第二百十五話 吸血鬼族の勧誘 後編
「ふむふむ、それでアシュリ様は、俺が腕を切り飛ばして提供するための血を準備したことに驚いて元の姿に戻ってしまったと」
クレアの説明に俺が、なるほど、と頷いていると、黙って話を聞いていたアシュリが腕組みをして、頬を膨らませながらぷりぷりと怒る。
「あんなの見せられたら、誰だってびっくりするわ。クレアだってびっくりしてたもの。あんな危ないことして、お兄ちゃんは何考えてるの?」
「何考えてるのと聞かれたら、冒頭に話した通りですけど?」
「そんな。本当にそれで自分の腕を!?それ絶対、頭おかしいよお兄ちゃん」
「頭おかしいって・・・。ひどい言われようだな」
アシュリの指摘に俺は頬を掻きながらゾーを見遣る。そんなことないですよね?という意味を込めてのものだったのだが、俺の視線の意図に気が付いたゾーはニコリと微笑みながら「失礼ながら、これに関しては私も同意見です」と言い切った。微笑んではいるが、ゾーがちょっと怒っているのが分かる。
「あれ?これはもしかして、もしかしなくても俺の味方が居ない?」
「そこのおじさんも賛成してた訳じゃなかったんだね。レジスタンスってすごっく恐ろしいところかと思ったよ」
「僭越ながらアシュリ様。レジスタンスでは現在、魔人族に対抗するべく厳しい訓練をしているのは確かです。ですが、この様な真似をさせることは決してございません」
ゾーの言葉にクレアが「それを聞いて安心致しました」と頷いて見せた。アシュリの周りを固める護衛役の彼女たちもホッとした表情だ。
・・・ふむ。つまりこれはやり過ぎた、と。
「血を要求されたから、お互いに最も良い方法と思ってやっただけなのに・・・」
「・・・恐らくですが、ルート様は何か勘違いをされているのではないかと推察致します」
「勘違いですか?どういう意味でしょう?」
首を傾げる俺にクレアが説明してくれる。吸血鬼族が俺の血を要求してきた目的が、自分たちの能力を引き上げるためではないことを。
「私たち吸血鬼族は、血に誓いを立てるのです。相手と自分の血をほんの少しずつ、例えばナイフで指先を切ったぐらいの血を分け与え合って、互いに誓い合うのです。それを私たちは血の盟約と呼んでおります。それを私たちは要求したという訳です」
「なるほど、なるほど。吸血鬼族にとって血は神聖なもの、ということですか。手っ取り早く強くなろうと考えていた訳ではなかったと」
「はい、そもそも魔人族の方が血を飲ませてくれるなど、私たちは露程も思っておりません。なぜなら魔人族は、私たちのために自分の身体を傷を付けることなどまずあり得ません。だからこそ、血の盟約を求めさせて頂いたという訳なのです」
自分たちの種族が一番だと信じてやまない魔人族が、他種族のために自身が傷付く様な真似はしない。それが吸血鬼族から見た魔人族の姿だとクレアは説明してくれる。その認識は、吸血鬼族だけに限った話ではないだろう。今の話を聞いて、魔人族という種族のことをかじり始めた俺でさえ、そうだろうな、と納得出来るものだった。
ただ、今回に限っては、それを俺が疎ましく思うことはない。なぜなら、その魔人族の人となりが、功を奏すると言える。魔人族の血を引く俺が、吸血鬼族と血の盟約を交わすという行為そのものが、吸血鬼族から信頼を得ることが出来るという訳だ。
・・・でも、こんな大事なこと、ゾーさんからは聞かなかったな。
「今の話、ゾーは知らなかったのですね?」
「そうですね。その様な風習があるとは存じませんでした。それを知っていたら、絶対にルート様のことを止めていましたよ」
知っていたら俺のことを止めていた、とゾーは肩を落としながら嘆く。それを見たクレアが苦笑しながら「無理もありせん」と首を横に振って見せた。
「血の盟約は、表立って行うことではありませんし、行う以上は相手との関係が良好であることが前提ですから」
「だから、世間的に広く知られてはいないと・・・。でも、その話からすると、今回は結構危ない橋を渡ろうとしていたのではないですか?」
「ルート様のお考えの通りです。ですが、私共に残された選択肢は多くありませんから」
・・・なるほど。アルラド様が健在であれば、もっと他の選択肢もあったんだろうな。
「話は分かりました。嘘偽りなく内情を話して頂きましたので、騙し討ちの様な真似をされたことは綺麗さっぱり水に流しましょう。ゾーさんもそれでいいですよね?」
「はい、もちろんです」
アシュリが老女に変化して、吸血鬼族当主アルラドの真似をしていた事情を把握することが出来たので、俺は話を本筋に戻すことにする。
「それじゃあ、話を元に戻しましょうか。魔人族に対抗するための人手がレジスタンスには必要です。血の盟約を交わすことで、吸血鬼族が力を貸してくれると言うのであれば、俺は血の盟約を交わしましょう」
「かしこまりました。受け入れて頂けるのであれば、レジスタンスに協力する様に、と当主様からの意思を承っております」
「それは嬉しい話ですね。ありがとうございます。・・・ところで、その血の盟約はどうしたらいいですか?何か儀式みたいなことでも?」
俺の質問にアシュリが得意気な顔をしながら「やっとわたしの出番ね」と言って、椅子から飛び降りる。が、アシュリは身体が元の子供の大きさになったことで、大きすぎるドレスのスカートの裾を踏んで体勢を崩し、倒れそうになってしまう。それを、護衛役の一人がすかさずアシュリの身体を支えた。
アシュリは、失敗したといった感じに照れ笑いをしてから、「ありがとう」と屈託のない笑顔で支えてくれた彼女に言った。アシュリからお礼を言われた彼女とそれを見守る周りは、そんなアシュリの姿にほっこり顔だ。
・・・お転婆っぽいけど、そんなところが愛されているんだろうな。
アシュリは邪魔なスカートをたくし上げながら、こちらに近付いてこようとする。とりあえず、まずはその身体に合ってないドレスを着替えて欲しくて仕方ないところだったが、護衛役の一人が床を擦るスカートを後ろから持ち上げて、丸でバージンロードを歩く花嫁みたいにアシュリの移動を手伝い始めた。どことなくその誇らしげな顔を見ていると、何だか止めるに止められない。
・・・ああ、うん。まあ、いっか。満足そうだし。
アシュリは俺の目の前までやってくると、後ろについてきていたクレアに向かって右手を出した。クレアはその手に刃渡り十センチぐらいの小さなナイフを手渡す。アシュリは、受け取ったナイフで自分の左手の人差し指を僅かに傷を付けると、傷口からぷくっと血が出た。アシュリはそんな左手の人差し指を俺に向けながらニコッと微笑む。
「じゃあ、はい。お兄ちゃん、舐めて」
「はい?え?舐める?俺がアシュリ様の血を?分け与え合うって、比喩的なものじゃなくて?」
俺は血の盟約の仕方に困惑しながらクレアに視線を向ける。でも、クレアはそっと頷くだけだ。どうやら俺は、アシュリの血を舐めなければならないらしい。
「もう、お兄ちゃん、質問が多いよ!それに血の盟約を交わす以上は、わたしとお兄ちゃんは対等なの。だから、わたしのことはアシュリって呼んでよねお兄ちゃん!」
「こう言っては何だけど、大の大人が少女の指を舐めるって何だか変態っぽいんだが」
「そんな心配をしなくても、ここに居る者でそんなことを思う人なんか居ないわ。ほら、つべこべ言ってないで早くしてお兄ちゃん。早くしないと血が垂れてドレスが汚れちゃうから!」
アシュリは「早く!早く!」と催促する様にグイグイと左手の人差し指を俺の顔に近付けてくる。アシュリの言う通り、膨れてきた血が垂れてしまいそうになってきていた。俺はとても複雑な気持ちになりながら、ひと舐めすれば吸血鬼族がレジスタンスの仲間になってくれる、と自分に言い聞かせてから、アシュリの左手を取って人差し指の血を舐めた。口の中に自分の血と何も変わらない鉄の様な味が広がった。
「ふふ、よく出来ました」
「む、何が馬鹿にされてる?」
「してないしてない。それより今度はお兄ちゃんの番だからね」
・・・俺の番か。まあ、仕方ないか。
すでに結構な血を流した後ではあるが、郷に入れば郷に従え。俺もアシュリと同じ様に指を傷付けて血を出すか、と自分の左手の人差し指を見つめていると、アシュリが俺の右腕を掴んできた。俺が「ん?」と思っている内に、アシュリは袖を捲って俺の右腕の肌を露にさせると、カプッと俺の右腕に噛み付いた。当たり前だが割りと痛い。俺はアシュリの行動に目をパチパチとさせてからクレアに尋ねる。
「えっと、指先の血を舐めるのが、血の盟約とい訳ではないのですか?」
「血を分け与え合っていれば、どの様な形でも問題はございません」
「そうですか。どの様にして血を与え合うのか形には意味がなく、血そのものに意味があるということですね。それだったら、俺はアシュリの指を舐める必要はなかったんじゃ・・・。あれ?と言うことは、俺の場合はさっき溜めたあれでも良かったってことではないですか?」
ゾーが持つ俺の血を溜めた杯を指差しながらクレアに追及すると、クレアは「そうですね」と言いながら、スイッと俺から視線を外した。どうやら、俺はアシュリに噛み付かれる必要はなかった様だ。
「んくんく、ふう~。ごちそうさまお兄ちゃん!」
「はぁ、それはお粗末様。満足したか?」
「うん!おかしなお兄ちゃんだけど、血は思った通り美味しかったよ」
アシュリの評価を聞いた俺は、両手をアシュリの頬っぺたに伸ばして、徐にグニグニとアシュリの頬っぺたを引っ張った。
「口が悪いのはこの口かな?」
「いひゃいいひゃい」
「さてと、何はともあれ、これでレジスタンスと吸血鬼族との間に同盟は結ばれたと思っていいのですねクレアさん?」
「はい、問題ございません」
「では、お互いに協力し合っていきましょう。これから宜しくお願いしますね」
「宜しくお願い致しますルート様。・・・ところで、その、そろそろアシュリ様を解放して頂けませんでしょうか?」
クレアと話をしている最中も俺はグニグニとアシュリの頬っぺたを引っ張っていた。アシュリの頬っぺたは中々に引っ張り心地が良く、癖になりそうなやみつき感がある。俺は初めて頬っぺたを引っ張る側の気持ちが分かった様な気がする。
俺は名残惜しさを感じなから、パッとアシュリの頬っぺたから手を離すと、アシュリは頬っぺたを擦りながらキッと俺のことを睨んだ。
「もう!ひどいよお兄ちゃん!何するの!」
「ん?口が悪くて生意気で可愛い頬っぺたが目の前にあったからつい」
「つい、じゃないよもう!わたしが可愛いのは分かるけど、レディの肌に勝手に触れちゃいけないんだからね!」
・・・俺はアシュリに勝手に噛み付かれたけど、それはいいのだろうか?
ぷりぷりと怒るアシュリにそんなことを訴えても意味はないだろう。俺はアシュリを宥めるために「分かった分かった。俺が悪かったよ」と答えながら、アシュリの頭を優しく撫でる。すると、アシュリは俯き加減になってしまった。
「あぁ、すまない。気安くレディに触れちゃ駄目だったな。つい妹を宥める時と同じ様に・・・」
余計にアシュリの機嫌を悪くしたと思い、俺はアシュリの頭から手を離す。すると、アシュリが離した俺の手を取って、自分の頭の上に置いた。まだ撫でろ、という無言の催促だ。俺はこういう場面にはよく遭遇するので慣れているし、どうすればいいか知っている。だから、俺は要求通りに再びアシュリの頭を撫でることにしたが、俺が頭を撫で始めようとした次の瞬間、アシュリが突然その場に踞ってしまった。
「どうしたアシュリ?大丈夫か?」
「大丈夫、平気。でも、うぅ。・・・何これすごい。魔力がどんどん溢れてくる」
アシュリはぼそりとそう呟くと、今度は急に立ち上がる。危うく、俺はアシュリの頭でアッパーカットを決められるところだった。俺はじとっとした視線をアシュリに向けるが、立ち上がったアシュリはこちらを向くことなく、ふらふらした足取りでクレアに抱き付いて顔を上げる。
「すごいのクレア!魔力がどんどん溢れてくるの!今ならクレアにだって負ける気がしないわ!」
「落ち着いてくださいアシュリ様。少し興奮し過ぎです。・・・もしかしてアシュリ様、酔ってますね?」
「えぇ?そんな訳ないじゃない。私は酔ってなんかないわぁ」
アシュリは「酔ってない酔ってない」とお酒を飲んで酔っている人の常套句でクレアに答える。アシュリの顔をよく見ると頬が赤い。それは俺が頬っぺたを引っ張ったから赤いという訳だけではない。俺がアシュリの頬っぺたから手を離した時よりも確実に赤くなっているのだ。それを見ればアシュリとクレアのどちらが正しいこと言っているのか明らかである。
・・・アシュリは完全に酔っぱらいのそれだな。でも、何でアシュリは酔ってるんだ?何か悪いものでも、ってどう考えても俺の血しかないか。
「・・・えぇっと、クレアさん。吸血鬼族の方は血を飲むと酔うのですか?」
「自分よりも強い力を持つ方の血を飲むと、お酒を飲んだ時の様に気分が高揚することがあるのです。でも、アシュリ様は私たちの中でもかなり魔力が高いはずなのですが・・・」
「えへへ、そんなつまらない話よりもお兄ちゃん!アシュリにもぅともっと血を飲ませて~」
アシュリは俺とクレアの話に割り込んでくると、甘える様に両手を広げながら、俺に抱き付いてこようとする。その姿だけ見れば、そのまま抱き留めて愛でてあげたくなる可愛さがある。が、騙されてはいけない。今のアシュリは、ただの酔っぱらいであり、しかも俺に再び噛み付こうとしているのだ。俺はアシュリの噛み付き攻撃をヒラリとかわして、アシュリとの距離を取る。
「むー、どうして避けるのぉ?」
アシュリは膨れつつ、負けじと俺を追い掛けてくる。もちろん、俺は逃げるに決まっている。これ以上俺の血をアシュリに飲ませる必要はないし、飲ませてもいいことはない。
俺はアシュリの噛み付き攻撃をひたすらに避ける。アシュリのスカートを持ちっぱなしの護衛役の彼女も、アシュリの動きに合わせて行ったり来たりをするので、ちょっとした鬼ごっこをする俺たちのことを客観的に見たら、とてもシュールなことだろう。
・・・一緒になって動き回るんじゃなくて、アシュリを止めて欲しいんだけどな。まあ、その気があったら、端から止めてるんだろうけど。
「もう、お兄ちゃんの意地悪!ちょっとぐらい、いいじゃない。減るもんじゃあるまいし!」
「いやいや、しっかり減るもんだよ。何ならすでに結構な量を失ってるんだ。そんなにも血が飲みたいなら、その杯に溜めた血を飲めばいいだろう?」
「やだ!直接がいいんだもん。それじゃ意味ないもん」
アシュリの言葉に俺は血の気の引く思いをして、頭がふらりと揺れる。結構な血を失っているので、単純に貧血かもしれない。でも、今重要なのはそんなことではない。俺は慌ててクレアに確認を取った。
「クレアさん!もしかして、直に血を飲まないと能力向上の効果がないのですか!?」
レジスタンスとの同盟を結んでもらうためだけでなく、吸血鬼族の能力を最大限に活かすために、俺は痛い思いをして血を流した。それなのに、直接噛み付いて血を飲まなければならない制約があったとしたら、俺が痛い思いをしたのは全くの無駄になってしまう。
「いえ、その様なことはございません。その杯に溜めた血を飲んでも大丈夫です。・・・その、私たちの愛情表現と言いますか、友愛表現と言いますか。気に入った方に噛み付くというのがありまして、アシュリ様はルート様のことを気に入られたのかと」
「散々、アシュリには頭がおかしいって言われましたけど?」
「だからこそです。突拍子もないことをされるところを、アシュリ様は気に入ったのだと思います。あとは、酔っているせいで、完全にたがが外れてますね」
「そうですか。迷惑極まりないですが、当主代理に気に入られたというのであれば、よしとしておきましょう。それに、折角溜めた血が無駄にならなくて良かったです」
未だに追い掛けてくるアシュリをかわしながら、俺がホッと胸を撫で下ろしていると、クレアが驚いた様に目を丸くする。
「もしかして、その杯の血を頂けるのですか?」
「えぇ、無論です。そのために痛い思いをして溜めた血ですから」
「ルート様は随分と気前が良いのですね。私の知る魔人族の方とは違い過ぎて驚かされてばかりです」
「それは俺自身、魔人族である意識が薄いので仕方ありませんね」
「ふふ、そうなのですか?いえ、だからこそルート様はレジスタンスの旗頭なのですね」
この後、俺が酔っぱらいのアシュリのお守りをしている間に、クレアがゾーを連れて、吸血鬼族の重鎮を集めての打ち合わせしてくれた。基本的には、吸血鬼族全員がラフォルズまで移動してもらうのは日数が掛かってしまうため、魔人族との戦いはキヴァニアから参戦してもらうことに決まった。カスガロルド監修による傭兵式ブートキャンプに参加してもらえないのは少し手痛いが、その辺りは俺の血頼みといったところだ。
そんな俺の血は、大人が飲んでもやはり酔ってしまうことが分かった。アシュリがまだ子供だから、という訳ではなかったのだ。むしろ、泥酔の症状だけ見れば、アシュリが一番マシだったと言える。なぜなら、例え大人でも俺の血を少し口にしただけで、へべれけになる者が続出してしまったのである。これは想定外なことだった。
いくら能力が向上するからと言って、当然へべれけの状態で満足に闘える訳がない。そこで俺の血は薄めて飲むという話になった訳なのだが、それにはちょっとした一幕があった。
「やはりシンプルに水で割ったらいかがでしょうか?」
「いや、それならお湯で飲む方が味わいと香りがいいと俺は思いました」
「クーイットの果汁を入れるのはどうでしょう?さっぱりとした味わいになりますよ」
「いやいや、それなら濃厚さを活かして、ムグムグ一択だろう?」
「何言ってるの皆、お兄ちゃんから直接飲むのが一番じゃない」
一人の子供の意見は無視をするとして、大の大人が集まって真剣に俺の血を何に混ぜて飲むかの話をするが、その重きに置かれているのは、俺の血を何に混ぜて飲んだら美味しいか、である。話の内容だけ聞けば、俺の血が完全に嗜好品の類いになってしまっている気がして仕方がないが、俺も出来れば回復薬は美味しいものがいいと思っているので、俺は口を挟むことはしなかった。
真剣に意見が飛び交う様子を、俺はとても複雑気持ちで眺めていると、そこにずっと黙って話を聞いていたクレアが参戦して、白熱する議論に一石を投じた。
「ヴィジェリと合わせれば間違いありません」
クレアはそう言いながら、手に持っていた瓶を傾けてグラスに中の液体を注ぐ。ふわりとアルコールの香りがするヴィジェリは、見た目を言ってしまえば赤ワイン。つまりはお酒である。そして、クレアの意見が満場一致で支持された。
・・・血で酔うって言ってるのに、お酒で俺の血を割るのか。
その光景を見て、結局酔うんじゃね?と俺が困惑したのは言うまでもない。




