第二十話 ゴーレムとの戦い
「ゴーレムですね」
「ゴーレムだな」
「ゴーレムですわね」
「・・・ゴーレム」
通路の奥の部屋は先ほどの部屋と違って広かった。そして、通路から見て右側の奥にゴーレムが佇んでいる。ゴーレムは、魔物ではなく人が生み出した魔導兵器で、遺跡を守る役目を負った守護者であることが多いとアレックスから聞いていた。それが居るということは、ゴーレムの後ろに少し見える扉の先に何かがあるに違いない。ただ、一番の問題なのはその強さだろう。少なくとも上級クラスの冒険者が挑む相手で俺たち冒険者見習いが挑むような相手ではない。
「・・・全く動かないですわね。本当はもう動かないんじゃありませんこと?」
「いえ、動いてます。ティアさんなら分かりますよね?」
「・・・うん」
全く微動だにしないゴーレムを見たアンジェの言葉を否定した。微量だがゴーレムに遺跡の魔力が流れるのを感じたからだ。魔法使いであるティアにも確認をしたから間違いないだろう。
「リッドさん。足元に落ちている石をゴーレムに投げてみてください」
「おう、分かった」
リッドは足元にあった小石をゴーレム目掛けて投げた。ゴーレムは素早く動いて羽虫を両手で叩くように小石を潰した。小石は粉々になって跡形もない。
「ね?」
「・・・・」
アンジェはその様子を見て絶句した。
「さて、どうしましょうか」
俺は、アレックスから聞いたゴーレムについて皆に話した。そして、ゴーレムが居るということはその後ろにある扉の先に何かがある可能性が高いということを。
「エリオットさんたちが来ない以上は先に進んでみるしかないのですが、ゴーレムは上級クラスの冒険者が相手をするようなやつです。それでも挑んでみますか?」
「まあ、なんとかするしかないんじゃないか?」
「そんな、楽観的な。先ほどの石が潰されたのを見ましたの?力が強いだけでなく素早い動きも出来るのですわよ?」
「・・・それでもやるしかないと思う」
「それに、何か勝算があるじゃないのかルート?少なくとも諦めたって顔じゃないぜ」
「え?ええ、そうですね。勝てるかどうかは分かりませんが思いついたことならあります」
「よっしゃ。だったら挑んでみようぜ!」
「・・・・はぁ、仕方がありませんわね。わたくしもこのままソフィア様に会えないのは嫌ですから」
「・・・やろう。で、どうするのルート?」
かくして、俺たちは遺跡脱出の手掛かりを得るためにゴーレムを倒す選択肢を取った。
俺が考えた作戦は至ってシンプルなものだ。前衛はリッドとアンジェ、後衛は俺とティア。リッドとアンジェにゴーレムの気を引いてもらいながら、俺とティアで魔法を叩き込む。ゴーレムは見たところただの石っぽい材質なので風属性を叩き込めばなんとかなるんじゃないだろうか。
「・・・といった感じで挑みます。あと、リッドさんとアンジェさんは気を引くだけで決してまともに戦おうとしないでください。残念ながら、お二人の武器でゴーレムにダメージを与えるのは難しいと思います。それに、攻撃も出来るだけ武器で受けずに避けてください。先ほどのようすからすると多分、武器が持ちません」
「ああ、分かった。アルさんみたいな大剣だったら割れそうだけど、俺の槍じゃな」
「わたくしもこの剣で石を切ることは出来ませんわね。・・・仕方ありません。あなたのおとり役になるのは少々不満ですがやりますわ」
「・・・やろう」
「それじゃあ、準備と行きましょう」
俺は皆に補助魔法で身体能力上昇させた。出し惜しみをするわけにはいかないからな。それと、俺とティアには闇属性で魔法力も上昇させておいた。
「それと、ティアさんお手を少し良いですか?」
「?」
ティアが不思議そうな顔をしながら出してくれた手を取って魔力をティアに流す。
「ずっと戦って魔力が減ってると思いますので少し、魔力を渡しておきますね」
「・・・ルート。今のが少しって、あなたどれだけの魔力を・・・いえ、ありがとう」
「では、行きましょう」
「おう、ゴーレムなんて軽く倒してやるぜ」
「ソフィア様。どうぞ、わたくしたちをお守りください」
「・・・頑張る」
まずは俺とアンジェが部屋の中に入り、先制に俺は風の刃でゴーレムを攻撃した。風の刃がゴーレムに当たると身体にひびが入る。どうやら、予想していた通りダメージを与えれそうだ。
ダメージを受けたゴーレムは、攻撃した俺に向かって来ようと動き出した。そこに、アンジェが「させませんわ」と割って入って攻撃を仕掛けた。アンジェの剣はゴーレムに当たるが硬質な音がするだけでやはりダメージが通らなかった。それでも、攻撃を受けたことでゴーレムの意識はアンジェへと向かい、アンジェにパンチを繰り出した。鋭いパンチではあったが補助魔法で身体能力を上昇させたアンジェは、「遅いですわ」とゴーレムの攻撃をひらりと回避した。
ゴーレムがアンジェに攻撃を仕掛けているうちにティアとリッドは俺たちがいる場所から反対の位置に移動してティアがゴーレムに攻撃を開始する。
「・・・くらえ」
側面から魔法を受けたゴーレムが今度は、ティアを標的として動き出す。そこに、リッドが「やらせるかよ」と割って入って、槍をゴーレムに突き立てた。アンジェとは違って、少しゴーレムの表面を削ったが、やはり大したダメージは与えれていない。
俺とアンジェ、ティアとリッドでお互いに距離を取る形で陣取って、交互にゴーレム攻撃した。ゴーレムは、俺とティアのどちらに行こうか迷いながらなのだろう、動きが思ったよりも鈍い。それでも、どちらかに決めて突っ込んできた場合は、前衛が割って入って攻撃を仕掛けて気を引くことでゴーレムの足を止めた。前衛の二人も最初の一撃でダメージは通らないことがはっきりとしたので、作戦通りまともには戦わず、一度攻撃を仕掛けると後は全力でゴーレムの攻撃を回避していた。
「なんとか、こっちはダメージを受けずにバランスよく攻撃が出来てます・・・けど」
どれだけの時間が経っただろうか。うまく連携することが出来て、バランスよく戦うことが出来ていたこともあって、こちらは手傷を負うことはなかった。だが、ゴーレムに対して決定的なダメージを与えることも出来ていなかった。というよりか、ゴーレムは自動回復している。
俺とティアがダメージを与え続けたことでゴーレムの右腕を一度、胴体から切り離した。リッドが「お、やったか!?」と盛大にフラグを立てると落ちた右腕がふわっと浮き上がって切り離した肩のところに触れると魔力が収束して再度、胴体とくっついた。そして、何事もなかったように腕を振り回していた。
「このままだとジリ貧だな・・・」
俺はボソッと呟いた後、リッドとアンジェの二人に「すみません。ちょっと時間稼ぎをお願いします」と言ってティアの元に走った。
「ティアさん魔力は大丈夫ですか?」
「まだ、大丈夫だけど・・・このままだとちょっと辛いかも」
俺の魔力を少し渡していたが、これまで連戦を続けてきたティアの魔力残量は残り少ないようだ。
「ゴーレムに風属性が思っていたよりも効いてないと思いませんか?」
「・・・私もそう思う。もしかしたら、弱点を補うために風属性の耐性が付与されているのかも」
ティアの言葉を聞いて俺は納得した。なるほど、弱点を補うなんて当たり前のことだ。そんな簡単なことに考え及ばず、改めて戦闘の経験不足を痛感して、奥歯をギリッと噛んだ。
さて、どうしたものだろうか。このまま同じように戦い続けてもゴーレムを倒せずに俺とティアの魔力が尽きるだけだろう。いっそのこと一か八か、後先考えずに俺が全力の魔法をゴーレムに叩き付けてみるか。幸いにして今回は仲間が三人もいるのだから気絶しても、運んでもらえるだろう。
でも、仮にそれでも倒せなかった場合は?・・・先ほどの部屋まで退避してもらえば良いだろうか。けど、魔力を使い切ってから復帰するまでの時間を考えると厳しいものがある。全力で魔力を消費した場合、目を覚ますのは早くて半日、遅くて二、三日は掛かる。その間にエリオットたちが来てくれたらが良いのだが現時点でも来る気配がないのだから当てには出来ない。
それに、何日も遺跡にいるとなると一番の問題は食料だ。水はティアの魔法でなんとかなるだろうが、食料を三人とも持ってきていない。何日も食べずにというのは厳しいだろう。実は、俺の道具袋の中には、リンゴと似た味のするルルカの実を一つ持ってきている。その実から種を取って、樹属性で一気に育てれば食料は確保出来るが、俺が気絶してしまったらそれも出来ない。
「・・・・先に種で食料確保するか。・・・でもそんな暇は。・・・・ん?そういえば」
「・・・どうしたのルート?」
俺は、自分の服にあるポケットのいくつかをまさぐって一つの種を取り出した。俺はその種を見ながらニヤリと口の端を上げる。これならいけるかもしれない。恐らく相性も悪くないはずだ。
「・・・ルート。あなたすごく悪そうな顔してる」
「ティアさん。良いこと思いつきました。これで一気に終わらせます」
「ティア!ルート!話はまだ終わらないのか?こっちはそろそろ結構きついぞ!!」
「早くしてくださいまし!!」
「すみません。すぐに戻ります!ティアさん、強めの魔法攻撃をお願いします」
「・・・何をする気か分からないけど、分かったわ」
「二人とも避けてください」と俺は言って、ティアに風の刃で攻撃してもらった。俺はその間に先ほど手に取った種に魔力を流し込みながらゴーレムに近づく。ティアの攻撃がゴーレムの左肩に当たり、左肩に大きな割れ目が出来た。俺は、その割れ目を目掛けるように種を投げた。
「くらえ!」
ゴーレムに種が付着しそうになった瞬間に俺は、樹属性に働きかけて種を発芽させて一気に成長させた。ゴーレムにつたが見る見るうちに絡んでいった。この種は、樹属性の特性を修行するためにウィスピからもらったものである。普通だとすぐに引きちぎることが出来るただのつただ。だが、魔力を通して樹属性に働きかけることで強靭なものにすることが出来る。
初めうちはつたも細く、ゴーレムは簡単につたを引きちぎっていたのだが、それでも次々とつたが絡んでいった。そして、俺はさらに魔力供給を続けて、つたを太く丈夫に育っていった。そして、ゴーレムの全身につたが絡みついてぐるぐる巻きの状態になると、完全に身動きが取れない状態となった。ゴーレムはそれでも動こうとするが、ギシギシとつたが軋む音だけがする。
俺は動けなくなったゴーレムに近づいて胸の辺りにあるつたを魔法で避けて、直接、ゴーレムに直接触れた。
「お前には悪いけど、これで終わりだ」
俺は、魔力だけで攻撃する無属性の魔法をゴーレムに叩き込んだ。鈍い音とともに俺が触れていた部分が大きくへこむとひびが入ってボロボロと崩れる。そして、崩れた中を見遣ると拳一つ分はありそうな魔石が露出したので俺は魔石を抜き取った。すると、ゴーレムの身体が崩れ去り、ゴーレムの身体をぐるぐる巻きにしていたつただけがその場に残った。
「ふぅ、何とかなった」と安堵しながら、後ろを振り向くと三人は目をまんまるにして唖然とした顔をしていた。あちゃー、やりすぎたかな?と思っていたら、今日一番の素早い動きでティアが接近してきて、詰め寄られる。
「ルート!?今のは何?あなた一体何をしたの?どういうことなの?」
わぁお、凄い勢いだ。魔法のことに関して、ティアってこんなにも積極的になるんだなぁと少し現実逃避していると、「聞・い・て・る・の?」と肩を揺さぶられ、俺を睨みつけながら顔を近づけてきた。
「ティアさん」
「何?」
「顔が近いです」
「・・・・」
ティアの顔が見る見るうちに赤くなったかと思うとバッと後ろに飛びのいて、両手で顔を抑えながらその場にうずくまった。あら、可愛いらしい反応。
俺がその様子をニヤニヤと見ていたら「あまり、からかうもんじゃありませんわ」とアンジェに小突かれた。リッドは「確かに、ティアのこんな積極的な姿は初めてみたから分からないこともないけどな」とフォローを入れてくれる。とりあえず、俺は「すみませんでした」と謝りながらティアに手を差し伸べた。
「先ほどの魔法に関してはまた、説明させてもらいます。どちらにしてもエリオットさんたちに報告をしなければならないでしょうし。それよりも、ゴーレムが守っていたあの扉の先を調査しませんか?まずは脱出出来るかどうか確認しましょう」
「おう、そうだな。早く脱出して飯を食いたいぜ」
「わたくしもさすがに疲れましたわ。早くソフィア様の顔を見たいです」
「・・・分かったわ。でも後で、絶対聞かせて」
一先ず俺がしたことを説明するのは置いておくことにして扉の先を調べることにした。




