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約束を果たすために  作者: 楼霧
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第十九話 やっぱり起きたトラブル

地下三階はパッと見た感じ魔物の姿がなかった。あれ、魔物が居ない?でも、何かが居る感じがするんだけどなぁと思っているとリッドが「上だ!」と叫んだ。


上を見上げると天井にぶら下がっているコウモリの魔獣を発見した。やっぱり、コウモリもでかいサイズではあったが蜘蛛ほどの嫌悪感はない。・・・それにしても数が多いな。


一度に相手するには数が多かったので、これは俺も参戦かな?とわくわくしながらリッドたちの方を見ると、三人はすでに戦闘態勢に入っていた。あぁ、これは俺の出番は必要ないというやつですねと瞬時に把握して俺は、ガクッと肩を落とす。


ただ今までと違って個々で倒しにいくといった感じではない。一体どうするのかと見ているといきなり、リッドが手に持っていた槍を投げた。槍は天井にいたコウモリを二匹串刺しにして地面に落ちる。確かに、槍で天井にいるコウモリを突こうとしてもジャンプしてやっと届くかどうかといったところではある。けど、投げて、拾っての繰り返しはしんどいのでは・・・。しかも、今の攻撃で、コウモリたちも飛び始めてしまっているし、拾っている間に襲われそうなんだけど。


「リッドさん。槍、投げちゃって良かったんですか?」

「ん?ああ、そうか。ルートは知らなかったな。俺、槍だけじゃなくてこれも得意なんだ。見とけよ?」


リッドは道具袋に手を入れると弓と矢を取り出し、すぐさま、天井付近を飛んいるコウモリたちに矢を放ち始める。なるほど、得意と言うだけのことはある。飛んで動いている標的に当てるのは難しいはずなのだが、外すことなく確実に当てていった。矢が当たったコウモリがどんどんと地面に落ちていった。だが、矢だけでは倒しきれていないようで、再び飛ぼうと動いていた。


「次は、わたくしですね」とアンジェが再度、飛ぼうとして無防備になっているコウモリをどんどんと切っていった。なるほど、リッドが弓矢でコウモリを落として、アンジェが止めを刺すということか。あれ、とするとティアは何を?と思いティアの方に目を向けると、ティアはリッドに近づいてくるコウモリへの牽制と接近を許してしまったときに魔法障壁を張る役目を負っていた。


おぉ、今日初めて連携らしい連携だ。個々が強すぎて単独プレイだけかと思っていたけどそんなことはなかったことに安堵するとともに寂寥感に襲われる。連携の中に俺はまだ、入ってないんだよなぁ・・・。俺は、邪魔にならないようにコウモリの死骸から魔石を取った。


二十匹以上はいたであろうコウモリの魔獣は、あれよあれよという間に最後の一匹となっていた。

「ああ、あれで終わりか・・・」と俺がボソッ呟く。


その声がエリオットに聞こえてしまったようで、エリオットが「皆、最後の一匹はルート君に倒してもらおうと思うんだけど良いかな?」と三人に声を掛けてくれた。


「お、良いじゃないか?記録ばかりじゃあ、つまらないよな?」

「仕方ないですわね。さっさと倒してしまってくださいな」

「・・・任せる」


俺は、皆の答えにパアッと気持ちが明るくなった。


「ありがとうございます!」


笑顔でお礼を言った俺は、最後の一匹を倒すべく、魔法を放つ準備をする。最後の一匹となったコウモリは一番奥の壁際まで逃げていたのだが、完全に袋のねずみだ。俺は、魔法が外れないようにするために土の魔法障壁でコウモリを包むように展開した。・・・ふっふっふ、これで逃げれまい。


俺は、土の魔法障壁で捕えたコウモリに向かって風の刃を張り切って飛ばす。


「あ、やばい・・・」


いつもならなんてことのない風の刃がやたらとでかい。どうやら、記録係として皆が戦ってるのをずっと見るだけだったストレス、最後の一匹を任せてもらったという嬉しさ、そして、今日、初めて着たローブの魔力増幅が相まって、コウモリを倒すには過剰な魔法になっていた。


俺の放った刃は、コウモリを真っ二つに切り裂くとそのまま一番奥の壁に激突するとドンッと轟音が鳴り響くとともに遺跡が揺れた。


「ちょ、ルート!遺跡を壊す気か!」

「いくらなんでもやりすぎですわ!」

「・・・すごい威力」


「あっはっは。すげえな、ルートは。さすがはソフィアを倒しただけのことはある」

「ルート君。・・・鬱憤が溜まってたんですね。気が付かなくてすみません」

「はぁ、ルゥ?何やってるのよ」


「アハハ・・・」


皆の視線がビシビシと突き刺さって痛かった俺は、「魔石取ってきます!」と言ってその場を逃げたした。・・・張り切ってたのは確かだけど、あそこまでの威力になるとは思わなかった。ローブの魔力増幅効果は馬鹿に出来ない。


急ぎ足で一番奥の壁際に転がっているコウモリに近づいて魔石を取った。魔石を取り終わった俺は、顔を上げた時に、目の前の魔法が当たって大きく亀裂の入った壁から光が漏れていることに気が付いた。


「あれ?エリオットさん。確かこの大きな部屋で最後でしたよね?」

「ん?そうだけど、どうかしたのかい?」

「いや、この壁の亀裂から光が漏れて・・・。奥に何かあるんじゃないでしょうか」


俺は、亀裂の入った壁に手を当てる。壁の石に魔力を流して土のマナに働きかけ、壁の一部を砂に変えて大人一人分が通れるぐらいの穴をあけた。


「ああ、やっぱり。部屋があります。やけに明るい部屋だけど・・・床に魔法陣?」


俺が中の様子を探るために前掛かりになっていたときに後ろからリッドが「お?なんだなんだ?何があるんだ?」と言いながら中を見ようと俺を押してくる。


「あ、え、ちょっ」


前掛かりになっていた俺は、後ろからリッドに押されて、そのまま前に倒れそうになったので思わず身体を捻ってリッドの腕をつかむ。


「ちょっ、ルート」


リッドも中を覗こうと前傾姿勢になっていたところを俺に腕をつかまれたため、バランスを崩して前に倒れそうになった。そして、リッドが横にいたアンジェを、アンジェがティアをつかんで体勢を立て直そうとしたが、俺が倒れる勢いのまま皆で魔法陣がある部屋の中に雪崩れ込んだ。


「うぐ。・・・お、重いです」

「淑女にむかって、重いとはなんですの!?」


いや、淑女がどうこうというよりも三人が俺の上に折り重なってるんですが・・・。


「はぁ、全く。あなたたちは何してるのかしら?」

「勝手に入ったら危ないよ。・・・いけない、すぐに部屋から出るんだ!それは、転移・・・」


ソフィアのあきれた声の後にエリオットの焦った声が聞こえたかと思った次の瞬間、辺りが眩く光った。


「え?」


光が眩しくて思わず目を閉じるとエスカレーターで下りる時のような浮遊感を感じた後、すぐにお尻を地面に叩き付けられた。


「あいた。・・・つぅ、一体何が。って暗!」


さっきいた明るい部屋とは、真逆に真っ暗な部屋にいた。俺はまさかと思い、闇属性の魔法を使い、暗視出来るようにしてから辺りを見渡した。・・・ふぅ、どうやら、モンスターハウスではないな。ダンジョンで落とし穴に落ちたり、ワープさせられた先がモンスターハウスだったなんてことよくある話だろう?と思った俺は安堵する。


「真っ暗じゃないか!一体何が起きた!?」

「ここはどこですの!!」

「・・・暗い。皆どこ?」


おっと、いけない。三人は混乱中だ。俺はすぐに、「明りをつけます」と言って魔法で光を出す。パッと暗い部屋の中が明るくなって、三人はお互いを確認出来て安心したのだろう、少しホッとした顔をしている。

俺は、すぐに道具袋の中からランプの魔術具を出して、光の魔法を消した。不測の事態が起きたのだ。魔力は節約しておいた方が良い。


「ここはどう見てもさっきの部屋とは違いますね。明らかにさっきよりも狭いですし」

「そうだな。どこだろうなここ」

「エリオットさんが最後に転移がどうとか言ってましたわよね?」

「・・・言ってた」

「さっきの魔法陣は、転移陣だったんですね。・・・・えっと、その。皆さん、申し訳ないです」


「何で、ルートが謝るんだ?」

「だって、俺がリッドさんを引っ張ったせいで・・・」

「・・・まあ、その前に俺がルートのこと押したからな」

「そうですわ、今回のはリッドせいですわ」

「・・・リッドが悪い」


「ま、まあ、誰が悪いとか置いておこうぜ。そんなことよりもこれからどうする?」

「そうですわねぇ」

「・・・どうしようか」

「あの、とりあえず、ちょっと待ってみませんか?もしかしたら、すぐにエリオットさんたちもこっちに転移してくるかもしれませんし」

「う~ん、そうだな。あそこの通路が気になるけど、とりあえず、待ってみるか」


とりあえずの方針が決まった時に誰かの「ぐうぅぅぅ」というお腹が音が鳴った。俺は道具袋から時計を出して確認するとすでにお昼を過ぎていた。


「お昼過ぎちゃいましたね」と言いながら俺は手をポンと叩く。そうだ、こんなこともあろうかと思って持ってきたのがあった。


「とりあえず、待っている間に軽く食事にしましょうか」

「ルート?」

「こんなこともあろうかと思って、母様にお弁当を作ってもらっていたんです。まあ、数はないので、一人一つずつですけどね」


俺は道具袋から布で包まれたバスケットを取り出して皆の前に広げた。中には、パンにハム、レタス、チーズを挟んだサンドイッチもどきが四つ入っている。


「お、うまそうだな」

「リーゼ様のお手製・・・」

「・・・食べていいの?」

「あっとそうだ。食べる前に手を前に出してもらっていいですか?」


三人は何をするのかと訝しながら手を出してくれる。俺は、自分と三人の手を光属性の魔法で浄化した。・・・今思えば、蜘蛛の魔物の時に手を水で洗わずに浄化すればよかった。すぐにでも手を洗いたいという衝動に馴染みのある水で洗うという行動をとってしまったのだが魔法使いとしてまだまだ、詰めが甘い。


「これでよしっと。では、どうぞ」

「お、ありがとな。じゃあ、早速」

「頂きますわ」

「・・・頂きます」


「じゃあ、あとは、お茶でも入れますね」

「ルートはお茶まで持ってきたのか?」

「いえ、お茶の葉は持ってきましたがそれ以外は何も」

「「「?」」」


三人は俺の回答に頭を傾げる。俺は、土の魔法でポットとカップを作るとともに、その傍らに水と水の中に火を出してお湯を作る。ポットとカップを火で焼き上げて固めた後、ポットの中にお湯を入れて、道具袋から出したお茶の葉も中に入れた。このお茶の葉は、メルギアの森で見つけたのだが、紅茶のような風味がする最近のお気に入りなのだ。・・・いつか、緑茶にも巡り合ってやると思っている。


俺は、ポットからお茶の香りが漂うのを確認してから、カップにお茶の葉が出ないようにそっと注いで三人の前に出した。三人とも俺の行動に呆気にとられて、固まっている。


「どうぞ、熱いので気を付けて下さいね」

「ルート。お前、器用だなぁ」

「本当に器用なことをしますわね」

「・・・ルート。お師匠に聞いてた通り、光だけじゃなくて四属性が使えるのね。うらやましい・・・」


「さて、自分の分も準備出来たし頂きます。むぐむぐ、うん、おいしい」


俺が食べ始めると三人もサンドイッチもどきを一口食べた矢先、くわっと目を開いて三人が俺を睨んだ。俺は、何事!?と思わず身構える。


「うまい!なんだこれ!?食べたことない味だ」

「本当に、すごくおいしいですわ。どうなってますの?」

「・・・おいしい。パンに塗られたソースが特に」

「あぁ、マヨネーズですね」


三人はマヨネーズのことが気に入ったようで、食べるのが早い早い。俺もサンドイッチもどきを食べながら、お弁当を作ってくれたのはリーゼだが、マヨネーズを作ったのは俺であることを話す。すると、三人はなぜかひどくあきれたのような顔をしてお互いの顔を見遣った後、リッドが「ルート。お前って変なやつだな」と言って、それを肯定するようにアンジェとティアがコクコクと首を縦に振る。・・・なぜだ。この短時間で変な人扱いされた!?


昼食を終えた後、再度、お茶を入れ直しているときにティアから話しかけられた。今日、初めてティアから話しかけられたような気がする。


「ねえ、ルート。魔法使いとしてマナー違反だとわかってる。けど、質問したいことがあるの」

「・・・なんでしょう?」

「あなた、闇属性も使えるわね?」


俺が闇属性を人前で使ったのはソフィアとの決闘の時だけだ。だが、その時もソフィアに闇属性を気付かれないようにするために砂埃を起こして視界を悪くしていた。それを見破るとは、さすがは魔法使いといったところだろうか。


「・・・よく分かりましたね」

「私もルートとソフィアさんの決闘は見ていたの。最後、あなたは簡単にソフィアさんの魔法障壁を破壊していたわ。光属性の魔法障壁を簡単に破壊できるなんて相反関係にある闇属性しかないもの」


なるほど、言われてみたらその通りだ。となると、思っていたよりも周囲の人に俺が闇属性を使えることがばれている可能性があるのか。まあ、俺としては、別に知られたからといってなんてことないのだが、嫉妬を買うようなことがなければいいなぁ・・・。


「六属性が使えるなんて本当にうらやましい」と言いながらティアがジトッとした目で俺を見てくる。俺は、視線が痛いのでティアにお茶を入れて「おかわりどうぞ」と差し出した。ティアが一口、お茶を飲んで一息吐いた後、「ごめんなさい。無粋だったわね」と謝ってくれる。


「マナに愛されるかどうかは運命のようなものですから、嫉妬するのはしょうがないです。俺は気にしてませんのでティアさんも気にしないでくれると嬉しいです」

「・・・ふふっ。ありがと」

無口で無表情が多かったティアの初めての笑顔を見て俺はホッとした。


「それにしても、ルートは六属性全て使えるのですね。・・・一つ分けて欲しいですわ」

「それってもしかして、光属性ですか?」

「その通りですわ!わたくしも光属性が使えたらソフィア様と一緒になれたのに・・・。はぁ」

ままならないものですわねとアンジェが項垂れて、それをティアが肩をポンポンと叩いて慰める。


食後に再度、お茶を飲みながらエリオットたちが転移されてくるのを待っていたが、残念ながら一向に来る気配がなかった。


「誰も来ませんね」

「となると、通路の奥を探索してみるしかないな」

「仕方がありませんわね。不安ですけど、ずっとこのままというわけにはいきませんものね」

「・・・うん、行こう」


俺たちは腰を上げて、移動を開始する。通路に入ると奥の方は明るくなっていたので途中、ランプの魔術具は道具袋になおした。そして、奥の部屋の手前まで来た俺たちは中の様子を見て愕然とする。


あれは間違いない。ゴーレムだ。


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