第百六十九話 尋問会 前編
「さて、ルートよ。なぜこの様な場を設けることになったのか、そなた分かっておるな?」
正面に座るレオンドルにそう言われて、俺は左から右へとゆっくり首を回す。俺から見て左からエリオット、リーリア、レオンドル、カジィリア、ソフィアの順番で向かい側に座っている。なぜか、俺側に座っている居るのは俺一人だけ。後は部屋の片隅でお茶の準備をしている近衛騎士兼メイドのシェリアの姿があるだけだ。
・・・なにこれ。圧迫面接かな?
ここはいつもの王城にある小会議室。いつもの様にレオンドルからの呼び出しを受けて、俺はここに来た。ただ、いつもと違っていたことがいくつかある。一つは、呼び出しを受けた日と時間。いつもであれば、学園が休みである光の日であることが多い。だが今日は水の日。当然、俺は学園に行っているので、呼び出しを受けたのは夕方の話だ。
次は大体ペアで呼び出しを受けるソフィアが一緒ではなかったことだ。俺がレオンドルの呼び出しで屋敷を出る時、ソフィアは用事があって外出しているとラフィに聞いていた。冒険者をしているソフィアが、夕方頃に出掛けていることは、それほど珍しい話ではない、と思っていたのだが、なぜかソフィアはここに居る。
最後にもう一つ、いつもと違うところがある。それは、カジィリアがこの場に居ることだ。こういう身内の集まりでカジィリアが同席するのは、初めてじゃないだろうか。今までになかったのが逆に不思議なぐらいだ。ちなみにカジィリアもラフィからは、外出していると聞いていた。それなのに、これである。
レオンドルに問われた俺が呼ばれた理由。今日の集まりは、一体何なのか。俺はこの状況を見て、察してしまった。カジィリアとソフィアの難しい顔を見れば一目瞭然である。
・・・さて、どうしたものかな?
呼び出された理由は理解した。俺に求められているのは、俺が誰にも話していない、敢えて伝えていない話をしなければならない、ということだ。但し、それは自ら地雷原に足を踏み込む様な行為と言える。危ないと分かっていて、好き好んで危険地帯に足を踏み入れる者は居ないだろう。そんなスリルは求めていない。仕方がないので、とりあえず悪足掻きをしてみることにした。
「レオ義伯父様。今年は魔法祭の準備をする期間が短いので、これでも俺は忙しい身なのですが?」
シルフィアを礎の巫女から解放したのはついこの間の話になる。何だかんだと時間が掛かって、季節はすでに火の季節から移り変わって土の季節になってしまった。火の季節はほとんど遺跡で過ごしたと言って過言ではない。そして、土の季節になったということは、もう数日もすれば、魔法祭が始まってしまう時期になる。今までに全く準備をしてこなかった訳ではないが、時間がないという意味では間違いじゃない。
俺の回答になってない返事を聞いたレオンドルは、グニュッと眉間に皺を寄せながら、人差し指でトントンと机を叩く。
「案ずるなルート。俺を含めてこの場に集う皆が魔法祭に向けて忙しい身の者ばかりだ。そなただけではない」
今忙しいからという理由は、この集まりから抜けていい理由にはならない、とレオンドルにバッサリと切り捨てられてしまった。でも、今ので「はいそうですか」とレオンドルに納得してもらえるとは思っていなかったので、それほどショックは全くない。それで済むならそもそもこんなことにはなっていないのだ。
俺が次の話を振ろうと口を開きかけたところで、人差し指で机を叩くのやめたレオンドルが「そう言えば」と何か思い出した様に聞いてくる。
「ちなみにそなた、今年は何をするつもりなのだ?去年は随分と楽しそうなことをしていたであろう?」
「今年ですか?とりあえず、文官コースの友人三名と共同研究をしている強化薬の発表ですね。個人的にはほとんどティッタたちがやってくれた様なものなので、自分たちの研究として発表したらどうかと言ったのですが、自分たちだけの手柄じゃないと譲らなかったので」
俺が不在の間にティッタ、ムート、ヴォルドの三人は、火属性の補助魔法の効果がある強化薬の研究を進めてくれた。それにより、安定的かつ効果的な調合配分が確立されている。これはもう、商品化してもいいレベルの出来栄えだと俺は思っている。
・・・あっ、そうだ。
「話が出たついでで申し訳ありませんがエリオットさん。火属性の強化薬を魔法ギルドに登録したいので、学園長としての口添えをお願いします」
「ふふ、分かったよルート君。引き受けよう」
三人の成果が目に見える形で評価してあげて欲しいという俺の意図は、しっかりとエリオットに伝わった様だ。さすがエリオット。察しが良い。開発した物が、魔法ギルドに登録されること自体が、とても栄誉なことではあるみたいだ。でも、大事なのはこれで強化薬を使用したい者から、開発者にお金が入るというところにある。研究には何かとお金と時間が取られるものなので、これが三人の何かの足しになればと思う。
・・・俺からの報酬はいらないとティッタたちに頑なに断られたからな。友達として当たり前のことをしただけと言われてしまっては仕方ないけど。
「共同研究は分かった。ルート個人の出し物はどうする気なのだ?」
「俺は準備期間が余りないので、去年のレース大会を人が乗って出来る様にするか、もしくは別の形の乗り物で楽しめるものにするか思案中です」
「ほうほう、人が乗るとな?それは何とも面白そうではないか。当日は俺も、ぬっ?・・・」
乗り物の話に興味津々なレオンドルだったが、話の途中でレオンドルを挟んで座るリーリアとカジィリアから二の腕辺りをべしっと叩かれて勢いが止まった。レオンドルは確かめる様に左右に首を振ってから「ゴホン、ゴホン」と咳払いした。リーリアとカジィリアの威圧感たっぷりの微笑みが、自分に向けられていることに気付いたからだ。なるほど、と思える席順に俺は感嘆の息を吐く。
・・・折角、いい感じに脱線してたんだけどなぁ。やっぱり駄目か。
「話が少し逸れてしまったな。ルートよ。つべこべ言わずに隠していることを洗いざらい話せ。先生やソフィアはそなたのことを心配しておるのだ。それに先生は、そなたに隠して事をされて酷く落ち込んでおる。先生を悲しませることは、そなたにとっても本意ではなかろう?」
「・・・お婆様とソフィア姉様に話してないことがあるのは認めますし、そのことで二人が傷付いていることも知っています。でも、全てはすでに終わったことなのです。話すことで逆に心配を掛けてしまうのもまた本意ではありません。そう思いませんか?」
・・・あと、絶対に怒られるだろうし。
余計な心配を掛けたくない半分、怒られたくない半分な気持ちでいるとレオンドルが伝家の宝刀を抜いてきた。
「ふむ、つまりはそれだけのことがあったと言っておる様なものだな。ルート。観念して全てを詳らかにせよ。これは王命だ」
「そんな!?酷いですレオ義伯父様。俺みたいな幼気な少年を相手に非道です、横暴です!」
「そなたが本当に幼気な少年だったらこの様な事態にはなっておらぬ。往生際が悪いぞルート」
「ぐぬうぅぅぅぅ」
リーリアとカジィリアのプレッシャーに負けたレオンドルは、聞く耳を持ってくれないらしい。俺は不満があることを目一杯に表現をした、自分の中で一番低い声で唸って見せる。俺とレオンドルが睨み合って膠着状態に入ると、エリオットが「私からもお願いするよルート君」と口を開いた。
「エリオットさん?」
「ルート君が持って帰ってきてくれた究極魔石は本当に素晴らしいものだった。いくつも手に入れることが出来たら、魔力面で革命が起きるほどの程の代物だ。だから、ジェイド卿をはじめとした魔法ギルドの研究員がかなりの興味を示している。ルート君が提出してくれた遺跡の文献の写しに、究極魔石の手に入れ方が載ってあったことも要因の一つだね。でも、ルート君は言っていた。手に入れるのは滅茶苦茶大変だったと。余程のことがない限り、二度とやりたくない、とね。それがどういう意味なのか教えて欲しいんだ」
どうやら、魔法ギルド内で究極魔石を新たに手に入れたいという動きがあるらしい。しかも、究極魔石の手に入れ方も分かっているからこそ、余計にその声が高まっているそうだ。エリオットは、その流れを止めるための説得材料が欲しい様である。図らずもその原因を作ってしまった俺としては、責任を取るべき案件だろう。国が滅びかねない事態を引き起こさせる訳にはいかない。
「・・・はぁ、仕方ありませんね」
「決断してくれてありがとうルート君」
俺が首を縦に振って見せると、エリオットが爽やかな笑顔を見せてくれる。それとは対照的にエリオットの父親であるレオンドルは、鼻の頭に皺を作って、不満そうな顔付きになった。
「どうして俺のお願いは駄目で、エリオットなら良いのだ?」
「日頃の行いの差ではないでしょうか?」
「む?それは聞き捨てならぬな。俺だってどれだけそなたのことを・・・」
「はいはいレオ。ようやく、本人が話す気になっているのですから、余計なことを言うのはそこまでになさい?」
「リーリア、余計なことではな・・・。うむ、そうだな」
リーリアはニコリと笑みを深めるだけで、言い募ろうとしたレオンドルを黙らせた。また一つ、ウチの身内の女系が強すぎる一面を見てしまったことに、俺は小さく息を吐いた。
・・・笑顔の暴力。
「あら?何か言いましたかルート?」
「いえ、何も言ってませんよリーリア義伯母様」
「そう?邪魔をしてしまったわね」
「そんなことありません。場を整えて頂いてありがとうございます」
俺の心の声を聞いたかの様なタイミングでリーリアが問い掛けられて、俺は内心でビクッとした。だが、それをおくびにも出さずに返事をすることが出来た自分を褒めてあげたいと思う。
「話すと決めたからには、全て包み隠さず話します。その分、少し話が長くなることをご了承願います」
俺は一言断りを入れてから本題に入る。皆がゴクリと息を飲んだのが分かった。
「えっと、話が長くなりますので、まずは結論を先に述べておきたいと思います。究極魔石を得るために、古代人で言うところの幻想級の魔物を相手にした訳なのですが・・・、その、俺は危うく命を落とすところでした」
「ルゥ!!」
俺の話を聞いたソフィアが、すかさず立ち上がって声を上げた。どこからどう見ても怒っているのが分かる声色だ。突然、立ち上がったことでソフィアの座っていた椅子が後ろ手に倒れそうになるが、シェリアが素早く移動して倒れる椅子を受け止めた。出来たメイドの姿に感心することで、俺はちょっと現実逃避する。
「落ち着きなさいソフィア」
「ですが、お婆様」
「まだ、ルートの話は始まったばかりですよ?いいからお座りなさい」
「うぅ、分かりました」
カジィリアに窘められたソフィアは渋々、椅子に座り直す。大人の貫禄たっぷりなカジィリアには、まだまだ余裕がありそうだ。ソフィアの勢いが止まったことに、俺はホッと胸を撫で下ろしてから話を再開する。
「えっと、話を続けますね。仮に俺がやられてたら、幻想級の魔物は間違いなく遺跡の外に出てしまっていたことでしょう。そうなれば、王都が、いや、この国が滅んでいたかもしれません」
「ルート!!」
前言撤回である。カジィリアは余裕たっぷりに見えていたが、そうではなかったらしい。今度はカジィリアが立ち上がって声を上げた。その仕草は、ついさっき見たソフィアと全く一緒である。さすが祖母と孫といったところだろうか。なお、今度もシェリアは、カジィリアの椅子が倒れない様に受け止めていた。仕事の出来るその様は、正に王族の側近に相応しい。と言うか、もう帰りたい。
・・・だから、話したくなかったんだけどなぁ。あれ?ちょっと待てよ?
二回目の現実逃避をしていた俺は、ある重要なことに気が付いてしまった。当然のことながら、俺はカジィリアとソフィアと一つ屋根の下で暮らしている。と言うことは、ここで屋敷に帰ったところで、状況は全く変わらない。むしろ、レオンドルとリーリア、それにシェリアという第三者の存在が居ない分、余計に滅茶苦茶怒られるんじゃないだろうか。もはや、俺に逃げ道などないことに気が付いて、俺は気が遠くなる気分になった。
「お婆様!私には落ち着けと言っておいてずるいです!」
「分かっています、分かっていますともソフィア。予想以上の内容に、少し感情が振り切れてしまって・・・」
ずるいとソフィアがカジィリアの袖を軽く引っ張る。カジィリアがここまで感情を露にするのはとても珍しい。そのことを取り乱したカジィリア自身が一番感じている様で、カジィリアは自制を促すためにこめかみを押さえて始めた。
「とりあえず、先生も座ってはどうか?ルートが完全に遠い目をしておるぞ?」
「・・・はぁ、そうですね。私が貴方にお願いをして、ルートから話を聞くための場を設けてもらったのですもの。私が怒っていては話が進みませんね」
レオンドルにそう言われてカジィリアは席に着いた。レオンドルは「うむ」と満足そうに頷いてから俺に目配せをしてくる。話を進めろと言う合図なのだろう。仕事をやりきった感を出しているレオンドルには悪いが、この雰囲気で話を進めろと促されても話辛くて仕方がない。でも、こんな時に頼りになるのはやっぱりエリオットなのであった。
「まさかルート君が死ぬ様な目に遭っていたとは思わなかったよ。二度とやりたくないと言う訳だね」
「それが最大の理由ではありますが、単純な作業をひたすらするのにも疲れたから、というのもありますね」
話を続ける切っ掛けをくれたエリオットに「さすがエリオットさん。ありがとうございます」と心の中で感謝してから、俺は究極魔石を手に入れるまでの過程を話す。
不思議なダンジョンの最下層にあった転移陣に乗ると、俺はちょうど遺跡の出入り口の裏側に転移した。地上に戻ったのである。森の木々の間から零れ落ちる久しぶりの日の光を眩しく思いながら、俺はすぐに遺跡の正面へと移動した。遺跡の出入り口には、俺が置いた結界が健在だったが、俺の魔力で発動させた結界なので、俺自身が通り抜けるなど造作の無いことであった。
「あぁ!?ルゥがあの結界を張っていたのね。あれのお陰で私は・・・」
「その言い方は案の定、遺跡に特攻しようとしたのですねソフィア姉様は。設置しておいてやはり正解でした」
「む~、ルゥの意地悪!」
「意地悪って。ソフィア姉様のためを思ってのことです。意地悪などではありません。それよりも、やっぱり俺のことをソフィア姉様は、信頼してくれてなかったじゃないですか!」
「ルゥのことは信頼しているわ。でも、危なっかしい弟のことを心配するのは姉の義務だもの」
プイッと顔を逸らしたソフィアに俺が呆れていると「おーい。ソフィアもルートも、姉弟喧嘩は屋敷に帰ってからにしてくれぬか?」とレオンドルが止めに入る。姉弟喧嘩をしているつもりはないが、また話が止まってしまったのは事実だ。俺は軽く息を吐いてから、話を進めることにした。
俺は大量の魔石を手に入れるために、手当たり次第に魔獣や魔物を狩るつもりでいた。だが、地下一階に下りた俺を待っていたのはミスリルゴーレムだった。ミスリルゴーレムは俺について来いと言わんばかり手招きをすると、階段を下りてすぐ近くの壁に手をかざす。
隠し通路が現れるとミスリルゴーレムが通路に入っていくので、俺も後に続いて隠し通路に入る。その先には転移陣が敷かれた小部屋があった。転移陣の手前に端末らしい台があり、台には古代語で零から九までの数字が並んで刻まれていた。それを見て何となく察した俺は、試しに数字に触れみたところ、触れた数字が光の文字となって空中に現れた。
俺はもう一つ数字に触れてみると、さっき現れた光の文字と並ぶ様にして数字が出現した。少しして光の文字は、転移陣に引き寄せられる様に降り注ぐと光の文字が転移陣に触れた瞬間、一際強い光を転移陣が放つ。これで完了したらしい。俺は試しにそのまま転移陣に入って転移をしてみた。
遺跡の中は基本的に代わり映えしない見た目をしているが、ここは確実に違う。九と六の数字を選んでいた俺は地下九十六階へと転移していた。ここはボスラッシュが始まる一番初めの部屋で、迷路の様なダンジョンではなく、だだっ広い大部屋になっているのが特徴的である。
・・・好きなところから始められるってことかな?これはありがたい。
恐らくだが、最下層までクリアした者は、自分で好きな階を選んで始めることが出来る仕様になっているらしい。これがなかったら、魔石集めにもっと時間が掛かっていたことだろう。何せ地下一階から最下層を目指して、走り回る必要がないのだ。それに、地下九十六階からのボスラッシュの相手に変更はなかった。一度攻略をしたことがある相手だったということも、時間短縮が出来た点だと思う。
でも、何もかもが順調という訳ではなかった。最下層のミスリルドラゴンが出現しなかったことである。遺跡に出入りする度に、最悪級の魔石が必ず一つは確保出来ると思っていたのに、これは誤算だった。全てが終わった後になってから分かったことだが、どうやらミスリルドラゴンはその身体が使い回しだった様だ。俺が戦利品としてミスリルドラゴンの身体を道具袋に仕舞ってしまったため、復活することが出来なかったという訳だ。
仕方がないので、俺はとにかくボスラッシュで現れる厄災級を狩りまくった。それはもう、何度も何度も何度も何度もだ。幻想級に至るために必要な厄災級の魔石の数を考えると、単純な計算で少なくとも十万個が必要となる。だから、とにかく狩りまくったという訳なのだが、実際はそれ以上に狩っている。
来る日も来る日も厄災級を狩りまくった俺は、時折、癒しを求めて地下二十九階のサー君に会いに行ったのはここだけの話である。ついでに、遺跡を出入りしても倒されなかった魔獣や魔物は、そのままなのだということを俺はその時知った。
もう一つ、想定していなかった、と言うよりも少し考えが甘かったと部分があった。それは文献にあった各等級に至るために必要な魔石の数は、あくまでも目安だったということだ。当たり前のことだが、魔獣や魔物それぞれに個体差があり、必ずしも同じ分だけの魔力を有しているとは限らない。
そのお陰で、最悪級から伝説級へといった感じに上位の進化をさせる時に、何度か失敗してしまったのである。進化させるのに与える魔力が足らないということが何度かあった。そのせいで、厄災級の討伐数がより一層増したという訳である。
俺はその教訓から、進化させる時はまず魔石に宿る魔力の量が同じになる様に調整した。しかも当然のことながら手探りで。どの程度の品質に揃えたら問題がないのか、何度も試して結論を得ることは時間の掛かることだった。でも、それのお陰で、必要な量の魔石があれば、途中の等級をすっ飛ばして進化することを俺は知った。行き当たりばったりでやっていた方が、もっともっと時間が掛かったのではないかと思う。
「いやはや、何とも。呆れを通り越してもはや何も言葉が浮かばぬ」
「なるほど、文字だけを追ってみたら何だか実現可能のように思えるけれど、実際にやろうと思えばとんでもなく途方もない話だね。話を聞く限り、その厄災級の魔獣や魔物をルート君は簡単に倒しているみたいだけど、そんなにも弱い相手ではないんだろう?」
「そうですね。決して弱い相手ではないと思います。その身体はかなり大きいですし、動きも機敏で素早いですし。何より力もありました。そうだな、高さだけで言えば、エルスタード家の屋敷と同じかそれ以上はあったのではないでしょうか。中々に骨が折れましたよ」
「そなたは、しれっととんでもないことを言いおるな。一体これのどこが幼気な少年だというのか」
訝しむレオンドルに俺はスイッと視線を逸らす。闘っている時ならまだしも今は幼気な少年で間違いないのだ。
「はぁ、だが、今の話だと伝説級を相手にしても特に問題はなかった様だな」
「伝説級を倒すこともそれほど苦労はしなかったですね。上位に進化したタイミングは、隙だらけなのでやりやすかったですよ。その分、さらに身体が大きくなって魔石の在り処が分かりにくかったですけど。それにしても、災害級を超える上位の等級になればなるほど、魔石が小さくなっていくのはなぜなんでしょうね?」
「うん、それは私も興味がある。丸で魔石の精錬器で精錬したかの様な状態なんだろう?もしかしたら、精錬器自体の機能が、その上位への進化を模したものなのかもしれないね」
「あ、エリオットさんもそう思いますか?古代人はどうやってそんなことが出来ることを発見し、技術化することが出来たのか本当に気になります」
エリオットと古代人の文明談義に花を咲かせ様としていると、レオンドルから「また脱線しておるぞ二人とも。そういう話は学園でせよ」と冷たく言われてしまう。話が脱線しているのは確かだが、魔法が一番の売りであるこの国の王様であるのであれば、もう少し興味を持って欲しいところである。
と、思ったが、よく見るとレオンドルは、リーリアからのプレッシャーを受けていた。エリオットもそれが分かって、肩を竦めて見せた。
・・・が、頑張れレオ義伯父様。




