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約束を果たすために  作者: 楼霧
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第十七話 とある日常その二

冒険者見習いとして早速、鍛練が始まると思っていたが、ソフィアに遺跡調査の依頼が入ってしまって、二週間ほど掛かるらしい。だが、その後には、冒険者見習いチームによる初心者向けの遺跡を探索し、魔物や魔獣を討伐する訓練を行うらしいので凄く楽しみだ。


仕方がないので、今日もいつものようにウィスピの所へリリと行った。ひとしきり修行した後、遊んでそろそろ帰ろうかとした時、リリから話しかけられた俺はその言葉を聞いて固まった。


「ルゥ兄様、リリもお風呂に入ってみたいです」


・・・なんだと。


今までお風呂には微塵も興味が無さそうだったリリからお風呂に入りたいというおねだりを受けるとは。

・・・なぜ、今になって?と思ったが心当たりがある。というか一つしかない。ソフィアが自慢したに違いない。


土の季節も三月目に入り、もう少しで冬である水の季節となる。そのため、最近は大分、寒くなってきていた。だから、冷えた身体を温めるのにお風呂に入るのはとても気持ちいい季節となってきた。昨日、ソフィアにせがまれたので、お風呂を作って入れてあげたのだが随分と気に入っていた。それを、リリに話したに違いない。


可愛い妹のおねだりのために、すぐにでもお風呂に入れてあげたい気持ちはあった。だが、俺は作らなかった。幼女が、外で、裸になって、お風呂入ってる、なんて「それ、何てエロゲだよ?」と思ったからだ。

こんな外でリリを無防備にさらすつもりは無い。どこで誰が見てるかも分からないのに。


この世界に来てからまだ日が浅い。だから、この世界の倫理観を全て分かっている訳ではない。だが、ソフィアとの結婚のために、決闘を申し込んできた下賤な輩のことを考えても、おかしな奴がいないとは限らない。だから、俺は心を鬼にして「我慢して欲しい」とリリに返事をした。ちなみに、ソフィアの場合は話が別だ。この世界では十五歳で成人となり大人の仲間入りとなる。そして、ソフィアはすでに十六歳だ。大人であるソフィアが自分から入りたいと言ってきたのだから何があっても自分で責任を取ってもらう。まあ、何かあった時点で相手の命があるとは思わないけど・・・。


それにしても・・・。くっ。リリのしょんぼり顔は心が痛む。


俺は、リリと家に帰りながら思考を巡らせる。一体どうすれば、リリの笑顔を取り戻せるのかと。

そして、俺は、一つの答えにたどり着き、その日の晩ご飯の席で、両親に頼み込む。


「家の横にお風呂場を作らせて下さい」


両親からは一体何を言い出すんだ?と言わんばかりの顔をされてしまったが経緯を一生懸命に説明する。初めはリリの援護をもらい、途中から今日は打ち合わせだけで帰ってきたソフィアの援護もらい、そして、ソフィアに説得されたリーゼの援護をもらって、アレックスの許可をもぎ取った。よし、頑張って少しでも早くお風呂場を作って、リリのお願いを叶えてあげないとな。


次の日、早速、庭に出て家の隣にお風呂場の作成に取り掛かった。まずは、外側と思い、魔法で土を中身が空洞の正方形の立方体を作って固めた。・・・どう見ても豆腐建築だ。いや、色合い的に高野豆腐か。

今、自分でどうにか出来る材料として使えるのが土なのだから仕方がない。お風呂に入れることが優先で、見栄えは後回しだ。


しかし、隣に作ってみたものの、いちいち家の外に出てから、お風呂場に行かないといけない状態であった。これは、いくらなんでもめんどくさい。俺は、顎に手を当てながら「となると、やっぱり、つなげるか」と呟いた。


「母様、ここの壁に穴をあけてをお風呂場とつなげて良いですか?」

「え?・・・う~ん。ルートはどうやって穴をあける気なのかしら?」

「魔法ですね。心配しなくても家を破壊したりはしませんよ。ちょっと、実演した方が早いかな?」


俺は、暖炉用の薪を取りに行って、テーブルの上に置いた。


「母様、見ていてください」


薪に魔力を通し、樹属性のマナに働きかける。すると薪が賽の目に切れて、いくつものサイコロ状となって

その場に崩れた。それを見たリーゼが目を丸くして驚く。


「どうでしょうか母様、あそこの壁は木材なので、綺麗に切ることが出来るのですが・・・」

「器用なことが出来るのですね。こんな魔法は初めて見ました。ふふっ、毎日、修行してる成果かしら?」

「ええ、そうですね。試行錯誤して出来るようになりました」

「・・・まあ、いいでしょう。くれぐれも家は壊さないようにね」

「はい、ありがとうございます」


樹属性の特性として、植物を操ることが出来ることが分かっていた。ある日、リリから教えてもらっていたのだ。正しくは、ウィスピから聞いたことをリリに教えてもらったなのだが、あれにはちょっと驚いた。だって、その話を聞いた俺はてっきり、リリは精霊だけなく魔物とも話が出来るかと思いきや、ウィスピは魔物ではなく精霊だとリリから聞いた。まさか、ウィスピは、樹属性の精霊が木に宿ったものだったとは知らなかった。いや、知る手段があったわけでもないのだが・・・。でも、その話を聞いた俺は、「だから、樹属性の魔法障壁を張れるのか」と得心した。


樹属性の特性を聞いた俺はその後、色々と試した結果、操る延長で、植物を自分の思うように加工することが出来ることが分かった。また、加工してすでにモノとなってしまった植物に対しても有効であった。例えば、森で捕った獲物を食べる時に木を箸や串にするのだが、使い終わった箸や串を地面に指して魔法を使えば、再度、小さな木に戻すことが出来た。さらに、魔力を使えば使うほど、大きく育てることが出来ることも確認した。なんという、エコ魔法。・・・まあ、この世界で温室効果ガスがどうとか全く無関係だろうけど。


樹属性の魔法は、色々、活用出来そうだなとは思っていたのだが、専ら、箸と串を作る時にわざわざ、風の刃で木を切り刻んで作る必要が無くなったぐらいにしか活用していなかった。けど、ついに活用する時がやってきたのだ。


俺は、お風呂場を作った側の木の壁に手を当てながら、大人一人が通れるぐらいの長方形の穴をあけた。


「よし、大きさこれぐらいで十分かな?穴で取った木は後で、扉として加工だな」

「本当に器用なことをしますね。綺麗に穴をあけてしまうだなんて。ところでこの後はどうするのですか?」

「のこぎりや魔法で切ろうとすれば木くずが出ますけど、これだと綺麗に切れますからね。この後は、隣に作ったお風呂場と家をつなぐ短い渡り廊下を付けます。あと、切り取った木で扉を作ろうかと」

「そう、頑張ってね。私も楽しみにしているわ」

「ええ、任せてください。母様」


俺は、お風呂場を作ったのと同じ要領でお風呂場と家をつなぐための渡り廊下を作った。そして、渡り廊下とお風呂場がつながった部分の壁を崩して、お風呂場の中に入った。


「・・・当り前だけど、窓も何もないから真っ暗だな」


今は、家の方から漏れ入る光で少しだけ中が見えるが基本真っ暗だった。だが、のぞき対策を考えると明かり取りで窓を作るつもりはない。とりあえず、今は、光を魔法で出すとして、ランプの魔術具が手に入らないか両親かソフィアあたりに相談してみようかな。


お風呂場に浴槽を作り、浴槽とお風呂場から排水が出来るように加工したところでふと思った。


「あれ、このまま排水しても大丈夫かな?」


今までは、森の中だったのでそこまで気にしていなかった。今のままだと、お風呂場の地下に直接、水を排水することになっている。地盤の問題とかもあるけど、少し離れたところに井戸がある。地下にしみ込んだお風呂の排水が井戸の生活用水に混じるのではないだろうか・・・・。


俺は腕を組みながら考える。やっぱりまずいようなぁと。


「仕方がない。ちょっと大変だけど、森の方まで土の配管を作って、そっちに流すようにするか」


ここまでの、工程は比較的に楽だったのだが、配管の取り付け作業は大変だった。一度、土を掘り起こし土の配管を置いて、埋め戻す。この作業を、森に近づくほどに、土を掘り起こす深さを少しずつ深くしつつ繰り返した。森の入口までたどり着いた頃には、日が暮れようとしていた。


俺は背伸びをしながら、「ん~。魔法を使うだけだけど、疲れた~」と大きく息を吐いた。


「とりあえず、入ることが出来る状態には出来たな。扉の取り付けとか細かい内装はこれからでもいいかな」


夕食の時、俺は両親とリリに報告をした。ちなみにソフィアは今日から遺跡調査のため出突っ張りのためいない。


「とりあえず、細かい内装は、これからとしてお風呂には入れるようにはなりました」

「本当ですか?ルゥ兄様、やったぁです!」

「一日で作ってしまうなんて本当に驚いたわ」

「あはは。まあ、見た目はちょっと良くないですが。・・・そのあたりは追々ということで」

「なあ、ルート。俺も入ってもいいか?」

「ええ、もちろんです。言ってもらえればお湯を張りますよ」

「そうか、ありがとうな!」


「あっと、そうでした。ランプの魔術具って余ってませんか?お風呂場に窓を付けてないので暗くて」

「物置に一つ余ってなかったかな?なぁ、リーゼ」

「確かあったかと思います。後で持ってきておきますね」

「本当ですか?ありがとうございます」


明りの問題も解決して俺はホッと息を吐く。夕食後、リーゼにランプの魔術具を持ってきてもらったので、お風呂場にランプを置ける場所を作って置いた後、浴槽にお湯を張った。その日は、リーゼとリリが入ることになっていた。お湯を張って家の中に戻った時に俺は一つのミスに気付いた。・・・あ、脱衣場がない。


家族同士なのだから裸を見ても何も問題はないだろうが、無いわけにはいかないな。さすがに俺も恥ずかしいし。とりあえず、今日は、二人がお風呂に入ろうとするタイミングで自室に避難した。お風呂から上がった、リリが俺の部屋まで来て、満面の笑顔で「気持ち良かったです!」とご機嫌な姿を見せてくれる。そんな姿を見て俺はほっこりした。・・・うん、うん、やっぱりリリには笑顔が一番だ。


翌日、お風呂場に脱衣場を作るべく、庭で出た俺は、豆腐建築とにらめっこした。


「脱衣場を作るにはもう少しスペースが欲しいな。でも、崩してしまうのはなぁ。・・・そうだ」


俺は、お風呂場を渡り廊下寄りに風の刃で輪切りにした後、浴槽がある側の地面に手をついた。そして、地面に魔力を流して土のマナに働きかけ、お風呂場ごと地面をずらした。「よし、いけた」と思ったらバゴッと鈍い音がする。・・・しまった、配管のこと忘れてた。まあ、すぐに直せるから良いか。


ずらしたことで空いたスペースに土の壁を張り、そして、中に入って脱衣場としての壁を作って、脱衣場と浴室に分けた後、壊した配管を直した。


「ふぅ、これでよしっと。ただ、脱衣場にもランプの魔術具がいるな」


一つ問題を片づけるたびに何か問題が出てくるなぁと思い、「はぁ」とため息を吐く。いや、いや、これしきのことで泣き言なんて言ってちゃ駄目だ。全てはリリの笑顔を守るため。俺は右手をグッと握って気持ちを新たにした。


リリは、お風呂がよほど気に入ったらしく、今日はアレックスと一緒に入って、翌日は俺と入った。本当に楽しそうな姿を見ていて心がほっこりする。だが、一緒にお風呂に入って上がった後、身体を魔法で乾かしていた時に、一つ重大な問題に気が付いてしまった。


身体そのものは光属性の魔法で浄化してしまうため、お風呂で身体を洗うという行為はない。だから、頭を洗うこともないのだが、お風呂で髪を濡らしてしまうからだろう、リリの髪の毛が痛んできているようだ。・・・髪質が落ちて触り心地がちょっと悪くなってる?


これは由々しき事態だと思った俺は決意する。今まで食事に関してしか、目を向けてこなかったが、どうやら生活用品にも目を向けなければならないと。


とりあえず、手始めに、リンスの開発からだなと俺は決意した。

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