第六話 魔法講座 前編
くっ、仕事が忙しくて時間が。
ちょっと、長くなりそうなので前後半に分けます。
さて、今日は待ちに待った闇の日である。新しい魔法が使えるようになるか楽しみだ。
お昼過ぎ、家のドアをノックする音がした。どうやら、エリオットが家にやって来たようだ。俺とソフィアは玄関へと向かう。
「こんにちは。久しぶりだね。ルート」
「はい、ご無沙汰していますエリオットさん。その節はお世話になりました」
「あはは、結局、私は何もしてないから気にしなくてもいいよ。実際に、助けたのは君のお姉さんだしね」
エリオットは、緑の髪で年齢は20歳。丸眼鏡を掛け、ローブを着ている姿はまさしく、魔法使い。物腰が柔らかい爽やかなお兄さんだ。それにしても、イケメンである。アイドルをやってそうな顔立ちをしていて、前世の俺なら僻んでいたに違いない。
そんなエリオットとソフィアを交互に見て思う。美男美女のお似合いのカップルに見えるんだけどなぁ。何で付き合ってないんだろ。まあ、ソフィアの方が強いということなんだろうけど。
「・・・」
ハッ、後ろから殺気が。これはいけない。
俺は急いで「では、こちらへどうぞ」とエリオットを家の中に入るように促して振り返る。あ、ちょっとソフィアの笑顔が怖い。ここは勇気を持ってスルーするしかない。・・・それにしても勘がいいなぁ。
俺はエリオットを普段は食事に使うテーブルへと案内し、一番奥側の席を勧める。何気なく上座へと案内していたのが、元サラリーマンの性だろう。
俺とソフィアはエリオットの向かい側の席に座ったところで、「それじゃあ、早速」と言いながらエリオットは、持っていたカバンからA4サイズ位の黒板を取り出した。
「いつも持ち歩いているのですか?」
「何か記録しておきたい時に便利だからね。遺跡調査の時には特に」
「そうそう、遺跡調査の時は、必ず持ってますよね、エリオットさん。でも、戦闘中にも、メモをするのはどうかと思います」
「あれは、確かに面目ない。あのときはどうしても書き留めておきたかったことがあったからね。どうも、夢中になると回りが見えなくなってしまうようで」と言いながら、エリオットは頬をかく。エリオットさんって研究者タイプなのかな?
そんな話をしながら、エリオットは手に白い石を持ったところで「さあ、始めようか」と言う。あの手に持っているのは、きっと石灰か何かだろう。それにしても、黒板は、よく使い込まれているせいか少し白っぽくなっている。色々と書き込んでは消しているんだろうな。
・・・今度、遺跡調査についての話を聞くのも面白いかも知れないな。
「さて、光属性以外の魔法を教えて欲しいと言うことだったけど、折角だから魔法の基礎的な知識を学んで欲しいと思っている。折角、光属性の使える前途有望な、魔法使いになるかもしれないからね」
「光属性が使えることは前途有望なのですか?」
「そうなんだ。今からする話を聞いてもらえば分かると思うよ?」
「分かりました。では、宜しくお願いします」
「まずは、属性について。六属性については知っているね?」
「はい、ソフィア姉様から聞きました」
エリオットは、俺の回答を聞いて軽く頷いた後、黒板を縦にして「光、闇」と上のほうに文字を横並びに書き、続いて、「風、火、土、水」と先程書いた光と闇の文字の下に、風を頂点に、四つの属性で正方形を象るように文字を書いた。
「基本な属性である六属性は、風、火、土、水の下位属性と光、闇の上位属性に分かれるんだ」
「・・・光と闇はなぜ、上位となるのでしょうか?」
「それは、属性同士の相性が関係しているんだ。風は土に、土は水に、水は火に、そして火は風に強い」と言いながら、エリオットは矢印を引いていく。さらに、「そして、光と闇は、下位属性の全てに強い」と言いながら、光と闇の文字の下に、下位属性の文字を隔てるように真っ直ぐな横線を引いた。
ちなみに、光と闇は相反関係になるそうだ。エリオットは光と闇のお互いに矢印を引いていた。
「う~ん、相性があるのは分かりましたが、実際に強いとはどういうことでしょう?」
「そうだなぁ・・・。魔法障壁で魔法攻撃を防ぐ例が分かりやすいかな?例えば、風属性の魔法攻撃を受けた場合、火属性の魔法障壁を使えばダメージを防ぐことが出来る。けど、もし、土属性の魔法障壁の場合、魔法障壁は意味を成さずダメージを受けてしまうんだ。そして、光と闇の属性の場合、火属性とまでとはいかないけど、ダメージを防ぐことが出来る。つまり、光と闇の属性は、下位属性の全てに対して耐性を持つ有利な属性と言えるんだ」
「ふふっ、だから、私はエリオットさんの攻撃魔法は、ほとんど防ぐことが出来るのよ?」と今まで大人しかったソフィアがジト目をしながらそう言った。きっと、エリオットもソフィアに挑んだことがあるんだろう。属性の相性的にエリオットの部が悪すぎる。
「なるほど。だから光と闇は上位属性なんですね」と俺は頷いておく。六属性あると聞いてから色々と考えてはいたが、どうやら、想定していたのとそれほど違いはなかった。こんなところでRPG好きが役に立つ日が来るとは。
「そう、だから光属性が使えるというは有利なことなんだ。ただ、良い面だけでなく悪い面もある。実は、この相性のせいで、他の属性が使えない可能性があるんだ」
「えっ!?」
「君のお姉さん、ソフィアがいい例だね。まあ、ソフィアは場合、光のマナに愛されすぎているというのも理由だろうけど。光は、他のマナに強い。それが気に入らない他のマナは反発してしまって、光属性の魔法しか使えないと考えられるんだ」
「そ、そうなのですか・・・」と言った俺は、エリオットの言葉に衝撃を隠しきれなかった。肩を落としてしょんぼりする俺の頭をソフィアが優しく撫でてくれる。
頭を撫でられていた俺は、ふと、あることに気が付き顔を上げてエリオットに尋ねた。
「エリオットさんって、確か、下位の四属性全てを使えますよね?相性によってマナに愛されないんだとしたら、それって、最大でも二属性になりませんか?」
「うんうん、良いところに気が付いたね。今の理屈だと、確かに最大で二属性になってしまう。でも、それには当てはまらない人が少なくとも存在するんだ。私がまさにそうだね。ただ、これに関しては、ハッキリとしたことは分かっていないんだ。だから、明確な回答は出来ないんだけど、他の属性が全く使えない訳じゃない。だから、そんな顔をしなくても大丈夫だよ」
「そうよ、ルゥ。それに他の属性が使えなくても、お姉さんの私と同じ光属性なんだから悲しむ必要なんてないわ」
・・・何だろう、ソフィアの慰めの言葉はちょっと嬉しくない。俺は他の魔法も使ってみたいのだけど。
「ここまでで、他に何か質問はあるかな?」
「はい、ずっと気になってたことが一つあります。初めに、六属性のことを基本な属性と言われていましたが、もしかして、特別な属性があるのですか?」
「おぉ、本当に良いところに気が付くね。大変素晴らしい」とエリオットが手放しで褒めてくれる。何故か、ソフィアが誇らしげだ。
・・・ちょっと、恥ずかしいんですけどソフィアさん。まあ、機嫌が良さそうだからよしとしておこう。
「実は、六属性以外にも属性はあると言われている。でも、未解明なことも多く、一般的にはあまり、知られていないんだ。まあ、魔法使いの間では有名な話ではあるけどね」
「六属性以外にも属性ってあったのね。知らなかったわ」
「ソフィア姉様も知らなかったのですね。でも、なぜ、あまり知られていないのでしょう?」
「理由は、大きく分けて二つかな。一つは単純に扱える人が少ない。そして、もう一つはその少ない人は、その属性について秘匿してしまう。だから、世間に広まることがないんだ」
「一応、使える人はいるということですね。でも、なぜ秘匿するのでしょう?解明されてないということは、解明することが出来たら大発見ですよね?」
「う~ん、それは・・・」と言ったエリオットは、少し顔を歪めながら話を続ける。
「実は、新しく見つかる属性は、威力が強すぎるというのが一番の理由だろうね」
「強すぎるですか」
「そうなんだ、ルート。・・・君は昨日、町の近くの木に雷が落ちたのを知っているかい?」
「はい。走り込みのために外に出ていた時に直接、落ちるところを見ましたから」
普段この辺りでは、雨が滅多に降らない。だが、昨日は突然、雷を伴う雨が降ってきたのだ。仕方がないので森の一番端側にある木の下で雨宿りをした。何気なく町の方を眺めていたら、一瞬、目の前が眩しくなったかと思うとすぐに轟音と地響きがあり、雷が近くに落ちたと分かった。あれは、怖かったよ。ここにも落ちるんじゃないかとビクビクしたのは記憶に新しい。
「・・・まさか雷が新しい属性の一つですか?」
「その通りだよ。私は、一人その属性を使えた人を知っているんだ」と言ったエリオットの顔は心なしか表情が暗い。
「使えた人、ということはもしかして・・・」
「察しの通り、既に亡くなっているんだ。その人の名は、マクレーンと言って私の魔法の師匠だった」
「・・・詳しくお話を聞いても良いですか?」
「あぁ、もちろん。知っておいてもらった方が良いだろうしね」
「師匠は、雷属性を使うことが出来た。大っぴらにはされていなかったけど一部の者には、そのことを教えていたんだ。私も一度だけ見せてもらったことがある。落ちた雷は、木を真っ二つに引き裂くとともに木を焼いてしまった。しかも一瞬で。あれほどの威力のある魔法は、それまで見たこともなかったよ。雷属性の魔法を使用するための原理を発表すれば地位や名声が手に入ったかもしれなかったが、師匠はそれをしなかった」
「・・・なぜ、エリオットさんの師匠は発表しなかったのでしょう?」と俺はなんとなく理由が分かってきていたがあえて尋ねた。
「それは、威力のある魔法が悪用されることを恐れたんだ」
エリオットの言葉を聞いてやはりと思う。人は、誘惑に弱い生き物だ。マクレーンは、威力のある魔法を他の人が手にした時、悪いことを考える輩が出ると危惧したのだろう。全ての人がそうだとは言わないが現実は、非情なものだ。
「結局、師匠はその一切を公言しなかった。そして、それを快く思わなかった一部の人達がいたんだ。あいつは、自分が魔法使いとしての優位を守るために秘匿している!とね」
「それは、逆恨みというものでは・・・」
「まさにその通りだね。でも、恨みを買った師匠は、その後、その人達に襲われたんだ。普通に正面からの魔法攻撃であれば、師匠が負けることはなかったと思う。だが、五人の魔法使いは卑怯にも、不意討ちで魔法攻撃を仕掛けた。師匠はそれを防ぎきれずに酷いダメージを負ってしまったそうだ。五人は、助けて欲しければ教えろと詰め寄ったが、それでも師匠は口を割らなかったらしく・・・。そして、師匠は抵抗を続けた揚げ句、力尽きてしまったんだ」
「ひどい話ね」「本当にそうですね。ソフィア姉様」と話ながらお互いの顔を見た。ソフィアの顔もそうだが、俺の顔もしかめっ面をしているだろう。
「それにしても、随分と状況に詳しいと思うのですが、居合わせたというわけではないのですよね?」
「あぁ、この話を知った国王が、大変ご立腹になられてね。直ぐ様、犯人を捕まえるよう、指示を出したんだ。そして、五人の魔法使いは、王国騎士団が捕らえた。五人は騎士団からの尋問を受けたあと、大変な事件を引き起こしたということ、そして、二度と同じようなことが起こらないようにするための抑止として、処刑された。私は、その尋問で聞いた内容を教えてもらったんだ」
「・・・新しい属性を見つけたとしても秘匿してしまうのは、無用な争いを引き起こさないためということなのですね」
「うん、その通りだね」
「でも、やっぱりちょっと残念です。単純に基本以外の属性を使えるって凄くカッコいいと思うんですけど」
「・・・ぷっ、ックック、アハハッ」
「え!?今の笑うところですか?エリオットさん」
「アハハッ、ゴメン、ゴメン。実に子供らしい意見だなぁと思っただけだよ」と言いながら少し涙目だ。
・・・涙流すほど笑うってちょっと酷くない?しかも、子供らしいって。実際、中身は二十歳を超えた大人なんですけど。あ、それは俺の思考が子供っぽいということか。何か凹むな。
そんな凹んだ様子の俺を見たエリオットが「お詫びに良いことを教えてあげるよ」と言った。
「実は、師匠から少しだけ雷属性について、教えてもらったことがある。使用するための鍵は、複数の属性から愛されていることらしい。そして、師匠からは、お前では決して使用することは出来ないと言われていた。だから、恐らくは、光か闇の属性が必要なんだろうと私は考えている」
「・・・エリオットさんの師匠は、雷属性以外に何が使えたのでしょう?」
「雷属性についての情報漏洩を防ぐためか、教えてもらってないんだ。けど、よく風の魔法を使っていたよ」
「そうなのですね。貴重なお話ありがとうございます」
実にいい話を聞いたと思う。六属性以外にも属性があるだなんて。他の属性が俺に使えるかどうか分からないけど夢が膨らむな。