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約束を果たすために  作者: 楼霧
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第四十一話 護衛依頼 到着

「リッド、えーと、あの、その、ドンマイ!」

「ドンマイって何だよルート。意味が分からない」


落ち込んだリッドに話しかける言葉を絞り出して声を掛けたら通じなかった。それはそうだ。何と声を掛けて良いか迷った挙句、口から出ていたのは、元の世界の言葉だったのだから。


「ああ、ええと。ほら、今度は、リッドが活躍する場面を作りますから」

「今度って、それは無理だろ」

「え?それはどういう意味ですかリッド?」

「あ、いや、何でもない。気にするな。・・・あーあ、俺も活躍したかったなぁー。そうだ、ルート、俺は腹が減った。飯にしようぜ飯。肉、料理は肉で頼むぜ」


何だか話をはぐらかされたような気がするが、落ち込んだリッドから「お腹が減った」と要求を受けたので、お昼御飯にはちょっと早いが、食事を準備することにする。


今日のお昼は、ノースたち四人も人数が増えたので、個々に料理を提供していたら時間が掛かって仕方がない。そこで、今日は、焼肉形式とすることにした。自分で食べたいものを自分で焼いて食べるのだ。俺は、昨日と同じく、魔法でコンロを作って、その上に鉄板を置いたものを三つ作る。その後、焼いて食べやすいように肉を切り、野菜を魔法で加工した。


「さあ、どうぞ皆さん。好きなように焼いて食べて下さい」


だが、皆はポカンとした顔をするだけで、全く動く気配がない。肉を希望したリッドすら微動だにしなかった。あれ、どうしてだろう?と首を傾げていたら、ソフィアから「ルゥが焼いてくれるんじゃないの?」と言われて俺は、ハッとする。


・・・この世界に自分自身で、肉や野菜を鉄板で焼いて食べるという習慣がないか。


俺は、皆に焼肉の食べ方とどうしてこういう形式にしたのかを説明した。一部の者から、「自分で焼くの?」との不安の声が出たが、自分で焼き加減を見ながら調整出来ると素気無くあしらう。・・・何ごとも、慣れだ。頑張れ。


ただ、焼肉が始まってからもちょっと大変であった。フォークじゃ焼きづらいと文句が出たので、仕方なくお箸を準備したら、今度はお箸が使いづらいと文句が出た。確かに、お箸に全く馴染みのないメンバーなので、仕方がないのだが往生際が悪い。最終的にお好み焼きを焼くときに使うヘラの様なものを作って落ち着いた。


フリードからは「ルート君は何でも考えるなぁ」と甚く感心されるが、元の世界の道具を出しただけで、俺が考えたという訳ではないので、素直に喜べない。



「はぁ、それにしても、俺たちで二組目かぁ」


ノースが大きなため息を吐きながら、肩を落として呟く。たまたま、食材提供のために各コンロを回っていた俺は、ノースの呟きを耳にする。一体何が二組目なのか、気になった俺は、ノースに尋ねてみた。


「どういう意味ですかノースさん?」

「おう、坊主か。・・・いや、何。エリオットがさっき話していた通り、普通は間違いなく俺たち王都側の冒険者が勝つ。負けることなんて、あり得ないんだ。だが、過去に一度だけ、王都側の冒険者が冒険者見習いに負けたことがある」

「へぇ、ずいぶんと強い人がいたんですね」

「おいおい、他人事のように言ってるが、お前さんもよく知る人物だぞ?」


ノースはそう言いながら、右手に持ったフォークをソフィアに向かって指す。


「もしかして、ソフィア姉様ですか?」

「もしかしなくてもお前の姉貴だ。まさか、姉弟揃ってやられちまうとはなぁ。はぁ、絶対、話のタネにされる」

「あはは、えーと。何か、すみません」

「別にお前さんが謝ることじゃない。気にすんな。それよりも、お前さんがあのピンク色の髪の嬢ちゃんに補助魔法を掛けたんだろ?ということは、当然、自分自身にも掛けれるよな?こりゃあ、冒険者ギルドに戻ったら他の奴らに、釘を刺しておかねえといけねえなぁ」


ノースは、俺を見ながら意味深なことを言う。率直に嫌な予感しかしないのだが、ここで聞かない訳にはいかないだろう。


「あの、それって、もしかして・・・」

「おう、ソフィアの弟が来るって聞いて、決闘を申し込むって息巻いてる奴らのことだな」


・・・やっぱりか!!


「俺たち王都の冒険者は、他の町に行く機会が中々なくてな。お前さんが来るということで、機会が巡ってきたって騒いでる奴が多い」


フラウガーデンの門番のお兄さんから噂の広がり方を聞いていたとはいえ、ノースの言葉に頭が痛い。でも、ノースが釘を刺すと言ってくれているのだ。折角なので、俺からの要望を伝えておくことにする。


「・・・はぁ。どうしてもソフィア姉様と結婚したいなら、本人と戦うように言ってください。そもそも、勝てそうだからと俺に挑んでくる時点で駄目でしょう?それに、そんな考えの輩を、俺はソフィア姉様の相手として決して認めませんよ」

「ハハッ、違えねぇ。だが、本人と戦う勇気のあるやつは、まあー、昔はともかく、今じゃ居ねえだろうなぁ」


ノースは顎を触りながら、遠い目をする。


「何故ですか?」

「ソフィアが強いってことを皆が知ってるからな」

「んん?それはどういう意味でしょうか?ソフィア姉様が強いのは分かりきった話でしょう?」

「なんだ?弟なのに王都でソフィアが作った伝説を知らないのか?」

「何ですかそれ、聞いたことないです。是非、詳しく!」


ソフィアが王都で作った伝説とは一体、何だろうか。ワクワクしながらノースを見ていると、いつの間にか近寄ってきていたソフィアが話に割って入ってくる。・・・ちょっと笑顔が怖いのは、多分気のせいじゃない。


「何の話をしているのかしら?」

「今、明かされる。ソフィア姉様の赤裸々な過去でしょうか」

「私に恥ずかしい過去なんかありません」

「恥ずかしい、ですか。なるほどなるほど。さあ、ノースさん、教えて下さい」

「いずれ、ばれると思うがな。まあ、残念だが、ご本人がしゃべって欲しくなさそうなので、この話はここまでだ」

「そうそう、ここまでです。ルゥは、いい加減にこっちにも食材を持ってきて」


折角、おもしろそうな話だったのに、ソフィアのせいで打ち切られしまった。そして、俺はソフィアに引きずられながら移動させられてしまう。一応、引きずられながらソフィアにも尋ねてみたが、「何もない」の一点張りであった。



食事後、ノースたち四人は先に、王都に帰るとのことで別れることになった。馬も何もないので、まさか走って帰るのかと思いきや、ノースが指笛を鳴らすとどこからともなく二頭の馬がやってくる。そして、ノースたちは、馬に二人ずつ乗ると「じゃあ、またな」と言って馬を走らせて去っていった。・・・何か、ノースって無駄にかっこいい。モヒカン頭を除けば・・・。


ノースたちを見送った俺たちも、馬車に乗って移動を再開する。馬車に乗るのは、午前中と同様に冒険者見習い四人全員一緒である。


「じゃあ、反省会を始めましょうか。と言っても、主に俺が反省しないといけないんですが」

「うむ、大いに反省してくれ」

「いいえ、ルート。わたくしもです。まさか、あんなにも強くなるとは思わなくて、舞い上がってしまって」

「・・・ルート。あれは、新しい属性ね。そうでしょ?そうよね?さあ、吐きなさい」


一応、自己申告している場合は問題ないが、使用出来る魔法の属性を聞くことは、魔法使いとしてのタブーに当たる。だが、ティアは容赦なく俺のローブを引っ張って放してくれない。相変わらず魔法のこととなるとティアの行動は積極的である。


「ティア、そこまでですわ。今は反省が先です」

「・・・むぅ。仕方がない」

「すみません。ただ、今更ですが使うべきではなかったと思ってます」

「補助魔法による強化が過剰だったということですわね?」


アンジェの言葉に俺は首を縦に大きく振る。


「大幅に強化されることは分かってはいたんですけどね」

「だったら、ルートはどうして使ったんだ?」

「もしも、索敵魔法で感じ取った感覚が間違っていたら、俺の推測が正しくなかったら、という考えがどうしても頭から拭いきれなかったというのが一番の理由です。俺の判断ミスで、アンジェが危険にさらされても傷一つ付かないようにって思って解禁しました」

「・・・なあ、ルート。お前の話を聞いてふと思ったんだが、それってアンジェの実力を信用してないってことにならないか?」


リッドの言葉に俺は、頭を強く殴られたような衝撃を受ける。


アンジェとは一緒にソフィアの鍛練を受けてきたのだ。子供にしては、それなりに実力あると思っている。だからこそ、俺としては、アンジェの実力を疑っている訳じゃない。・・・はずだ。


でも、実際に俺がやったことは、アンジェの実力の有無を完全に度外視してしまっている。それは、リッドの言った通り、アンジェの実力を信用していないのに等しいのではないだろうか。俺は、自分の考えなさを痛感し、肩を落として項垂れる。


「・・・リッドの言う通りですね。そんな、そんなつもりは、なかったです。でも、自分勝手な考えでした。アンジェ、申し訳ありません」

「ルート。顔をお上げなさい。そもそも、わたくしたちは駆け出しの冒険者見習いですわよ?実力は、まだまだこれから磨き上げていくものですわ。それに、あの補助魔法自体は、わたくしを思ってくれてのことでしょう?」

「でも、俺がしたことは、仲間を信用してないってことで。ちょっと魔法が使えるからって俺は・・・」

「まあ、あれだな。俺、アンジェ、ティアの三人とルートを比べたらさ、今は、ルートの方がちょっとだけ強い。だが、そんなのは今だけだぜ。俺たちはお前に負けないぐらい強くなるからな。そうしたら、お前が気に病む必要はないだろ?」


リッドは、俺にフォローの言葉を掛けてくれると頭を掻きながら「あー、やめやめ。辛気臭いのはここまでにしようぜ。ルート、何か面白い話をしろ」と無茶ぶりしてくる。場の空気を良くしようとのことだろうが、落ち込んでいる俺に中々難しいことを言ってくれる。・・・けど、リッドの言葉でちょっと気持ちが楽になる。



「・・・そういえば。さっきの昼食の時、ノースさんから、ソフィア姉様が王都で伝説を作ったと聞いたんですが皆知ってますか?」


話題を変えるために、ソフィアの伝説について知っているか三人に聞いてみた。リッドとティアは首を横に振っているが、アンジェは誇らしそうな顔をしながら「当然、知ってますわ」と胸を張る。


「わたくしがソフィア様をお慕いするのは、その伝説を目の当たりにしたからですわ」

「あれ?アンジェって王都に住んでいたことがあるんですか?」

「住んでいたことがあるも何も、わたくしの生家は王都ですわ。言ってなかったかしら?」

「聞いてないかしら?」


話の流れで思わずアンジェの口調で聞き返してしまっていた。アンジェは「どうして真似するのかしら?」と微笑みながら、グニッと俺の頬をつねる。


「いらいれふ、あんふぇ」

「自業自得ですわ。全く」


ヒリヒリする頬をさすりながら俺は、ふと疑問に思ったことを口にした。


「でも、アンジェって今、ルミールの町に住んでますよね?もしかして、家出ですか?」

「そんなはずないでしょう。ルミールの町に家を買ってもらってそこに住んでいますわ」


・・・そんな、市場で果物を買ってもらったみたいな感じで、家を買ってもらったって言われても。一体、どれだけお金持ち何だろうか。何にしても、前々から喋り方がお嬢様っぽいと思っていたが、どうやら本物のお嬢様のようだ。


「・・・お金に困ってないのなら、よく冒険者になることを親は許してくれましたね」

「ソフィア様を目指すなら構わないって許可をもらいましたわ」


何となく、許可をもらったと言うよりか、許可をもぎ取ったと言った方が正しいような気がした。アンジェの熱意にご両親が遠い目をして受け答えしている風景が目に浮かぶ。


「それで、アンジェ。ソフィア姉様が作った伝説って何ですか?教えて下さい」

「あら、ソフィア様が教えなかったことをわたくしが口にするとお思いですか?」


アンジェは、呆れたポーズをとりながら俺の質問を一蹴する。だが、その反応は、俺の中では織り込み済みだ。俺は、アンジェの手を取って、両手で包み込むように握ってから、真剣な眼差しをアンジェに送って言い募る。


「ソフィア姉様の成し遂げたこと知らない人に教えることは、ソフィア姉様を慕う者としての当然の責務じゃないですか?」

「うっ。ルートの言うことは、あながち間違いではありませんわ。でも、騙されませんわよ。今は、ただ、ただ、あなたが知りたいだけでしょう?」


アンジェはそう言うとちょっと顔を赤くしながらプイッとそっぽを向いてしまう。俺は、チラチラッとアンジェの顔を覗きに行くが、ちっともこちらを向こうとしてくれない。・・・どうやら、これ以上頼んでも教えてくれそうにないな。残念。



「皆、王都の外壁が見えてきたで」


馬を引いているフリードから声が掛かった俺たちは、馬車から顔を出して正面を見る。


「わぁ、あれが、王都ですか。すごい、外壁の端が全然見えない」

「そりゃあ、王都はめっちゃくちゃ広いで。ルミールの町と比べたら大違いやで」

「へぇ。さすがはこの国の中心部ということですね。・・・あれ、皆?」


俺が興奮しているのとは裏腹に三人はとても大人しい。確かリッドは、「初めての王都だ」とかなり喜んでいたはずなのだが。ゴールが見えてきて旅の疲れが出てきたのだろうか。


「皆、大丈夫ですか?車酔いでもしましたか?治癒魔法でもしましょうか?」

「いや、大丈夫だ。ちょっと疲れたなと思っただけだ」

「そうですわね。長い時間、馬車に揺られていましたからね」

「・・・ルートも疲れたでしょう?あまり興奮しない方が良い」


何だろう、三人の様子がおかしい。護衛依頼の初日、東門で皆と会った時と同じような余所余所しさを感じる。ただ、それ以上は聞いてくれるなといった雰囲気を感じ取った俺は、馬車の中に戻って大人しく座る。



「よっしゃ、着いたで」


フリードから声が掛かり俺たちは、馬車から降りる。さっきは遠かった王都の外壁が今は、自分の目の前に広がっていた。石造りの外壁は、四階建てか五階建てのビルぐらいの高さがあり、それが南北にずっと続いている。俺は、王都の外壁を見上げながら、そのスケールの大きさに思わず感嘆の息を吐く。なるほど、ルミールの町とは比べ物にならない。


「皆、ギルドカードを出して。私が門番に身分証明してくるから」

「ソフィア姉様?こういうのは一人ひとりやるものじゃないんですか?」

「普通わね。でも、皆、疲れたでしょう。面倒な手続きは、私が終わらせてくるわ」


ソフィアはそう言うと、四人分のギルドカードを受け取って門番の兵士に近付いていった。門番の兵士は、近付くソフィアのことに気が付くと、挙動がおかしくなるとともに顔が紅潮しているのが見えた。そして、慌てふためきながら、ソフィアを門にある詰所へと案内していった。


・・・どうやら、王都でのソフィアの人気は、本物のようだ。ちょっと気が重い。



「手続きを終えたわ。さあ、中に入りましょう」


ソフィアは戻ってくるなり、ギルドカードを返してくれる。王都に入って良いと言われたので、馬車の後を追うようにして、俺は歩いて王都の中へと入った。

章を管理していたらここまでが第一章のイメージです。

次回より王都学生編へ。

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