第四話 治癒魔法の習得
傷が治った後、俺はガバっと起き上がってソフィアの手を取った。
「ソフィア姉様、俺に魔法を教えてください!」
あまりの勢いに目を丸くしたソフィア。少しの沈黙の後、手を握られてるのが恥ずかしかったのか少し顔を赤くしながら「ええ、良いわよ」と言ってくれた。
「さて、良いとは言ったものの、私もそれほど魔法のことは詳しくないのよねぇ。だから、私が得意な光属性の治癒魔法でもやってみましょうか」
「光属性の治癒魔法ですか?光属性とは何のことでしょう?」とピッと手を挙げながらソフィアに聞く。
「魔法にはね、属性があるの。風、火、土、水それに光と闇の六属性。その六属性のうち、私が使えるのが光。私は光のマナに愛されていますから」
「・・・ソフィア姉様、光のマナに愛されるとは?」
「魔法はね、マナに働きかけて行使するの。だから、マナに愛されてない人はどれだけ頑張ってもそのマナの属性を使用することが出来ないのよ」
(ふーむ、六属性を使うには適性がないと使えないということかな?それにしてもなんというRPG感)
「それでね、私は特に光のマナに愛されてるみたいなの。普通の人よりも高位の治癒魔法を使うことが出来るのよ。まあ、その分、他の属性は使うことが出来ないんだけど・・・。でも、その力のお掛けでルゥを助けることは出来たから」と言いながら、ソフィアは優しく俺の頭を撫でる。
実の所、本当のルートは助かっていない。別人である俺がルートとして復活した訳なのだが・・・。ソフィアの言葉に、少し気が沈んでしまった。
そんな様子を見たソフィアは俺の頭を撫でるのをやめるとパンッと手を鳴らし「さあ、始めましょう!」と促す。ソフィアは「失敗した」と書いていそうな顔を一瞬見せたが、直ぐにわざとらしいと分かるほどの笑顔を俺に向ける。
「それじゃあ、もう一度治癒魔法を使うから目を閉じてくれる?」と言ってソフィアは俺の手を取った。
「どう、何か感じる?」
「・・・さっきよりも暖かみとそれに、何でしょう?澄んだ感じがします」
「そう、やっぱりマナに愛されてそうね・・・。うん、それじゃあ、今度は私の手を取ってくれる?手を取ったらさっき感じたことを意識しながら、傷を癒すイメージをしてみて」
俺はソフィアの手を取り、再度、目を閉じて集中する。さっき感じたことを意識して傷が癒すイメージをする。すると、すぅっと自分中から何かが出ていくのを感じた。
「うん、成功ね。目を開けてみてルゥ」と言われ、目を開けてみるとソフィアの手を取っている俺の手が光につつまれていた。
「それにしても、1回で成功するなんて。きっとルゥも光のマナに愛されているのね。ところで身体の方は大丈夫?しんどかったりしない?」
「さっき、身体から何かが出ていった感覚がありました。何だったのでしょう?」
「それは、魔力を消費したのね。魔法を使うにはマナに愛されているだけでなく魔力が必要なの。他には大丈夫かな?」
俺は自分の身体を見回す。特に何も問題はなさそうだ。「特に異常はありません」と答えておく。
「そう、ルゥはきっと魔力が多いのね。魔力を使いすぎると身体に変調をきたすのよ」
ソフィアの話では、どうやら、魔力を使いすぎると気分が悪くなったり、最悪、気絶してしまったりするそうだ。もし、戦闘中に魔力切れとなり、気絶しようものなら生死に関わる。だから、自分がどれだけ魔法を使うことが出来るのかを把握しておくことが大切なのよと話してくれた。
「さて、身体は大丈夫だと言っても初めて魔法を使ったわけだし、無理は禁物だわ。これぐらいにしてそろそろ家に帰りましょうか」
「分かりましたソフィア姉様。そろそろ帰りましょう。お腹もすきましたしね。あ、ところで、他の属性の魔法はどうしたら使えるようになるのでしょうか?」
「う~ん。私には他の属性のマナを感じさせてあげることが出来ないから教えてあげられないのよねぇ。それに、そもそも複数のマナから愛されているという人はそれほど多くないのよ。ルゥは光のマナに愛されてたから、私と一緒で他の属性は使えないかも・・・」
「それでも、何とかなりませんか?ソフィア姉様」と頼み込んでみる。
「そこまで言うなら今度、エリオットさんに頼んでおいてあげる」
「エリオットさんですか?確かソフィア姉様と同じで、冒険者でしたよね。そうか、確か魔法使いでしたね?」
「そう、しかも彼は、風、火、土、水の四属性を使うことが出来るのよ」
「それは、凄いですね。でも、忙しいのではないでしょうか?」
「何日かしたら遺跡調査が一段落するから大丈夫だと思うわよ?」
「そうなのですか?では、よろしくお願いしますソフィア姉様!」と話ながら家に帰った。
翌日、いつものように走り込み、筋トレ、木剣の素振りに剣舞を行う。ひとしきり、動いて体力が限界に来た頃に、俺は魔法による回復を試みる。ただ単に、傷を治すことしか出来ないというわけじゃないだろうと考えていたが正解であった。体力の限界でフラフラだったのが何事もなかったかのように元気になる。
「ふっふっふ、折角覚えた魔法だ。使わない手はないな!」
こうして俺は、体力の限界まで身体を鍛えては、魔法で回復と新たなサイクルを確立し、修行に励んだ。途中、「どこぞの戦闘民族みたいな修行をしてるな」とか思ったのはここだけの話だ。
余談だが、その日、俺は修行をしていたはずなのに、いつの間にかベットに寝ていて翌朝になっていた。「あれ、なんで?」と思っていたところに、母のリーゼが「起きたのね」と言いながら部屋に入ってきて、疑問の答えをくれる。
「あなた、庭先で倒れてたのよ?本当にビックリしたんですよ、もう」
どうやら、魔法が使えることが嬉しくて使いすぎたらしい。なるほど、これは危険だ。気絶により完全に記憶が飛んでしまっている。どれだけ魔法を使えるのか把握してことが大切と言っていたソフィアの言葉が身に染みる。自分がどれだけ魔法を使えるのか、はっきりさせておくことは優先すべきことだろうと考える。
それにしても、リーゼは明らかに怒っている。本当に心配を掛けてしまったようだ。
「ちょっと頭を出しなさい」
「・・・はい、母様」
俺は反省の意味も込めて大人しく拳骨を受けることにする。




