第五十七話 箱庭の戦い
「ルート、メルギアの攻撃を受けても、なお生き残ったあなたに興味が湧きました」
「ええっと、それはどうもありがとうございます?」
「だから、私にその力を見せなさい!」
シアンはそう宣言すると、まるでボクシングをするかのように拳を握ってファイティングポーズになった。嫌な予感はしていたが、思いもしなかったシアンの行動に目を白黒させるしかない。そんな俺にノクターが近付いてきて、俺の肩をポンと叩いてきた。もしかして、止めてくれるのかな?と期待を込めてノクターの顔を見上げたが、その期待は簡単に裏切られる。
「ルート、姉さんは脳筋だから気を付けて」
・・・全くありがたくもないアドバイスをどうもありがとうございます!
心の中でノクターにツッコミを入れているとスっとシアンが間合いを詰めてきた。戦闘開始の合図も何もなしにシアンは、いきなり拳を振り抜いてくる。シアンの攻撃はボディブローのように下からえぐるようなパンチであったが、身長差があるため、俺にとってはアッパーカットが襲いかかる。
「クソッ」と心の中で悪態をつきながら、それでも不意打ちに近い攻撃を俺は魔法障壁を出して防ぐ。
・・・魔獣シロ・クマに不意をつかれたところを俺はクリューに守られた。それ以来、俺は何があって対応出来るようにイメージトレーニングは欠かさず行ってきたのだ。クリューにみっともない姿を二度と見せるつもりはない!
だが、シアンのパンチ力は思った以上に強く、さすがドラゴンと言うべき馬鹿力だった。シアンの振り抜ききったパンチに、俺は魔法障壁ごと後ろに吹き飛ばされる。教室の後ろの壁に激突すると思った俺は土属性の補助魔法で防御力を上げて、衝撃に身構えた。
「くっ、ん?あれ?」
壁に激突して衝撃が来ると思っていたら、壁に当たるよりも先に水のマナの結界に背中が当たる。結界はとても柔らかく、背中が触れるとぷよんっと衝撃が結界に吸収されてしまった。ウォーターベットのような感触だなと思いながら結界をプニプニと触っていたら教室の前の方からノクターの声が聞こえてくる。
「ルート!教室は内部は壊れないようにしっかりと結界を張っておくから、安心してくれ!」
・・・それって俺は壊れても良いってことですか?ちっとも安心出来ないんですけど!?
ノクターの言葉に「ひぃぃ」と思いながらも、俺は気を取り直して制服の内ポケットから杖を取り出して構えた。戦闘を回避するという選択肢は与えられていないのだ。闘うしかない。接近戦が不利なことはよく分かったので、遠巻きで魔法攻撃をして近付かせないようにするしかない。
俺は土のマナに働きかけて、円錐のように先を尖らせた石の弾を自分の周りに無数に作り出す。「いけ!」と杖を振るって、シアンに向けて石の弾を放った。
「この程度!」
シアンは飛んできた石の弾を避ける訳でも、魔法障壁で防ぐ訳でもなく、素手でどんどんと殴り潰す。石の弾は魔力で練り上げたものなので、道端に転がっているような石ころとは硬さが全然違うはずなのだが・・・。あまりにも簡単に石の弾を殴り潰すシアンを見て、ノクターの言った「脳筋」という言葉が頭を過る。
・・・なんでこの人、あ、いや、このドラゴンは魔法使いコースの教師をしてるんですかね?この武闘派な感じは、どちらかと言えば騎士の方が向いてる気がするんですが・・・。
俺が放つ石の弾は、ことごとくシアンに砕かれるが、それでも反撃の隙は与えまいとマシンガンのように石の弾を飛ばし続けた。少し膠着状態が続いた後、シアンは「なるほど、接近させない気ですか。ふふ、でも考えがまだまだ子供ですね・・・」と不敵に笑う。
シアンは、右手が左肩に触れるぐらいの位置に持ってくると、力いっぱい横薙ぎに振り抜いた。空気を引き裂くようなブンッという音とともに、振り抜いたことで発生した風圧が、俺の飛ばした石の弾を弾き飛ばしながら、俺に襲いかかった。
「ぐっ!」
しっかりと足を踏ん張らなければ吹き飛ばされそうなぐらいの衝撃が俺を襲い、思わず攻撃魔法の手が止まってしまう。その一瞬の隙をシアンは見逃さなかった。
「そんなにも遠距離がお望みならば、私も同じようにしてあげる」
シアンはそう言った後、口をあんぐりと開けて俺の方に顔を向ける。俺はシアンの口元に魔力が収束するのを感じた。
・・・この感じは、まさか。
俺はすぐに土属性の魔法障壁を張ったが、それと同時に上位属性である雷属性の補助魔法を掛けた。恐らく、魔法障壁は意味がない。だから、素早く回避行動がとれるように俺は準備をした。そして、補助魔法を掛け終えた頃、シアンの口元が一瞬、光ったかと思った次の瞬間、青白いビームのようなものが俺に向かって飛んできた。
青白いビームが土属性の魔法障壁に当たると初めから何もなかったように、簡単に貫通した。それを見届けた後、やっぱりと思いながら素早く横に回避する。メルギアが使ったブレス攻撃と似たものがくると、俺はメルギアから鍛練を受けた時のことを思い出していた。
・・・あの時もメルギアのブレス攻撃には苦労したなぁ。というか、ドラゴンは漏れなく同じようなことが出来るんだろうか。くそ、厄介な。
「あら、随分とあっさりに避けてくれますわね。だったら、これならどうかしら?」
シアンは明後日の方向に顔を向けるとそのままブレス攻撃を放つ。一体に何を?と思ったがすぐにその理由が分かる。シアンの放ったブレス攻撃は結界に当たると向きを変えて俺の方に向かってきた。
・・・ブレス攻撃を跳弾させた!?
「さあさあ、それだけじゃないですよ!」
シアンは次々と色んな角度にブレス攻撃を放ち、結界で跳弾させていった。何の法則性もなく放たれたブレス攻撃は、どういう理屈か分からないが俺に当たるように飛んでくる。教室の中に青白く光る無数の線がところ狭しと飛び交う中を俺はギリギリ避けるしかなかった。
・・・まずい、まずい。ちょっとずつ逃げ場を失ってきてる。
懸命に避けるたび、徐々に教室の後ろの壁際に追いやられていた。しかも、ブレス攻撃が密度を増して襲ってくる。このままでは、シアンのブレス攻撃が当たるのは時間の問題となっていた。
・・・水属性、いや、氷属性で魔法耐性を上げれば耐えれるか?いや、駄目だ。耐えきれるイメージが全く湧かない。・・・考えろ。考えるんだ。俺に自動追尾してくるような攻撃をどうすればいいのか。
ブレス攻撃を必死に避けながら、俺は頭をフル回転させる。意識を思考に偏らせたせいか、ブレス攻撃が俺の頬をかすめる。ブレス攻撃を受けたしまったが、攻撃が当たったことで俺はハッとした。頬から流れる血を拭いながら俺はニヤリと笑みを浮かべて、シアンに向かって猛然と走り出す。
「おや?観念して接近戦ですか?それも良いでしょう」
カモンと言うかのように手のひらをクイクイと動かすシアン。俺は依然として自分の後ろからブレス攻撃が襲ってきているのを感じ取りながら、ブレス攻撃がギリギリ追いつかないスピードでシアンに近付く。シアンは俺が間合いに入ったところで、俺に向かって拳を振り下ろす。
・・・今だ!
敢えて抑えていたスピードを一気に加速させて、シアンが振り下ろす拳をかわして脇の下を通り抜けた。抜けた先はすぐ目の前に黒板があったが、勢いがついていて止まれない。だが、結界があることが分かっているので、俺はシアンのいる方に反転しながら、背中から結界に突っ込んだ。
「どうだ!?」
「拳をかわしたところで、うくっ!」
どうやら作戦はうまくいったようで、俺の方に向き直ったシアンの背中にブレス攻撃がヒットする。声を上げて前のめりにつんのめるシアンだったが、「ふぅ、ちょっと驚きましたが、自分の攻撃で倒れるはずがないかしら?」と言いながら体勢を立て直そうとする。
・・・そんなことは百も承知!欲しかったのは一瞬の隙だ!
俺は結界を蹴飛ばして、再度、シアンの横をすり抜ける。通り過ぎる瞬間に、黄色の光を帯びた網をシアンの頭の上にパサリと落としてから、素早くシアンから距離を取って向き直った。
「こんなもので、ひぐぅ!?」
シアンは網を振り払おうと触った瞬間、悲痛な声を上げて身動きが取れなくなる。
「雷のマナに働きかけて生成した、特性の電気の網のお味は如何でしょう?」
電気そのもので作り上げた網は、しっかりと魔力を練り込んである。だから、そう簡単に消えることはない。それに、ドラゴン相手なので威力の制限は度外視した。抜け出すのは難しいはずだ。
電気の網に捕らわれて、身動きが完全に取れなくなったシアンが、苦悶の表情を浮かべている様子を見て、俺はシアンに「これで勝負はついたでしょう?」と提案する。
「な、にを。ばか、なこと、をい、ってる、のか、しら?」
どうやら俺の提案は気に入らなかったようで、キッとシアンに睨まれた。俺は折れないシアンの様子に目を瞬きながら「えぇ、まだやる気なの?」とちょっとうんざりしてしまう。どうにかして欲しいなと思い、戦況を見守っているノクターに視線を向けたが、ノクターは無言のまま首を横に振って、続けるんだと目で訴えてきた。
・・・むぅ、メルギアだからかと思っていたが、どうやらドラゴンという種族が戦闘狂なのか?終わらせるために力を見せないといけないというのならやるしかないのか・・・。けど、どうなっても知らないからな!
土属性では全く歯が立たなかったので、今度は鋼属性で槍の穂先のようなものを一つだけ空中に作り上げる。さっきはとにかく近付かせないために数を放った。だが、今回は違う。この一つに先ほど石の弾をマシンガンのように飛ばすのに使った魔力を込めて一点突破を図る。
しっかりと魔力を込め終えた俺は「ふぅ」と一息吐いた後、改めて杖を構え直して、シアンを睨みつけながら「どうなってもしりませんよ!」とシアンに向けて金属の弾を放つ。土の弾の時とは、比べものにならない速さで金属の弾がシアンを襲う。
「ああああああアアアアアアアアアァァァァァァ!!」
シアンは俺の攻撃が放たれるや否や、雄叫びのような声を上げると自信の魔力を暴発させて、無理矢理、電気の網を掻き消してしまった。身動きが取れるようになったシアンは即座に身構えると、俺が飛ばした金属の弾をまたもや素手で殴りつける。
だが、さすが金属で作り上げたこともあって、シアンの拳を受けてもギンッという音が鳴るだけで砕かれることはなかった。ただ、金属の弾の軌道が変わり、シアンの後ろにある黒板の下の壁に飛んでいく。金属の弾は結界をものともせずに教室の壁に突き刺さった。
「なんと、結界を破るほどの威力が・・・。これは驚いた」
ノクターが俺の放った攻撃魔法の威力に感嘆の声を上げている。もしかして、これで力を示すことが出来たかのではないだろうか。俺は期待を込めてシアンの方に目を向ける。だが、シアンはだらりと手を垂らしながら俯いていて表情が読めない。よくよく見ると金属の弾を殴った右手からぽたりぽたりと血が滴り落ちているのが見えた。
俺は「先生、大丈夫ですか?」と声を掛けようとしたら、シアンはおもむろに右手を口元に持っていき、傷口をペロリと舐めて、口の両端を吊り上げる。
「くひ」
「くひ?」
・・・何かシアンの様子がおかしい。
「くひっ、くひひひっ、くひひひひひひひ」
シアンは口の端を上げながら楽しそうに高らかな声で笑う。その気持ちの悪い笑い方を見て「シアンが壊れた」と率直に思った。水の姫と呼ばれてファンの生徒までいるというのに、とてもそのファンにお見せ出来る姿じゃない。
俺がドン引きをしているのを余所に、シアンは一頻り楽しそうに笑った後、ギラリとした視線を俺に向ける。明らかに先ほどまでとは違う空気が漂っていた。俺はその空気を肌で感じて背筋がひんやりと冷たくなる。
・・・この感じ、身に覚えがある。これは殺気だ。
「良い!実に良いわよルート!さすがメルギアが目を掛けるだけのことはあるかしら。さあ、もっと殺りましょう!」
「ちょ、シアン先生!?趣旨変わってませんか!」
俺の悲鳴のような声を完全に無視をして、一歩前に踏み出したところで、ノクターの大きな声が教室内に響きわたる。
「姉さんそこまでだ!」
「これからが良いところなのになぜ止めるのかしらノクター?」
「残念だけど時間だよ。お昼休みが終わりからあの子たちが戻ってくる」
「・・・あら、それでは仕方ありませんね」
ノクターの制止をビックリするほど大人しく聞き入れたシアン。身体の芯から底冷えするいうな殺気が霧散した。その様子に俺はホッとため息を吐くと全身の力が抜ける。俺はその場にパタリと倒れて大の字になって寝転がる。危うくドラゴンと真剣勝負をする羽目になりそうだったので完全に気が抜けた。
「それではルート。続きはまた今度にしましょうね」
「お疲れ様ルート。姉さまを本気にさせるなんてナイスファイトだったよ。次も頑張れ」
二人はいつもの爽やかな教師の雰囲気に戻っていた。闘っていなかったノクターはともかく、シアンの変わり身の早さには脱帽だ。
・・・それはともかく。
「あの、またやるんですか?」
「当然です。私はまだ満足してないかしら?」
「そう、ですか」
シアンの回答に俺は気が遠くなるのを感じながら目をきつく閉じる。その間に二人は教室のドアを開けて出ていく音が聞こえてきた。
・・・ハァ、これで終わりじゃないのか。
大の字で寝転がったまま項垂れていると再度、教室のドアが開き、複数人の足音が聞こえてきた。
「食堂に来ないと思ったら何でこんなところで寝転がってるんだ?」
「教室から出てきたシアン先生とノクター先生の二人とすれ違ったけど何かあったの?」
フレンとエリーゼの二人は怪訝そうな顔をしながら、寝転がる俺の顔を覗き込んできた。二人の後ろからレクトとアーシアも近付いてきて「どうした?」といった顔を浮かべている。俺は四人の顔を眺めているとほんの一時間ぐらい前に別れただけなのに、すごく久しぶりに再会したような感覚に襲われた。
それにさっきまでの出来事が、何だか夢を見ていたような気分である。一気に現実に戻ってきた感覚にも襲われて思わず「ハハッ」と乾いた笑いが出た。
・・・さて、クラスの皆には、なんて説明したものかな?
「シアン先生とノクター先生から。あ、いや、主にシアン先生から特別授業を受けてました」
俺が当たり障りのない回答をするとフレンたちから口々に「ずるいぞ!」と言われてしまう。さすが、人気がある先生だなと思いながらも、ひどく疲れていた俺は皆からの罵声に思わず本音がポロリと出てしまう。
「そんなに言うなら皆、代わって下さいよ」
俺は言葉を発してからハッとした。もし、皆も特別授業を受けたいと言ってきたらどうしようかと。それはそれで困る事態になる。俺は恐る恐る、皆の反応を伺った。
「いや、俺たちルートと違ってお昼の後も授業があるし暇じゃないからな。実に残念だが代わってやれないな。なあ、皆?」
「ええそうね。勉強がありますから」
「そうだね。とても残念だ」
「ルートちゃん、頑張ってね」
どうやら何も心配は要らなかった。フレンたちはやや顔を引きつらせながら、口々に参加出来ないと言って俺から視線を外した。恐らく、俺の力ない様子に、相当なことがあったのだと察したのだろう。その方がありがたい。ありがたいのだけど、皆の態度にちょっとした悪戯心が芽生える。
「遠慮することはないですよ?クラスメイトじゃないですか」
俺は上半身を起こして、「皆も参加しよう」と呼び掛ける。
「さあ、授業が始まる。席に座っておかないとな」
「ほら、ルートは次の授業に出る必要はないでしょう?関係ない人は出ていきなさい」
「さてと、午後の授業も頑張っていこうか」
「それじゃあ、また明日ね、ルートちゃん」
フレンたちは俺の提案から逃れるように、そそくさと自席に移動してしまう。思っていた通りの素っ気ない態度に、俺はクスクスと笑った。
・・・おかげで、ちょっと元気出てきた。
次の日の朝、俺は職員室に乗り込んだ。シアンとノクターの二人と話をするためである。二人は俺の突然の訪問に目を瞬くが「昨日の続きは今日、やりましょう」と宣言するとシアンがニヤリと笑みをこぼす。自ら進んで死地へと踏み入るのは、次週の水属性の魔法学の授業があるまで、ビクビクしながら過ごすのはまっぴらごめんだからである。
お昼休みの時間にシアンとノクターの二人とともに学園の裏にある森へと足を運んだ。人気がない場所まで移動して、ノクターに結界を張ってもらう。
「今日は、シアン先生の望み通り、これで勝負です」
俺は拳を握って構えながら、シアンに向かって対峙する。シアンは満足そうに頷いて、「かかってきなさい」と構えた。
勝敗は言わずもがな、俺の負けである。上位属性の補助魔法をフルに掛けて挑んだが、やはり、自力の差は大きかった。初めの内は、体格差と雷属性で上げた素早さでシアンを翻弄させることが出来た。だが、俺のスピードに慣れたのか、次第にシアンの拳が確実に俺を捉えた。
最後の方はもう、かわいそうなぐらいメッタ打ちである。薄々、分かっていたことだが、一度スイッチが入ってしまうとシアンから「加減」と言う二文字はなかった。
・・・ただ、そもそも力を示せれば、それでいいので勝ち負けは関係ない。シアンはとても機嫌が良さそうにしているので、これで目的は達成だろう。
俺は全身が悲鳴を上げるような痛みを堪えながら起き上がるとノクターが近付いてきて水属性の治癒魔法を掛けてくれる。自分でも出来ないことはないが、ちょっとでも身体を動かすと軋むように痛みが走るので、大人しくその好意に甘えておく。
ノクターは治癒魔法を掛けながら「人の子でありながら姉さんと殴りあって五体満足に残るとは」と恐ろしいことを口にしているが聞き流しておくことにしよう。
・・・そんな当たり前のように、腕の一本や二本は失っていたかもしれないなんて考えたくもない。
「うーん。ルートは魔力と魔法の扱いに関しては申し分ないですが、体術はまるでダメね」
「剣術はやってますが、体術はやってないですからね」
心の中で、魔法使いに体術を求められても困るんだけどと付け加えておく。
「はぁ」と俺がため息を吐いているとシアンがポンッと手打って、良いことを思い付いたと言わんばかりの顔を俺に向けてくる。嫌な予感しかしない。
「そうだ、私がルートに体術を教えて上げるわ。しっかりと強くなって打倒、メルギアよ!」
「・・・あの、俺も色々と忙しいので週一ぐらいでお願いします」
断っても無駄なことをシアンの鼻息が荒い様子で察した俺は、せめて回数を減らすべくお願いする。少し不満そうにされてしまうが、魔法祭のために魔術具の製作があると言って納得してもらった。
魔法を学ぶために学園に来ているのに、ドラゴンに体術を教えてもらうとは一体どういうことだろうか。おかしなことになったなと思った時に、ふとメルギアの手紙の最後に「面白いことになる」と書かれてあったことを思い出す。もしかして、本当はこうなること見越しての意味だったのではないだろうか。
・・・メルギアに謀られた!?




