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約束を果たすために  作者: 楼霧
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第二百五十三話 招かれざる客 中編

「もう帰ってこないんじゃないかと、ほんのちょっとだけ心配しちゃったわ」

「心配掛けて済まなかったなリュミー。ちょっと色々とあったんだ」


俺がリュミーに謝っているとリリが「可愛い方ですねルゥ兄様」と話し掛けてくる。見知らぬ顔が居ることに気が付いたリュミーは、リリのことを見るや否や、鳩が豆鉄砲でも食ったような顔をして固まってしまった。


動かなくなったリュミーの様子に「固まっちゃったね」とクリューがリュミーに手を伸ばすと、リュミーは「はひっ!?」と素頓狂な声を上げて、俺の後頭部に猛スピードで移動する。


「こ、ここ、この子たちは、どちら様で?」

「この二人は・・・、皆も来たみたいだし、まとめて紹介するな」

「ルートの兄貴!」

「ルート兄上!」

「ルート(にい)!」

「ルート兄様!」


リュミーに返事をしている内に、バルアスクたちも追い付いた。四人とも俺のことを呼んでくれるが、急いで走ったせいで息が切れてしんどそうだ。それでも、バルアスクたちの表情は、安心というか、安堵しているように見える。


・・・一応、慕われてると思っていいのかな?


俺がそんなことを思っていると、一番早く息を整えたバルアスクが「帰ってくるのが遅いぜ兄貴。兄貴が帰ってくるのを待ってたんだ」と文句を言う。やはり体格が一番大きなバルアスクが一番体力があるようだ。


「悪いなバルアスク。それにルング、オゥレンジ、ルーベットにも心配を掛けたよな。こっちに戻る間際に色々とあって、予定よりも遅くなってしまったんだ。すまなかったな」

「あ、いや、兄貴がわりぃとかそういうことを言ったつもりじゃなかったんだけどよ。ん?ところで兄貴、見たことのねえチビッ子が二人も居るが誰なんだ?しかも、その黒髪、まさかここにも魔人族、って魔人族じゃない?」


バルアスクの言葉でリリとクリューに皆の視線が集まる。俺はリリを引き寄せて、リリとクリューの肩に手を置きながらバルアスクたちに二人を紹介する。


「皆から見て左側が俺の妹のリリ、右側が俺の娘のクリューだ。あと先に言っておくが、クリューは俺と同じ黒髪だが、魔人族じゃないからな」

「リリと申します。その節は、ルゥ兄様がお世話になったようで、ありがとうございます」

「クリューだよ。宜しくね」


リリとクリューの挨拶に、驚き戸惑いながらもルング、オゥレンジ、ルーベットが「宜しく」と返してくれる。俺の後頭部に張り付いたままのリュミーは「通りで」と呟いて何かに納得していた。そんな中で、バルアスクだけは不満があるのか「おいおい兄貴。いくら何でも気が緩み過ぎじゃねえのか?」と言って「ふんっ」と鼻を鳴らして腕を組んだ。


「これから魔人族を相手にするってえ時に、いくら家族と離れたくねえからって、こんな危ないところにチビッ子を、しかも二人も連れてくるなんてどうかしてるぜ兄貴」

「まあ、バルアスクの言わんとすることは分からなくもない。俺も一人は連れてくるつもりはなかったからな。でも、こう見えて二人ともちゃんと強いぞ?」

「強いって本当か?俺が踏んだら二人ともぷちっと潰れてしまいそうだぜ?」


バルアスクがリリとクリューを威嚇するように見下ろす。少し口は悪いがバルアスクはバルアスクなりに、リリとクリューのことを心配してくれているのは分かる。


これから戦争をしようという場所に子供を連れてくるな、というバルアスクの文句はとても正しい。ただ、それと同時に、バルアスクはリリとクリューのことを侮ってもいた。バルアスクのちょっと悪いところである。


バルアスクの物言いに俺がちょっとムッとしていると、バルアスクに睨まれるリリとクリューが、後ろに振り返って俺にニコリと微笑んだ。二人ともやる気らしい。


俺は「分かった」と二人に頷いて見せてから、俺はバルアスクに「そこまで疑うなら、二人を相手にしてみるか?」と提案する。バルアスクは「へっ、いくら何でも相手にならねえだろ?兄貴の居ない間も鍛練に明け暮れてたんだぜ?」と言ってクルリと踵を返した。


「ルゥ兄様、初めが感じなのですが宜しいですか?」

「リリ姉様もクリューも弱くないもん」

「・・・まあ、仕方ない。ほどほどにな」


俺が許可を出すとリリとクリューがバルアスクに一歩踏み寄った。バルアスクはチラッと後ろに振り返るだけで「やめとけやめとけ」と手をひらひらとさせて二人をあしらう。そんなバルアスクの様子に、リュミーが「バル、死んだわね」と真面目な声色で呟いた。


「リュミーは二人の強さが分かるんだな」

「どれだけ強いのか正確に分かる訳じゃないけどね。でも、妹さんの方はルート兄さんと同じぐらいマナの気配がすごいし、娘さんの方はあり得ないぐらい闇のマナが集まっているんだから。どう考えても普通じゃないもの」


リュミーがリリとクリューを普通じゃないと評してから、「さすがルート兄さんの家族ね」と結論付けた。よく普通じゃないと俺自信が言われることは多いが、家族が同じように言われるのを聞くのは、初めてのことかも知れない。


・・・リリとクリューは不本意かも知れないけど、俺はちょっと嬉しいかも。


リリとクリューは紛れもなく俺の家族だと言われているような気がすることに、俺がほっこりとしている内に、バルアスク対リリとクリューの勝負は終わっていた。リリとクリューがバルアスクに圧倒的な力の差を見せつけて終わるという結果でだ。


バルアスクは、リリの魔法で一瞬の内につたで簀巻きの状態されるとバランスを崩して地面に転がった。クリューは地面に転がるバルアスクの巨体を軽々と持ち上げて、その場でグルグルと振り回す。初めはバルアスクの戸惑いと悲鳴の声が聞こえていたが、今ではすっかりと静かになっていた。


・・・バルアスク。良いやつだったよ。って浸ってる場合じゃないか。


「おーいクリュー。そろそろ気は済んだだろう?許してやって欲しい。バルアスクはちょっと調子乗りなところはあるが、決して悪いやつではないんだ」

「はーい」


クリューは元気な返事をすると、ポイッとバルアスクを放り投げる。ドサッと音を立てて地面に落ちたバルアスクは「ぐえ」と小さな呻き声を上げた。良かった。まだちゃんと生きていた。


「すごいですわ貴女の魔法捌き。ドライアドである私よりも樹のマナとの親和性が高いように見えましたわ。どうなっているのかしら?」

「確かに魔法もすごいものだったけど、こちらのレディもすごい。とんでもない力だね」

「うん、まさかバル兄をあんなにも軽々と持ち上げるなんて。その細腕のどこにそんな力があるんだろう?」


ルーベット、オゥレンジ、ルングの三人は、地面に倒れたままで動けないバルアスクを素通りして、リリとクリューの二人を囲む。三人はバルアスクを圧倒した二人を称賛してから、自分たちの自己紹介をし始めた。俺の後頭部に居たリュミーも「あの子たちとは仲良くなれそう」と言ってリリたちの輪に加わった。


その様子にバルアスクが「お前ら、ちょっとは俺の心配をしろよ。うぅ、世界が回る」と恨めしそうな声を上げる。俺はそんなバルアスクに近付いて、屈んでからバルアスクの肩をポンと叩く。


「伊達や酔狂で二人を連れてきた訳じゃない、ということは分かってもらえたかバルアスク?」

「あぁ、嫌ってほどに。兄貴の妹と娘って時点で、気が付いていればこんなことには・・・ぐふっ」


バルアスクは、死ぬ間際のような台詞を吐きながら白目をむいて力尽きた。もちろん死んだ訳ではない。俺はバルアスクに大事がないように治癒魔法を掛けておいた。


リリとクリューを歓迎してくれている輪の中からリュミーがふわりと飛んで近付いてくると、横たわるバルアスクを見下ろしながら、人差し指を口元に当てながら考える素振りを見せる。「んー、えい!」とリュミーが口にした次の瞬間、バルアスクがド派手に燃えた。


「うあっちい!?何しやがんだリュミー!」


リュミーがバルアスクに魔法を使ったのは、リュミーとバルアスクの訓練の一環だ。リュミーの場合は、相手に気取られないように魔力を制御して魔法を使うこと。バルアスクはそんな魔力の気配を感じ取って、魔法を避けるもしくは防ぐことのが目的だ。どうやら、二人とも継続して訓練を行っているらしい。感心である。


・・・まあ、リュミーの一方的な悪戯と言えなくもないんだけど。


「隙だらけだったからつい。てへっ」

「てへっ、じゃねえよ!せめて縛られてない時にしてくれ!」


リリの魔法でグルグル巻きに縛られたままのバルアスクは、バタンバタンと身体を動かしながら涙目でリュミーに訴える。取れ立て新鮮な魚が、飛び跳ねてるみたいだ。でも、バルアスクの訴えは届かない。リュミーは「さっさとつたを解かないから悪いんだよ」と言って、ニシシと笑うだけだ。


「ぐっ、鬼かお前は!」

「わたし、妖精族で鬼族じゃないからねー。残念でした」

「んなことは、分かってる!!」


ああ言えばこう言うといった感じに騒ぐバルアスクとリュミーの二人。でも、仲が悪くて険悪な雰囲気という訳では決してない。じゃれ合える気心の知れた仲といった感じだ。見た目も種族も全く違うが仲良くし合える。他種族を貶めようとするとこぞの種族とは大違いだ。


・・・バルアスクたちに関しては、心配はなさそうだけど。でも、同じ種族同士でもいがみ合いは起こるもの。やはり、立ち向かう共通の敵が居るってことは大きいだろうな。


リュミーとバルアスクが楽しそうに騒ぎ立てる中、ルーベットがバルアスクの目の前でしゃがみ込むと、真剣な表情でバルアスクを縛るつたを撫でる。


「それにしても本当に凄いですわ。このつた、威力は抑えてあるとはいえ、リュミーの魔法で焦げ目一つ出来ない」


ルーベットは、やはりリリがドライアドである自分よりも樹属性の魔法を扱えていることが気になるらしい。どうしたら自分にもそんなことが出来るのか?、といった感じにムムッと眉間に皺を寄せるルーベットに、俺は「ルーベットにも出来ない訳じゃないぞ?」と声を掛けた。こういう時にこそ、ちょっと背中を押してあげるべきだろう。


「どういうことですのルート兄様?」

「ドライアドであるルーベットは、潜在的に火を恐れている、だろう?」


俺の質問にルーベットは「えぇ、その通りですわ」と言って、コクりと頷く。


「だってそういうものでしょう?植物は火に弱いですもの。この森でも、過去に雷が落ちて大火事になったことがあるのですのよ?」


ルーベットはそう言って顔を曇らせてから、最後に「私はその大火事を目の当たりにしましたもの」とぼそりと呟く。どうやら、ルーベットは火に対してのトラウマを持っているらしい。


「なるほど。そういう経験があるのなら、そう思ってしまうのは無理もない。でも、ルーベットが目の当たりにしている通り、こうして燃えにくくすることは可能だ。燃えないと強く意識出来るようになるだけでも、火に対する耐性を上げることは出来るし、品種改良をして植物そのものに火の耐性を付けさせることも出来る。要は意識改革と言ったところだな」

「ルート兄様は簡単そう言いますが、口で言うほど簡単のことではないのではないかしら?」


俺の説明を聞いてルーベットがちょっと不満そうに口を尖らせる。ルーベットは、それが出来たら苦労はない、とでも思っていそうだ。でも、魔法を使うのにイメージが大事なことに変わりない。マナに自分がどういう魔法を使いたいのか働き掛けるが大事であり、思ってもないことをマナが気を利かせてくれることはない。


「もちろん、そっとやちょっとで意識を変えるのは難しいと思う。でも、幸いなことに火属性に長けた友達がルーベットには居るだろう?ルーベットは、リュミーのことやリュミーの使う火属性の魔法のことが恐ろしく思うことはあるか?」


俺の口から自分の名前の出たリュミーは、ルーベットの肩にそっと腰を下ろす。ルーベットはリュミーの軽く触れてから首を横に振って見せた。


「いいえ、恐ろしいなんて思ったこともないですわ。リュミーと私は大の仲良しですもの」

「そうそう、ルーベットとわたしは大親友なんだから」

「そうか。なら、ルーベットはリュミーの火を思い浮かべながら魔法を使うようにしてみるといい。大親友の火であれば、自分の操る植物を決して燃えることはないと。そうして、ちょっとずつ火に対する意識を変えていったいい」


俺の話を聞いてルーベットは俯き加減になる。ルーベットは少し考える素振りを見せてから「やってみますわ」と顔を上げる。諦めることなく前向きに自身の成長と向き合える彼女の姿勢は本当に好ましい。


・・・いや、それはルーベットに限った話じゃないな。バルアスクたちを筆頭に、レジスタンスに皆も頑張ってるからな。


「ルーベット!特訓をするならいくらでも付き合ってあげるからね!」

「えぇ、ありがとうございますリュミー。よろしくお願い致しますわ」


一緒にもっと強くなろう!と意気込み合うルーベットのリュミーの二人に、リリが「皆さん本当に仲良しですね」と言って、嬉しそうに笑みをこぼす。リリは何だかホッと安心した表情をしているような気もする。恐らく、俺が過ごしていた魔族領での環境を目の当たりにして、彼らから俺が嫌気(けんき)されていないことに安心したのではないかと思う。


・・・まあ、一番初めは思いっきり喧嘩を吹っ掛けられたけど。今更波風立てても仕方がないし、そのことは黙ってこうっと。


「どころでさ。バル(にい)はいつまで転がってるの?」

「ルンの言う通りだよ。それに、ルート兄上に急ぎの話があるって言っていたのはバルだろう?」


ルングとオゥレンジがバルアスクを見下ろしながら早く立てと急き立てるが、バルアスクはバタバタするだけで全く起き上がれない。それもそのはず。バルアスクにグルグル巻きしてあるつたは、バルアスクがどれだけ暴れても緩み気配はないからだ。


「ぐっ。俺もそうしたいのはやまやまなんだけどよ。ぜんっぜん、外れる気配がねえんだよ!」

「そりゃあ、そのままの状態で外せるようなものじゃないさ。せめて強化魔法ぐらいは掛けないと外すのは難しいだろう。もしくは魔法剣か。いずれにしても俺の妹は凄いだろう?」


俺が腰に手を当てて妹自慢をすると、リリが俺の袖を軽く引っ張りながら「ルゥ兄様。それはちょっと恥ずかしいです」と頬を赤らめた。もっとリリのことを自慢したい気持ちはあったのだが、これぐらいにしておいた方が良さそうだ。仕方がないので、俺は自分も褒めて欲しそうなクリューのことを皆に自慢しておくにする。


「クリューの力も大したものだっただろう?こんなにも可愛い女の子のどこにそんな力がって思うだろう?実はクリューは、今は人化して少女の姿をしているが、この子はブラックドラゴンなんだ。俺と同じ黒髪なのは、闇属性を司るドラゴンだからって訳だ」

「人化?ブラックドラゴン?兄貴は何を言って。どういうこった?」

「その子がドラゴン?どう見ても、人族の女の子にしか見えないけど?」

「ルンの言う通りだけど、それよりも、さっき自分の娘だとルート兄上は言ってたような?」

「確かにルート兄様は先程、自分の娘と言ってましたわ。言ってましたけど・・・」

「ルート兄さんは魔人族と人族の間に産まれたのに、ルート兄さんの子供はドラゴンになるの?」


俺の娘自慢を聞いて、バルアスクたち五人とも頭に疑問符を並べたような顔になった。クリューのことを話すと大体同じような反応が返ってくるので、俺としては見慣れた反応だ。

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