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約束を果たすために  作者: 楼霧
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第四十八話 騎士コースとの戦闘訓練 後編 

「よし、俺たちだけで片付けるぞ!いくぞ、アルト」

「分かってるベルド。あいつらに出番は渡さない」


戦闘訓練開始の合図ととも、Cクラスの二人は、互いに顔を見合わせて頷きあった後、チラッとBクラスの二人を見てから、相手に向かって突っ込んでいく。何も考えずに魔法使いの利を捨てて突っ込むとか無謀過ぎると俺は思った。


騎士コースの生徒たちの内、リーダーと思われる男子が「来るぞ!」と叫んで剣を掲げる。周りの騎士が「おう!」と声を上げて、素早い動きで陣形を組んだ。大きな盾を持った重装備が二人前に出て、その後ろに軽装備の三人が身を隠すといった感じた。


相手の声を聞いて、その時、初めて相手にも女子が混ざっていることを知った。兜で顔がよく見えなかったし、軽装備とはいえ、それなりに重たそうな鎧だったので、勝手に全員、男だと思っていた。


「そんな盾が魔法に役に立つものか。くらえ。業火の炎よ、焼き尽くせ!」

「そうだ、一瞬で終わらせてやる。風よ舞え、全てを切り刻め!」


相手との距離が十メートルぐらいまで接近したアルトとベルドは、制服から杖を取り出すとそれぞれ攻撃魔法を放った。フレンたちに見せてもらった魔法よりもかなりしょぼく見える。だが、それでも相手に当てることが出来れば十分にダメージを与えることは出来るだろう。そう考えた俺は、もしかして、二人が距離を詰めたのは接近しないと当たらないからかとちょっと納得してしまった。


・・・でも、それはそれでどうなのだろう?魔法を扱えることにかこつけて、単純に鍛練が足りてないだけじゃないだろうか。


二人の魔法攻撃が重装備の騎士二人の盾に着弾するかと思われた次の瞬間、盾を覆うようにして、薄い透明な壁が現れる。一見すると、魔法障壁のようであったがそれは違っていた。魔法攻撃が透明な壁に触れると攻撃魔法がそっくりそのまま反射されたのだ。反射されたことに驚いたアルトとベルドは、自分たちに戻ってくる攻撃魔法に反応が遅れ、反射された攻撃魔法が直撃し倒れ込んでしまう。


・・・すごい。魔法反射なんて出来たのか。


しかも、ただ魔法を反射しただけじゃない。魔法を放った術者は使用した属性の保護を受ける。だから、そのまま術者に魔法を返しても大きなダメージを負わない。そして、今のは、きちんと術者とは違う方を狙って反射していた。随分と使いこなされている様子に感嘆の息を吐く。


これが、魔法使いに対抗するための騎士側の秘密兵器というやつだろうか。一体、どういう仕組みなっているのか気になって仕方はない。・・・これは思っていたよりも楽しいかもしれない。ちょっとテンションが上がってきた。


「救護班!」


騎士コースの先生が叫ぶと何処からともなく担架を持った人たちが出てきて、倒れた二人を壁際まで運んでいった。担架を持った人たちは、俺たちと同じ制服を着ており、胸元には杖の校章を付けた人と剣の校章を付けた人がいた。体格から考えて、恐らく二年生か三年生の先輩だろう。特に杖の校章を付けた人は、自分たちの魔法でのびた二人を生温かい目で見ている。・・・自分たちも通った道だと思っているのかもしれない。


その様子を見ていたBクラスの二人は、嘲るようにCクラスの二人のことを笑う。


「ふふ。たかが、魔法を反射されただけで情けないですわ。だから、Cクラスなのです。さあ、行きますよキーリエ。本当の実力というものを見せてあげましょう」

「ええ、そうですね。参りましょうかモニカ。それでは、我らが特待生様はそこで、ごゆるりと。ここは年長者にお任せくださいませ」


Bクラスの二人、モニカとキーリエはゆったりとした動きで騎士たちと対峙するように前に出た。だが、さっきの二人とは違い、今度はしっかりと距離を取っている。


・・・でも、魔法反射を「たかが」と言ってしまうのか。どうやら、事の重大性が分かっていないようである。


本当であればその危険性を教えてあげるべきなのだろうが、俺は敢えて黙って見ていることにした。そこで大人しく見てろチビって丁寧な口調で言われたばかりだし、マリクからも学校の思惑の邪魔をするなと釘を刺されている。



結局、モニカとキーリエは、アルトとベルドの二人に比べれば、長い時間を掛けて戦っていた。だが、内容としては目も当てられないものであった。


遠巻きに攻撃魔法を放っては、全てを反射された上に、反射された攻撃魔法を防ぐために魔法障壁を張る。その繰り返しにより、一方的に魔力を消耗させられて二人は、ガス欠となってしまう。後は、軽装備の三人に襲い掛かられたところで「参った」の声を悔しそうにあげた。・・・本当の実力を見せると言い切った結果がこれかよとツッコミを入れざるを得ない。


そして、魔法使い側は残すところ俺一人となった。


多分、この戦闘訓練は、魔法使いコースの生徒が持つ無駄に高いプライドを完膚なきまでに叩き潰すためのものなのだろう。騎士相手に敗れたということを教訓とさせるに違いない。皆、自分勝手で協調性はないし、自分が上だと相手を思いやる気持ちもない。魔法が使えることが全てだという考えでは、このままじゃ、ろくな大人にはならないだろう。


・・・観客席で見ている魔法使いコースの生徒に元気がないのは、天狗になったその鼻をへし折られたんだな。チームメンバーの四人も同じようにへし折られたと思うし、そろそろ俺、動いても良いよね?


あの魔法反射が気になって仕方がなかった俺は、やっと動けることを嬉しく思いながら、制服から右手で杖を出して、騎士たちの前に出る。すると、軽装備の三人の内、一人が前に出て話し掛けてくる。


「君が噂に名高いライトニングだね」


・・・ぐふっ。いきなり精神攻撃とはやってくれるじゃないか。それにしても、この声、初めに号令をした人の声だな。ということは、この人がリーダーか。


「名高いかどうかは知りませんが、その通りです。なぜ、わざわざ話し掛けてきたのでしょう?」

「いやなに。はっきりさせておこうかと思ってね。私たちは君のチームのメンバーと違って、君のことを子供扱いしたりしない。例えたった一人だとはいえ、全力でやらせてもらおう」


思いもよらない言葉に俺は目を瞬く。中々、良い心意気である。俺はそのことにちょっと嬉しく思いながらリーダーに、意地悪な質問を投げてみた。


「なるほど。でも、子供相手に五人がかりだと、外聞は良くないのではないですか?」

「ふふ。おかしなことを言う。むしろ、五人がかりでも君に勝てたら、それは十分に誉れだろう。だから、全力でその噂に名高い雷属性の魔法を使ってくるといい!」


リーダーの答えに俺は、自然と口の両端が上がっていた。俺を子供扱いすることなく、相対する者としてきちんと見てくれている。同じチームであったが、俺のことをメンバーとは思っていなかったあの四人とは、比べものにならないほどに好感が持てた。


・・・まあ、最後の言葉は、あからさまに雷属性の攻撃魔法を使えという挑発なんだけど、良いでしょう。俺も色々、試したいからその挑発乗った!


俺は、リーダーの人が元の位置に戻るのを見届けた後、サッと杖を相手にも向けた。そして、「行きますよ」と敢えて一言断ってから杖を大きく縦に振り下ろす。


「な、無詠唱!?気を付けろすぐに攻・・・」


リーダーの叫ぶ声をかき消すように、雷が轟音を立てて騎士たちに降り注ぐ。重装備の二人は持っていた盾を上向きにガシャッと音を立てながら構えて魔法を反射させようとしてくる。雷は、一部は透明な壁により、俺の方に反射されたが、一部は騎士に当たったようで、重装備の二人の後方から「んがっ」「きゃあ」という声が聞こえてきた。


・・・ふむふむ、なるほど。全方面をあの透明な壁で囲える訳ではないと。


「二人は犠牲になったが、雷属性の攻撃魔法を返したぞ!」


その言い方だと、まるで二人を殺したみたいじゃないかと思いながら俺は杖を前に掲げる。そして、俺に向かってくる雷を杖で絡めとってから、ブンッと大きく縦に振った。


「そんな。なんだそれは・・・」

「これですか?そうですね。差し詰め雷の剣といったところでしょうか」

「馬鹿な。あり得ない」


リーダーには悪いが、残念ながらあり得る。とあるドラゴンが火で剣を作っていたので俺は知ってる。皆が知らないだけである。俺は、あの透明な壁に雷の剣を試すべく、重装備の一人に向かって駆け出した。雷の直撃を免れたリーダーと重装備の二人は、唖然としているのか固まって一歩も動かない。


「・・・来るぞ!気を付けるんだ。しっかりと盾で防ぐんだ」


俺がかなり接近したところで放心状態から立ち直ったリーダーが、盾で防ぐように指示を出す。俺にとっては好都合な指示だ。俺は、待ち構えてくれた盾に向かって、右手で持った雷の剣を振り下ろす。すると、雷の剣が盾に当たる寸前で、透明な壁に阻まれて雷の剣が弾かれてしまった。


・・・やっぱり、魔力によるものは駄目なのか。だったら。


俺は、弾かれて後ろのめりになった勢いを殺さずに、そのまま盾の目の前で右回りにヒラリと一回転する。回転をしている間に左手に鋼属性の魔法で鉄の剣を作り出し、回転の勢いのまま斬り払う。今度は、透明な壁に阻まれることなく、鉄の剣が盾に当たってキンッと硬質な音が鳴り響く。攻撃が届いたことに驚いたリーダーが「これ以上はやらせない!」と言って横から斬りかかってきたので俺は、補助魔法で身体能力を上げて、一気に後方へジャンプしてその場を退いた。


・・・ふぅ。危ない危ない。とりあえず、魔法で創製したものでも、それに魔力が宿っていない状態であれば、防ぐことが出来ないようだ。


「本当に君は凄いな。その剣は一体何処から出したんだい?もう、何が起こってるのかまるで、分からないよ。・・・流石はソフィア様に勝ったというだけのことはあるし。それに随分と戦い慣れているね」

「こう見えても冒険者やってますから」

「冒険者?あれは確か、十歳になってからだったと思うが・・・。なるほど、すでに実戦を経験済みという訳か。本当に、君は規格外のようだね。でも、だからと言って負けるつもりは更々ないよ!」

「ありがとうございます」


実力差を感じたはずなのに、それでもなお真っ直ぐに向かってきてくれることが嬉しくなって思わずお礼を言っていた。俺の言葉にリーダーは目を瞬いて驚いた後、ニッと笑って「どういたしまして」と言ってくれる。・・・こんな人がもっと学園に居てくれたら、とても居心地が良いかもしれないなぁ。


「今更なのですが、お名前を聞いても良いですか?」

「私の名前は、ウィルだ。あと、盾を持っている二人はフェルドとアウラ、君の雷撃を受けて脱落した二人はルーファンとミントだ」

「ご丁寧にありがとうございます。・・・重装備の方、一人は女性の方なんですね。驚きました」


まさか、あれだけ重そうな鎧と盾を身に着けているのが女子とは思わなかった。どれだけ、ムキムキマッチョなんだろうと思っていたら、察したウィルが首を横に振りながら答えてくれる。


「彼女は、少しだけ火属性の補助魔法が使える。騎士だからといって別に全く魔法が使えない訳じゃないんだよ」


ウィルの言葉を聞いて、ゴリラみたいな想像をしていたことを心の中でアウラに謝りながら、そういえば、母のリーゼも騎士でありながら光属性の治癒魔法が使えるなと思って納得する。


「さて、何か中断させてしまってすみません。そろそろ再開しましょうか?」

「ああ、そうだな。力の限り挑ませてもらおう!」

「それでは、ウィルさん、それにフェルドさんにアウラさんも、行きます!」



「よし、それじゃあ全員が終わったところで反省会をするぞー!」


騎士コースとの戦闘訓練の全てを終えたことで、魔法使いコースと騎士コースに分かれて闘技場の観客席で反省会が行われることになった。反省会の音頭を取るのはマリクである。


俺は観客席に合流した時、改めて皆が浮かない顔をして、空気が重いことを肌で感じた。だが、俺はそんな皆と反比例するかのように一人だけホクホク顔をしている。場違いだと言われて、つまみ出されてもおかしくないぐらいレベルにである。


・・・とても満足のいく、戦闘訓練でした。


「それじゃあ、まず、反省点がある奴は挙手をしろ」


マリクは、挙手をして発言するように求めたが誰も反応を示さなかった。皆、黙りこくってピクリとも動かない。各々の顔には、反省すべきところはないといった感じが見て取れた。その様子に仕方がないと思った俺は、ピンと手を伸ばして「ハイッ」と元気に挙手をした。反省すべきことはいくらでもあるだろう。


「ルートか。お前は、十分に楽しんだろうから却下だ」


折角、発言しようかと思ったのに、マリクは手をパタパタと振ってながら、俺の回答はいらないとバッサリ斬り捨てられてしまう。ひどい。俺は、むぅと口を尖らせながら手を下した。


「何だ?他にはないのか?それじゃあ、質問を変えよう。なぜ、お前たちは負けたと思う?」


マリクが質問を変えると一人の生徒が手を上げる。近くにアルトとベルドの二人が座っているから恐らく、あの一体に固まって座っているのはCクラスの生徒だろう。


「あの盾のせいです。あんな盾さえなければ、騎士なんかに負けません」


手を上げて発言した生徒は、全ては盾のせいだと、だまし討ちのような目にあったからだと言い放つ。それに恭順を示すかのように、周りの生徒が首を縦に振って頷く。Bクラスで固まって座っている生徒たちも、同じように頷いたり、挙手した生徒と同じ様なことを口々に言い始めた。俺はその発言に気分を悪くしながら、眉間にしわを寄せて黙って話を聞く。


・・・怒っちゃ駄目だ。怒っちゃ駄目だ。


口々に言い放たれる言葉は、どんどんとエスカレートしていった。卑怯だとか、悪辣だとか、正々堂々じゃないとか、自分たちのことは棚に上げて、次々に相手を罵倒する言葉が増えていく。正直、聞くに堪えない状態である。


ただ、そんな中でもAクラスのメンバーだけは、大人しく成り行きを見守ると言った感じであったのは、少し印象的だった。・・・もしかしたら、初っ端に俺が鼻っ柱をへし折っていたせいかもしれない。


そして、罵倒する言葉は最終的に、こんな戦闘訓練の結果は無効だとか、あの盾なしでもう一回やらせろとか言い始めたところで、俺の堪忍袋の緒が切れた。こいつら本当に、全く、これっぽっちも、反省する気がない。いや、そもそも反省の二文字がこいつらの頭にはない。


他の騎士たちがどんな態度だったのかは知らない。でも、大方、同じような心意気を持った人たちだと俺は思う。だから、これ以上、真っ直ぐに向かってきてくれたウィルたち騎士のことを蔑むのであれば、容赦はしない!


俺は、皆を黙らせるべく、杖を取り出してカッと一瞬、目が眩むほどの光を出す。「うわ」「きゃあ」といった悲鳴が聞こえるが無視だ。皆が目を眩ませている間に俺は、マリクにひんやりとした笑顔を向ける。マリクは、俺が杖を出した時点で、何かすることを察して眩い光から逃れていた。


俺の表情を見たマリクは、俺が何を言いたいのか分かったのだろう。「はぁ」と大きくため息を吐いて、額を手で押さえた後、仕方がないと言った顔で首を少し横に振ると、顎を前に突き出すようにクイッと動かす。マリクから無言の許可をもらった。


・・・ごめんね先生。あまりにも言いたい放題のこいつらに一言、二言文句を言わなければ、俺の気が収まらない。


初めは目を押さえていた皆であったが、だんだんと目が慣れてきてのか、一体何をするんだといった感じに俺に視線が集まってくる。俺は、その視線を睨み返すようにしながら、皆の姿を臨める位置であるマリクの隣に移動した。


さあ、これから、説教タイムだ!

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