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約束を果たすために  作者: 楼霧
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第十八話 初めての遺跡調査

お風呂やらリンスやらと格闘を繰り広げている内に、待ちに待った遺跡調査を行う日となっていた。


「そろそろ、町の門まで行くわよルゥ。準備は出来た?」

「はい、大丈夫ですソフィア姉様。行きましょう!」


昨日、ソフィアから冒険者ギルドから貸与された道具袋と今日のために仕立ててくれたというローブを受け取っていた。道具袋は魔術具だそうで、大した大きさじゃないが、見た目に反してたくさんのものを入れることが出来るのだそうだ。まるで四次元なポケットかな?と思っていたら、入れ過ぎると入れ過ぎた分だけ吐き出すらしい。・・・吐き出すって何それ怖い。

とりあえず、昨日の内に、道具袋の中に何が入ってるか確かめて、それ以外に必要だと思うものを入れておいた。


ローブは、俺が魔法使いとして活動するためにソフィアが準備してくれたそうで、特殊な素材で出来ているらしく、魔力の増幅をしてくれる効果があるとともに、防御力に優れているらしい。今日は、いつもの修行をする時の服装にもらったローブを着用している。魔法使いとして、後方支援要員ではあるが、一応、帯剣をした。・・・杖とか持ってないし、何も持ってないのは落ち着かないから良いよね?


家を出た俺とソフィアはルミールの町の西門前へと向かった。そこで他の皆と合流して、初心者向けの遺跡に出発することになっていた。当たり前ではあるのだが、他の冒険者見習いはすでに、採取の依頼で顔合わせは済んでおり、俺だけが初顔合わせとなっている。・・・ちょっとドキドキする。


西門前にたどり着くとすでにエリオットと見たことのない少女が二人いた。


「やあ、ルート君。おはよう」

「おはようございます、エリオットさん。・・・アルさんたちはまだ来てないんですね」

「ああ、もうちょっとしたら来ると思うよ。先に今、ここに居るメンバーで自己紹介しておこうか」



「・・・ティアです」


・・・え?それだけ?


エリオットに促されて一言ボソッと呟いた人はティアという名前らしい。紫色の髪を三つ編みのおさげにしていて、出で立ちが黒いとんがり帽子に黒いローブ、そして、大きな杖を持っていた。見たまんまだが、魔法使いに違いない。というか、杖じゃなくてほうきを持っていたら、どう見ても魔女っ娘だ。


余りにも少ない自己紹介に困惑している俺にエリオットが補足してくれる。


「ティアはルート君と同じく魔法使いで、風と水の属性が使える。監督役をしている身としては、ちょっと大人し過ぎる子で少し心配なんだけど、優しい子だから仲良くして欲しい」

「そうですか。ルートです。よろしくお願いします」


「次はわたくしですわね」と言いながらもう一人の少女がずいっと前に出てきて、手を胸に当てながら自己紹介をしてくる。


「わたくしの名前は、アンジェ。親愛なるソフィア様と同じく剣士ですわ」


俺はその自己紹介に「聞いていた通りだなぁ」と思った。アンジェの監督役はソフィアであったので、ソフィアから事前に話を聞いていたのだが、かなりソフィアに傾倒している子らしい。ピンク色の髪をソフィアの冒険者スタイルであるポニーテールと同じ髪型にしており、格好も似たような感じだ。


聞いた話によると、傾倒しているソフィアに決闘で勝っただけなく、無理矢理、冒険者になったことで、監督役としてソフィアを独占していたのに割り込まれたとアンジェは、俺のことをかなりの目の敵にしているらしい。・・・何それめんどくさい。


またもや、困惑気味となっていた俺に、アンジェが手を前に出し、握手を求めてきた。「あれ、実はそれほどでもない?」と思ったのだが甘かった。アンジェの手を取った瞬間、両手でガシッと力一杯握られたのである。ただ、俺もそこそこ鍛えてきたので握る手に力を込めればそれほど痛くはなかった。が、多分このままだと後々、面倒なことになりそうだ。俺は、心の中でため息を吐きながら、握る手の力を抜く。


「ルートです。よろしくお願いします。ところで、アンジェさん。ちょっと痛いです」

「あら、ごめんあそばせ」


アンジェは満足そうな顔で手を離してくれた。一人は無口な少女で取っ付き難そうで、もう一人は俺を目の敵にしている少女、俺、このチームでうまくやっていけるのだろうか。引きつった笑顔をしていたところにアルと最後の冒険者見習いがやってきた。


「よう、お待たせな!」

「アルさん、おはようございます」

「おっと、俺たちが一番最後だったか。ん?すでに他の奴らの自己紹介は済んだって?じゃあ、リッド、自己紹介いっとこうか」


リッドと呼ばれた少年がアルに背中をバンッと叩かれてよろけながら前に出てきた。


「痛いっすよ、アルさん。もうちょっと手加減することを覚えてくださいよ。・・・えっと、俺はリッド。よろしくなルート。俺、お前の決闘見てたけど、ソフィアさんに勝っちゃうなんてすげえな。その力、期待してるぜ!」

「リッドさんですね。よろしくお願いします」


リッドは金髪のツンツン頭の少年で、とても明るい感じであった。良かった、親しみやすそうな人だ。


「けど、俺の槍さばきは中々なものなんだぜ?アルさんにも筋が良いなって言ってもらってるしな!今日の遺跡調査の魔物退治で、俺の活躍を見ておけよな!」

「え、あぁ、はい。楽しみにしてます」


・・・どうやらちょっとお調子者のようだ。



自己紹介を終えた俺たちは早速、遺跡へと向かった。ルミールの町から北西に少し歩いたところに遺跡の入口はあった。ルミールの町の周辺には遺跡がたくさんあるという話を以前に聞いたことがあったがこんなにも近場にあるとは、思わなかった。


「今日、君たちに挑戦してもらう遺跡はここだよ。やってもらうことは遺跡内部を確認してマップを作ることと魔獣や魔物を討伐することだ」とエリオットは説明するとともに鞄から時計を出してチラッと見た。「君たちの実力ならお昼ぐらいには終わると思うから、終わったら食事をしながら反省会をしようか」


「やった!俺、昼飯は肉を希望します!サクッと終わらせて飯だ飯!」

「ちょっと、はしたないですわよ、リッド。でも、わたくしの実力なら軽く終わらせてみせますわ。ねえ、ソフィア様?」

「・・・問題ない。さっさと済ませる」


皆のその自信はどこから来てるんだろう?頼もしくもあるし不安でもある。ただ、始める前から、何か問題が起きそうなフラグを立てるのだけはやめてほしいなぁと思いながら少し遠い目をしていたら、ソフィアから声が掛かった。


「ほら、ルゥ?もう他の三人は遺跡に入っていったわよ?」

「え、あれ?置いて行かれた!?」

「あと、ルゥはこれの係りだって。はい」


俺は、ソフィアから渡れたものを受け取ったら、三人を追いかけて遺跡の中へ入った。すぐに地下へと下りる階段があり、階段を下りると縦長の広いフロアにたどり着いた。地下一階には、左右に四ヶ所の通路があり、一番奥にはさらに下へ降りる階段が見えた。


「へえ。地下だからもっと暗いかと思ったのですが、意外と明るいですね。道具袋の中にランプの魔術具があったのでてっきり、たいまつ替わりかと思ってました」

「ここの遺跡は、壁の上に付いている魔術具で明るいからね。もちろん、暗いところもあるから道具袋には明かり取りのためにランプの魔術具が入っているんだ」

「お~い、ルート?おしゃべりしていていいのか?あいつら、そこの通路に入って行っちまったぞ?」


またしても置いて行かれた。初めて入った遺跡の余韻に浸る暇もない。もうちょっとゆっくり行こうよと内心涙目になる。右手側の通路に入った俺は、三人が次の部屋の中の様子を伺っている姿が見えた。


「どうしたんですか?」

「しっ、魔物がいるぜ」

「あれぐらいならすぐに倒せますわ」

「・・・行こう」

「よし、じゃあ、行くか。あ、ルートは魔物と戦ったことないだろ?だから、記録係よろしくな!」

「え?」


リッドがそう言い終えるとスっと音を立てずに三人は部屋の中に入って行った。先ほど、ソフィアからは小さな黒板を渡されていた。遺跡内のマップ作成とどんな魔獣や魔物がいたのか記録する係を任命された。押し付けられたという方が正しいかもしれないが。・・・まあ、仕方がない。三人の中では一番年下だし、冒険者としても一番の下っ端だしな。ここは三人のお手並み拝見と行きますか。


俺も部屋の中に入ると、それほど大きくない部屋の中に大きなトカゲが八匹もいた。でかい、一メートル以上はあるんじゃないだろうか。さすがファンタジーと思っていたら、リッドの勇ましい声が聞こえた。


「くらえ」と槍を鋭く前に突きだし、二匹まとめて串刺しにした後、地面に叩き付け、槍を引き抜く姿が見えた。「おおすごい」と感心していると別のところからアンジェの声も聞こえてきた。


「遅いですわ」と言いながら、舞うような動きでトカゲの首を一振りで切り落とすと「次!」とその近くにいたもう一匹の首を切り落とした。トカゲの表面は見た感じ硬そうであったが難なく切っている。さすがは、ソフィア好きなだけあって、その動きはソフィアのような動きであった。


あれ、そういえば、ティアはどこに?と思い、辺りを見回すと部屋の角で杖を掲げながら、目を閉じて魔力を練っている姿を見つけた。そして、ティアがカッと目を見開くと同時に複数の風の刃がトカゲに襲いかかり、三匹のトカゲが細切れになった。


折角のチームであるのに連携の「れ」の字もなかったが三人とも強い。さすがは上級冒険者であるエリオット、アル、ソフィアが監督役を務める冒険者見習いだと感嘆の息を吐く。そして、一つの不安を覚える。あれ、今日、俺の出番ってあるんだろうか。そんなことを思っているうちに最後の一匹がリッドの手によって倒された。


「うん。全く、問題はないね。あっと、倒した魔物からは魔石を必ず取るように。大事な収入源だからね。魔石を取る前なら皮を剥いだり素材集めが出来るけど、時間が掛かるから今日は魔石だけにするように」

「「「はい」」」


エリオットから魔獣から魔石を取るように指示が出たので、魔獣の死骸から魔石を取り出す。魔石はだいたい、心臓のあたりにあった。しかし、魔石を取る前なら素材集めが出来るとはどういうことなのだろうかと思っていたら、魔石を取った魔獣の死骸がドロッと消えてなくなった。


・・・なるほど。魔石を取ると消えるのか。一体どういう仕組みなのかちょっと気になる。


「よっしゃ。じゃあ、次に行こうぜ!」

「ええ、行きましょう」

「・・・行こう」


俺たちは、その部屋を後にして他の通路を調べて回った。結局、他の通路の先にも部屋があって、全ての部屋にトカゲの魔物がいたのだが全部三人が倒した。俺はというと、エリオットに教えてもらいながら小さい黒板にマッピングだ。地下一階フロアの全体像と倒した魔物の種類と数を記して終わったと思ったら、エリオットがニッコリと笑顔で「次のフロア用だよ」と新しい小さい黒板を差し出してきた。


俺は、今後のことを考えると他のメンバーにもやらせた方が良いじゃないかと思ったのだが、首を横に振ってすぐにその考えを振り払った。残念ながらあの三人がこういうことをやるタイプには見えない。少し引きつった笑顔で俺が小さい黒板を受け取るとエリオットは慰めるように俺の頭をポンポンと叩いた。なんとなく俺がこのメンバーの一員に入れてもらった理由が分かった気がする。


地下一階の一番奥にあった階段から地下二階に下りた。地下二階は地下一階と同じ形をしており、縦長の広いフロアに左右四ヶ所の通路があり、一番奥に下り階段が見える。作りは同じということはまた部屋が四つあって魔物がいるのかな?と少しわくわくしながら一つ目の通路の先にある部屋に入った。


部屋に入った瞬間、全身に鳥肌が立つ。魔物がいた・・・・とてもでかい蜘蛛の魔物が十匹ぐらい。蜘蛛もまた一メートルぐらいの大きさはあるだろうか。やばい、虫がでかいのはかなりのインパクトだ。俺は思わず、棒立ちになってその場に固まってしまう。


「ルート?そんなとこに突っ立ってると邪魔だぞ?」

「あらあら、ソフィア様の弟とあろうものが蜘蛛ごときが怖いのですか?」

「・・・後ろに下がってなさい」


リッド、アンジェ、ティアは何てことのないといった感じで蜘蛛を蹴散らしにいった。さすがは、というかなんというか、この世界だとこれぐらいの大きさは普通なのだろうか。俺は一度大きく深呼吸をして、顔を両手でパンッと叩き、気合を入れた。これしきのことで立ち止ってなんかいられない。


だが、折角、気合を入れたものの相変わらず俺の出番はなかった。トカゲと比べ、糸を飛ばしてくる蜘蛛に最初は少し苦戦していた三人であったが、ティアが風の魔法を使って糸を吹き飛ばして対処したことで攻守が逆転した。そして、トカゲよりは柔らかいからだろうか、アンジェがサクサクと蜘蛛を真っ二つに切っていく。見事だなぁと思いながら俺も身体を動かす。慣れる意味も込めて戦闘の邪魔にならないところにある蜘蛛の死骸から魔石を抜き取る。・・・うへぇ、何か蜘蛛の体液でドロッとしてる。


結局、地下二階は蜘蛛の魔物の巣窟となっていた。各部屋に少なくとも十匹ずつはいたのだ。全く何て数だと思っていたら、エリオットがボソッと「魔物の数が多い・・・。やっぱり何か異変が?」と呟いていた。

俺は途中からは魔石回収をやめて、ベトベトになった手を水の魔法で洗い流し、風の魔法で乾かした後、地下二階のマップと魔物の情報を小さい黒板に書きとめた。ふぅ、書けたと思って顔を上げるとまたもや、ニッコリとした笑顔のエリオットが近づいてきて、新しい小さい黒板を渡してきた。俺が小さい黒板を受け取るとポンッと俺の肩を叩いて「次で最後だから頑張って」とこっそり教えてくれた。


地下三階にたどり着くと地下一階、二階と同様に縦長の広いフロアとなっていた。今までと違って少し薄暗いが左右に通路はなく、奥の方は壁になっていて階段もなさそうであった。なるほど、確かに最後だ。


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