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約束を果たすために  作者: 楼霧
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第二百十四話 吸血鬼族の勧誘 中編

俺はくるりと踵を返して、何か目印になりそうなものがないか辺りを見渡す。だが、雲に覆われているせいで月の光が届かないこの場所は、辺りを見渡しても真っ暗でほとんど何も見えない。俺は光のマナに働き掛けて、光源として五十センチぐらいの光の玉を出現させて空へと浮かべ辺りを照らした。


・・・お、あそこにちょうどいい感じに目印になる木があるな。


辺りに生えている木の中で一際大きく目立つ木を選び、俺はその木を指差した。


「それじゃあ、俺はこれからあの大きな木まで走りますので、しっかりと見ていてくださいね」


今から走ると説明した俺は、雷属性の補助魔法を自分に掛けて、目印にした木を目掛けて一気に駆け抜ける。四、五百メートルほどの大した距離ではなかったため、一瞬の内に目印にした木までたどり着く。


・・・ふむ、日が満足に当たらなくても、ここまで大きく育つとは中々強い木だな。


大きく育った木を目の前にして、そんな感想を抱いてから、俺は再び踵を返す。


「では、今度は戻りまーす!」


俺は大声でそう宣言してから、元居た場所から少し離れた位置まで一気に走って戻る。そのままの勢いで、門番たちが居るところに直接戻ってしまうと、風圧で大変なことになってしまうのだ。すでに経験済みの話である。


・・・俺が、じゃなくて、相手が、だけど。あれはまあ、うん。悪いことをした。


「という感じで、俺たちはラフォルズから走ってきました。あ、ゾーさんはもちろん飛んでですけど。それと、ラフォルズからずっと休みなしで来た訳ではないのですよ?さすがにここは遠かったですから。一晩はぐっすりと休んでからここに来ました」

「な、なるほど。嘘ではない様だ。しかし、これはまた・・・」

「これが魔人族の力。何と凄まじい力だ・・・」


見せた方が早い、という俺の考えに間違いはなかった。門番二人からの納得は得られたのだ。但し、納得のついでに俺は門番の二人からドン引きされることになってしまった。頬をヒクヒクと引きつらせている彼らの姿を見て、ゾーが苦笑しながら助け船を出してくれる。


「信じて頂けた様ですね。こちらとしても思ったよりも早く到着してしまい、この様な夜分に訪問することとなってしまいました。アルラド様のご都合が悪い様であれば、明日の朝に改めさせて頂きますが、如何でしょうか?」

「む?すぐに確認してくるので、ここでしばらく待っていて欲しい!お前はこの方々を頼んだぞ!」

「あ、ちょっ!おまっ!?ずるいぞ!」


ゾーの提案を聞いて、一人がそそくさと門を僅かに開けて、中に入って行ってしまった。出遅れたもう一人が恨めしそうな声を上げると、気不味そうに俺のことを一瞥する。何を言っても、恐がられてしまいそうだったので、俺は一つため息を吐いてから、ゾーの陰に隠れる様にして大人しく待つことにした。


ゾーと取り残された門番の他愛のない会話をしばらく聞いていると、確認をしに行った門番が一人の女性を連れて戻ってきた。年齢はコールディアと同じぐらいに見える綺麗なお姉さんだ。従者をしているのか深い紺色と白色のエプロンドレス姿をしる。そして、そのお姉さんも門番の二人と同じく色白の肌に金髪とルビーの様な赤い瞳をしているので、それが吸血鬼族の特徴なのかもしれない。


・・・魔人族の黒髪と灰色の瞳と比べたら吸血鬼族は華やかだな。


「クレアと申します。当主がお会いになるそうなので、わたくしがお客様のご案内を勤めさせて頂きます」


クレアは両手をお腹辺りで手を組むと、丁寧に挨拶をしてくれる。そのあとすぐに、クレアは右手を上げて「では、こちらへ」と言葉少なげに言って、俺たちを門の中へ入る様に促してから、踵を返してスタスタと門の中へと歩いていく。愛想が悪いと言えないくもないが、俺は無駄な口は叩かないクールビューティといった印象を受けた。


俺とゾーはクレアの後について門を潜り外壁の中へと入る。すると目の前には、城へと続く一本道が見える。外からでは外壁があって分からなかったが、城の回りは堀になっており、より一層、キヴァニアは和風の城、といった感じが俺の中で強まった。そこをしずしずとした足取りで歩くエプロンドレス姿の金髪のお姉さん。全く合わない。


・・・せめてエプロンドレスじゃなくて着物の様な服を着てくれていたら、ここまで気にならなかったのに。


先行して歩くクレアの姿を目で追いながら、俺が小さく息を吐いていると、クレアが城へ入るための扉を守る兵士らしき人に話を通して、兵士に扉を開けさせた。開いた扉をクレアが通り抜けたので、俺たちもクレアの後に続く。兵士からの物珍しそうな視線を受けつつ、俺たちはキヴァニアの中へと入った。そこで目に飛び込んできた光景を目の当たりにして、俺は思わず叫んでいた。


「違う!そうじゃない!!」


城の中に俺の声が響き渡るのを聞いて、ゾーが血相を変えながら「突然、どうしたのですかルート様!?」と俺に尋ねてくる。


「どうもこうもないですよゾーさん。散々、合わないと思っていたのにどうしてこんな・・・。中と外がどうしてこうも・・・」

「合わない?中と外ですか?」


俺は身振り手振りを使いながら、ゾーに必死に訴える。だが、ゾーは俺が何を訴えているのか分からない、といった感じに首を傾げるだけだ。どうやら、俺の思わず叫ばずにはいられなかった不満を、ゾーに共感してもらうのことは出来ない様だ。でも、それは仕方がないことだろう。恐らく、この世界でそんなことを思っているのは、きっと俺ぐらいなのだから。


・・・外観があれだけ和風の城だったのに、何で城の中は普通に西洋風になってるんだよ!!だったら、外観も西洋風にしておけよ!


キヴァニアと呼ばれる城は、外観は和風、内装は西洋風という訳の分からない造りの城だった。何をどうしたら、こうなるのか。俺からしたらすると、突っ込みどころしかない城である。それでなくても、キヴァニアの外観とそのに住む吸血鬼族の服装を見て、ずっともやもやとしていたのを我慢していたというのに、こんな内装を見せられてしまって、俺は叫ばすにはいられなかった、というのが俺が叫んでしまった理由だ。


そうこうしている内に、城の中が蜂の巣をつついた様な騒ぎになってきた。自分たちのコツコツという靴音しか聞こえないぐらいにシンッと静まり返っていた城の中で、俺の声がよく響き渡ったのだから無理もない。「何事だ!?」「なんだなんだ?」と人が集まる様子を見て、俺は「やってしまった!」と心の中で頭を抱えた。


これから吸血鬼族と交渉をして、レジスタンスと同盟を結んでもらおうというのに、その本拠地で騒ぎを起こしてしまったことに俺の冷や汗が止まらない。どうこの場に収拾をつけるか俺が頭をフル回転させていると、クレアがパンパンと手を叩き、集まった吸血鬼族たちの注目を集めた。


「お騒がせしましたが、特に何もありません。皆もう戻ってください」


クレアの一言で集まっていた吸血鬼族たちが蜘蛛の子を散らす様に姿を消した。何もなかったの一言だけで、集まった者を納得させることが出来る程、クレアという人は吸血鬼族の中でかなり信頼されていることが分かる。


・・・こういう人を味方につけておきたいものだな。


その場に俺たち三人だけとなり、クレアが何事もなかった様に再び歩き始めようとする。俺は慌ててクレアに近付いてクレアに謝った。


「あの、クレアさん。申し訳ありませんでした」


クレアは、一瞬驚いた様に目を大きく開くが、すぐに元の表情に戻して「ルート様は・・・。いえ、すでに休んで居る者もおりますため、お静かにお願い致します」と言って、歩を進め始めた。一見すると素っ気ない態度で気分を害してしまった様に見えるが、正面に向かって振り向くクレアの横顔が心なしか微笑んでいる様に見えた。


「大きな騒ぎにならなくて良かったですねルート様」

「はい、本当に・・・。ちょっと考え事をしていて、それが思わず声に出てしまいました。ゾーさんにもご心配をお掛けして申し訳ありませんでした」

「お気になさらず。ルート様に負担を掛けているのはこちらの方ですから」


・・・ごめんねゾーさん。今のは完全に自業自得なんだよ。


優しいゾーの言葉に、俺は心の中でゾーに謝り倒しておくことにした。


クレアの案内で連れてきてもらったのは当主の間。意匠が施された豪華な両開きの扉をクレアが開けてくれる。ギッと音を立てて開いた扉を通り当主の間に入ると、正面見える奥の床が一段高くなっており、その中央に立派な椅子が置かれてある。部屋の模造か、それとも天井を支えているのか、左右に等間隔に円柱が立ち並んでいて、いかにも主の部屋といった感じの雰囲気がある。自分でもしつこいと思うが、外観以外は本当に完璧と言っていい。


・・・どうしよう。ここでアルラド様がちょんまげをしたお殿様スタイルだったら。果たして、俺は突っ込まずにいられるだろうか。ちょっと自信ないかも。


当主の間ではあるが、正面の椅子にはその当主が座っていない。クレアはクルリとこちらに振り向くと「当主を呼んで参りますので、少々お待ちくださいませ」と丁寧に腰を落としてから、奥の隅に見えるドアに向かって歩き出す。クレアがドアノブに手を掛けたところで、俺は一つクレアに提案にした。


「あ、クレアさん。騒ぎを起こした俺が言うのも何ですが、俺が警戒されていることは分かっていますので、どうぞ護衛の人には、柱の陰ではなく護衛しやすい位置で護衛してください。その方があなた方も安心でしょう?俺は気にしませんので」


円柱の一つ一つに誰かが隠れていることは、当主の間に入るよりも前に分かっていた。索敵魔法で敵意は感じられないものの、警戒をされていることはひしひしと伝わってくるので、円柱に隠れているのは当主の護衛役と見て間違いないだろう。俺とゾーが、アルラドに危害を加えることなどはっきり言ってあり得ないが、それを信用してもらえる様な間柄ではないので仕方ない。


クレアは俺の言葉を聞いてスッと顔を伏せてから「あなたたち、出てきて椅子の周りを固めなさい」と言って、ドアを開けて出ていった。すると、柱の陰に隠れていた護衛役がぞろぞろと出てきて、当主の椅子の周りに並び立つ。アルラドを守護するための護衛役と思っていたが、全員が女性だったことに俺は少し驚いた。それに全員がクレアと同じくエプロンドレス姿で、しかも皆クレアに負けず劣らずの美人揃いだ。


・・・これはもしかして、アルラド様って好色家か?


アルラドという人物をそんな風に勝手な分析をしていると、奥のドアが開いてクレアが入ってくる。クレアは開けたドアが閉まらない様にドアを押さえると、続いてそのドアから青紫色のドレスを纏った老齢の女性が入ってきた。見た感じの年齢は、俺の祖母であるカジィリアと同年代ぐらいだ。その女性が当主の間に完全に入り切ると、クレアはドアを閉めてしまった。クレアが連れてきた女性は、当主の椅子の前まで歩いてくると、当然と言わんばかりに腰を下ろす。俺はその様子に目を丸くしながら、小声でゾーに尋ねる。


「ゾーさん。アルラド様は確か男性ではなかったのですか?」

「私も今までに直接お会いしたことはないのですが、アルラド様は間違いなく男性です」

「でも、どう見ても女性ですよね?」

「そうですね。これは一体・・・」


ひそひそ声で話している内に、アルラドと思しき女性がこちらをスッと見据えながら口を開いた。


「よくぞここまで来たお客人よ。私がアシ・・・」

「アルラド様?」

「ん?んん、私が当主のアルラドだ。よろしくね、んん!!よろしくたのむ」


アルラドと思しき女性は、やはり自分のことをアルラドと名乗った。アルラドの周りを固める護衛役の彼女たちも、さも当然のこととして受け入れている様子なので、どうやら彼女がアルラド本人でいいみたいだ。アルラドは美人を侍らせる好色家だと思ったが、アルラド当人が女性だから護衛役を女性で固めていたということの様だ。


・・・索敵魔法で気になる反応はないけど。ただ、何だろうかこの違和感は。緊張をしているから、どことなくアルラド様の様子がおかしく見えるだけ?


どこかアルラドの様子がおかしいのは気になるところだが、すでにやらかしている俺は人のことを言える立場ではないので、ここは大人しく黙っておくことにする。


「お初にお目に掛かりますアルラド様。私はレジスタンスのゾーと申します。こちらは、我らレジスタンスの旗頭であるルート様です」

「ルートです。以後お見知り置きをアルラド様」

「うむ、良きに計らうぞよ」


・・・うん?何か言葉の使い方が違うような?それに、語尾のぞよって。


やはりどこか様子のおかしいアルラド。それに、実は俺はアルラドのことで気になっていることが他にもある。パッと見た感じは、当主としての威厳がある様に見えるのだが、年齢を重ねた者が持つ特有の威圧感というか、凄みというものをアルラドからは一切感じ取れない。もし、今目の前に座っているのがカジィリアなら、俺は手に汗を握るような緊張感に襲われていただろう。俺の感覚がおかしいと言われたらそれまでなのだが、俺は何だか腑に落ちなくて仕方がない。


そんなことを考えている内に、ゾーとアルラドの間で話が進んでおり、いつの間にかレジスタンスとの同盟を結ぶ話になっていた。アルラドは「先告した通り、ルートの血を我らに飲ませてもらおうか。さすれば我らはレジスタンスに協力しよう」と俺に向かって右手を差し伸べてくる。俺はアルラドに大きく頷いて見せた。ここが今回の勝負所である。


「分かりました。それで協力して頂けるなら、俺の血をあなた方に捧げましょう。では、ゾーさん?」


俺は道具袋からガラス製の大きめの(さかずき)を取り出してゾーに手渡した。大体、ビールの大ジョッキぐらいの容量はある杯だ。ゾーは杯を手に持ちながら、物凄く嫌そうに眉をひそめるが、にっこりと微笑む俺を見て、ゾーは俺が譲る気のないことを悟って諦めた様にため息をつく。


「・・・はぁ、やはりやるのですね?ルート様の意思は固い様なので仕方ありませんね」


ゾーの協力を取り付けた俺は、左腕の服の袖をしっかりと捲り上げる。それから左腕の肘の辺りをゾーに持ってもらった杯の真上に来る様に掲げて、右手で左手の手首を掴んだ。俺のおかしな行動を見て、アルラドは目をパチパチとさせて首を傾げた。


「あの、一体何を?」

「これから血を提供致しますので、少々お待ちください」

「え?」


俺はすぅっと息を吸って吐いて心を落ち着かせる。そして、風のマナに働き掛けながら魔力を練り上げる。攻撃規模を最小限に、それでいて最大限の威力になる様にイメージを固め、頃合いを見て魔法を解き放つ。その次の瞬間、俺の左腕の肘から先が右手で持ち上げられる様になった。そう、俺は自分の腕を魔法で切り飛ばしたのだ。もちろん、痛いか痛くないか聞かれたら、めちゃくちゃ痛いに決まっている。


左腕の切り口からドバドバと流れる血を、ゾーが杯で受け止めてくれる。杯は見る見る内に俺の血が溜まって、透明だったのが真っ赤に染まった。血が目一杯まで杯に入ったところで、俺は右手に持っていた肘から先の左腕を、切り口にくっ付けて治癒魔法を掛ける。


ズキズキとする激痛から解放された俺は、ふぅと額の汗を拭った。短時間にそれなりの量の血を流したことで、少し頭がふらふらとするが今は我慢だ。失った血を治癒魔法で完全回復させることは可能だが、血の提供には制限があることを、俺はしっかりとアピールしなければならない。


「さて、俺が提供出来る血はこれだけです。血を失い過ぎるとどうなるか、血を飲むあなた方が一番よくご存知のことでしょう?これで、レジスタンスとの同盟を結んで頂けますね?」


さあ、同盟だ!という俺の気持ちとは打って変わって、アルラドたちは呆然といった感じに、目と口を大きく開いている。もう一つ言えば、アルラドの顔色が血の気が引いた様にとても悪い。確かに気持ちのいい光景ではなかったと思うが、血を飲む吸血鬼族なのだから、血が流れるところを見るのは慣れているのではないかと思う。


・・・ははーん。さては俺が腕を切り飛ばした攻撃魔法の威力にびっくりってことかな?


「・・・な、ななっ、な」

「な?」


顔色の悪いアルラドが俯き加減になると、次第にぷるぷると両腕を震わせ始めた。何やら口にしているが、聞き取れなかった俺が首を傾げていると、アルラドは突然ビシッと右手の人差し指を俺に向かって突き出しながら「何やってるのお兄ちゃん!!」と怒り出した。


「お兄ちゃん?・・・俺がアルラド様にそう呼ばれるのはおかしいと思うのですが・・・え?」


アルラドがなぜか俺のことを「お兄ちゃん」と呼んできたので、俺が何を言ってるの?という返事をしていると、アルラドの身体が突然縮んだ。正確に言うと、老女の姿から十歳前後ぐらいに見える少女の姿へ変わった。そのせいで、アルラドの着ていた青紫色のドレスが、明らかにぶかぶかになってしまっている。


「アルラド様?その姿は一体何ですか?」


俺の質問にアルラドは自分の身体を見下ろすと一拍置いてから、どうしよう!という感じの顔をしながらクレアの顔を見上げた。アルラドから助けを求められたクレアは、仕方ない、といった感じに目を伏せる。どうやら、クレアが一番事情を分かっている様だ。


「えーと、そうですね。まずは、これはどういうことか説明をして頂けますかクレアさん?」


俺はクレアにそう尋ねながら、話合いがもう少し長くなることを察して、ゾーの持つ杯に魔法障壁で蓋をする。そのままいつまでも放置していたら、折角痛い思いをして溜めた血が固まってしまう。


「まずはルート様、ゾー様を驚かせてしまったことを深くお詫び申し上げます」


クレアは俺たちに丁寧に謝ると、一切渋ることなく事情を打ち明けてくれた。本当のアルラドは体調が優れないらしく、現在は寝たきり状態にあるのだそうだ。では、今の今まで、当主の椅子に座ってアルラドを名乗った少女は一体誰なのか?彼女はアルラドの一人娘で、アシュリというのが本当の名前だとクレアは教えてくれる。


「なるほど。本当のアルラド様は体調が悪くて表舞台に立てないので、実の娘に代理をさせた、ということですね?」

「はい、ルート様の仰る通りでございます」


そして、当主が寝たきり状態だというのに、そこに吸血鬼族の今後を左右する重大な話が舞い込んだ。それが、魔人族による魔族領統一の動きがあるという話と、レジスタンスとの同盟の話である。吸血鬼族としては、魔人族に隷属させられるよりも、自由に生きる道を選択したい、というのが総意らしい。だからこそ、レジスタンスとの同盟に前向きだったという訳だ。


ただ、レジスタンスと同盟を結ぶとはいえ、当主が寝たきりだと知られたら、吸血鬼族がレジスタンスの中で軽く扱われるかもしれない。レジスタンスの中での立場を守るために、アシュリを当主代理として引っ張り出した。そして、アシュリが本来の姿である少女の姿ではなく、老女の姿だったのは、俺たちに舐められない様にするためだったそうだ。


「これは余り公にはされておりませんが、私たちは血を飲むことで飲んだ血の相手の能力を一時的に得るだけでなく、姿形を変えることも出来るのです。但し、感情が昂ると今ご覧頂きました通り、元の姿に戻ってしまうのです」


・・・へぇ、吸血鬼族は血を飲むことで変身出来るってことか。それは確かに知らなかったな。面白い。

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