第百六十五話 ダンジョンを駆け抜けろ 後編
エルザを綺麗に研いでから、俺は自分の夕食の準備をする。準備をするといっても今日の分は、料理長のゾーラが用意してくれたお弁当なので、そのまま美味しく頂くだけだ。食事が終わっても、この部屋に魔獣や魔物が現れる気配は全くない。
・・・時間経過で発動するトラップもなさそうか。安全に休憩は出来そうだな。
食事を摂ったことで眠たくなってきた俺は、仮眠を取ることにする。安全な部屋だと思われるが、一応何かあったら困るので、念のため刃を研いだことでご機嫌になったエルザに不寝番を頼む。剣であるエルザに睡眠は不要なので、適任でもあるのだ。エルザの「お任せくださいませ主様。ごゆっくりお休みなさいませ」と頼もしい返事を聞いて、俺は眠りについた。
次に目が覚めた時には、朝の七時頃となっていた。日の光がないので、道具袋から時計を出して確認したら、こんな時間になっていた。いつもなら着替えを済ませて朝食を摂っている時間帯である。どうやら、仮眠のつもりだったが、俺はぐっすりと眠ってしまったらしい。やはり、十代になったからと言ってもまだまだ身体は未熟ということだろう。
・・・古びていたけど、意外とベッドの寝心地も良かったのもあるか。でも、時間は取ってしまったけど、お陰で疲れは完全にとれたな。
グッと大きく背伸びをして、深い息を吐いた俺は「おはようエルザ」と不寝番をしてくれていたエルザに話し掛ける。エルザは「おはようございます主様。今日は随分とごゆっくりですね」と言って、クスクスと笑う。子供扱いされていることに気が付いた俺は「遅いと思ったのであれば起こしてくれても良かったのに」と膨れっ面で返した。
「ふふ、主様の体調を案じてのことです」
「主の体調を案じる者は、疲れている主に刃を研ぐ様に要求してこないと思うけど?」
「あら、一体どこのどなたが、その様なひどいことをさせるというのでしょう?」
「世にも珍しい喋る剣が犯人じゃないかな?」
俺のジトッとした視線もなんのその。エルザは「まあ、世の中にはその様な珍しい剣があるのですね」と自分のことを棚に上げて、しれっとした感じにそう言った。食えない剣である。
「それはそれとして、エルザ。俺が寝ている間に変わったことはなかったか?」
「何もございませんでした。ずっと部屋の中を見張っておりましたが、主様の愛くるしい寝姿以外にご報告すべきことはございません」
「あぁ、うん。その報告も後半の部分はいらなかったね」
・・・今日もエルザは絶好調って感じだ。まあ、その分今日も働いてもらうからいいけど。
俺は朝食の準備をしながら、この部屋のことを考える。結局、一晩経っても何も変化が起きないところから見ても、休憩するために用意された部屋と考えて問題はなさそうだ。その考えに問題はないが、どうしてそんなものが遺跡にあるのかということは問題だ。
・・・遺跡に挑む者としてはありがたいけど、遺跡攻略を助長させる様な設備を用意しててもいいのか?それか元々は、遺跡を造った者が使用するための休憩部屋だったとか?でも、それだと誰もが通る通り道である階段の途中に、転移陣がある理由が分からない。うぅーん、情報が少な過ぎるな。
「主様、主様」
「ん?どうかしたかエルザ?」
「先ほどからパンに手をかざして何をされているのですか?」
「あぁ、これ?冷凍にしたパンを温めているんだ。まあ、正確には温める前に、氷のマナに魔法の効果を打ち消してもらってるところなんだけどね」
俺は遺跡に潜る準備として、ロンドに依頼を出して、大量にふわふわパンを焼いてもらっていた。もちろん、ロンド考案の味付きパンもある。「このくそ忙しい時にあいつは何をさせるんだ!」と文句を言っていたそうだが、しっかりと要望通りにパンを焼いてくれる辺り、ロンドは本当に良い人である。
・・・ツンデレ属性も兼ね備えていそうだけどね。
昨日の食事で食べたパンは、そのままの状態で保存したものを食べたが、その他のパンは長期保存を考えて、瞬間冷凍をしてから道具袋に入れてある。多少、品質は落ちてしまうだろうが、それでもロンドのはパンは一級品なので問題ない。
ちなみにこの解凍の魔法は、魚介類の解凍技術を突き詰めていったある時に「氷のマナに凍らせてもらったのであれば、氷のマナにお願いして解凍することも出来るんじゃね?」と思い至った結果である。そして、実際にやってみたら、出来てしまったという訳だ。相変わらず魔法が便利すぎる。
「ふぅ、ごちそうさまでした。さすがロンドさんのパン、一度冷凍しても美味しかった。それじゃあ、今日も引き続き遺跡攻略と行きますか」
「意気込みは大切なことですが主様。この部屋には出入口が見当たらないのですが、どうなさるおつもりなのですか?」
朝食を食べ終えた俺はエルザを帯剣し、肩をグリグリと回しながら意気込んでいるとエルザから鋭いツッコミを受ける。この休憩部屋には、扉の類が全くなければ、ネズミが一匹通り抜けること出来る様な隙間もない。完全な閉鎖空間となっており、エルザのツッコミは最もなものである。でも、そんな状況ではあるが、俺に焦りはない。
「まあ、最悪の場合は、ミスリルゴーレムが集まることを覚悟して、床をぶち抜くか、すり抜けるかするつもりだけど、多分大丈夫じゃないかな?」
「大丈夫とはどういうことでしょう?」
疑問を口にするエルザに「まあ、まあ、ちょっと見ててよ」と言って、俺は自分が居る位置から一番近い部屋の四隅に移動する。一歩一歩、足元を確かめる様にしながら壁伝いに歩いていく。すると、次の四隅にたどり着く二、三メートル手前辺りに片足を一歩前に踏み出したところで突然、床に魔法陣が浮かび上がった。
「やっぱり、この部屋から出るための転移陣もあったか」
「さすがは主様。これを見抜いていらっしゃったのですね」
「出入口がない時点で大体の見当はね。侵入者を完全隔離するための場所だったら完全に詰んでたかもしれないけど」
・・・まあ、完全排除が目的なら、それこそこの部屋にミスリルゴーレムを配置しておくだろうから、何も出なかった時点で、その可能性はないと判断出来たけどね。
「この場所が後者の方だった場合は、どうされたのですか?」
「ん?その場合は、初めに言った通りのことをするだけだよ。まあ、さすがに索敵魔法で現在位置を確認してからではあるけどね。転移させられた時点で、ここが学園の森の遺跡とは限らないから」
エルザにそう答えながら俺は転移陣の中に完全に入る。この部屋に飛ばされた時と同じ様に、一瞬の浮遊感を感じた、その次の瞬間には初めに飛ばされたと思われる階段の踊り場に立っていた。遺跡の階段はほどんど同じ造りをしているのでパッと見ただけでは、昨日と同じ場所に戻って来たと判断することが難しい。
俺は昨日と同じ場所に戻って来たことを確認するために、一度上の階に戻り部屋の様子を窺う。部屋の中も見覚えのある光景だが、これもまた、どの階でも同じ様な光景が広がっている。仕方がないので俺は、索敵魔法をフロア内に展開させた。
・・・索敵魔法に魔獣や魔物の気配は全くなし。どうやら、昨日飛ばされたところにそのまま戻って来たみたいだな。
魔獣や魔物を殲滅したら、遺跡を出ない限り新しく配置されることはない。自分の居る場所が地下四十階であることを確認した俺は、階段を下りて転移陣のあった踊り場へと戻る。試しに踊り場の中央に足を踏み入れると、昨日と同じ様に転移陣が起動して、俺は休憩部屋へと飛ばされた。
「同じ場所に戻ったことは確認出来たのでしょう?主様は一体何をなさりたいのですか?」
「いや、転移陣の仕組みが何か分かるかなって思っただけ。ジェイド卿の転移陣の研究も滞ってるみたいだし、良いサンプルにならないかなぁって。まあ、ちょっと名残惜しいけど、今回はこれが目的じゃないしな。それじゃあ行こうかエルザ。今日も頼むぞ!」
「はい、お任せください主様」
不思議なダンジョン攻略がスムーズに進んだのは、地下六十階層に入るまでの間の話となる。それというのも、下の階層に下りるにつれて、災害級の魔獣や魔物が現れ始めたのだ。俺が王命で王都に留まる切っ掛けとなった魔獣シロ・クマとも出会ったし、授業で習ったり、図書室にあった図鑑で見たことがあったりするのも居た。
災害級と呼ばれる魔獣や魔物が特にやっかいなのは、首を斬り落としただけでは死なないという生命力の高さにある。初めて魔獣シロ・クマと闘った時、首を斬り落としただけではシロ・クマ絶命せず、身体が動いていた。放っておくと自己再生してしまうことを知った時は、とても衝撃的だった。
そう言う訳で、上位種の魔獣や魔物であれば、首を斬り落とすだけで簡単に倒すことが出来ていた。だが、災害級の場合は魔石を奪うまでは、相手を倒すことが出来なくなってしまった。ちなみに、災害級を倒すためにやっていることは、実は上位種とそれほど変わらない。一度首を斬り落として、再生しようと動きが鈍くなったところで、魔石を身体から抉り出す。
その魔石を抉り出す工程に少し時間が掛かる上に、その度に返り血塗れになって身体が汚れるのが難点だ。もちろん、そのままでは気持ちが悪いので、その度に浄化魔法を使うことになるのだが、だんだんと省エネモードで闘うということが難しくなってきていた。
倒すのに手間が掛かるのであれば、放置することも考えらえる。だが、災害級を放置しておくのは、最下層からの帰りのことを考えると、なるべく排除しておいた方が良い。きっと帰りは疲れて消耗しているはずなので、少しでも安全にしておきたい。
俺は災害級の魔獣や魔物も全て駆逐することを決めて、時間や魔力を消費して確実に倒していく。そして、この不思議なダンジョンでは当り前なことになるが、さらに下の階に下りるにつれて、災害級が出る比率がだんだんと高くなっていった。
しかも、災害級は総じて身体が大きいためか、一階当たりのフロアの広さも、それに合わせたかの様に広くなっていく。それは学園の敷地の範囲は軽く超えて、平民街の半分、つまりは王都の半分ぐらいの広さはある。単純にフロア内を移動するだけでも時間が掛かる様になっていった。
・・・えっと、今で遺跡に潜って五日目か。地下六十階を過ぎてからがこれで、今が八十五階。この先、まだまだ続くとしたら?下手をしたら王都丸ごとぐらいの広さになるんじゃないかこれ?この遺跡が王都の地下全体に広がるぐらいにあるなんて、誰も想像だにしてないんじゃないかな。
出現する敵、フロアの広さも相まって、俺の不思議なダンジョン攻略ペースは明らかに落ちていた。一日で下りた階数が、初日は魔法で床をぶち抜いたこともあって四十階、翌日は二十階、それが十階となって、七階、五階、三階と落ちていく。
ただその分、四十階と四十一階の間にあった休憩部屋が、その後も十階毎に存在していたのだが、今いる八十階層では、五階分で設置されていた。何のために設置されているのか、未だによく分からないが、ゆっくり休める場所があるのは、とてもありがたかった。
「ふぅ、さすがにちょっと疲れてきたな」
「あの様な大きな魔獣や魔物を相手に主様は無茶しを過ぎですよ。・・・こんな時、私が主様を癒すことが出来たら良かったのですが」
エルザが俺のことを気遣って申し訳なさそうに言ってくれるが、そんなエルザを俺は砥石で研いでいる。それは、不思議なダンジョンに潜ってからというもの、毎日の日課となっていた。
「そう思うなら、研いで欲しいとお願いしなかったら良いんじゃないかな?」
「それはそれ、これはこれです。私の切れ味が悪いと困るのは主様です。これは主様のためでもあるのですよ?」
・・・物は言い様だけど一理ある。魔法剣を使うにしても、元の切れ味が悪いと確かに困る。そのことを分かって言う辺り、エルザは本当にずる賢いな。一体誰に似たんだろう?やっぱり、こういうところは、元の持ち主であるフィアラ母様譲りなのかな?
エルザは俺のことを癒すことが出来ないと言っていたが、何気ないことを話すことで俺は十分に癒されている。一人で潜ると決めてのことだったが、たった一人でこの広大な遺跡に挑むのは、思ったよりも精神的に来るものがある。そんな中で、話し相手が居ると言うことは、とても心の支えになるものである。
「何か嬉しいことがございましたか主様?」
「いや、何でもないよ。明日も頼むぞエルザ」
それから三日を掛けて八十六階から九十五階を攻略することになる。もうこの辺りで出現する魔獣や魔物は完全に災害級だけとなっており、フロアの広さが王都の半分を超えて様に思う。一日で三階攻略するのがやっとなところになってきた。
不幸中の幸いは、災害級が群れで出現しないということだろう。一つの部屋に一体の災害級、それが一階下りることにつれて、出現数が増えていく。倒すことに問題はないが、とてもめんどくさくなってきた。
・・・災害級の魔獣や魔物って、こんなにゴロゴロと居るものじゃないよな?というか、ものすごく今更だけど、こんな危険なやつらが王都の地下にうじゃうじゃ居るとか、逃げ出したら大変なことになるんじゃないか?
「いや、まあ、だからこそ魔獣や魔物が階段を行き来出来ない様になっているんだろうけど。そもそも、災害級が通るには、階段の幅が足りないってのもあるけど・・・」
「大丈夫ですか主様?どなたに怒ってらっしゃるのですか?」
俺の心の声がダダ漏れになったのをエルザに拾われてしまう。俺は頬をポリポリと掻いてから、エルザの質問に答えた。
「誰に、と聞かれたら、この遺跡を造った古代人にかな?さすがにこうも毎日毎日、災害級を相手にさせられていたらちょっとね」
「古代人ですか。この様な遺跡を造ることが出来たなんて、すごい人たちだったのでしょうね。どうして滅んでしまったのでしょうか?」
「さあ、詳しくは分かってないみたいだけど。知的探究心がくすぐられるところではあるかな?ただ、どれだけすごくても、何かがあれば滅んでしまう、ということは、肝に銘じておいた方がいいだろうね」
「確かに主様の言う通りです。慢心は良くありません。でも、主様ならどんな相手でも大丈夫です。何と言っても私がついてますから」
そんなエルザの励ましを受けた翌日、エルザがフラグを立てていたことを思い知ることになる。地下九十六階の様相は、今までの遺跡の造りと大きく異なり、階段を下り立った大きな部屋一つだけしかない。そして、その大きな部屋に見合うだけの大きな魔物が一体、ドドンと待ち構えていた。
「なあ、エルザ。あれ、災害級の魔物よりも大きい様に見えないか?」
「様に、ではなく、昨日まで闘ってきた災害級よりも明らかに大きいですよ主様。しかも首がいっぱい生えてます」
「首の一本一本が蛇の魔物ランローンの様に見えるんだけど・・・」
九十六階に居た魔物は、首が六つある蛇の魔物だった。ここに来るまでに倒したことのある災害級の蛇の魔物ランローンを六匹まとめて合体させた様な見た目をしている。見たままの姿を言えば、ヤマタノオロチやヒュドラといった感じだ。魔物の身体の大きさ、感じ取れる魔力の量、どれを取っても災害級の魔物ではないことは、明らかであった。
「何て魔物まで居るんだこの遺跡は。古代人は何を考えてこんなものを・・・」
「主様!考え事は後にしてください。攻撃が来ますよ!」
「分かってるよエルザ。準備はとっくに出来ている」
叫ぶエルザの言う通り、首の一本が俺を目掛けて向かってくる。大きな身体をしている割にとても素早い動きだ。索敵魔法で俺がこの階に下り立つ前から、魔物が臨戦態勢だということは分かっており、軽く補助魔法を掛けているだけでは勝てる相手でもないことは分かっていた。
すでにしっかりと補助魔法を掛け終えていた俺は、口をパカッと大きく開けて向かってくる突進攻撃を真横に避ける。魔物の鋭い牙の先から漏れ出ている液体は、毒液だろうか。床に飛び散った毒液が床を溶かしているのが見えた。ランローンも同じ様に毒を持つ魔物だが、床を溶かす様な効果はない。
・・・うわぁ、毒液というか溶解液?まともに喰らったら身体がドロドロに溶けそうだな。
そんな感想を抱きながら、俺は無防備になった首筋にエルザを振り下ろす。闇属性を上乗せした剣撃は通る様だが、一撃で頭を落とすことは出来なかった。首回りが大きいことを考慮して、魔法剣の斬撃を飛ばす攻撃だったのだが、それでは威力が足らなかったらしい。
「ちぃ!意外と硬いじゃないか!」
「主様、次の攻撃が来ております!」
「あぁ、大丈夫だエルザ。それよりも、もう少し威力を上げていくぞ」
・・・これは、歯応えがありそうな相手じゃないか。
ここ最近、強そうな総称が付いている割には、意外と弱い災害級ばかりを相手にしてきたこともあって、ストレスが溜まっていた。俺は今までで一番強そうな魔物に少し心を躍らせながら、エルザに付与している魔法剣の威力を上げるために、消費する魔力を増やす。
魔物は首を斬られたことに激怒したのか、残りの首が俺に噛み付こうと一気に襲い掛かってくる。俺は空中に出した魔法障壁を足場にして、次々と迫りくる攻撃を避けて見せながら、通り抜けた首に剣撃を繰り出す。
・・・速いと言えば速いけど、避けれないほどの速さではないな。メルギアやシアン先生、ダストアと比べたら全然大したことない・・・。
「主様?魔物の攻撃をしのげている上に、ダメージも与えているというのに、どうして落ち込んでいる様に見えるのでしょう?」
「ん?いや、今更ながらに俺の中での強さの基準が、ドラゴンであることに気が付いてちょっと、ね」
「それでどうして落ち込まれているのでしょう?目標が高いことは良いことだと思います。それに、いつかはメルギア様を倒すのですよね?」
「あぁ、うん、間違ってはない。間違ってはないんだけど・・・」
・・・エルザも十分に毒されてるね、俺に。
目の前の大きな魔物は、災害級よりも素早く、攻撃も苛烈、防御も中々に硬い。災害級を上回る能力を持った魔物の存在に驚きはしたが、冷静に考えたらどうにか出来るレベルの相手である。そのことに気が付いた俺は、何だか急激に冷めてしまう。
「・・・この部屋、馬鹿みたい広くはあるけど、王都の端から端まで移動するのに比べたら全然大したことないよな。一思いにこの魔物、無視しようか」
「さっきまでのやる気はどこへ行ってしまったのでしょう?私はそれで構いませんが、帰りのことを考えて、ここまで全ての魔獣や魔物を倒してきたのですよね?それはもう宜しいのでしょうか?」
「こいつも他と同じ様に、どう見ても階段は通れないだろう?だったら、無視して横を素通りするぐらいなら、どうとでもなるかなって」
「はぁ、主様がそれで宜しければそれでどうぞ。私は主様の決定に従うまでです」
呆れた様子のエルザにため息を吐かれてしまうが、俺は目の前の魔物を無視して下の階に下りてしまうことに決めた。一見、魔物の大きな胴体部分で、下り階段の出入口が塞がれてしまっている様に見えるが、横から見たら、人一人は余裕で通れるだけの隙間はある。俺は補助魔法を風から雷に切り替えて、一気に下り階段を目指して駆け抜けた。
・・・なん、だと!?
下り階段の出入口には、結界の様なものが張られていて、簡単には通ることが出来なくなっていた。これも今までには見られなかった仕様だ。どうやら、この遺跡製作者の方が一枚上手な様である。魔物を倒さずに階段を下りようなど考えが甘い、という意図をひしひしと感じた俺は、ヒクッと頬が吊り上がるのを止められない。
グッと握り拳を作った俺は、踵を返して俺に噛み付こうと向かってくる魔物の顔を殴り飛ばす。
「フフフ、なるほど、なるほど。是が非でも倒さないの進めないって訳だ。・・・だったら、さっさとぶっ倒してやる!」
古代人のお陰で失ったやる気を取り戻すことが出来たのは皮肉な話であった。
いつもの?ちょっとした思いつき最終。
ルート Q.結局、最後まで(ry
作者 A.\(^o^)/