第二話 起きた惨劇と墓標での誓い
ルートが一度目を覚まし、再び、深い眠りへとついた日から遡ること三日前。
「早く見つけなければ!!」
「あの子達は、どこにいるの!?」
「どこだ!どこにいる!?」
大きな声が森の中に響く・・・
ルミールの町外れにはメルギアの森と呼ばれる広大な森がある。
奥深くには魔獣がいる森ではあるが、魔術具により、その3分の1は人が立ち入ることが出来るようになっている。
自然があふれており、薬草や木の実と取ること出来るし、野生の動物も多く生息してるため、狩猟に持って来いな森だ。地元の人達にとっては馴染みの場所であったのだが・・・。
森に狼の魔獣が現れたらしい。普段なら出るはずのない安全圏に。
その森へ、遊びに出かけたが子供達が、運悪く鉢合わせてしまった。
懸命に逃げ延びた子供の一人が、息を切らせながら、町の門にいた兵士に事情を説明する。
話を聞いた兵士は急ぎ、冒険者ギルドへ向かい、その場にいた冒険者3人とともに森へと向かった。
「そ、そんな」
「これはひどいな。でもまだ、息をしているぞ!」
「すぐに、治療魔法を掛けます」
森へ捜索にきた兵士と冒険者達は、血だらけで倒れている子供達を発見する。
一見絶望的に見えたが、どうやら傷は、負っているものの気絶をしているだけのようだ。
急ぎ、冒険者の一人が子供達へ駆け寄り、治癒魔法を掛け始める。
「あの子は?ルゥはどこにいるの?」
治癒魔法を掛け始めた冒険者はあることに気付き慌てた声を出した。
遊びに出かけた子供の中にいるはずの少年が見当たらない。
兵士と他の冒険者が辺りを見回すと森のさらに奥へと向かう方に、血が点々としているのが見えた。
「森の奥に行ったのか!?」
「アルは念のため、治癒魔法中のソフィアの護衛を。私とフリットは奥へ向かいます!」
「エリオットさん、フリットさん気を付けて!」
そう提案した冒険者エリオットとフリットと呼ばれた兵士が森の奥へと向かう。
血の跡を頼りに森の中をひた走る二人。そして、数分走ったところでようやく少年する。
「さっきの子供達よりも傷が深い。それにすごい血だまりが・・・」
「早く治療しなければ死んでしまいます。けど、傷がひど過ぎるので下手に動かさない方が・・・。フリット、急ぎソフィアをこちらに呼んで来てください。私も治癒魔法は使えますが得意ではありません」
「分かりました。直ぐに呼んできます」
「ルゥ!!」
数分後、ソフィアを連れてフリットが戻ってきた。
「とにかく、急いで治癒魔法を!ここまで傷が深いとやはり、私の治癒魔法では効き目が薄い」
「しっかりしてルゥ!死んではダメよ!直ぐに治してあげるから・・・」
ソフィアは、少年に駆け寄り治癒魔法を使う。少年は治癒魔法の光につつまれていった。
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ルートとなった俺は、再び眠りについてから二日後に目が覚める。
それから、一週間掛けてやっと自由に動き回れるほどに回復した。
そして、今、町から少し離れた小高い丘の上に花を持って立っている。
「遅くなってごめんな、シエラ」
あの惨劇では、ルートを併せてほとんどの子供達は助かっていたが、一人だけ犠牲になった少女がいた。それが、ルートの幼馴染であったシエラである。
狼の魔獣と対峙してしまった子供達は何とか逃げるため、狩猟用に持っていた弓で迎撃を試みた。
全く歯は立たなかったが、一人だけ隙を付いて逃がすことに成功する。「これで、大人達を呼んできてくれる。だから、それまで時間を稼げれば」と思っていたが所詮は子供。結局、魔獣に襲い掛かられて、時間を稼ぐこともなく気絶させられてしまうのであった。
ルートは子供達の誰よりも早く、目を覚まし、自分が生きていることに安堵する。
しかし、辺りを見回して、状況を確認すると一気に血の気が引くのが分かった。
「シエラがいない!?」
シエラの姿を確認出来なかったルートは、森の奥へ血が点々としているのを発見する。
「そんな。もしかして森の奥に連れていかれた?」
薄暗い森の奥を見て鼓動が早くなるのを感じる。彼の心は恐怖に埋め尽くされてようとしていた。
しかし、その恐怖を払拭するため、ルートは両手で自分の頬をおもいっきり叩く。
「クッ、・・・急いで探しにいかなくちゃ」
どれだけ気絶をしていたかは分からない。自分一人でどうにか出来るかも分からない。
それでも、ルートは血の跡を頼りにひた走る。そして、彼は発見する。血だまりの上に佇んでいる狼の魔獣を。
そう、すでに遅かったのである。
その景色を見て激しく動揺するとともに、何とも言えない怒りが込み上げてくるのが分かった。
そして、冷静さを失ったルートは無謀にも魔獣へと立ち向かう。最早、逃げるという選択肢は、彼の頭の中には無かった。
ルートは爪に引き裂かれ、鋭い牙で噛み付かれ瀕死の状態に陥った。もう、虫の息とも言える状態となったのを見た魔獣は、彼に興味を無くしたのか森の奥へと姿を消す。すでにお腹を満たしていたため、それ以上に襲うことはなかったのだろう。
その後、逃げ延びた子供により、捜索に来た兵士と姉を含む冒険者に助けられたというのが今回、起きた惨劇の顛末である。
ルートはシエラのお墓に持ってきた花を置く。お墓といってもそこにシエラは眠っていない。魔獣に喰われてしまったため、身体は失われてしまっている。そのため、シエラのお気に入りであった服や小物を埋葬したらしい。
(守れたなかったと言っていたのはきっとこの子のことだったんだろな)
ルートとなった俺は、そう思いながら手を合わせて祈る。この世界で正しい方法なのかは分からないが、今はそうしたくて仕方がなかった。
そして、自然と涙が流れた。俺にとっては見知らぬ少女であったが、ルートの記憶を引き継いだ俺は、彼の想いもまた、引き継いでいたのだ。
一頻り涙を流した後、俺は青い空を見上げながら誓いを言葉にした。
「想いもせずに手に入れた二度目の人生。何かをするという個人的な目的もない。無理やりにさせられた約束だけど守ってやるよ。これでもお前よりは倍以上も生きた お兄さんだからな。・・・だから、お前は安心してくれ。あの世でシエラと会えたら良いな!」
俺は、誓う。ルートという少年として生きることを。そして、彼との約束を果たすことを。