第百六十三話 ダンジョンを駆け抜けろ 前編
アンジェの特訓をソフィアに押し付け、もとい託した翌日、太陽がようやく辺りを明るく照らし始めた時間帯に、俺は学園の森にある遺跡の出入口前に立っていた。こんなにも朝の早い時間に遺跡の前に居るのは、日が昇る前に屋敷を出たからだ。全ては、ソフィアが取るかもしれない行動の予防策である。
一度は折れてくれたがソフィアだが、やっぱり一緒に行くと言って、強引についてくる可能性がある。ソフィアもまた俺と同じく強情なところがあるのだ。そんなソフィアは、アンジェの特訓にきっちりと付き合ってくれた様で、俺が屋敷を出る時は自室で寝ているということだった。
昨日、ソフィアから「謀ったわね」と言われたが、本当の意味ではここまでが俺の謀である。聡明なソフィアのことだから、朝起きて俺がすでに屋敷を出たことを知ったら、そのことが分かってしまうだろう。遺跡から帰ってきたら、ソフィアに思いっきり怒られるだろうが、それは大人しく受けたいと思う。
ちなみに、カジィリアには見送ってもらった。と言うのも、ソフィアは寝ていると教えてくれたのがカジィリアである。カジィリアにも朝早く出立することは伝えてなかったのだが、さすがお婆様は俺よりも一枚上手だった。
玄関先で俺が「行ってきます」と声を掛けると、カジィリアは「いってらっしゃい」と言いながら俺を引き寄せると「必ず帰ってくるのですよ」と言って、ギュッと俺のことを抱き締めてくれた。カジィリアにしては、珍しいスキンシップに俺は少し驚いたが、それだけ心配してくれていることが分かり、とても嬉しい気持ちで一杯になった。
・・・気力もやる気も十分過ぎる程、みなぎっている。体調もよく寝たのでバッチリだ。何より、遊びではないが、不思議なダンジョンに挑戦出来るのは望むところだ。
「さてと、それはじゃあ行きますか。っとその前に」
遺跡の出入口は、地下鉄の出入口の様に、地上に向き出しになっている。普段は学園が結界を張り、勝手に入れない様になっているが、今日は俺が入るために結界は張られていない。わざわざ学園の森に入ってまで、この遺跡に来る者はほとんど居ないだろうが、一人だけ思い当たる人物が居る。
・・・これもソフィア姉様怒るだろうなぁ。
俺は遺跡に一歩踏み入って、遺跡の内側に結界を発動させる魔術具を置いて、出入口を封鎖する。結界がきちんと発動したことを確認してから、俺は階段を下りた。
今回、階段を下りた地下一階の部屋は、縦に長い長方形の形となっていた。フレンたちの救出の時、そのあとに行われた遺跡調査演習の時とも形が違う。新たに遺跡へ挑まんとする者が遺跡に入る度に、きちんと遺跡の造りが変わるというこの不思議なダンジョン。そんなところに、無駄に高い技術を感じて止まない。きっと、何か得るものがあるはずた。
「それじゃあ、早速っと」
俺は道具袋に手を入れて、杖を取り出す。と言っても、学園でよく使う魔法制御を向上させるための指図棒サイズの杖ではない。大きさも材質も効果も違う、この風の季節にせっせと新たに作製した杖だ。効果としては魔力凝縮補助。簡単には言えば、高威力の魔法を放つ時に使うための杖である。
冒険者見習い仲間のティアが、似た様な効果を持つ身の丈ぐらいの杖を持っているが、俺の杖はその強化版と言っていい。ティアの杖の様に物理的な攻守は求めてないが、小さめの野球バットぐらいの大きさはある。
俺が新たな杖を作るに至った原因は、この前の水の季節にあったダストアとの闘いにある。今に始まった話ではないが、魔法使いであるはずの俺の闘い方は、なんだかんだで肉弾戦に偏っていた。原因は主にメルギアとシアンにあるが、俺自身も身体を動かすことは嫌いじゃない。
それに、エルスタード家の血を引いているお陰か、この身体は打てば響く身体している。鍛えれば鍛えるほど、その実感を得ることが出来る。だから、とても動かし甲斐がある。
とはいえ、俺にはもう一つ流れる魔人族として血によって、魔法という不思議パワーを扱うことに恵まれている。誰しもが恵まれて持つ力ではない上に、とにかく便利なものである。これを活かさない手はないだろう。そして、人にあってドラゴンにはないもの。それが、魔術具である。
道具に依存し過ぎるのはよくないことだが、それでも自身の能力を高めてくれる効果を使わない手はない。ダストアと闘ったことで、改めてドラゴンという種族との実力差を俺は痛感した。だから、その差を少しでも埋めるために考えた結果が、この新しい杖という訳だ。純粋に攻撃魔法の威力を底上げしてくれる代物である。
俺は杖の頭を真下の床に向けて魔力を練り始める。イメージするのは、メルギアやシアンが使っていたビームの様なブレス攻撃、その極太版。魔力を捧げるマナは、遺跡の床や壁、天井に使われている材質を考えたら、風のマナが適任だろう。遺跡の床を、天井を、幾度となく貫通させる、とんでも威力が目標だ。
本音を言えば、この不思議なダンジョンを一階一階のフロアを楽しみながら下りたいところではある。だが、今回はそうも言ってられない事情がある。素早くダンジョン攻略をするために、俺が通れるだけ風穴を開けて、一気に最下層を目指してしまおうという魂胆だ。
何もかもを貫通する、そんなイメージで練り上げた魔力を、風のマナに捧げて働き掛ける。下に向けた杖の先に、小さな緑白い光が現れると徐々に光が大きくなっていく。緑白い光の塊が五十センチぐらいの大きさになったところで、俺はふとあることに気が付いた。
・・・ん?もう少し大きくなってから放つ必要があるけど、このまま魔法を放つとどう考えても自分の足を巻き込むよな?かと言って、ずらすと真下じゃなくて斜めになっちゃうし。遺跡じゃないところに影響を及ぼすのはちょっとなぁ。ふむ、となれば、上か。
俺は一度、天井に視線向けてから重力のマナに働き掛ける。攻撃魔法が暴発しない様に気を付けながら、床から壁、壁から天井へと重力の向きを変えてゆっくり歩いて移動する。天井に立って床を見上げる形になった俺は、これでよし、と杖を高々と構える。
魔力凝縮を再開したことで、さらに大きさを増していく緑白い光の塊が、一メートルほどになると「ジジッジジッ」と音を放ち始める。今にもはち切れそうな、かなり物騒な感じだ。
光の大きさを見て、俺の身体が通り抜けられるだけの大きさの穴が、十分に空けられると確信した俺は、杖先に留まる緑白い光の塊に方向性を与えて一気に解き放つ。
・・・いっけええええええぇぇぇぇぇ!
緑白い光が筋となって真っ直ぐ床へと降り注ぐ。光が床に到達すると、ズンッと鈍い音が聞こえると共に遺跡全体が僅かに揺れ動く。その後も一定の間隔で鈍い音と遺跡が揺れ動くのを感じ、それで各階層の床と天井をぶち抜くことが出来ていることが分かった。
・・・そういえば、こんな感じの攻撃魔法を使う魔法少女のアニメがあったっけ?確か、何とかの白い悪魔とかいう異名で、魔法名が星を破壊する光とかどうとか。・・・うん?それなんてラスボス?
俺は前世の記憶がどうにも覚束ないことに小首を傾げる。魔法少女というのはどちらかと言えば善良な存在であって、破壊神の様な存在ではなかったはずだ。俺の記憶を蝕む呪いが着実に進行しており、昔の記憶があやふやになってきていることをひしひしと感じていると、緑白い光の筋が徐々に細くなっていく。どうやら、俺が練り上げた魔力を、風のマナが消費し尽くしたみたいである。
光の筋が完全に消失したところで、俺は重力の魔法を解いて床に下り立った。一先ず、役目を終えて邪魔になる杖を道具袋に直しつつ、俺は出来立てホヤホヤの穴に近づいて、穴の中を覗き込む。パッと見える感じでは、穴の底を見ることは出来ない。ずっと下の階層まで縦穴が出来ている様に見えた。
・・・よしよし!いい感じいい感じ。
俺は穴から飛び下りて、一つ下の階へと下りる。特に問題がないことを確認してから、さらにもう一つ下の階に下りる。地下三階には、蝙蝠の魔物が居たが相手にするまでもない。開けた穴を下りても特に問題がないことを確認した俺は、一気に縦穴を下りることにした。
・・・二十六・・・二十七・・・二十八か。
数え間違いなければ、俺は二十八階まで一気に下りた。所々でフロアに繋がらず、地層だけがずっと見えるところや、遺跡の壁だけが見えるところがあった。俺が攻撃魔法を放った場所が、必ずしも部屋があったり、通路があったりする訳ではないので仕方がない。それでも、一階毎の間隔からすると間違いないと思う。
・・・うーん。思ったよりも下りれなかったな。
俺は腕組みをして口を尖らせる。不満顔で今し方下りて来た天井の穴を見上げた。騎士団の一軍が、この不思議なダンジョンに挑み三十階ほどで引き返したという話を依然聞いていた。それには満たないが、それでも一瞬でここまで下りてきたことを考えれば、本来はすごいことだと言えるだろう。
それでも、さっき攻撃魔法は俺の渾身の攻撃魔法だったので、思いの外、結果が出なかったことに、俺はちょっとショックを受けていた。
すると、俺に攻撃が出来る隙が出来たと思ったのか、先に部屋の中に居た魔獣が俺に飛び掛かって来る。でも、魔獣の存在はこの部屋に下り立つよりも前に、すでに索敵魔法に引っ掛かっていた。俺は一歩後ろにステップを踏んで、魔獣の攻撃を難なく避けた。
俺の目の前を横切ったのは、俺よりも一回り以上は身体が大きく、灰色の毛並みをした魔獣だ。攻撃が空振りに終わったその足でダンッと地面を蹴って飛び上がると、器用に空中でクルリと反転する。魔獣や魔物の特有の赤い眼で俺のことを睨み付けながら、シュタッと床に着地した。
サーベルタイガーの様な立派な牙の生やした猫科系統の魔獣ホーセイバーだ。仕留めたと思った攻撃を避けられたことにご立腹なのか、「グゥルルル」と低い声で唸り始めた。威嚇のつもりだろうか。
「グルルじゃない!俺は今、反省会で忙しいんだ。お前と遊んでいる暇はない!」
俺はホーセイバーに向けて右手を伸ばし、犬に伏せをさせる時の様な仕草で手を振り下ろす。同時に重力のマナに働き掛けて、ホーセイバーを過重力状態にして、無理矢理伏せの状態にさせた。伏せと言うよりは、見苦しく床にヘばり付いていると言った方が正しいかもしれない。
「ちょっとそこで大人しくしておけ」
襲ってこなければ手荒な真似はしなかったのに、と魔獣には難しい要求を心の中で呟いてから、俺はニヤッと口の端を上げる。考え事をするのに丁度いい天然物のソファが目の前に出来たので、俺はおもむろにホーセイバーに腰を下ろした。
俊敏な動きを見せた見た目通り、引き締まった身体をしているので、ソファにしては筋肉質で少し硬い。だが、意外と毛並みが柔らかく触り心地は悪くない。俺はホーセイバーの触り心地を堪能しながら、反省会の続きをする。
・・・さて、思ったよりも下りることが出来なかった原因はなんだろう?攻撃魔法の威力は、それなりにあったはずだ。属性を掛け合わせた合成魔法には威力が劣るかもしれないが、少なくともダストアとの闘いで使った攻撃魔法よりも確実に威力が上だ。それに、風属性の魔法にしたのも間違いではないはず。となると、原因として一番可能性が高いのは、この遺跡を維持させている魔力の層か?
入る度に姿形が変わるという不思議なダンジョン仕様。それを維持するためと思われる魔力の層が、各階層の間にある。それが、魔法障壁の様な形で、俺の攻撃魔法を阻害したのかもしれない。索敵魔法が魔力の層のせいで広がらないことを考えても、間違いではないと思う。
・・・うーん、そういうことならいっそのこと、風と闇を掛け合わせた方がいいか?でも、威力は出せたとしても安定させるのはまだ難しいんだよな。遺跡そのものを破壊してしまっては元も子もないし。
俺は腕組みをしながら「とりあえず、もう一回同じ魔法をぶっ放すか?」と唸っていると突然、背筋がゾクリとして、二の腕の肌が粟立った。何か言い知れぬ不安を感じ取った俺は、ホーセイバーから飛び降りて辺りの様子に神経を尖らせる。
だが、俺が背中を降りたことで、ホーセイバーがしつこく「グゥルルル」と唸っている以外に、目に見える範囲に変化はない。どうやら、目に見えないところで何かが起きているらしい。俺は索敵魔法に費やす魔力を一気に増やし、フロア全体に行き渡らせる。すると、俺を突然襲った不安の正体を掴むことに成功した。
・・・この反応はまさか。いや、でも間違いない。
敵意や悪意と言った感情を一切感じることが出来ないうごめくもの。俺が索敵魔法で感じ取ったのは、ゴーレムの反応である。しかも、一度感じたことのある魔力から察するにミスリルゴーレムがこの階に現れた。
・・・不安の正体はこれか。でも、まあ、一体ぐらいならどうにでもな・・・はい?なんだこれ??
不安の正体はミスリルゴーレムだったことには違いなかったが、想定外の事態が起こっている。このフロアに続々とミスリルゴーレムの反応が増えていく。それは一体や二体といった話ではない。とこからともなく湧いてくるミスリルゴーレムが、少なくとも十体以上。しかも、俺の居る部屋を目指して近付いてきていた。
・・・まずいまずいまずい!どうしてこんなにもミスリルゴーレムが居るんだ!一体や二体ならまだしも何体も相手にしてられないぞ!?どうするどうする!?
想定外のことに困惑しながら、俺は辺りをキョロキョロと見渡しながら逃げ道を模索する。だが、索敵魔法で感じ取ったフロアの構造からすると、上の階に逃げるのも下の階に逃げるのも、ミスリルゴーレムと鉢合わせしなければ逃げられない。しかも、一体だけという訳にはいかない状況へと陥ってしまっていた。
「くそっ、どうしたら」と悪態をついて、空を見上げた俺は、天井に俺が開けた穴を見つけてハッとする。俺は自分で開けた通り道の存在を忘れてしまう程、動揺していることに気が付いて、思わずため息を吐いてから、すぐさま上の階へと避難する。
二十七階に避難した俺は、もっと上に逃げるべきかどうか、二十七階のフロア全体に索敵魔法を広げる。魔力の出し惜しみはなしだ。索敵魔法で感じ取った二十七階には、複数の魔獣や魔物の気配はあったが、ミスリルゴーレムの気配は全くなかった。どうやら、これ以上、上の階に戻る必要はなさそうである。
安全確認が出来たことにホッと息を吐いてから、穴から下の階を覗き見ると、俺が居た部屋にミスリルゴーレムが雪崩れ込んできた。あれよあれよという間に、ミスリルゴーレムだけのモンスターハウスが出来上がってしまった。もし、あの部屋にあのまま留まっていたら、俺はミスリルゴーレムに押し潰されて、魔力を根こそぎ持っていかれてしまったことだろう。
・・・何て、恐ろしい光景なんだ。こんなにずっとする光景は初めてかもしれない。
魔力を奪い取り自分の力へと変換してしまうミスリルゴーレム。魔法使いにとっては最悪の相性となる相手が、部屋の中を埋め尽くさんとばかりに徘徊している。
その内の一体が、俺の魔法で床に囚われ続けていたホーセイバーを足蹴にしようとしていたが、ホーセイバーを踏み付ける直前で動きを止めて、踏まない様に向きを変えた。その後も、部屋に入ってきたミスリルゴーレムは魔獣を避ける様に迂回していく。
・・・あのホーセイバーには悪いことしたな。でも、お陰で興味深いシーンを見ることが出来た。あのミスリルゴーレムは魔獣を襲わないらしい。そうなると、やっぱりあのミスリルゴーレムは、この遺跡の守護者か。
なぜ、ミスリルゴーレムが突然、大量に現れたのか。以前、この遺跡に引率者として入った時には、こんな事態は起きなかった。それは階層が、浅かったという理由があるかもしれない。でも、以前と違って俺がやったことを考えると、ミスリルゴーレムたちは、遺跡の床が破壊されたのを感知して、これ以上遺跡が破壊されない様に大群で攻めて来たと考えるのが妥当なところだと思う。
・・・ただ、そうなると、ミスリルゴーレムたちの行動は、俺みたいに攻撃を通して下の階に下りることが前提の行動になるが・・・。
もし、遺跡を破壊することが目的の攻撃だったら、わざわざ地下に下りる必要がない。遺跡を破壊した張本人に向かっていく形でなければ、ミスリルゴーレムの行動は全く無意味なことと言えるだろう。そして、遺跡を攻撃した張本人である俺が逃げ延びた、この二十七階にミスリルゴーレムが現れる気配がないことを考えても、ミスリルゴーレムの行動は追跡型ではないことが分かる。遺跡を破壊して下に下りた者を襲う、と考えても良さそうだ。
・・・そうなるとミスリルゴーレムは守護者と言うよりも、不正を正す番人みたいな感じか?ずるして遺跡を攻略するの禁止、みたいな?でも、そうなるとフレンたちがミスリルゴーレムに襲われたのはなぜだろうか?フレンたちが今みたいなことをしたとは思えないけど。
ミスリルゴーレムが突然現れた理由を考察している内に、床に開けた穴が小さくなって閉じてしまった。天井を見上げても天井に開いた穴も塞がっている。どういう理屈で出来ているのか全く分からないが、この遺跡には自動修復機能まで付いている。一定時間が経つと、元に戻ってしまうのだ。
フレンたちの救出に向かい、ミスリルゴーレムを俺が惹き付けてから地上に戻る折に、救出作戦で遺跡の壁に穴を開けていたのだが、帰りに通った時には開けた穴が塞がっていた。その時に、遺跡に自動修復機能があることを俺は知った。さすが、不思議なダンジョン。不思議なことに事欠かない。
・・・出来ればこの仕組みを解明したいところなんだよなぁ。色々なことに転用出来そうだし。
「何はともあれ、攻撃魔法で数を稼ぐのは控えていた方が良さそうだな。その度にミスリルゴーレムのモンスターハウスが出来るのはちょっと心臓に悪い。というか、あれだな。もし、ミスリルゴーレムにあの攻撃魔法が運悪く当たったとしたら破壊出来るか?・・・うーん、多分、吸収されるのがオチだろうな。自ら手に負えない相手を生み出す可能性は排除しておいた方がいいだろうな」
いきなり作戦変更を余儀なくされた俺は、次の行動をどうするか考える。攻撃魔法で破壊するのが駄目ならば、王城の地下遺跡に潜り込んだ様に、床を透過するのはどうか。出来るか出来ないかで問われたら、出来ると答えられるが、それはそれで付き纏う問題がある。
王城の地下遺跡に潜った時の様に一回、二回程度なら問題ないが、魔力の層を通る度に結構な魔力を消費している。魔力の層に自分の魔力を馴染ませるのだから当然の結果なのだ。各階層毎に魔力の層があるこの遺跡は、各階を下りる度にそれが必要になってしまう。
そうなると、攻撃魔法で一気に床をぶち抜くのに比べても、断然、透過する方が魔力の使用量が多くなってしまう。俺はそんなことを考えながら、そっと道具袋に触れた。
・・・そのための回復薬と言えなくはないけど。あとどれだけの階層があるのか分からない内からカブカブ回復薬を飲んでしまうのはさすがにNGだな。何も敵はミスリルゴーレムだけじゃないんだ。それに、もし、透過も不正だと見なされてミスリルゴーレムが現れたら?
「・・・はぁ、とりあえず、大人しく正攻法で下りるしかなさそうだな」
回復薬を温存しつつ、ミスリルゴーレムにも襲われない。その二つを両立させることを考えると、大人しく不思議なダンジョンに挑んだ方が効率的だ。多少時間は掛かるかもしれないが、そのための準備を昨日してきたのだから問題はない。
これからの行動の方針が決まったので、俺は一先ず二十七階の攻略を始める。下の階に下りるための階段がある部屋は、俺が居る部屋から三つほど部屋を通り抜けた先にある。それぞれの部屋には単体から無数の魔獣か魔物の反応があり、その内の一つの部屋に居るのは、俺が最も良く知る狼の魔獣クリムギアの反応である。
「あぁ、これは是非、駆除してからいかなければ」
すでにトラウマとしての意識は消えているが、それでもやられた記憶は消え去れらない。俺は八つ当たり気味に道中の魔獣を狩ってから、二十八階へと下りた。
いつもの?ちょっとした思いつき。
ルート Q.ダンジョンを駆け抜けましたか?
作者 A.気持ちの問題です。