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約束を果たすために  作者: 楼霧
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第三十一話 魔獣との遭遇

町を出発して、何時間経っただろうか。結構な時間を歩いてきたが、吹雪と地面の雪に足を取られて思うように行軍出来ていなかった。俺は、北から南下してきている魔獣シロ・クマと遭遇しても危なくないようにと一番後方にいて、行軍全体を見渡すことが出来る位置にいた。


・・・このままで大丈夫なのだろうか。とにかく降り積もった雪が行く手を阻んでいる。さらに容赦なく吹きつける吹雪が体温と体力を奪っていく。しかも、あまりにも雪がひどいところでは、エリオットや中級冒険者の魔法使いが火属性の魔法攻撃で溶かして進んでいる。


どう考えても、このままの状態だと体力的にも魔力的にも厳しくなるんじゃないだろうか。果たして、これで強敵だと危険視している魔獣を討伐出来るのか?いや、今までに感じたことがないくらいピリピリした雰囲気に、俺が臆病風に吹かれているだけなのかもしれないのだけど。


色々と悩んだ挙句、やっぱり見てられないなぁと考えた俺は一番先頭にいるアレックスの所へ走った。


「父様。あまり、行軍が芳しくないように思えます。俺に領域を作る許可をくれませんか?」

「ルートか。ふむ、領域か・・・・。ソフィアから話は聞いているが魔力を結構、使うのだろう?いざ、戦いの時に回復役が居なくなるのは困るのだが・・・」


アレックスは、領域を使用した方が良いとは思っていてくれているようだが、回復役が居なくなることを懸念して苦い顔をする。・・・このまま、進む方が体力も魔力も消費が激しいと思うのだが、どうだろうか。一度、領域がどんなものか見せてあげた方が良いかもしれない。


「ルート君。その領域というのは、単純に魔力消費が大きいということかな?」

「そうですね、エリオットさん。火のマナに働きかけて、火のマナを空間に満たして作り出すのが領域です」

「・・・なるほど。火のマナを空間に満たすのに魔力を消費するということだね。だったら、これをルート君にあげよう」


俺とアレックスの会話を近くで聞いていたエリオットが、道具袋に手を伸ばし、一つの小瓶を取り出して俺に差し出す。中には緑色の液体が入っているのが見える。


「エリオットさん。もしかして、これ魔力の回復薬ですか?」

「その通りだよ、ルート君。今までに話したことなかったと思うけど、よく分かったね」

「え、いや、あの・・・。魔力の枯渇は生死に係わることが多かったので、前々から回復薬とかあるんじゃないかなと思っていたんです」


まさか、RPGに回復薬は付き物だからとは言えない。


「でも、もらっちゃって良いんですか?」

「構わないよ。いくつも準備してきたからね」

「・・・ところでこの回復薬って市販されているのですか?ルミールの町では見たことがないですが・・・」

「いや、これは手作りだよ?」

「え?」


エリオットの話によると王都にある学園で、魔法使いとして学ぶ学科の中に、自分で魔力の回復薬を作れるようになるための授業があるらしい。なるほど、自分で作るのかと納得していたら、エリオットから「自分で作れるようになる一番の理由は、毒殺されないためなんだけどね」と物騒なことを教えてくれる。どうやら、昔、回復薬と称して毒薬を飲ませる事件があったらしい。その事件が起こるまでは、普通に売っていたのだそうだ。・・・自分で作る理由が世知辛過ぎる。昔の話だからとは言っていたが、今はどうなんだろうか?


そんな、俺の不安な気持ちを見透かしたように「今の話を聞いて、ルート君はその薬を飲めるかな?」と少し意地の悪い顔をしながらエリオットが聞いてきた。毒殺の話を聞かされた後にその質問はひどくない?俺は、エリオットに何かを試されているんだろうか。それともちょっとした意地悪かな?まあ、この質問への答えは実に簡単だ。


「もちろん飲めますよ?」

「へぇ、どうしてだい?」とエリオットは興味深そうな顔を俺に向ける。


「そうですね。エリオットさんは、俺にとって魔法使いの先生みたいなものだと思っているから信頼しているっていうことも確かにあるんですが、もっと単純な理由ですね」

「・・・それで?」

「これから戦いがあるのに今、回復役が居なくなるのは困るでしょ?」

「ふふッ。なるほどなるほど。確かにルート君の言う通りだ。今、回復役を失うわけにはいかないね」


俺の答えに少し目を丸くした後、エリオットは満足気な顔をする。どうやら、お気に召す答えだったようだ。満足してもらえて何よりである。


「ちなみにこの回復薬のレシピを教えてもらうことは出来ますか?」

「学園で学んだものだけが知ることが出来る知識だからね。残念だけど教えられないかな」

「そうですか、それは残念です。自分でも作れるようになった方が良いかなと思ったのですが」

「それなら、前にも言った通り、学園に入れば良いよ。ルート君なら大歓迎だ」

「ちょっと、エリオットさん。そこまでです。こんなところで引き抜こうとしないでください!」


エリオットに学園に入らないかと言われたところで、すかさずソフィアが待ったをかける。前にも似たようなやりとりがあったなぁと思いつつ、俺は学園に行くのも色々と学べて面白そうだなと思った。


「ゴホン。とりあえずその話はそこまでだ。エリオット、その回復薬の効果は?」

「そうですね。即効性はないですが、回復量は多い薬ですね」

「・・・分かった。では、ルート。頼めるか?回復薬があるとはいえ、魔力の消費はなるべく抑えておきたい。領域はそんなに大きくしなくて良い」

「はい!」


アレックスから領域を作る許可が出たので早速、アレックスを起点とした領域を作る。大きくしなくて良いと言われたので先頭を歩くアレックスとそのすぐ後ろを歩いていたエリオット、アル、ソフィアの三人を取り囲む大きさにした。魔力を放出し、火のマナが空間に満ちると周りの空気が暖かくなっていく。そして、雪が領域内に入ってこなくなるとともに、地面の雪が溶けてなくなった。


「ほう、ソフィアからどんな風になるか聞いてはいたが・・・。これはすごいな」

「そうですよね?父様。俺も初めて使ったときは感動しました」

「なるほど、こんな使い方があるとは・・・。あ、そうだ、ルート君。さっきの薬は今、飲んでおいたら良いよ。じわじわと魔力が回復するから」

「分かりました。それでは、遠慮なく頂きます。・・・ングッ。なかなか、強烈な味ですね・・・」


エリオットからもらった回復薬は、とても薬らしい味がした。深い緑色をしている時点で味に期待はしていなかった。けど、見た目通り過ぎる・・・。もし、もう一回飲めと言われたら躊躇してしまうほどの味だ。出来れば改良して味を良くしたいと心の底から思う。


「あははっ。味はまあ、おいしいものではないね。魔力を回復するのが目的だから」

「よし、それでは行くぞ。大分、時間が掛かってしまっているからな。少し、急いで行こう。ルートは最後尾に戻ること。良いな?」

「分かりました父様」


アレックスに言われて俺は最後尾に移動する。途中、すれ違う警備兵の人や中級冒険者の人から不思議なものを見る目で見られる。多分、領域にびっくりしたに違いない。俺もメルギアが使ったのを見てびっくりしたのだから。


アレックスが早足で歩き始めると領域もアレックスに合わせて動き始めた。アレックスが通った後は、雪が溶けてなくなっているので、後続を歩く者達は雪を気にせずに移動することが出来るようになった。先程までと比べ、目に見えて分かるほど行軍の移動スピードが上がる。



結局、その日の夕刻頃まで北へと向かって歩き続けた。正直なところ、周りの風景は、吹雪と雪で基本的に真っ白で似たような風景が続くため、どれだけ進めたのかよく分からない。だが、アレックスは「目標地点に到着した」と言ってたので、何か目印のようなものがあったのかもしれない。


今日はこの場所で野営をするということで、魔獣の皮で作られたテントを張った後、食事取ることになった。皆は携帯食として持ってきている干し肉やドライフルーツのようなもの、それにカチカチのパンを食べ始める。そんな中、俺一人だけ、料理の準備を始める。といっても火にかけて温めるだけの簡単なお仕事ただ。だって、寒い中をずっと歩いてきたのだ。暖かいものが食べたい。


俺は昨日の夜に、リーゼに手伝ってもらって、大きめの寸胴鍋に具だくさんの鶏ガラスープを作って、道具袋の中に掘り込んでおいた。だから、基本的に後は温めるだけで食べられる。寸胴鍋にしたのは、今回の討伐メンバーの皆に振舞えればと思ってのことだ。


・・・あと、ついでに俺の作ったスープが世間的にも受け入れられるか確認したかった。家族の評価は良かったがあくまで身内の評価だ。赤の他人の評価を聞いてみたいと思っていたのでちょっと利用させてもらう算段である。


俺はいつもの調子に、魔法で鍋を温めつつ、メンバー分のスープを入れる器を作っていると、地面にドカッとあぐらをかいて座ったアレックスからジトッと睨まれる。


「なあ、ルート。俺としては、魔力を温存しておいて欲しいんだが?」

「父様。心配には及びませんよ?領域で消費した魔力は回復薬ですっかり回復しました。それに今やっていることはいつもやってるからでしょうか、そんなに魔力を使わないんですよ」

「そうなのか?だったら、まあ、良いんだが・・・」


アレックスは、片眉を上げながら懐疑的な目を俺に向ける。そんな目で見られても事実なのだから仕方ない。何度も使用することで熟練度的なものが上がってるんじゃないだろうかと勝手に思っている。



スープは、皆おいしそうに食べていた。かなり評判は良かったと思う。まあ、寒い中で温かいものが食べられたということも輪を掛けていたとは思うけど。それでも、確かな手ごたえはあった。道具袋を買うための資金作りに繋げられないか画策してみようと思う。


食事が終わるとアレックスから「明日も早い時間に出発するぞ。各自、すぐに休みように」との指示が出たので俺は自分のテントに入って、早速寝転がって毛布に包まり寝ようとする。


「・・・・で、ソフィア姉様?どうして俺のテントに居るんですか?」

「だって、ルゥのそば、暖かいんだもん」


アレックスの周りに展開させていた領域は、「後は寝るだけだから不要だ」と言われたので解除していた。解除したことで、暖かい空気から元の冷たい空気にさらされたソフィアは、とても寒かったそうだ。そして、常時、薄らと領域を展開している俺のところに来たとのことであった。


「はぁ、仕方ないですね。姉様にも領域を張りましょうか?」

「いえ、魔力の無駄だからこれで良いわ」と言いながらソフィアは俺の横に寝転がって俺を毛布ごと抱きしめた後、ソフィアは自分用の毛布を掛ける。


・・・なんだろう。湯たんぽ的なものになった気分である。


俺は深いため息を吐いた後、「あまりきつく抱きしめるとクリューが怒りますからね」と一言注意をして寝ることにした。ソフィアは、「え?クリューが居るの?」とちょっとびっくりしているがスルーだ。



翌朝、何かに無理矢理起こされたような感覚で目が覚める。俺は目をこすってあくびをしながら、周りをキョロキョロと見渡す。


「あれ、ソフィア姉様?」


ソフィアが居ないことに気が付いたとき、外からアレックスの叫び声が聞こえるとともに、遠くからも何かの鳴き声が聞こえてきた。


「全員起床!ただちに戦闘準備に入れ!!」

「ゴオォォォォォ・・・・」


俺はアレックスの声に飛び起きて外に出る。外は相変わらず吹雪いていた。辺りも領域を解除していたので、一晩で雪が積もっていた。


「ルート、起きたか。すぐにテントを片づけろ!魔獣は思った以上に近くに居るぞ!」


アレックスに言われて俺は、テントを道具袋の中になおしている間にも、アレックスは指示を出していく。


「声のする方に向かって俺を先頭に等間隔で散開!ルート、お前は最後尾へ移動、急げ!」

「ゴオオオオオオォ・・・・」


さっきよりも鳴き声が近くに聞こえる。また、ズシンズシンと何かが地面を蹴る音が徐々に近付いてきていた。


「エリオット、それに、中級冒険者の魔法使いは今のうちに補助魔法を頼む。その後は、細心の注意を払え!」


吹雪のせいで視界不良だ。遠くを見ても雪が降っている風景しか見えない。それでも、確実に近づいてくることだけは音で分かる。だが、大分、近くまできたと思ったとき、不意に近付いてきていた音が止む。辺りに静けさが戻り、吹雪が吹きすさぶ音だけが聞こえる。


ピリッとした緊張感の中、クリューがローブの首元から顔を出して空を見るようにして「キュッ」と鳴いた。それにつられて俺も空を見上げる。すると、近づいてくる魔力の塊を感じた。


「「上だ!」」


エリオットと俺の声が重なる。エリオットも上から近付いてくる魔力を感じ取ったようだ。曇天と吹雪で真っ白な空から、黒っぽい大きな塊が俺の目の前に落ちてきた。ズドンと轟音が鳴り響き、落ちてきた衝撃で雪と土が飛び散った。俺は腕を上げて顔を守った後、身体に付いた雪を振り払って顔を上げると魔獣と目が合う。


「・・・・全然白くないじゃん!!」


それが魔獣シロ・クマを目の前にして、開口一番に思わず口に出してしまった感想である。

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