表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
約束を果たすために  作者: 楼霧
51/309

第四十七話 騎士コースとの戦闘訓練 前編

座学の試験があった翌日、学園に行くとフレンたちから「試験はどうだった?」と詰め寄られる。俺は、無事に合格したことを伝えると「試験内容を教えてもらってないのにどうやって?」と訝しがられてしまう。


「・・・別に、親の七光りじゃないですよ?」

「それに関しては悪かった。頼むから忘れてくれ!」


フレンは顔を手で隠すようにしながら叫ぶ。もしかして、合格に不正があったんじゃないかと疑われているのかと思いきやそうではなかったようだ。


「でも、本当にどうしたんだい?対策せずとも合格出来るような、簡単なものではなかったんだろう?」

「レクトの言う通り、簡単ではなかったですね」


俺はレクトの疑問に答えながら、制服のポケットから道具袋を取り出す。そして、道具袋から紙の束を出して皆に見せた。紙の束は、カジィリアの思いつく限り書き出してもらった問題がびっしりと書かれた問題集である。ここに書かれた問題を全て解くこと出来れば、座学の試験に余裕で合格することが出来る。だから、折角なのでクラスの皆にも見せてあげようと思って持ってきたのだ。


俺が取り出した問題集とその説明を聞いた四人の反応は様々であった。フレンは問題の量に唖然とし、石像のように固まってしまう。レクトは問題集ではなく「その袋は何だい?」と道具袋に、アーシアは一枚、紙を手に取って手触りを確かめながら「羊皮紙ではなさそうですね」と紙に興味を見せる。エリーゼは、ガサッと問題集を手に取ると、問題内容を流すように目を通し始めた。


エリーゼが問題を流し読みしている間に、俺はレクトに自分は冒険者であるから道具袋を持っていること、アーシアには魔法で紙を作ったことを説明する。二人は俺の言葉に目を瞬くと一息吐いて肩を竦める。


「冒険者って、確か十歳からなれるものだろう?でも、十二歳で入れる学園に入学している時点で、君にはもはや今更な話なのか。本当に常識外れだねルートは」

「ルートちゃんは紙を魔法で作ったというけど一体、どういうことなのかしら?そんなことが出来るマナは聞いたことがないわぁ。本当にルートちゃんは何でも出来る不思議な子よねぇ」


レクトは髪をかき上げながら、アーシアは片手を頬に当てて首を傾げながら、ちょっと呆れた顔になる。言い方はどうであれ、俺の実力を認めてくれていることは分かったので、そのことにホッと安心する。


レクトたちと話している間に、問題集の最後の一枚を見終わったエリーゼが、紙の束をバシッと一回叩いて俺のことを睨んでくる。


「ちょっと待ってルート。明らかに魔法使いコースで習う範囲を超えてるじゃないの」

「あ、エリーゼもそう思います?お婆様が嬉々として問題を出してくれましたからね。俺もやりながら範囲を超えてるだろうなぁとは思ってました」

「それなのに、ルートはこれを解いたと?」

「もちろん、分からなかったものはお婆様に教えて頂きましたよ?」


エリーゼは、俺の回答に何やら呆れたような顔をすると大きなため息を一つ吐いて首を横に振る。


「はぁー。あのねルート。ちょっとやそっと教わって出来るものじゃない問題もあるじゃないの。それを解いてしまったなんて、カジィリア様の教え方が素晴らしいと言うことなのかしら?それとも、魔法に加えてルート自身がおかしいのかしら?」

「その感想はちょっとひどくありませんかエリーゼ?」

「十人居れば十人とも同じ感想持つはずよ」

「そうですか・・・」


エリーゼの感想がとても辛辣だ。それに何だかちょっと機嫌が悪い。何か悪いことをしただろうか。


「でも、実際、座学の試験は、その範囲を超えたところから問題を出されましたからね」

「で?それを見事、解いて見せたと」

「はい、座学の先生たちもびっくりしてましたよ」

「それはそうでしょうに。はぁ」


・・・どうして、そんなにも頭が痛いって感じなんでしょうか?解せぬ。


「まあ良いわ。そのことを今更、掘り返しても仕方がないことね。他の三人は、この通り興味無さそうだし、私がこの問題集を借りても良いかしら?」

「ええ、もちろんです。皆の参考になればと思って持ってきましたから。役立ててもらえると嬉しいです。きっとお婆様も喜んでくれると思います」

「そう。それじゃあ、少しの間、借りるわね」


エリーゼは、問題集を持ったまま自分の席に戻る。ボソッと小さく「私だって」と呟いて、真剣に問題とにらめっこし始めた。そんな様子のエリーゼを見て、俺は心の中で「頑張れ!」と応援しておく。


・・・だって、エリーゼも定期試験を待たずして座学の試験に合格すれば、俺が座学の試験を合格したことの皆からの印象が薄れるはずだ。真面目なエリーゼなら食い付いてくれるかもしれないと思っていた。


ただ、エリーゼのあまりにも真剣な様子に、もしかしたら、勉強が出来ることにプライドを持っていたのかもしれないと思った。変に刺激したことで、機嫌を悪くさせてしまったのなら反省しないといけないなとちょっと後悔する。



それから三日後、週末であり、風の季節二月目の最後の日でもある闇の日、朝のホームルームでマリクが突然、不思議なことを言い始める。


「今日は、騎士コースの一年生との交流を深めるための戦闘訓練がある。魔法使いコース対騎士コースで戦うことになるからな。ちなみに、魔法使いコースはAクラス、Bクラス、Cクラスの混成チームとなる」

「「「「ええー」」」」


フレンたちからブーイングが起こると「何でそんなことを?」といった意見をマリクに投げ掛けた。俺も皆の意見に賛成だと思いながら頷く。マリクは言い聞かせるように「Aクラスだけでチームを組むとバランスが悪いからな当り前だろう?」と言う。その回答に俺は眉をひそめたが、皆の顔は納得の色を見せる。


・・・あれ?それで皆、納得しちゃうの?


どうやら、フレンたちは騎士コースの生徒を相手にして戦うことに、ではなく、BクラスとCクラスの混成チームになることにブーイングをしていたらしい。・・・俺の意識は皆とずれていたよ。


騎士コースの一年生と交流を深めるために戦闘訓練があるのは分かる。校舎が基本的に違うから、騎士コースの生徒とほとんど係わることがない。朝と夕方の登下校の時にちょっとすれ違うぐらいなのだ。学園としても、毎年行っている恒例行事らしく意外と伝統があるらしい。だが、分からないのは、なぜ魔法使い対騎士で戦う構図となっているのかだ。


普通に考えれば、魔法使いと騎士じゃ、圧倒的に魔法使いが有利だ。いや、有利どころの話じゃない。だから、交流を深めるというのであれば、魔法使いと騎士の混成チームを作って戦闘訓練を行うべきだろう。勝負の見えた戦闘訓練なんか、やっても全く意味がないと思うのだが。・・・うーん?何かあるのか?


フレンたちが、「まあ、軽く相手してやりますか」といった話をして、余裕を見せている中、俺一人だけ首を傾げていた。それに気が付いたマリクが俺を見ながら、軽く首を横に振る。暗に「余計なことを口にするな」と言われた気がしたので俺は口をつぐむことにした。


・・・その様子だと、やっぱり、何か裏があるんだな。


「時間になりました。フレンは闘技場に移動して下さい」

「先生、ご苦労様です。呼び出しが掛かったからフレンは闘技場に移動してくれ。他の者は、順番に一人ずつ戦闘訓練を行う闘技場に移動してもらうからな」

「よし、騎士コースの奴らなんか、かるーく相手してきてやるぜ!」


フレンは気合を入れるように、右手て握った拳を左手にパンッと打ち付けて、教室を出て行った。その様子を見ながら、俺はふと闘技場ってどこにあるんだろうと疑問に思う。


「マリク先生。闘技場ってどこですか?」

「ん?ルートは知らなかったか。魔法使いコースの校舎と騎士コースの校舎の間に建物があるだろう?それが、闘技場だ」

「あぁ、あの長方形の建物ですか」


豆腐建築みたいな建物が魔法使いコースの校舎と騎士コースの校舎の間にあることは知っていたが、何をするための場所なのかは知らなかった。まさか、あれが闘技場とは。俺の中で闘技場と言えば、コロシアムみたいな円形の闘技場が頭に浮かぶので、あれが闘技場とは絶対に思い付かない。


フレンが出て行った後、次の順番が回ってくるまで、マリクの魔法学の授業が普通に行われた。もう少し、戦闘訓練に関する話を聞きたかったのだが、「それは闘技場で聞け」とマリクに言われてしまう。そして、それから三、四十分は時間が経った頃にエリーゼが呼ばれて出て行った。その後、アーシア、レクトの順番に呼ばれて教室を出て行ったのだが、何故か闘技場に行った者は、誰一人戻ってこない。教室の中に居るのは、俺とマリクだけとなっていた。


戻ってこない理由は何か意味があるんだろうなと思いながら、折角、マリクと二人きりになったので、さっき聞きたかったのに、聞けなかった疑問を俺は口にする。


「それで、一体全体、何を企んでるんですかマリク先生?」

「企んでるとか人聞きの悪いことを言うもんじゃないなルート」


俺はジトッとした目をマリクに向けるとマリクは、からかうようにニヤッと笑みを浮かべる。


「なに、魔法使いコースで入学したものは誰しもが必ず通る道だ。別におかしなことをしようって訳じゃない」

「はぁ。まあ、良いですけど。わざわざ一人ずつ呼び出したり、戦闘訓練がすでに終わっているはずなのにフレンやエリーゼ、アーシアが戻ってこなかったり、おかしな点ばかりなんですけどね。まるで、どんな戦いなのか見せたくない、どんな戦いをしたのか聞かせたくない、みたいですよね。一体、何を隠してるんでしょう?」

「ほう。ルートのことだから何か気付くんじゃないかとエリオット学園長が言っていたが、まさにその通りだな。本当に良く頭が回る」


「大したやつだな」とマリクに褒められるがちょっと考えれば誰でも思いつくことだと思うので、あまり嬉しくない。魔法使い対騎士という勝負の見えた戦いをわざわざするという時点で何かあると思うのは当然のことだと思う。そんな一方的な勝負をしたら、益々、魔法使いコースの生徒は増長するだろうし。


・・・ということは、それを覆してしまうような何かがあるというか?何それちょっと楽しみ。


「何かが起こるのでしょうね。その何かが、何なのか分かりませんがちょっと楽しみになってきました」

「やる気を出してくれるのは良いんだが、やり過ぎるなよ?それに、まあ、お前のことだから大丈夫だと思うが、学園の思惑は潰さないようにな。それだけは、気を付けてくれ」


・・・先生、いくら何でも学校の思惑があるとかぶっちゃけ過ぎではないでしょうか?それに、そこまで言うぐらいなら、いっそのこと何をするのか教えてくれても良いような気がするんだけど。


俺はむぅと思いながらマリクとにらめっこをしていると、レクトの番が終わったのか俺の番だと先生が呼びに来てくれた。俺が一番最後なので、マリクと一緒に教室を出て、呼びに来てくれた先生の後に付いて歩く。それにしても、レクトの番は、随分と時間が短かったのだが一体、何があったのだろうか。ちょっと気になる。


魔法使いコースの校舎を出て、長方形の建物へと向かう。建物の側面に出入口あり、そこから中に入ると左右に伸びる通路と目の前に上に上がる階段があった。階段を上ると闘技場の観客席に行けるそうで、ここでマリクとはお別れすることになった。マリクは「頑張れよ!」と言って、手をヒラヒラと振りながら階段を上って観客席へと向かっていった。


俺は呼びに来た先生に案内されて左右に伸びる通路を右手に進み、突き当りを直角に曲がった。曲がった先の通路のちょうど真ん中あたりに壁がないところあり、そこまで案内されると先生から「さあ、入りなさい」と背中を押されて、俺一人だけ闘技場の中に入った。闘技場の中央には、既に人が集まっており、どうやら、俺が一番最後らしい。


「へぇ、サッカー場みたいだなぁ」


闘技場は、サッカーの試合が出来るぐらいの広さがある。流石に地面は芝生ではなく土であったが。闘技場のフィールドをぐるりと一周、観客席が取り囲むようにあった。観客席は俺が居る位置から、一段高くした場所にある。多分、上からの方が観やすいし、戦いが行われる場所と同じ目線に観客席があると単純に危ないから高い位置に観客席があるんだろう。


その観客席には、俺が今しがた入ってきた魔法使いコース側とその正反対の騎士コース側にそれぞれ固まって座っている人の姿が見えた。


誰が座っているのかと魔法使いコース側を眺めながら、闘技場の中心部に向かって歩いているとフレンたちが座っていることに気が付く。そして、その周りに居る生徒を見ると、皆の制服の胸元に魔法使いコースを示す杖の校章が見えた。どうやら、こちら側には魔法使いコースの生徒が座っているようだ。そうなると、向こう側に座っているのは当然、騎士コースの生徒が座っているということになる。


それにしても、何だか魔法使いコースの生徒たちに元気がないように見える。それに、とても静かだ。意気揚々と教室を出て行ったフレンでさえ、今はムスッとした顔付きで、太ももで頬杖をつきながらこちらを静かに見ている。それと対照的に、騎士コース側は、何やらちょっとガヤガヤしている。何を話しているかまでは流石に聞こえないが、声が弾んでいるような気がする。


闘技場中央にたどり着くと、鎧を身に着けた人が「よし、集まったな」と言って集まったメンバーを見渡す。今までに見たことがない人なので、多分、騎士コースの先生なのだろう。


「それじゃあ、魔法使いコース五名と騎士コース五名による最後の戦闘訓練を執り行う!これから、少しだけ打ち合わせを行う時間を取る。それぞれ、十分に準備を行うように!以上!」


・・・ちょっ、え?何?説明それだけ?


あまりにも簡素な説明に戸惑っていると騎士コースの先生は、邪魔にならないようにと踵を返して闘技場の壁際に歩いていってしまう。


正直言えば、聞きたいことが山ほどある。特に、装備に関しては文句を言いたいぐらいだ。騎士コースの生徒はガチガチに鎧で固めているし、当り前だが帯剣している。それなのにこちらは、制服のままだ。何だこの扱いは、と目を白黒させている内に、騎士コースの五人は慣れたように集まって作戦会議を始めているのが見えた。


打って変わってこちらは、二人ずつ固まって、集まろうともしない。多分、恨めしそうに女子二人を睨んでる男子二人がCクラスで、それを蔑むように見ている女子二人がBクラスだと思われる。そして、そんな四人とも俺のことは全く眼中にない。子供だと思って甘く見られているのがよく分かる。


・・・ろくに説明がない上に、この協調性の無さ。こんな状況で一体どうしろっていうんだ!


俺は四人の態度を見て、話し掛けたところで話を聞いてもらえるとは微塵も思えなかったのでこめかみに手を当てながら、黙って今の状況整理する。


こんな最悪な状況、むしろ、わざと作り出しているんじゃないだろうか。魔法さえ使えれば騎士相手なんて、どうとでもなるといった傲慢さが透けてみえる。他の皆もこんな感じだったのだろうか。それでいて、今は元気を無くしていると言うことは・・・。


結局こちらは、打ち合わせを全く行うことなく時間が終わってしまう。そして、騎士コースの先生の号令が闘技場の中に響き渡る。


「よし、時間だ。それでは、各自、戦闘準備!なお、この闘技場は特殊な結界で守られているから壊れることはないし、観客席に被害が及ぶこともない。思う存分に力を出すと良い!それでは始め!!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ