「あら、あなたは。また来たのですね」


図書室に入ると図書室で司書役をしている先生が苦笑しながら出迎えてくれる。なぜ苦笑するのか、それは学生の身分で図書室を利用するのが俺一人だけであるためだ。


エルレインがさっき話していた通り、図書室を利用するには馬鹿みたいにお金が掛かる。それは高価な本や貴重な資料を守るためだからと言われれば仕方がないことなのだが、そのせいで図書室を使用する者がほとんどいない。現在、図書室を使用するのは一部の教員と俺ぐらいなのだそうだ。ちなみに学生での利用者は、エリオット以来の二人目だと言われた。


・・・資料が貴重なのは分かるけど本当に高いんだよな。


図書室を利用するためには保証金として小金貨五枚預ける必要がある。その他、本を借りる場合は小金貨三枚、羊皮紙を束ねただけの資料を借りる場合は小金貨一枚掛かる。一応、本や資料を欠損することがなければ、それらのお金は返ってくる。


ただ一番の問題は、図書室に入室するためだけに、入場料として小銀貨一枚が必要になることだろう。これは支払ったら返ってこない。図書室に、不必要に出入りさせないための措置らしいが、そのせいで図書室の利用者が居ないことに拍車を掛けていた。


そんなお金が掛かる図書室だが、今の俺には全く問題がない。なぜなら、冒険者ギルドから貸与された道具袋を買い取るために、大金貨一枚を目指してお金を貯めていたのが、自分で道具袋を製作したので不要になったからだ。しかも、アイオーン商会のフリードの辣腕によって、今もなお順調にお金が増え続けている。


俺は商業ギルドのカードを司書役の先生に手渡して、入室料の支払を済ませてから、何か面白そうなものはないかと図書室の中を歩き回った。そして、視覚強化の補助魔法が書かれた文献を見つけた本棚で、守りの魔法陣について書かれた文献を発見する。


「遠く離れていても守ることが出来る力か。・・・これはちょうどいいかもしれない」


いざという時に俺が傍に居なくても、大切な家族を守るためのお守りを作ろうと思った俺は、その文献の貸出の手続きをしてもらって家路につく。思いのほか図書室に滞在した時間が長かったようで、家に着いた頃には日が傾き始めていた。


完全にお昼ご飯抜きとなってしまった俺は、とてもお腹が空いていた。料理長のゾーラに無理を言って、早めの夕食を準備してもらい食事を済ませた。ただ、あまりにも早く夕食を済ませたため、さすがに寝るにはまだ早すぎた。仕方がないので、図書室で借りてきた文献をちょっと読むことする。使えそうなところを紙に書き写しながら読み進め、自然とあくびが出たところでベッドの中に潜り込んだ。


魔法祭二日目、案の定、誰も来る気配がない。一応、クラスメイトのフレンたちは顔を出してくれるはずではあるが、闘技場の中の展示物を見るのに時間が掛かっているのだろう。そうでなければ、わざわざ一週間も掛けて魔法祭をやる必要がない。


見るものが多くて仕方がないことだと分かっていても、それでも誰も来ないことにはため息を吐かずにはいられない。大きなため息を一つ吐いた後、俺は道具袋から昨日の文献と書き写していた紙を取り出して屋台の上に置いて、昨日の続きをすることにした。


「・・・あれ、ここで終わり?肝心なところ載ってな・・・って。後編に続くって何だよ!」


守りの魔法陣の要となる記載がないと思いきや文献には後編があるらしい。「一緒に束ねておけよ!」と思わず突っ込まずにはいられなかった。


・・・しかし、困ったな。ものすごくいいところだから、こんな中途半端では終われないぞ?気になって仕方がない。


俺は展示品の通信機を手に取って、エルレインに連絡することにした。

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