第四十五話 クラスメイトと実技試験
「紹介しよう。こちらは、マリク先生だ。ルート君が入るクラスの担任の先生になる」
「初めまして、宜しくお願い致します」
「ああ、こちらこそよろしく頼む。まあ、色々と大変な立場だと思うが頑張れ」
短めの茶色の髪で落ち着いた感じに見える。多分、エリオットよりは年上だろう。体格が良くて腕っぷしが強そうな姿が傭兵みたいだなと思っていたら、担任の先生だった。担任と言うことは魔法使いコースの先生ということのはず。でも、全然そうは見えない。・・・本当は騎士コースの先生なんじゃないだろうか?
「エリオットさ、あー、エリオット学園長と呼んだ方が良いですよね?」
「私としてはどちらでも構わないけど、マリク先生の心証を考えるなら学園長の方が良いだろうね」
「では、エリオット学園長。俺の事情って皆さんどれくらい知っているものなのでしょうか?今の感じたとマリク先生は俺の事情を分かって下さっているんですよね?」
「学園の教員は全員、君が王命で入学することになったことを知っているから、何かあったら頼りにすると良いよ。但し、学生にはそのことは伏せて特待生が入ってくるということになっているから」
・・・特待生。響きは悪くないけど完全に悪目立ちしてるような気がする。まあ、仕方ないか。
「もうすぐ、授業が始まるので話はここまでにしよう。それじゃあ、最後に一つアドバイスしておこうかな。この後、君は実技試験をすることになっているんだけど、全力でやるように」
「実技試験ですか?魔法を使う試験だと思いますが・・・。全力でとは、どういうことでしょう?凄く目立ちますよね?」
「その辺りは、折角なので担任のマリク先生に聞く良いよ」
「分かりました。それでは、失礼致します」
「頑張ってねルゥ」
俺はマリクと一緒に学園長室を後にした。マリクに案内される形で魔法使いコースの校舎へと移動を始める。
「マリク先生、さっきエリオット学園長が言っていたことを詳しく教えて頂いて良いですか?」
「ああ、良いだろう。まずは、クラス分けと実技試験についてから話すかな」
魔法使いコースはAクラス、Bクラス、Cクラスの三つのクラスがあるそうで、Aクラスが最も優秀なクラスで、後は順番にBクラス、Cクラスとなるそうだ。実技試験は、そのクラス分けをするのに行われるものだと教えてもらう。
実技試験の内容は、丸太を相手に魔法攻撃を当てて、その結果で判断するそうである。結果の目安としては、丸太を破壊出来る者はAクラス、丸太に傷を付けれる者はBクラス、丸太に攻撃が当たらない、当たっても傷が付かない者はCクラスとなるのだそうだ。ちなみに、Aクラスになれる者は毎年、一握りらしい。
「マリク先生。丸太相手にということは、属性によって、有利不利が出ますよね?火属性を使える人が最も有利な試験になりませんか?」
「なかなか、良いところに気がつくじゃないか。もちろん、属性による結果の違いは考慮する。属性毎に細かく設定されているから不平等になることはない」
「なるほど、分かりました。それで、その試験を全力でやるようにとは、どういうことでしょうか。出来ればあまり目立ちたくないんですが・・・」
俺の言葉にマリクは苦笑しながら「まあ、お前の気持ちも分からんではない」と頷いてくれる。だが、マリクは指を三本立てて、「それには三つの理由がある」と話を続けた。
「まず、一つ目。ルートは特待生として入学したことになっている。そして、お前が入るクラスはAクラスだ。つまりは、それだけの実力があることを証明しなければならない」
Aクラスとしての実力を示すのであれば、話を聞く限り、全力を出す必要はない。特待生だということを強調させるためにということだろうか。
「二つ目。魔法使いコースで入学した一年生の大体の奴が無駄にプライドが高い。そんな奴等を黙らせるだけの実力を見せつける必要がある。まあ、二、三年生なればそんなことないんだがな」
魔法使いコースで入学した者は、ある意味将来を約束されたエリートなのだそうだ。だから、上位のクラスであればあるほど、プライドが高く、さらには天狗になっているらしい。そして、そんな一部の学生からは既に不満の声が上がっているらしい。・・・何それ、めんどくさい。
「まだ、不満そう顔をしているな。だが、最後の三つ目は、ルートにとって最も重要なことだろう」
「と、言いますと?」
「憧れのソフィア様に決闘で勝ったという弟を倒せば、ソフィア様とお近づきになれると息巻いてる学生が多い。ちなみに、コースや学年に関係なくだ」
「よく分かりました。全力でいきましょう。何事も初めが肝心です」
「ククッ、分かってもらえたようで何よりだ」
きっちりと実力を見せておかなければ、後々、面倒なことになるとマリクから教えてもらい、後ろ向きだった気持ちが前向きになって俺はグッと拳を握る。降りかかる火の粉を払うのではなく、降りかかる前に対処しておく必要があるだろう。・・・本当に、無益な決闘だけは勘弁してほしい。
文官コースの校舎を出ると渡り廊下があり、その先に文官コースの校舎と同じような造りの建物が二つあった。左手に見える建物には、六属性ごとの研究室があるらしく、二年生からお世話になるそうだ。そして、右手に見える建物の一階に一年生のクラスがあり、二階が二年生、三階が三年生となっているとマリクが説明してくれる。
魔法使いコースの校舎に入ってすぐにある教室がAクラスの教室だった。マリクは教室のドアを開けながら「俺の後についてくるように」と言って教室に入った。俺は、マリクの指示に従い、後を追うようにして教室に入る。
教室の中は、一部を除いては至って普通な感じであった。一番前には黒板があり、その前に先生が教鞭をとるための教壇がある。そして、それに向かい合うようにして木で出来た机が並んでいた。おかしな点は、広い教室の中、並んだ机は横一列に五つしかなく、縦には一つも机がない。教室の後ろ半分以上がガランとしていた。
そして、五つ並んだ机の内、四人しか席についていない。つまりは、俺を入れてAクラスは五人しかいないようだ。一年生がどれだけいるのか知らないが、一握りとはこういうことかと俺は思った。
「えー、前から話していた通り、今日からお前たちと同じクラスになる特待生だ」
「ルート・エルスタードと申します。宜しくお願い致します」
挨拶をしたが、皆の反応がとても薄い。さて、どうしたらいいかなと俺は首を傾げる。すると見かねたマリクが、頭を掻きながらクラスメイトの名前を教えてくれる。
「ルート。右手から順番に、ふて腐れてしかめっ面をしているあいつは、フレン。その隣のチャラそうなやつがレクトだ。それから、その隣のおっとりしたお嬢さんアーシアで、最後にメガネを掛けた真面目そうなのがエリーゼだ」
フレンは、金色の髪でツンツンした髪型をしている。ふて腐れている理由は、態度を見ていればだいたいの想像はつく。腕を組みながらフンッと鼻を鳴らしてとても嫌そうにしている。レクトは、男でありながら黄土色の髪を肩まで伸ばしている。見た感じがちょっとナルシストぽい。その長い髪を指でいじりながら我関せずといった態度である。
アーシアは、水色の髪で綺麗なロングストレートでおっとりしたお姉さんといった感じだ。ゆっくりと首を傾げながら俺に向けられた視線は、まるで子供を見るような目だ。エリーゼは、黄緑色の髪を二つ編みの一本おさげにして、その見た目がいかにも委員長っぽい。メガネの奥にある瞳は、本当に大丈夫かと訝しがる感じに見える。
・・・とりあえず、一人は不満、一人は無関心、一人は子供扱い、一人は不安といった感じだろうか。聞いていた通り、俺の入学は、好意的には思われていないようだ。先が思いやられるなぁと俺は、心の中で大きくため息を吐く。
妙な沈黙が続いた後、突然、フレンが机をバンッと叩いて立ち上がる。そして、俺に人差し指を向けて「俺は認めないぞ!」と言い放つ。
「どうしてこんな子供が入学出来るんだ!しかも俺たちと同じAクラスだなんておかしいだろう!!どうせ、親の七光りで入ったのだろう!」
フレンのあまりの剣幕さに俺は目を瞬いて驚く。そして、ふと思った疑問を教壇に立つマリクに問いかけた。
「マリク先生。フレンさんはああ言ってますが、実際、親のコネで入学出来るものなのですか?」
「いや、エリオット学園長は権力による入学を許していない。能力がある者が、自身の実力を見せることで、身分に係わらず入学が出来るのが今の学園のあり方だ。この学園のあり方は、レオンドル王が取り決めたものでもある」
マリクは、首を横に振りながらありえないと俺の質問に答えた。だが、フレンはその答えに全く納得がいかない顔をしている。
「先生はこう言ってますが、フレンさん?」
「エルスタード家と言えば、貴族の中でも上位の名門。それに加えて、王族ともつながりが深いではないですか!何か、ずるい手を使って入ったに違いないんだ。でなければ、こんな子供にあのソフィア様が負ける訳がない。何か悪辣なことをしたに違いないんだ!」
・・・本当にひどい言われようだ。年上だからとはいえ、そこまで言われる筋合いはないと思うのだが。内心、傷付いたのを通り越してちょっとイライラしてきた。
「ふむ。まあ、そういう不満が出ることは端っから分かっていたことだ。だから、これからルートの実技試験を行うことになっている。これは、エリオット学園長の意向でもある。というわけで、全員、外に出ろ。演習場に行くぞ」
「フンッ、当然のことだ。せいぜい、無様な姿を晒して、学園から出ていけばいい」
「まっ、期待はしてないけど。付き合いますか」
「ちっちゃいのに大変だと思うけど頑張ってね」
「噂の真偽。見極めさせてもらいます」
マリクの号令の下、俺の前を横切るように四人がぞろぞろと教室を出ていく。当たり前ではあるのだが、四人とも、俺よりも身長が一回り大きい。成長期を考えれば特に差が出てくる年頃だろうなので仕方がない。ただ、見下ろして向けられた視線が、蔑みを孕んでるように思えた。俺は、四人全員が教室を出たところで、大きくため息を吐く。
「はぁー。マリク先生、帰って良いですか?」
「駄目だ」
「ですよね。言ってみただけです」
「まあ、実力を示せば態度も変わるはずだ。それに、ちゃんとお膳立てしてやるからな」
マリクは俺の頭をポンポンと軽く叩きながら「心配すんな」と声を掛けてくれる。その後、俺はマリクの後についていくようにして、実技試験を行う演習場に向かう。演習場は、廊下に出て、今しがた入ってきた出入口とは反対の位置にある出入口から外に出るとあるそうだ。
校舎から外に出ると広い運動場があった。その奥には木々が広がっているのが見える。マリクに聞くと学園の裏には大規模な森があるらしい。森と聞いてちょっと心惹かれるものがあった。何しろ、この一年近く、ほとんどメルギアの森で過ごしてきたと言っても過言ではないからだ。
・・・それだけ聞くとなんか俺って野生児みたいだな。とにかく、時間が出来たら行ってみようっと。
運動場の端っこに丸太が何本も地面に突き刺さっている場所があった。どうやらそこが演習場らしく、先行していたフレンたちがその場所を目指して歩いている姿が見える。「ほれ、俺たちも行くぞ」とマリクに促されて少し駆け足でフレンたちの後を追った。
「さてと、演習場に着いたことだし早速、ルートの実技試験を始めよう、とする前に、まずはお前たちの実力をルートに見せてやれ。特にフレン。お前はあれだけの啖呵を切っていた訳だしな」
演習場にたどり着くとマリクは、フレンたちに「まずはお手本を見せてやれ」と指示を出した。フレンは、焚き付けられたこともあり、「俺の実力を見て驚くがいい!」とやる気満々で制服の内側から杖を出して構える。他のメンバーも仕方ないといった顔つきで、同じように杖を構えた。
「業火よ、彼の敵を焼き尽くせ!」
フレンは、詠唱しながら杖を振るう。すると、一メートルぐらいの火球が現れて、数十メートル先にある丸太を目掛けて飛んでいった。それを皮切りにして、他のメンバーも詠唱しながら丸太目掛けて魔法攻撃を放つ。ちなみに、レクトは土、アーシアは水、エリーゼは風を使えるようである。
「あのマリク先生。詠唱って不要ですよね?エリオット学園長からは、魔法を使うのはイメージだと教えてもらっていたんですが。どうして皆、詠唱してるんでしょうか?」
「エリオット学園長の言う通りではある。ただ、口にした方がよりイメージを明確にすることが出来るからな。初めのうちは、詠唱することを推奨している」
「それも一理ありますが、今から使う魔法を口に出して言ってしまっては、簡単に防がれませんか?」
「確かにその通りだが、普通はそれほど大きな問題にはならない。それは六属性、全て使える者の意見じゃないか?」
マリクは俺の疑問に苦笑しながら答えてくれる。別に使用出来る属性に係わらず、自分の手の内を晒してしまうのは、褒められた行為でないような気がするのだが・・・。まあ、いいか。
四人の攻撃魔法は丸太を見事に捉える。丸太は、真っ黒焦げになったり、穴だらけになったり、へし折られたり、細切れになったりと無残な姿になる。
・・・これがAクラスの実力か。これなら、今のティアなら間違いなくAクラス入りすることが出来るだろうな。エリオットが目を掛けている理由がよく分かる。
「これがAクラスの実力だ。分かったかルート?」
「ええ、よく分かりました」
「フンッ、偉そうな。せいぜい吠え面をかけばいい」
俺は一歩前に踏む出すと皆は、俺の後ろに下がった。俺は制服から杖出して綺麗な丸太を目掛けて杖を構える。
・・・ふぅ。それじゃあ、まあ、全力を出せと言われているし、折角なので派手なやつにしておくかな?視覚的にも聴覚的にもインパクトがある、あの属性が良いだろう。
郷に入れば郷に従え。俺は、「彼の地に降り注げ、轟け雷鳴!」と詠唱しながら、杖を空高く上げてから振り下ろす。
上空から空を引き裂いたかのような、けたたましい音と共に稲光が全ての丸太に目掛けて降り注ぐ。耳を手で塞ぎたくなるほどの雷特有の轟音が学園内に響きわたる。続いて、丸太を通じて地面に伝わった衝撃が地響きとなって学園を揺らした。
・・・あ、ちょっとスッキリしたかも。
昨日からガラッと変わった生活環境に加えて、今の今まで受けていた罵声にストレスが溜まっていたようだ。十本以上はあった綺麗な丸太が、雷を受けて一つも残っていない。目の前に残ったのは、弾け飛んだ木の破片と地面に埋まった丸太の根本部分だけである。障害物が綺麗さっぱり無くなった光景に、気持ちがちょっと軽くなるのを感じる。
それにしてもこの杖は、中々に性能が良いなと思いながら俺は杖をまじまじと見る。雷の攻撃魔法は、少し制御が難しくて、威力にムラが出ることが多い。だが、今の攻撃は全ての丸太に均一した威力の攻撃を加えることが出来た。俺はそのことに満足して、一人頷いていると誰かに後ろからポンと肩を叩かれる。
後ろに振り返ると俺の肩を叩いたのはマリクだった。マリクは頬を引きつらせながら唖然といった表情を浮かべている。さらに後ろに控えていたフレンたちも目を見開き、口をあんぐりと開けた状態で固まっていた。どうやら、実力を見せつけることに成功したようである。
「な、なぁ、ルート。狙う丸太は一本で良かったんだぞ?」
絞り出すような声でマリクが話してきたのは、思いもしなかったことである。一本だけで良いと今更言われても、もう遅い。全力を出せと許可を出したのは、この学園の学園長だし、マリク本人も言っていたはずだ。
ただ、マリクの話を聞いて、確かにこの後、全てを元の状態に戻すのは大変だなと思った俺はポンッと手を打った。
「じゃあ、直せば良いですよね?」
「え?」
破壊したのは,何の変哲もないただの丸太だ。であれば、直すのは造作もないことである。俺は、全ての丸太に目掛けて樹属性の治癒魔法を掛ける。ここでも、杖の性能に感心しながら、丸太を元の状態に直した。
ついでに、一部の丸太を人の形にアレンジしてみた。木人君一号と二号だ。さらに、アレンジついでに耐久力も上げておいた。これで魔法攻撃を打ち込む練習をするのにはちょうど良いはずだ。・・・まあ、実技試験には使えないけどね。
一仕事終えた気分でふぅと一息吐いて、再度、後ろを振り返ると皆がプルプルと打ち震えていた。
「「「「「「お前は一体、何をした!?」」」」」
皆は、唾を飛ばす勢いで口を揃えて叫ぶ。何をしたと言われても困る。魔法以外の何物でもない。それにしても、皆揃って同じことを言うなんて、仲が良いなぁとちょっとうらやましく思った。
とりあえず、マリクにならまだしもフレンたちに具体的に何をしたのか教える義理はないので、「魔法です」と言い張っておいた。皆が皆、何をしたのか気になるといった顔をしていたので、追々教えてあげても良いかもしれない。俺個人としては別に、内緒にするつもりはないのだが、今はちょっとした意趣返しである。
実技試験が終わって教室に帰る途中、マリクから「と、とにかく、フレンたちに実力を示すことは出来たな。かなり驚いていたからお前への評価も変わっただろう」と話し掛けられる。先生もかなり驚いてましたよね?と思ったが口に出さずにおいて、俺は黙って頷いておく。
・・・これで本当に受け入れてもらえたのだろうか。受け入れてもらえていたら良いな。
ひとまずは、無事に終わった実技試験に俺は満足していた。ただ、後日、この実技試験のことで後悔することになるのだが、今の俺はまだそのことを知らない。




