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約束を果たすために  作者: 楼霧
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第五十六話 水の姫と水の王子

火の季節二月目に入り、ますます暑さが増した頃である。いつもと何ら変わりない午前中の授業。その終わりを告げる鐘が鳴り響きフレンが「終わった終わった、飯に行こうぜと皆」と言って立ち上がる。


「あ、俺は今の授業を書き終わってから向かいますのでお先にどうぞ」

「おう、先に行って待ってるからな!」

「ルートちゃんも早くね」

「ルートは魔法学は本当に熱心よね。良いことだけど」

「それじゃあ、先に行ってるよ」


クラスメイトが教室を出ていくのを目の端で見つつ、俺は魔法で自作したノートに授業の内容を書き込んでいく。授業を何度も聞くよりも授業を聞いて時にきちんとまとめておく方が効率が良いと判断したためである。


「よし、書けたっと。うわぁ!?」


一通り授業の内容をまとめてたところで顔を上げる。教室には俺しかいないと思っていたのに、目の前に二人の人物が立っていて思わず声を上げて驚いてしまった。


「シアン先生にノクター先生、どうしたんですか?」


目の前に立っていたのは今し方、水属性の魔法学の授業をしていた二人である。二人ともよく似た顔をしており、とても綺麗な深い青色の髪をしている。それもそのはず、二人は双子である。長髪が姉のシアン、短髪が弟のノクターで、学園の中で一、ニを争うほどの人気者だ。また、美男美女の双子としても知られていた。


・・・とても爽やかで人当たりの良い先生たちで、一部の学生から水の姫と水の王子と呼ばれていて、ファンがいたりするんだよなぁ。


二人はなぜが一緒に授業をするのだが、それがとても分かりやすい。姉のシアンが主体で喋り、弟のノクターが補足をしてくれる。ちょっと変わっているが、お気に入りの授業である。


特に二人の授業を受けて感銘を受けた話がある。それは、魔法で出す水の温度についての話だ。俺は魔法で出す水の温度は一定だと思っていた。だが、実際はそうではなかった。


例えば、寒い地域の出身者が出す水は冷たい水になるそうで、逆に暑い地域の出身者が出した水は生温い水になるそうだ。また、季節にも左右されるとのことで、水の季節だと冷たくなり、今の火の季節だと温かくなるのだと教えてもらった。


つまり、魔法で出す水の温度は、その者にとって身近なもの、日常生活にあるものを無意識的に出しているらしい。温度は一定だと勝手に思っていたので、俺はその話を聞いて目から鱗がポロポロ落ちた。


・・・そして、思ったのだ。その話が本当ならば、イメージ次第でお湯を出せるじゃないかと。


要は電気ポットでお湯を注ぐようなイメージで水を出せば、わざわざ魔法で火を出してお湯にする必要がなくなる。お湯を出す魔術具を作る際に、余計な工程を省けるということだ。


・・・ちなみにその話を聞いた時、自分の中での水のイメージを考えた結果、完全に蛇口を捻って出てくるものだと思い至った。ならば、まずはガス給湯器からお湯を出すイメージから始めようではないか。


そんな感じに思い入れのある授業をしてくれていた二人であった。だが、火の季節の初旬頃から少し状況が変わってしまう。


授業が終わり二人が教室から退出する時のことだ。俺は教室の中でも一番出入り口に近い位置に座っているので、二人は必ず俺の前を通って教室出ていく。その際、シアンが横目で俺の事を睨みながら出ていくようになったのだ。初めは気のせいかと思っていたのだが、日を追うごとに目力が増していた。


・・・その冷ややかな視線は、もはや姫と言うよりも女王様って感じだ。


二人とは授業以外で係わることがない。かといって、授業中に何か失礼なことをしたという覚えもない。それなのに、なぜか睨まれるようになっていたので、俺は訳が分からずにいた。そして、今日、ついに直接、話し掛けられてしまった。


・・・そういう経緯もあって、目の前に二人が居たことに思わず声を上げて驚いちゃったよ。


「ルート、話をしたいので時間が欲しいのだけれど良いかしら?」


何だか怒られそうな雰囲気に、俺は今すぐにでも教室を出ていきたい気分になる。だが、とてもじゃないが「クラスメイトが食堂で待っているので無理です」と答えれるような雰囲気ではない。俺は、心の中で深いため息を吐きながら、覚悟を決めることにした。


「分かりました。どのような話でしょうか?」


俺が覚悟を決めて、返答した瞬間、教室の空気が一変する。まるで水の中に落とされたかのような感覚に襲われるとともに息が出来なくなった。突然の出来事に目を白黒させることになるが、教室の中が水のマナで濃く満たされていることを感じ取り、俺は水のマナに順応するように魔力を放出して働きかけた。


「・・・くっ、はぁ、はぁ。一体、何が」

「なるほど。これを切る抜けるとはさすがですわね」


シアンの一言を聞いて、俺は悠長に座っている場合じゃないと立ち上がる。後ろにじりじりと下がりながら、二人から距離を取って身構えた。


「姉さん。いきなりけんか腰は駄目だよ。すまないねルート。落ち着いてくれ」


ノクターが姉の行動をたしなめるが、当の本人は腕を組んでフンと鼻を鳴らしている。全く悪いとは思っていない様子だ。


「一体、何なんですか・・・」


俺はシアンを警戒しながら、教室の後方にあるドアをチラリと見る。だが、教室全体を覆うように水のマナで結界が張られていることに気が付いて、俺は愕然とした。


「すまないねルート。誰も干渉出来ないようにちょっと隔離させてもらった」


さらっととんでもないことを言ってのけるノクターに俺は思わずギョっと目を向ける。どうやら、姉弟して俺を逃がす気はないらしい。


「コホンッ。ルート、あなたは一体、何者なのかしら?」


シアンはビシッと人差し指を真っ直ぐ伸ばして俺に向けてきた。だが、質問の意味が全く分からない。俺は首を傾げるしかなかった。シーンとした空気が流れ、シアンは再度、腕を組むと指をトントンさせ始める。どう見てもイライラしている様子に、俺はこの場で一番何とかしてくれそうなノクターに視線を向けて目で訴えた。


「ルート、君が纏っている火のマナについて、教えて欲しい」


俺の視線に気付いたノクターが苦笑しながら、助け船を出してくれた。だが、それに俺は眉をひそめるしかなかった。今の俺が意図的に纏っているのは氷のマナである。火の季節でどれだけ暑い日でも、自分の周りに氷属性の小規模な領域を発生させて快適な気温にしているのだ。だから、火のマナを纏っていると言われても訳が分からない。


「あの、本当に申し訳ないのですが先生方の質問の意味が分かりません」


悩んでいても仕方がないと判断して、俺は正直に今の心境を口にした。すると、ノクターは「無自覚?」と手で口を押さえながら小さく呟く。そして、何かを考え込んだ後、再び口を開いた。


「それはすまなかった。では、質問を変えよう。ルート、火の季節になってから、何か今までに持ってきてなかったものを学園に持ってきてないか?」

「持ち物ですか?」


・・・火の季節になってから持ってくるようになったもの?そんなものあったかな?


俺は何気なく自分の身体を上から順番にトントンと制服を叩いて確認をしてみた。そして、上着の腰ポケットを叩いたところで「あ」と気が付き、ポケットの中に入ってるものを取り出して二人に見せる。


「もしかしてこれですか?」

「それよ!やっぱり、あなた、アイツの眷属なのね」

「・・・ルート、君がどうしてそんな物を持っているのか教えてくれないかな?」


俺は二人の言葉を聞いて、警戒を強めた。二人の口振りからすると俺が持っているこれが何なのか分かっているようだ。一見すると平べったい赤い石にしか見えないのに、これが、レッドドラゴンのうろこであると言うことが。


・・・二人はメルギアを知っている?いやいやいや、それはあり得ない。


メルギアはルミールの町のそばに広がるメルギアの森を抜けたその先に住んでいる。自分の名前がいつの間にか森の名前になっているほど、何百年以上、下手したら数千年前からである。そんなメルギアは、その場所で人知れず住んでいたのだ。だから、シアンとノクターの二人がメルギアを知っているはずがない。


「・・・地元の知り合いの女性からもらったものですが」

「ほら見なさい。やっぱり、アイツの眷属ではありませんか」

「姉さん落ち着いて。ルート、警戒する気持ちも分かるが答えてほしい。君はメルギアの眷属なのかい?」


ノクターがメルギアの名前を出したことに俺は目を見開いて驚いた。


「先生がどうしてその名前を。・・・確かにこれはメルギアからもらいました。けど、さっきからシアン先生が眷属、眷属って言ってますが、俺はメルギアの眷属になった覚えはありませんよ。さっき言った通り、ただの知り合いです。それよりも、どうしてお二人がメルギアのことを知っているんですか?」

「そんなことはどうでも良いかしら?メルギアが知り合いぐらいで、自分のうろこを渡すはずがありません。さあ、正直に言うかしら?」


あくまでも、俺のことをメルギアの眷属だと決めつけてくるシアンが、俺に詰め寄ろうと一歩前に踏み出した。だが、ノクターがシアンの手を引いて「ちょっと待って姉さん」とそれを制する。


「ルート、追加で聞きたい。メルギアはそれを渡した時に何か言っていなかったかな?」

「実際は、送られてきたので直接、話をした訳ではないんですが、手紙ならもらいました。まあ、メルギア本人が書いたものではないですけどね」

「それで、手紙には何て書いてあったんだい?」

「内容ですか?ええっとですね。確かうろこを持っていれば恩恵を受けれるから常に持っておけって書いてましたね。あ、それと面白いことになるとも書いてましたね。意味が分からないですけど」


俺の最後の一言を聞いたノクターが「それだ!」と言って俺を指差した。そして、何かに納得した様子で何度か頷くとシアンの方を見てながら大きなため息を吐いた。


「はぁ、姉さん間違いないよ。この悪質な感じ、メルギアのイタズラに間違いないよ」

「くぅ~。またしても、あのドラゴンは私たちを小馬鹿にして!昔から本当に変わりないんだから」


何やら悔しがっている二人は、「本当に昔からメルギアは」と昔話に花を咲かせ始めた。そんな二人の眼中に俺は入っていない。完全においてけぼりである。


とりあえず、メルギアのせいだということはよく分かった。きっと、いや、間違いなくこうなることが分かっていて、俺にうろこを持たせたのだろう。ニヤニヤとほくそ笑んでいるメルギアの顔が目に浮かぶ。


・・・でも、それはそれとして、二人して分かり合ってないでちゃんと俺に説明してくれ!


俺は、ほったらかしになっていることをムッと思いながら二人に迫りながら話し掛けた。


「シアン先生にノクター先生!説明を求めます!なぜ、お二人はメルギアを知っているんですか?」


シアンは迫りながら質問をしてくる俺を見て「まだいたの?」と言いたげな顔をした。


・・・いるよ!というか、出たくても結界で出れないよ!!


文句を言いたいのグッと我慢して、俺は説明を求めた。すると、シアンが「ルートと同じく私たちもメルギアと知り合いなのです」と答えてきたので、俺はそれを即座に否定した。


「それはありえませんね。普通に考えたら、先生たちがメルギアと知り合いになれるはずがないです」


メルギアと出会った時の会話からすれば、メルギアは何百年も前から人と接していない。俺が久しぶりに出会った人の子だと言っていたのだ。永遠に等しい時を生きるドラゴンの「久しぶり」のスケールは、人間からすれば軽く何十回も人生をやり直すレベルだ。


・・・だからこそ、ありえない。ありえないのだが、メルギアのことを昔から知っているような口ぶりに加えて、この教室を水のマナで濃く満たし、さらに結界まで張るという強大な魔力。もはや、人間離れしている。そこから導き出せる答えとすれば、多分、先生たちは・・・。


「シアン先生とノクター先生は、ドラゴンですね?」


俺の言葉にシアンとノクターの二人は目を丸くして驚くが、お互いに顔を見合った後、仕方ないといった感じに二人して肩を竦めた。


「さすがは優秀だね。座学を一ヶ月も待たずに終わらせただけのことはある」

「おかしいですね。ばれるような要素はなかったはずなのに」


・・・おかしいのはシアン先生です。あれだけ色々と喋っていたのにどうして、そんな言葉が出てくるのか。授業の時のあの凛々しい先生の姿は一体どこへ?


「そうですか。やっぱり、お二人はドラゴンなのですね。良かった」

「良かったとはどういう意味かしら?」

「いえ。予想していた通りだと思ってホッとしただけです。それよりも、先生たちはやっぱり、水属性を司るドラゴンなのですか?」

「ええ、その通りですわ。私たち姉弟はブルードラゴンです」


シアンが答えてくれたことに「なるほどやっぱり」と納得して頷いていると、ノクターが不思議そうに目を瞬かせながら尋ねてくる。


「正体を看破したとはいえ、ルートは随分と平然としているね。ドラゴンが怖くないのかい?」

「まさか、ドラゴンが学園で教師をしているとは思いませんでしたから、これでもビックリしてますよ。でも、怖いかどうかと問われたら、怖くはありません。これでも短い期間でしたが、ドラゴンと一緒に住んでいましたから」

「ドラゴンと住んでいた?それは、もしかして、メルギアかしら?」


眉間にしわを寄せた怖い顔で睨みながら質問をしてくるシアン。どれだけメルギアのことを毛嫌いしているんだろうかと、そっと心の中でため息を吐く。


「本当にメルギアのことが嫌いなんですね。属性だけ考えれば先生たちの方が有利だと思うんですが」

「そのせいね。メルギアとは、私たちが小さい頃からの付き合いですが、その時から何かと私たちを目の敵にしてきたのよ」

「何かとちょっかいを掛けられたからね。お主たちを鍛えてやろうと言われて、何度も死にそうな目に・・・」


・・・メルギアのことだから多分、半分は嫌がらせで、もう半分は本当に鍛えていたんじゃないだろうか。メルギアは戦闘狂な面があるから、わざわざ自分の弱点となる者を鍛え上げて闘おうとしたのではないかと思う。


シアンとノクターは、メルギアから受けたしごきを思い出したのか二人して遠い目をしている。さすがは双子と思えるほど、仕草がそっくりで俺は思わずクスリと笑う。


「何を笑ってるのかしら?」

「すみません。さすが双子だなって思いまして」

「はぁ、そんなこと言って誤魔化そうとするということは、やっぱりメルギアと住んでいたのね?」


俺の指摘に照れ隠しなのか、遠い目から再び怖い顔をして俺を睨むシアン。改めてメルギアと住んでいたのかと質問をしてきたので、俺は首を横に振って否定した。


「違います。俺はクリューと住んでいました」

「クリュー?聞いたことがない名前ね。ノクター知ってる?」

「いや、聞いたことがないよ姉さん。ルート、クリューとは誰のことだい?」


シアンとノクターは、二人して不思議そうな顔を俺に向けてきた。またしても二人して同じ仕草をするので、俺は思わず笑いそうになる。けど、怒られるから我慢我慢。


「クリューはブラックドラゴンの子供です」

「「ブラックドラゴンの子供?」」


俺の回答に首を傾げてしまう二人。二人がクリューを知らないのは無理もない。クリューは数ヶ月前に誕生したばかりであり、何よりクリューという名前は俺が勝手に付けたのだ。俺はクリューと出会った経緯を掻い摘んで二人に話した。


「ということで、遺跡で発見した卵がブラックドラゴンの卵でした。まあ、孵化したことで、ドラゴンの卵だってことが分かったんですけどね」

「ちょっと待って。孵化したというのはどういうことかしら?」

「え?えっと、俺が卵に触ったら、卵に根こそぎ魔力を奪われまして。お恥ずかしながら、魔力枯渇で気を失いました。次に目を覚ましたらクリューが孵化していてお腹の上で寝ていたんです」

「では、クリューと言う名前は?」

「俺が名付けましたけど?」


俺が名前を付けたと聞いたシアンとノクターは、目をまんまるに見開いて驚きを隠せないといった表情を浮かべる。もしかして、勝手に名前を付けたのは不味かったのだろうか。一応、メルギアに確認した時は、何も問題はなさそうだったのだが。俺は不安に思いながら恐る恐る二人に尋ねた。


「あの、もしかして何か不味かったですか?」

「いえ、ちょっと驚いただけかしら。まさか人の子の魔力によって産まれ、名を付けることを容認するだなんて・・・」

「驚いただけだから、そんな不安そうな顔をすることはないよ。それに、そのクリュー本人がルートに名付けたさせたということは、クリューは紛れもなく君のことを親として認識しているということだ」

「そうですか、それは良かった。俺にとってクリューも大切な家族の一員ですから」


確かメルギアにもクリューは、俺のことを親として認定していると言ってくれていたはずだ。新たなに出会ったドラゴンの二人からもお墨付きをもらい、俺は嬉しくなって自然と笑みがこぼれた。


「それで、その肝心のクリューは、今はどうしているのかしら?」

「今は、メルギアに一人前のドラゴンになれるように預けました」

「え!?それは大丈夫なのかしら?心配だわ」


シアンは眉間にしわを寄せながら、本気でクリューの身を案じてくれる。俺はその様子に苦笑しながら首を横に振った。


「大丈夫だと思いますよ。メルギアはやけにクリューには甘かったですから」


俺が心配ないと告げると「そういえば、メルギアには仲の良いブラックドラゴンが居ましたね」とたった今、思い出したといった感じにシアンがぼそりと呟いた。


「ところでルート。クリューと住んでいたのは分かったけど、メルギアとはどこで出会ったんだい?」

「俺の故郷、ルミールの町のすぐそばにメルギアの森と呼ばれる森があるんですが、その森を抜けた先で出会いました。・・・今思えば、俺、ドラゴンと係わるたびに死に掛けてるような気がしますね」

「それは、どういう意味だい?」


ノクターが首を傾げながら尋ねてきたので、俺は指を三本立てて説明する。


「まず一つ目。つい先程、水のマナで溺れそうになりました」


「溺れ死ぬかと思いましたよ。誰の仕業でしょうか?」という意味を込めてジロリと二人に視線を送る。シアンとノクターは揃った動きで、俺の視線から目を逸らした。


・・・分かりやすい反応、ありがとございます。


「二つ目は、さっき話したクリューに魔力を根こそぎ奪われたことです。そして、三つ目はメルギアと初めて会った時の話ですね。寝ているメルギアを大きな赤い岩だと思って、ベタベタと触っていたら、羽虫か何かと間違えられて、メルギアの火の息で焼き殺されそうになりました」


「あれは本当にひどい目に遭いました」と腕を組んで目を伏せながら、思い起こすようにしみじみと二人に語った。「大変な目にあったな」みたいな反応が返ってくると思っていたのだが、二人から何の反応も返ってこない。俺は不思議に思って、顔を上げて二人の顔を見遣る。すると、またもや驚きの表情を受けべる二人だったが、さっきと違ってシアンの様子がちょっと少しおかしい。


「人の子がメルギアの火の息を防いだ?でも、私たちドラゴンを孵化させるだけの魔力を持っているのならありえるかしら・・・」


ぼそぼそと呟いた後、シアンは俺に顔を向けてくると、シアンは口の端を吊り上げて、三日月ような笑顔になった。その背筋がゾクリとするような笑顔を向けられて俺は思わず二、三歩後ろに後ずさる。


・・・どうしてそんな笑顔をしてるんですかね?嫌な予感しかしないんですけど!

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