第百六十六話 最下層
「ここに来てのボスラッシュか。この遺跡を造った古代人、いい趣味してるよ本当に」
俺は休憩部屋にある一人用のベッドを浄化魔法で綺麗にして、仰向けに倒れ込みながらぼやく。エルザはふわりと浮かんで俺の目の前に来ると「お疲れ様です主様。昨日よりも下りることが出来たではありませんか」と俺のことを労ってくれた。俺とエルザは今、地下九十九階と百階の間にある休憩部屋に居る。
エルザの言う通り、今日は地下九十六階から九十九階までの四階を一日で攻略することが出来た。ここ数日と比べたら一階多いと言える。ただそれは、平坦な道のりではなかったことは言うまでもない。各階毎に一体、災害級を上回る魔獣か魔物が待ち構えており、しかもご丁寧に倒さないと先に進めない仕様になっていた。
ついさっきまで闘っていた九十九階の相手は、なんとあのエヴェンガルによく似た姿をしていた。身体のサイズを考えるとまだ子供だったのではないかと思われるが、その強さは本物だった。大部屋を自由自在に飛び回り、強烈な風圧攻撃やつんざく叫び声、一年前のエヴェンガル戦を思い出す闘いであった。一度、闘った経験がなかったらもっと苦戦していたかもしれない。
俺が愚痴っているのは、相手が手強くて苦労した、という理由もあるが、一番苦労したのは魔石の奪取である。災害級の魔獣や魔物から取れる魔石は、大体サッカーボール大の大きさがあり、魔石の大きさは貯めこめる魔力と強さの大きさでもある。
それなのに、今日闘ったやつらは災害級よりも身体も魔力も大きかったというのに、魔石が野球ボールぐらいの手のひらサイズだったのだ。お陰で、でかい図体を解体する羽目になり、魔石を見つけ出すのが大変だったのだ。
「本当にこの遺跡は不思議なことばかりだ。この魔石、災害級よりも小さいのに、内在する魔力量が災害級のものより格段に多い。普通は大きくなればなるほど、容量が増えるもののはずなんだけどなぁ」
俺は手のひらサイズの魔石を手に持って、まじまじと眺める。地上の魔獣や魔物から取れる魔物は、黒に近い琥珀色をしているのだが、これは色が薄く透明に近い色合いをしており、通常の魔石とは明らかに違う。どちらかと言えば、魔術具を使って人工的に精錬した後の魔石の様である。
「何か気になることでもあるのですか主様?」
「ん?まあね。今日闘った魔獣や魔物から取れたこの魔石は、今までに学園で学んだこと、それに冒険者であるエリオットさんやソフィア姉様から聞いた話にはなかったことだ。そう考えると、一般的に常識じゃないことが、ここには間違いなくある。だから、これならシルフィア先輩を助ける手立てが見つかりそうだなってさ」
「それは喜ばしいことですね主様」
俺の回答に嬉しそうにエルザは返事をしてくれるが、すぐに「ですが、その割に顔色がよくありません主様。他にも何かあるのでしょう?」と言われてしまい、俺は目を丸くした。エルザの言ったことは正解だったからだ。
「・・・もしかして、顔に出てる?そんなに俺って分かりやすい?」
「そうですね。主様はお年の割に感情を隠すことが長けていると思います。前主様には見られなかったところですね。でも、見る人が見れば、主様はとても分かりやすいと思いますよ。だって、何か良くないことが起こると考えられている時は、それを悟らさせないために、殊の外顔に出さない様にされてますから」
「それはつまり、顔に出さない様にしているが、裏目になってるってこと?」
「左様でございます」
・・・そうだったのか、知らなかった。何かショック。
前々からどうも隠し事をしていることがバレやすいと思ってはいたが、どうやら隠しているつもりの顔が、逆に隠し事があることを告げていたらしい。エルザにそう指摘されて、俺はペタペタと顔を触れる。すると、エルザがクスッと小さく笑ってから「その様に心配されなくても、その違いが分かるのはごく親しい方だけですよ」と教えてくれる。
・・・そこが肝心なんだよエルザ?
「さあ、主様。一体、何を危惧されているのですか?私はお話をお聞きすることしか出来ませんが、不安や不満を溜め込むのはお身体に悪いですよ?」
「はぁ。まあ、黙っておくことでもないし、話を聞いてくれるというならエルザには聞いてもらおうか」
俺はエルザに明日起きるであろう事態を話す。
「恐らく次の階、百階が最下層だ。ここに来てのボスラッシュに、一階毎に休憩部屋が設置されているところから見ても、間違いないと思う」
「次が最下層ですか?それはどちらかと言えば喜ばしいこと、ですよね?」
俺の話を聞いたエルザが、不思議そうに質問してくる。俺はエルザの話を肯定する様に首を縦に振って見せた。
「あぁ、その通りではある。でも、ここまでの過程を考えたら、最下層だからこそ、今までで一番強い魔獣か魔物が待ち構えているのは間違いない」
「なるほど、主様は強敵が居るかもしれないことを危惧されているのですね」
エルザに話した内容は、当てずっぽうで言った訳ではない。すでに索敵魔法で調べた結果なのである。但し、確認出来たのは、今日闘った相手よりも一段上の魔力の持ち主だということだけだ。百階は今までと違って、索敵魔法の阻害が異様に強かった。
魔力の層が絶えず動いている様で、俺の魔力を馴染ませてもすぐに流されてしまう。そのせいで、索敵魔法を百階に広げることが出来なかった。だったら階段からならどうだ、と試してもみたのだが、同じ理由で駄目だった。百階はそれだけ厳重に守られている。
一度、百階まで下りて目視すればいいだけの話だったかもしれないが、ボスラッシュで疲れていた俺に、わざわざ階段を下りて気が重くなることを確かめるだけの気力はなかった。
「でも、あの災害級よりも上の魔獣や魔物を相手にしても、主様は危なげなく闘っておられるではないですか。どんなやつが来ようとも、主様なら倒せます。大丈夫です!」
「・・・はぁ、簡単に言ってくれるなエルザは」
「当たり前です。私の主様はそれだけすごい方なのです。どんな相手であろうと後れを取ることなどありません」
エルザの胸を張っていそうな物言いに、俺は思わず苦笑する。でも、エルザの言っていることは半分正しい。どんな相手が来ようとも、倒さなければ先に進むことは出来ないのだから。
「さてと、うだうだするのはこれぐらいにして、食事を摂ってさっさと寝るか」
「主様、主様。僭越ながら、私のお手入れが抜けております」
「ふふ、分かってるってエルザ。一番初めにやろうと思ってたからわざわざ口にしなかっただけだよ」
「さすがは主様ですね。私は幸せ者です」
・・・全く、こんなに調子がいい剣は、世界でエルザだけだよほんとに。
翌日、なんだかんだエルザのお陰で気力十分な俺は、意気揚々と地下百階に下り立つ。だが、そこで待ち構えていた魔物の姿に、こめかみをグリグリと押さずにはいられなかった。
「・・・本当にやってくれる」
「どう見てもあの姿はドラゴン、ですよね主様?」
「ドラゴンには間違いないけど、正確にはドラゴン型をした、だな」
見た目はメルギアやクリューと似た様な飛竜の様な姿をしているが、身体の色が全身、乳白色に青色を混ぜた色合いをしている。どこからどう見ても身体がミスリル製なのは明らかだった。索敵魔法で相手からの敵意や悪意を一切感じ取れないことを考えても、ドラゴン型ミスリルゴーレムが地下百階のボスらしい。
・・・初日以来、全くミスリルゴーレムと出くわすことがないと思ってはいたけど。まさか、ここに来て登場するとはな。しかも、ドラゴンを模してるとか嫌がらせか?
「百階はミスリルドラゴンが相手って訳だ。こうなると残念だけどエルザの出番はないな」
「まあ、主様はそんなことを言って、他の武器に浮気するのですね?」
「浮気って・・・まあ、間違いじゃないけど」
鉄製であるエルザは、ミスリル相手では単純に硬度で劣る。俺が困りながら頬を掻いていると、エルザがクスクスと笑ってから「申し訳ございません主様。冗談です」と謝った。
「相手がミスリルゴーレムということは、私ではお役に立てないことは依然の闘いで重々存じております」
エルザに補助魔法を掛けて硬度を補うことは出来る。だが、フレン救出時にミスリルゴーレムと相対した時、補助魔法で硬化させたエルザでミスリルゴーレムと闘ったが、ミスリルゴーレムに攻撃を加える度に、エルザに付与した補助魔法の魔力をミスリルゴーレムに奪われてしまった。補助魔法を掛けなければ硬さでエルザが劣るため、エルザも自分がミスリルドラゴンと闘うことは出来ないことが分かっていた。
・・・同じ理由で魔法剣も使えないしな。
「本来であれば、主様をお守りするのが私の役目。それなのに、自分の役目を果たすことが出来ず、本当に申し訳ございません」
俺はエルザの言葉にハッとする。この遺跡に潜ってからというもの、エルザが執拗に刃を研ぐ様に求めてきた本当の理由に、今更ながらに気が付いた。エルザは俺の本当の母親フィアラから託された役目を果たすために、俺に刃を研がせていたのだった。
・・・そうか、まさしく俺のためだったってことだな。
「ですが、私がお役に立てなくても、主様は十分にお強いのですから。どんな強敵であろうと大丈夫です」
何かと鈍い鈍いと言われる俺だが、人の気遣いに気が付かないほど自分が鈍いとは思わなかった。俺は自分の鈍さに嘆息してから、エルザを鞘から抜いて自分の目線の高さに掲げる。
「役に立たないと悲観なこと言うエルザの誤りを正しておくよ」
「主様?」
「俺はエルザのことを役立たずだと思ったことはないし、フィアラ母様から与えられた役目を果たせてないなんて思ってもない。確かに今回は相手が悪いと言えるけど、でも、エルザが俺に与えてくれているものは武器としての役目だけじゃない。主の心に寄り添い、支え、心の安寧を保ってくれるのも、立派に俺のことを守ってくれていることになる。だろ?」
「ありがとうございます主様。主様にその様に思って頂いて、私は果報者ですね」
嬉しそうなエルザの返事に俺も嬉しく思っていると、エルザが「でも、良かったのですか?」と悪戯っぽい声色で聞いてくる。今の話に悪い部分などあっただろうか。
「ん?良かったって、何が?」
「主様が時折、話してくださったではありませんか。今の様な状況のことを、フラグを立てる、と呼ぶのでしょう?」
エルザから思いもよらない言葉が出てきたことに、俺は目を丸くしてから思わず大きな声で笑ってしまう。
「ふっふふ、あはっはっはっ、あーはっはっは」
「笑うなんてひどいです主様!私は主様のことを真剣に心配しているのに!!」
笑う俺の手からエルザが離れてふわりと浮かぶと、俺の腕に近付いて剣身でビシビシと器用に俺の二の腕を叩いてくる。笑い過ぎて出た涙を拭いながら、俺はエルザに謝った。
「ごめんごめんエルザ。馬鹿にするつもりで笑った訳じゃないんだ。ただエルザの思考が、すっかり俺に毒されていることが、嬉しかったというか、なんというか。まあ、そう言うことだ」
「何ですかそれは?全く意味が分かりません」
丸で頬を膨らませて、プイッと顔を逸らす様な仕草で抗議するエルザ。そんな人間くさい仕草にも、俺は小さく笑ってしまう。「どうして笑うのですかもう!」と益々、怒るエルザを宥めながら、俺はエルザの鞘を道具袋の中に入れた。
「主様?鞘を先になおしてしまっては、私が戻れませんよ?」
「今回は、エルザが言ってくれた様にどんな敵が来ても問題がないことを、エルザに見ていて欲しい。それにフラグというのは、何も回収するだけじゃないということをエルザに見せてあげよう」
俺はエルザにそう話し掛けながら、代わりとなる武器を道具袋から取り出す。対ミスリルゴーレム用として用意していたミスリルハンマーだ。ミスリルゴーレムの欠片から鋼属性の魔法を駆使して製作したものではあるが、顕現させてからしっかりと時間が経っている。すでに物質として定着しているので、魔力を奪われる心配はないはずだ。
それに加えて、ミスリルハンマーの金槌部分には魔力吸収の呪いを付与してあるので、仮に駄目だったとしても一方的に魔力を奪われるということもないはずだ。出来れば一度ぐらいはミスリルゴーレムを相手に試して起きたかったところだが、ミスリルゴーレムが大量に現れた二十八階以降で、ミスリルゴーレムと出会わなかったのだから仕方がない。
俺はミスリルハンマーの柄を肩に掛けるながら「それじゃあ、行ってくる。エルザは、危ないから離れて見てる様に」と声を掛ける。エルザに「お気を付けてください。ここで主様の勇姿を見守らせて頂きます」と見送ってもらいながら、俺はミスリルドラゴンに近付いた。大きな部屋の中央付近まで歩いた俺は、ミスリルドラゴンに向かって、ミスリルハンマーを突き出す。
「空気を読んで待っていてくれるのはありがたいけど余裕の現れか?」
ここまでのボスラッシュは、俺が部屋に入った時点でやる気満々で襲い掛かってきた。だが、ミスリルドラゴンはずっと動かずにどっしりと佇んだままだ。本能で動く魔獣や魔物とゴーレムは明らかに違うものではあるが少し不気味だ。
・・今までで一番大きな魔力を感じるは確か。でも、だからと言ってのここに来て舐めプとは、ちょっとばっかし腹が立つ。この遺跡を造った古代人が何を考えているか知らないが、全力でやらせてもらおうじゃないか。
百階の部屋に入ってからエルザと話している間でさえ、ミスリルドラゴンは襲い掛かって来ない。そのお陰でエルザと色々なことを話すことが出来た訳だが、そんなところを考えても、しっかりと準備をしてから掛かって来いと、余裕を見せ付けられている様でちょっと気に入らない。
・・・まあ、ゴーレム相手に啖呵を切っても答えが帰ってくる訳じゃないか。
そんなことを思っていると突然、空中にいくつもの光の粒が現れる。ミスリルドラゴンの攻撃か!?と一瞬、身構えたが、光の粒は徐々に見覚えのある形を象っていく。空中に現れたのは光の文字。しかも、古代語である。俺は光の文字を目で追った。
「えぇっと、試練を授かりし、いや、この場合は受けし者かな?あとは挑戦者とも読み取れるか。それから、最後の試練が、あ・・・」
古代語は学園の授業と図書室の文献などで勉強しており、多少であれば読むことが出来る様になっている。俺が必死で空中に現れた古代語を解読していると、スッと光の文字が消えてしまった。まだスラスラと読めるほどの技量はないので、光の文字の出現時間が短すぎる。
「人が折角、一生懸命読んでたのに・・・。でも、すごい技術だな。板のない電光掲示板って感じか」
古代人の無駄に高い技術力に感心していると、今度はミスリルドラゴンが動き出す。どうやら、さっきの光の文字が、戦闘開始を告げる合図でもあったらしい。ミスリルドラゴンは右前足を一度浮かせて、再び地面を踏み締めると、咆哮する様に口を大きく開けて、俺のことを威嚇してくる。それだけで、空気がビリビリと震えて、目に見えないプレッシャーが俺にのし掛かってきた。
・・・くっ、エヴェンガルと似た様なことを!
戦闘開始と言うのであれば、こちらも大人しくしている必要はない。俺はミスリルドラゴンとの間合いを一気に詰めて、大きくジャンプしてから、ミスリルハンマーを顔面に目掛けて振り下ろすために、大きく振りかぶる。
「くらえええええぇぇぇぇぇぇ!!」
ミスリルハンマーを顔面に叩き付けると、ガキンッと金属と金属がぶつかり合う鈍い大きな音が部屋の中に響き渡る。それと同時に、ミスリルドラゴンは顔を床に叩き付けながら地に伏した。クリティカルヒットと呼ぶに相応しいぐらい綺麗に攻撃が入った。手に残る攻撃の感触に俺は、手応えのあり、と思いながら床に着地する。
・・・とはいえ、これで終わるほど弱くはないよな。知ってた知ってた。
ミスリルドラゴンが地に伏せたのは、一瞬のことですぐさま身体を起こして顔を上げる。少し頭の天辺が凹んでいる様に見えるが、生身の生物ではない分、ダメージはそれほどなさそうだ。ミスリルドラゴンの様子を分析していると、今度はミスリルドラゴンがお返しと言わんばかりに、口をパカッと大きく開けて、火のブレス攻撃を繰り出してきた。俺はすぐに魔法障壁張ってブレス攻撃を防ぐ。
・・・多少の火なら防がなくても大丈夫ではあるんだけど。
メルギアからもらったうろこで火属性の恩恵を受けて火への耐性が上がり、シアンからもらったうろこで水属性の恩恵を受けて、より火への抵抗力が高まっている。さらにダストアからもらったうろこで土属性の恩恵を受けて、防御面が上がって傷付きにくくなっており、例えば、焚き火の中に手を突っ込んだところで、俺は火傷することはない。うろこを身に付けていたらの話ではあるが、人外まっしぐらだ。
「・・・む、水の魔法障壁にヒビが。となると、さすがに火傷じゃ済まないな」
火属性の攻撃に対して、相性の良い水属性の魔法障壁を張って防いでいるというのに、魔法障壁にヒビが入った。相性を超えるほどの攻撃を受けたことがあるのは、メルギアたちドラゴンを相手にした時だけだ。ゴーレムとはいえ、伊達にドラゴンの形をしている訳ではないらしい。
・・・それでも、氷属性に張り替えるほどではないか。
魔法障壁にヒビは入れられたものの破壊されるまでには至っていない。ミスリルドラゴンのブレス攻撃を評価していると、今度は足元に大きな魔力の流れを感じ取る。俺はすぐに大きく後ろに飛び退くと、俺が立っていた場所が針山地獄になっていた。ミスリルドラゴンは火属性だけなく、土属性も扱える様だ。
ミスリルドラゴンが二つの属性を扱えることを心の中で称賛しつつ、俺は再び攻撃に転じる。正面から突っ込むのは、火のブレス攻撃の餌食になるだけなので、俺は右手からグルリと回ってミスリルドラゴンの背後に回り込む形で突っ走る。
ミスリルドラゴンは回転する動きを取るのが苦手な様で、ミスリルドラゴンが向き直るよりも前に、俺は背後に回り込んだ。すかさず、ジャンプをして、背中目掛けてミスリルハンマーを振りかぶる。だが、俺がミスリルハンマーを振り下ろす寸前で、ミスリルドラゴンの妨害を受ける。どこからともなく風の刃が二対、俺を挟む様に襲い掛かってきたのだ。
・・・ちぃっ!ここで防いで攻撃をしたら、そのままミスリルドラゴンの上に落ちる。風属性までも扱えるなんてやるじゃないか。
補助魔法をガンガンに掛けた身体がミスリルドラゴンに触れてしまったら、魔力を奪われて相手をパワーアップさせてしまう。ミスリルドラゴンとの闘いは、基本的にヒットアンドアウェイの繰り返しでなければならない。
俺は真正面に魔法障壁を出して壁蹴りし、クルリとバク宙して下向きの体勢になってから、今度は足元に出した魔法障壁を思いっきり蹴って、床に対して垂直に降下した。その動きで、風の刃をかわしつつ、俺はミスリルドラゴンの後ろ足に目掛けて、勢いのままミスリルハンマーを振り下ろす。再び金属同士がぶつかり合う鈍い音が響き渡った。
・・・お、付け根の部分が意外と脆いみたいだな。
ミスリルドラゴンの後ろ足の付け根と胴体の間に、わずかに一筋のヒビが入った。さっきよりもダメージを与えているのが見て取れる。俺は距離を取るのに、後ろに飛び退きながらそう思っていると、今度は大量の水が天井付近から突如として降り注いできた。俺は魔法障壁で水を防ぐが、水の勢いと重みで魔法障壁ごと、ミスリルドラゴンから引き離される様に流されてしまった。
「大丈夫ですか主様?」
「全然問題ないけど、今までの中で一番強くて厄介なのは確かだな。全く、人のことをトイレの汚物の様に流しやがって」
俺はエルザにそんな捨て台詞を吐きながら、世にも珍しい四属性を扱うことが出来るドラゴン型のゴーレムに再び立ち向かっていった。
この後、激しい闘いが繰り広げられそうな話の引きをしたつもりですが
実際のところは、繰り広げられません。
ハンマーでひたすら地道に叩くという、地味な闘いなので仕方がないんやなって(他人事)。
という訳で、次回はミスリルドラゴン戦はバッサリカットで最下層を探索します。




