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約束を果たすために  作者: 楼霧
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第百六十八話 手掛かり

管理者の部屋にたどり着いてから早一週間ぐらいの時が過ぎようとしていた。ちょっと期間が曖昧なのは寝食を忘れて、古代語の解読に取り組んでいるせいである。古代語を解読作業には、学園で古代語の先生をしている傍らで、魔法ギルドの所員としても活躍しているクラースという先生を巻き込んで作った辞書が活躍していた。と言うか、これがなかったら、そもそも解読が出来なかっただろう。


・・・過去の自分を褒めてあげたい。グッジョブ俺。


クラースの下には、新しく見つかった古代の文献が集まる様になっている。それはクラースは、まだ三十代と若い方ではあるが、古代語に関して言えば右に出る者が居ないぐらいの第一人者だ。つまり、それだけ忙しい人と言えたのだが、俺はそんな人を辞書作りに巻き込んで手伝ってもらった。学園の授業を受けるだけでは、全然古代語の知識が足らないと感じたからだ。


しかも、古代語をより詳しく学ぶのは、文官コースであって魔法使いコースは触りぐらいしか学ばない。学園の図書室には、古代語とそれを解読した文献が多少、置かれてはいたが、それだけでは全然知識として足らなかった。何より、古代語の解読は、なぜかほぼほぼ口伝である。人伝の場合、不慮の事故でも起こればそこで知識が途切れてしまう。


だから、俺は最も古代語に精通をしたクラースを巻き込んで、辞書作りをしようと思い至った訳だ。クラースには少し悪いことをしたが、この時は俺の持つコネを最大限に使わせてもらった。


出来上がった辞書は、原本をクラースに渡し、樹属性の魔法で複製した物を俺が一つ、魔法ギルドに複数冊納めてある。クラースの部下になる魔法ギルドの古代語解読班から「これがあれば解読作業が捗る」ととても喜んでいた。それを見たクラースがフンと鼻を鳴らしながら「まあ、知識の共有は必要なことではあるな」とツンツンした物言いをしていたが、少し顔が笑っていたので満更ではなかったのではないかと勝手に思っている。


あるじ様、ミシュとランの料理が出来ました。手を止めてお食事をしてくださいませ」

「ありがとうエルザ。すぐ行くよ」


管理者の部屋で解読作業をしているとエルザが、食事が出来たと呼びに来た。俺は読み掛けの本と辞書を持って食堂へと向かう。食堂は管理者の部屋までにあった扉の内の一つにあったものだ。この区画には他に、カプセル型のベッドが複数台置かれた休憩部屋、部屋二つ分はある大会議室、それと遺跡の中を映し出すためと思われるモニタールームがあった。


・・・まあ、モニタールームもうんともすんとも言わなかったけどね。


管理者の部屋のパソコンもそうだったが、モニタールームでもボタンらしきものを触り倒したが、全く反応がなかった。遺跡自体は、不思議なダンジョンとしての機能が維持されていることを考えても、起動するための魔力がないという訳ではないだろう。


一番可能性が高いのは、俺の魔力が遺跡に登録されていないからではないかと思っている。ギルドカードなどの個人の魔力を登録する技術は、そもそも古代の技術を活用したものなのだから、俺の考えは間違いじゃないと思う。但し、何にしても、遺跡に魔力登録する術が分からないので、今のところどうしようもなかった。


管理者の部屋から出ると部屋の外には、ミスリルゴーレムが待っていた。ミスリルゴーレムは、俺が食堂に移動するとミスリルゴーレムも食堂の前まで一緒についてくる。俺が休憩部屋に移動した時は、休憩部屋の前までと移動先の部屋の前まで必ずミスリルゴーレムがついてくるので、ミスリルゴーレムは俺のことを監視してるのではないかと思われる。


監視するだけで、ミスリルゴーレムが特にこちらに危害を加えてくることは全くない。俺の後にただくっついてくるだけなので、最近では刷り込みされたカルガモの雛の様に思っている。


・・・まあ、見た目も大きさもそんなに可愛げがあるものじゃないけどね。


食堂に入ると二体の人型のゴーレムが出迎えてくれる。ミシュとランとそれぞれ名付けた二体は、俺がいつもの様に樹属性の魔法で作ったものだ。ミシュとランの役割は、俺の代わりに料理を作ることである。なぜ、二体のゴーレムを作ることになったのか。その原因はエルザにある。


二日ほど前の話になる。俺が管理者の部屋で書物の解読に寝食を忘れて没頭していると、エルザに突然、「不摂生です!」と怒られたのだ。しかも、エルザは「カジィリア様とソフィア様に言い付けますからね!」と脅してくる始末。二人にそんなことを告げ口されたら間違いなく説教コースになることは明白だった。


時に頼もしい従者で、時に気の知れた友人、そして時にめんどくさい彼女の様な存在であるエルザの今回の役回りは完全におかんだ。ちょっと鬱陶しいと思えるけど、それは俺の身を案じてのもの。エルザ母様に、俺は従うしかなかった。


とはいえ、食事を取るにしても準備が必要だ。正直なところ解読作業にとにかく時間が掛かるので、食事を準備する時間がとにかく惜しい。ロンドの冷凍パンはまだ残っているが、さすがにパンだけだと味気なく、保存が効く干し肉や乾燥パスタといった食材もあるが、一手間加えた方が美味しく頂けるものばかりだ。どうせ食べるのであれば、美味しいものが食べたい。ただの我が儘だが、食に関しては譲れないところなのだ。


そんなことで悩んでいる方が、よっぽど時間が勿体ないと思える様な板挟みになっていた俺にエルザが「主様のために、私が料理を出来たら良かったのですけど。私が出来ることと言えば、食材を切るだけですね」と寂しそうに呟いたのを聞いて、俺は思い付いた。料理が出来ないのであれば、出来るのやつを作ればいいじゃないかと。そんな経緯があって料理担当ゴーレム、ミシュとランの二体が生まれたという訳だ。名前の由来は言うまでもなく、目指せ星三つである。


ちなみに二体作ったのには、ちゃんと理由がある。一体のゴーレムだけで食材の下準備から調理、味付けといった感じに、一通りの調理をさせるには工程が多すぎたのだ。時間を掛けてゴーレムの作り込みをすれば、全てをこなすエルスタード家料理長のゾーラみたいなゴーレムを作ることも出来たかもしれないが、それでは本末転倒になってしまう。だから、食材を切って下ごしらえをするミシュと調理、味付けをするランの二体に分担した。


そんな二体のゴーレムの指南役は、エルザが務めている。俺がまだルミールの町に居た頃は、エルザを腰に携えながら、よくメルギアの森で料理をしていた。その時はまだエルザは、ただの剣で喋ることは出来なかったが、それでもエルザは当時のことをしっかりと記憶しているそうだ。呪いで記憶を蝕まれている俺としては、何とも羨ましい話である。


「それで今日の夕食のメニューは?」

「今日の夕食はミートスパゲッティーです主様」


俺はエルザに尋ねながら席に座るとミシュがテーブルの上にミートスパゲッティーが盛られた皿をコトリと置いた。とても良い匂いがする。俺は小脇に抱えていた本をテーブルに置いて、「いただきます」と手を合わせてからフォークを手に取った。


「もぐもぐ、もぐもぐ」

「いかがでしょうか主様?」


少し不安そうに聞いてくるエルザ。それに表情はないけれど、どことなく緊張している様に見えるミシュとランを見渡してから、俺はニッコリと笑って見せた。


「うん、美味しく出来てるよミシュ、ラン。回数を重ねることでどんどん良くなってる」


ミシュとランに料理の評価を伝えると二体はホッとした様に胸を撫で下ろす仕草を取った。俺はミシュとランの人間味のある仕草に、思わずクスリと笑ってしまう。


「主様の満足する料理が出来た様で、私も安心致しました」

「エルザもありがとう。俺が美味しい食事が出来るのはエルザのお陰だ。本当に感謝してる」

「もったいなきお言葉です。・・・ですが、はぁ。お手を止めて頂けたら、なおのこと良かったのですけれど?」


右手に持ったフォークでパスタを巻いて口に頬張りながら、左手で読み掛けの本を開くと、エルザに深々とため息を吐かれてしまった。行儀が悪いと言われていることは分かっているが、俺にやめる気はない。


「エルザもミシュとランも努力してくれていると言うのに、主の俺が頑張らない訳にはいかないからね」

「まあ、物は言い様ですこと。頑張っていらっしゃる主様は、一体何の本をお読みになっているのでしょう?」


俺が今読んでいる本について、呆れ口調でエルザが尋ねてくる。エルザが本の内容に微塵も興味がないことはすぐに分かったが、内容を知れば少しは意見が変わるかもしれない。俺は口に入れたものをゴクリと飲み込んでから、椅子を座り直して少し背筋を伸ばしてエルザに視線を向ける。


「今読んでいるのは、古代人が行った実験の記録をまとめた本で、死霊使いについて書いてあるんだ」

「死霊使い?聞き慣れないお言葉ですが、死霊使いとは何でしょうか主様?とても不穏な響きが致しますが・・・」

「ん?まあ、エルザがそう思うのは間違ってないね。これは人の死体を人為的にアンデッド化させて、従えさせる方法を実験した記録だから」


本に書かれてある内容を要約するとこうである。人はその死体を放置するとアンデッド化、つまりは魔物化する。これは以前にソフィアから聞いたことがある話だ。では、なぜ、アンデッド化するのか?それは、死を司る闇の女神に魅入られることにより、引き起こされる現象と書かれてある。何てことはない。犯人は、闇のマナという訳だ。


そして、この本には人がアンデッド化する原因についての考察も書かれてある。この世界はあらゆるものに魔力が宿っているが、魔力を無尽蔵に生み出すことが出来るのは人間種とドラゴン種だけなのだそうだ。生きている間は、魔力を生み出し続けることが出来るが、死ねば当然魔力を生み出すことはない。


たが、人はアンデッド化することで魔力を生み出す機能が半分程度、復活するそうだ。驚愕の事実である。そして、闇に魅入られていることにより、その魔力は自動的に闇の女神へ流れていくらしい。だから、闇の女神は人をアンデッド化するのだと考えられていると書かれてある。


とても衝撃的で、この世界の摂理の一端に触れる様な内容であり、読まずにはいられない本だと、俺はエルザに理解を求めた。だが、エルザの胸を打つことは出来なかった様だ。俺がエルザからもらったのは共感ではなく雷だった。


「主様は何てものを読んでいらっしゃるのですか!?お食事が不味くなる様なお話しを読むぐらいなら、お食事を優先してくださいませ!!」

「アッ、ハイ。ソウシマス」


エルザが怒るのも無理はない。実験の記録ということは、つまりは人の死を弄んだという記録でもあるということだ。中身にもよるが、胸くそな内容も書かれてあった。現に、非人道的だとかどうとか反対する勢力の手により、実験は途中で頓挫したそうだ。


・・・だったら、ドラゴンならどうだ、とかさらりと恐ろしいことが書いてあったけど。実際に手を出したかどうかはまだ分からないけど、古代人は命知らず過ぎる。そんなにも古代人は、強かったのだろうか?


こんな感じに俺は書物の解読作業を進めていきながら、ミシュとランの熟練度が上がっていく料理を堪能しつつ、時折エルザからの雷を受けるといったサイクルをさらに一週間ほど繰り返したある日、ついに俺は遺跡に関する文献を発見した。


「訓練施設ですか?」

「そう、この遺跡は兵士を育てるための訓練施設だったみたいだ」


不思議なダンジョンは侵入者を拒むための造りかと思っていたが、そうではなかった。むしろ、この遺跡の中にチーム単位で兵士を放り込み、叩き上げて鍛えるための造りだったのだ。遺跡に挑むチームの実力に合わせた階層を攻略させていた様だ。


実は、各階層ごとに転移陣がある様で、モニタールームでその管理が出来るらしい。そして、その案内役をミスリルゴーレムが務めている。ミスリルゴーレムには他にも役目があって、遺跡に挑んだチームが途中で力尽きたり、負傷して身動きが取れなくなったりしたら、回収して地上に送り返していた様だ。


色々な魔獣や魔物と闘った割に、ゾンビとかスケルトンといった人がアンデッド化した魔物と出会う機会がないな、とは思っていたが納得である。


それともう一つ、ミスリルゴーレムには大事な役目がある。それは、俺が遺跡に入って一番始めにやった、床に風穴を空けて下りたことで、酷い目に遭いそうになったやつだ。魔獣や魔物と闘わず、不正な方法で遺跡を攻略した場合、ミスリルゴーレムが鉄拳制裁をした上、やり直しさせるために地上に叩き返していた様だ。危うく俺も叩き返されるところだった。


遺跡が存在した理由が分かり、さらに数日を掛けて同じ文献を読み進めたことで、俺は一番肝心な情報を手に入れることが出来る。それは、遺跡を機能させるために、無尽蔵に魔力を生み出すという魔石の存在である。


「確か倒した魔獣や魔物が溜め込んだ魔力が魔石に宿っている、というお話しだったかと記憶しておりますが・・・」

「うん、その認識で合ってる。エルザが言いたいことは分かるよ。魔石に宿った魔力は消費したら当然、失われるだけで増えることはないのでは?ってことだろう?でも、そうじゃない魔石、究極魔石っていうのがあるみたいだ」


・・・名前だけ見ると凄い胡散臭いけど。


「さすが、私の主様です。言葉にしなくとも伝わるなんて、愛の成せる技ですね」

「あー、うん。もしかして、またこじらせてる?」

「だって、主様ったら私にミシュとランを任せっぱなしで、全然私のお相手をしてくださらないのですもの。今私に出来ることは、それぐらいしかないのは分かっていますが・・・」


頬を膨らませてから、口を尖らせていそうなエルザの物言いに小さく笑ってから、俺はエルザにニッと笑顔を向ける。


「ここからは、エルザの力も必要だ」

「私の力ですか?」

「あぁ、そうだ。エルザは俺よりも見える範囲が広いだろう?それでまだ目を通せていない書物から、古代語で”魔石”と書かれてあるのを一緒に探して欲しいんだ」


エルザは何だかんだ言ってハイスペックな能力を持っている。それは全方位を知覚することが出来ることだ。どんな感じに見えているのか想像もつかないが、探すべきキーワードが分かった今、それを使わない手はない。それに、文字か読めなくても短い単語なら記号として、エルザでも分かるはずだ。間違いなく俺一人でやるよりも格段に効率が上がるだろう。


「つまり、私は頼られているのですね?」

「頼ってる。エルザだけが頼みなんだ」

「ふふふ、主様にそこまで言われたら仕方ありません。私、力一杯お手伝いさせて頂きます」


分かりやすいぐらいに機嫌が良くなったエルザに苦笑する俺だったが、エルザが声のトーンを落としながら「でも」と口にした。


「平置きされた資料や開らかれてある本なら見ることは出来ますが、めくらなければさすがに中まで見ることが出来ません。折角お役に立てる機会が巡ってきたというのに・・・」

「だったら、その役目はミシュとランにやってもらおうか。二体は、エルザの部下みたいなものだし」

「なるほど、それは良い考えですね。今ならミシュとランも待機中ですので、手が空いていますもの。でも、食事の時間になったらミシュとランには、料理をさせますから。いいですね?」


エルザから暗に食事を摂らない様な不摂生を再び俺にさせるつもりはないと釘を刺されてしまった。どこまでも、主思いの剣である。


「ククッ、分かってるってエルザ。その時は料理を優先してくれたらいい。ミシュとランの料理は今じゃ楽しみの一つだからね」


こうして、ミシュとランの手を借りてエルザに古代語で”魔石”と書かれてある書物を探してもらい、俺がそれに目を通す、という流れが出来上がった。解読作業は今まで通りだが、目的のことが書いてあるかどうかを判断する効率は格段に上がったと言える。


俺は波が来ていると調子に乗って、その日は夜を徹して解読作業を進めた。当然のことながら、エルザには「全く主様と来たら・・・」とブツブツ小言を言われてしまうが、やめろとは決して口にしなかった。俺は遠回しにエルザが応援してくれていると自分に都合が良い解釈をして、”魔石”と書かれた書物を読み進めていく。



「あった!これだ!!」

「見つかったのですか主様?」


日が当たらない地下世界で、昼夜の間隔が完全にずれてしまっているかもしれないが、食事の順番を考えるなら朝方の話である。俺は到頭、追い求めていた情報が書かれてある本を見つけ出した。魔獣や魔物について書かれた研究書である。


「ここにほら、幻想級からは究極魔石が取れるって書いてある。これに間違いない」

「やりましたね主様。でも、幻想級とは何でしょうか?」

「ちょっと待って。ええっと。・・・ふむふむ、どうやら魔獣や魔物の魔力量で等級別に分けた時の呼び名みたいだ」


本に書かれてある等級は次の通りだ。下級、中級、上級、災害級、厄災級、最悪級、伝説級、幻想級の八つの呼び名があるらしい。幻想級というのは、どうやら一番上の等級の様だ。究極魔石という大層な名前の魔石が取れるぐらいなので、ある意味納得の順位である。


下級や中級が現代で言うところの下位種と呼ばれる魔獣や魔物で、上級が何かとお世話になっているクリムギアやこの遺跡で仲良くなったホーセイバーなどの上位種と呼んでいる奴らのことの様だ。災害級は、今も昔も同じく、天変地異を引き起こすレベルの魔獣や魔物のことを呼ぶらしい。


・・・ん?ちょっと待てよ?ということは、あれってそう言う意味か?


俺は遺跡について書かれた本を手に取って、急いでページをめくる。俺が探しているのは、遺跡に配置した魔獣や魔物について記載された箇所だ。


「・・・そうか、なるほど。九十六階から九十九階のヤマタノオロチっぽい奴や子供エヴェンガルは、厄災級だったってことか。災難と思えるほど強い相手と解読していたけど、等級を表していたんだな。そうなると、百階のミスリルドラゴンは最悪級ってことか。魔法使いとしたら最悪の相手だったから、そのままの意味で訳していたよ」


ある意味では解読した通りとも言えるが、読み違いをしていことに気が付いて、俺はちょっとすっきりした。ちなみに子供エヴェンガルについて記載されて箇所には、空中の覇者または嵐の王エヴェンガルと書かれており、子供エヴェンガルは厄災級だが、成体したエヴェンガル、つまりは俺が対峙したことがあるエヴェンガルはどうやら伝説級になる様だ。


「あの主様?」

「ん、何?エルザ?」

「あの以前に闘ったことがあるエヴェンガルが伝説級で、主様が欲しているのは幻想級から取れる魔石なのですよね?」


不安そうに質問してくるエルザに俺はコクリと頷いて見せる。


「途方もない相手ではありませんか?それにそんな強大な魔獣や魔物は、そうそうお目に掛かることが出来る様な相手ではないと思うのですが?」

「だろうね。災害級の魔獣シロ・クマが現れたことでさえ、大事おおごとだったって言うのに、幻想級がその辺りをうろうろしていたら、それはもう大騒ぎどころの話じゃないだろうね」

「もう、主様!茶化さないでくださいませ!!」


怒るエルザを見てミシュとランがオロオロとした感じに取り乱している様子がちょっと面白い。時間が経つにつれて益々、人間味を帯びていくミシュとランの様子はとても興味深いものがある。ゴーレムの新たな可能性を感じているとエルザから「聞いているのですか主様?」とドスの利いた声で話し掛けられて、俺はビクッと身体を震わせた。


「聞いてる聞いてる。エルザとしては、俺に危ない目に遭って欲しくないから心配して言ってくれていることは、それはもう十分に分かってる。でも、エルザは俺の性格をよく知っているだろう?」

「それはもうよく存じております。・・・やはり、ここでやめる気はないのですね?」

「もちろん。ご丁寧にこの本には、幻想級に至るまでの道筋が載っているからね」


各等級ごとに一つ前の等級と比べて、いくつの魔石相当になるのかが書かれてある。例えば、幻想級は伝説級の魔石百個相当なのだそうだ。その伝説級は最悪級の魔石が五十個、最悪級は厄災級の魔石が二十個となる。そして、厄災級は災害級の魔石が二十個となっており、伝説級から急に魔力量がインフレしていることがよく分かる。


「手持ちが災害級の魔石が数百個に、厄災級が四個、それと最悪級が一個。幻想級のために必要な最悪級の魔石の数は単純に計算して五千個。何とかなりそうな数の様に思えるだろ?幸いなことにこの遺跡は出入りしたら、魔獣や魔物が復活するんだ。それに、魔石に俺の魔力を込めて与えれば、多少は必要な魔石数を減らすことが出来るだろうし。そう考えたら、ほら、どうにかなりそうだ」

「それは何かと人外になりつつある主様なら可能かも知れませんが。闘いはどうするのです?あのエヴェンガルと同等だけでなくそれ以上の相手もしなくてはならないのですよ?」

「エルザはさらっと人が気にしてることを言うね。・・・まあ、いいけど。そんなことよりも、エルザの心配は最もだけど、俺は全く勝ち目がないとは思ってないよ」


魔獣や魔物に魔石を与えて無理矢理上位へ変異させると、突然の変異に動きがとても鈍くなる。それは突然の身体の変化に、魔獣や魔物の頭が追い付いておらず対応出来てないからだ。その隙を突いて攻撃をすれば、意外と安全に倒すことが出来る。


「少し楽観視が過ぎるのではありませんか?」

「楽観視をしているつもりはないけど、試してもないのに諦める訳がないだろう?」

「それも存じております。はぁ、やはりこうなった主様をお諫めすることは難しい様ですね」

「うんうん、エルザは諦めが肝心だよ。それに、ここからは益々、エルザにしっかりと働いてもらわないといけないんだから。頼んだよ相棒」


ここからは狩りの時間だ。そう思いながら立ち上がると、エルザに「ちょっと待ってくださいませ」と止められる。俺は「あれ?まだ止める気なの?」と尋ねながら首を傾げて見せた。


「そうではありません。手掛かりを掴んで先を急ぎたい主様のお気持ちは分かりますが、まずは朝食を摂ってからにしてくださいませ」

「なるほど、そういえばまだだったね。分かったよエルザ。腹が減っては戦は出来ぬって言うしね」

「その様なお言葉は初めて聞きますが、まさしくその通りです」


ミシュとランとエルザを連れて、俺は食堂へと移動した。ミシュとランの美味しい朝食を堪能してから、俺は地上に戻るための転移陣へと足を踏み入れた。

手掛かりを掴んだところで次回は閑話です。

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