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約束を果たすために  作者: 楼霧
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閑話 第二回エルスタード家武道会

今日はルート様が指定した第二回エルスタード家武道会を開催する水の日です。ルート様の思い付きで前年に第一回目が行われた武道会の二回目です。前年はなぜか私が優勝してしまった武道会ですが今回、私はルート様から司会兼進行役の役目を賜っています。


ルート様がロクアートへ向かわれていらっしゃらない以上、私はあるじの代わりとして、見事役目を果たさなければなりません。


今年の大会は前年と少し趣が異なります。前年は、大会に出場出来る条件が決まっていました。ルート様が作り出したゴーレムを同時に四体相手にすることが出来る者が出場出来ることになっていました。ですが、今年はそれがありません。


それは私が優勝したことで、鍛練に奮起する使用人が増え、ルート様が考案した魔法を使えるようになるための魔術具の実験を、私たち使用人が手伝ったことで、魔法が使えるようになった者がおり、エルスタード家に仕える使用人の全体的な実力が向上しているためです。


・・・かく言う私も水属性の魔法を少し使えるようになりました。考案されたルート様の御付として、面目が立ったと言えるでしょう。


とはいえ、エルスタード家に仕える使用人は、三十名近く居ます。一対一の形式で試合をすると時間が掛かってしまいます。そこで、ルート様は一偏に勝敗が決まる方法として、複数人で同時に闘うバトルロイヤルという方式を取るそうです。私のあるじは本当に色々なことを思い付きます。


そして、今回の武道会は三日間掛けて行われます。武道会に使用人全員が参加して、屋敷に誰も居なくなるのは困りますので、水の日と闇の日の二日に分けて、まずは予選となるバトルロイヤルを行います。


それで二名ずつ、計四名で光の日に準決勝と決勝を行います。休みの日である光の日に行うのは、使用人全員が見学出来るようにとのルート様の計らいによるものです。強者の戦闘を見ることもまた勉強になるとルート様がおっしゃられていたそうです。


・・・確かに前年のエイディさんとロベルトさんの戦闘は見応えがありましたからね。


「はい、ラフィ。ルートから預かっている司会兼進行役用の台本とやらです」

「ありがとうございますカジィリア様」

「ふふ、少し緊張しているようですね。しっかりと役目を果たしなさい」


お風呂場のある建物の地下二階、武舞台の上で私はカジィリア様から台本を受け取ります。カジィリア様はご自身の頬を人差し指で軽くつんつんと触りながら、私の顔が緊張で強張っていると指摘してくださいます。私は台本を左手に抱くようにして持ってから、右手で頬を軽く叩いてカジィリア様に笑みで答えます。


・・・よし!行きますルート様。


ルート様が困らないようにと用意してくれた台本を見開いて片手で持ち、空いたもう片方の手で同じくルート様が準備した音声を増幅させる魔術具を手に取ります。武舞台の上から辺りを見渡すようにして魔術具を口元へ持っていきます。


「皆様、お集まり頂きましてありがとうございます。我が主であるルート様がご不在であるため、御付のメイドである私、ラフィが第二回エルスタード家武道会の司会兼進行役を務めさせて頂きます。すでに通知があった通り、今日と明日で予選を行い、明後日が準決勝と決勝を行います。それでは、まずは一日目のバトルロイヤルです。出場者は武舞台に上がってください」


私は台本に目を通しつつ、書かれていることを読んでいきます。本来はルート様が話そうとされていたことが、私の口調に直して書かれてある台本を読んで、私は思わず顔が綻びます。ルート様が用意してくれた台本からは、私が困らないように、というルート様の思いがひしひしと伝わってくるからです。


「改めて、守りの魔術具を身に付けているかお互いに確認をお願い致します。付けていらっしゃらない方は直ちに仰って下さい。そのまま参加されますと失格となりますのでご注意ください。確認が取れましたら、少し身体を動かして戦闘の準備をお願い致します」


参加者同士に確認してもらいつつ、私も参加者が守りの魔術具をちゃんと身に付けているか確認して回り、問題がないことを確認してから武舞台を下ります。本日の参加者は辞退者を除いて十七名です。その中で、一際目を惹くのはやはり、ご自身の身の丈ほどある大剣を自由自在に振り回している料理長のゾーラさんでしょう。


前年の武道会、準決勝であり決勝でもあった私とゾーラさんとの闘いは、ゾーラさんが傭兵をやめる切っ掛けの一つとなった腰痛を患い、私が不戦勝となりました。それが悔しかったゾーラさんは、それから今年の武道会に向けて特訓をしてきたのです。


ルート様から贈られた腰当がとても良く効くとゾーラさんは笑顔で語っていました。磁気の力で血行がどうのこうの、というお話のようですが、さっぱり意味は分かりません。さっぱり意味は分かりませんがゾーラさんが絶好調だということは、振り回している大剣の風を斬る音を聞けば分かります。


・・・今見てもあのゾーラさんに私が勝てるとは思えません。本当に前年は闘わずに済んで良かったとつくづくそう思いますね。


「それでは皆様、鐘の音が鳴ったら闘いの開始です。それではカジィリア様、お願い申し上げます」

「前年の武道会以来、みなが日頃の鍛練に取り組む姿勢が、良くなったことは私も知っています。その成果を思う存分に出し、見せてください。それがこの武道会を開催することを提案したルートの思いでもあるでしょう」


カジィリア様から一言お言葉を頂いてから、カジィリア様に試合開始の合図である鐘の音を鳴らして頂きます。鐘の音が地下二階に鳴り響いた瞬間、武舞台の上に居た参加者が一斉にザッと動き、次々と一対一の戦闘が始まっていきます。


武舞台の至るところで、手に汗握るような一対一の戦闘が繰り広げられるようになってから、しばらくしてカジィリア様がため息を吐いて「なるほど、ルートの言う通りですね」と呟きます。


「ルート様が何か仰っていたのですが?」

「ラフィはこの武舞台で行われている戦闘をどう思いますか?」

「戦闘ですか?・・・そうですね。自身と実力の釣り合いが取れる者同士で闘っていると言った感じでしょうか。人数のせいもありますが、そのせいでゾーラさんが一人だけあぶれてますね」

「それだけですか?」

「えっと、他のも何かということですか?・・・申し訳ございません。それぐらいしか・・・」

「いいえ、謝る必要はありませんよラフィ。それより、少し鍛練の見直しを考えた方が良いですね」


カジィリア様の仰りたいことが理解出来なかった私が首を傾げていると、ゾーラさんが不満そうな顔付きで、ドシンドシンといった感じに大股でこちらに歩いてきます。凄い勢いです。そのまま武舞台を下りてしまいそうなゾーラさんの勢いに私は目を張ります。


このままではゾーラさんが失格になる、と思いましたがゾーラさんは武舞台の端ギリギリまで来るとピタッとその勢いを止めました。ゾーラさんは武舞台の上から、私に声を掛けてきます。


「ラフィ、一つ確認をしたいんだが良いかい?」

「もちろんどうぞ、ゾーラさんはまだお相手がいないようですので、お話ししていても大丈夫ですし」


私がそう言ってゾーラさんに答えると、大きくため息を吐かれてしまいました。何か気に入らないことを言ってしまったでしょうか。


「はぁ、そういうことかい。なるほどねぇ。坊っちゃんは他国へ行って居ないかと思いきや、しっかりと武道会に噛んでるって訳だ。全く、大した坊っちゃんだよ」

「えっと、ゾーラさん?」

「ラフィ、このバトルロイヤルとやらは全員が敵ということで間違いないんだね?」

「はい、その通りです。ルート様が残された手記にもそう書かれてあります」

「ちなみに、二名勝ち抜けという話だったが、別に一名でも問題はないんだよね?」

「えっと、待ってください。・・・そうですね。相打ちなったり、全員が武舞台から落ちたりして、勝ち抜け者が一人であったり、居なかった場合でも、結果は変わらないものとする。と書かれてありますね」

「ありがとうラフィ。それじゃあ、遠慮なく行きますかね」


私の説明にゾーラさんはニヤッと笑みを浮かべてから、踵を返して肩をほぐすようにグルリと回します。その様子を見たカジィリア様が「ゾーラ、ルートの守りの魔術具があるとはいえ、やり過ぎないようにね」と声を掛けると「分かってますよ、カジィリア様。何、皆に実戦と言うものを学んでもらうだけですよ」と返事をします。


それからゾーラさんは、一対一で闘っている者たちに襲い掛かっていきます。一対一の闘いに集中しているため、襲われた方は成す術もなく大剣に薙ぎ払われて、空中を飛んでいきます。守りの魔術具があるからこそ、飛ばされるだけで済んでいますが、もし魔術具がなかったら、あの大剣で身体を二分されていることでしょう。


私は無防備な人を相手にするゾーラさんの姿に思わず「闘いに横やりを入れて良いのでしょうか?」とカジィリア様に尋ねます。


「何を言っているのですラフィ。あの武舞台の上に立っているものは全員が敵なのですよ?ならば、自分が勝てそうな相手とだけ闘っていれば良いという話ではないことぐらい分かるでしょう?本来であれば上で闘っている者は、そのことに気付いて注意を払わなければならないのですが・・・。今までほとんど実戦がなく、一対一の形式による鍛練を続けてきた弊害ですね」


カジィリア様は私の質問に答えたあと、困ったこと、といった感じに頬に手を添えて首を傾げます。私はカジィリア様の話を聞いて、ようやくカジィリア様やゾーラさんが何を問題視していたのか分かりました。そして、そのことを露呈させるために今回の武道会を開催することに決めたルート様に、改めて驚愕します。


一日目のバトルロイヤルは、ゾーラさんが全ての参加者を武舞台から落として一名だけの勝ち抜けとなりました。ゾーラさんが私に確認を取りに来てから、ものの数分の出来事でしたので、まさにゾーラさんの圧勝と言えるでしょう。闘いが終わった後は、もちろん反省会です。


カジィリア様に説明を一任されたゾーラさんが懇々と参加者に説明をします。私は途中から問題点に気付いたとはいえ、ルート様の意図を読み取れていなかったことを反省して、参加者と一緒に説明を聞きました。ゾーラさんの説明は、傭兵時代の実体験に基づいた話でとても分かりやすいものです。私はそんな説明を聞いてふとあることを思います。


・・・今回のバトルロイヤルという闘い方。もしかして、ルート様はセイヴェレン商会オーナーの屋敷で、大勢の忍ぶ者を相手にしたことで、思い付いたのではないでしょうか。随分と楽しそうにしていらっしゃいましたが、そういうことだったのかも知れませんね。


武道会二日目、参加者は十六名で今日も昨日と同じくバトルロイヤルで勝者を決めます。今日の目玉は何と言っても、エイディさんとロベルトさんの二人が参加者として出場していることでしょう。前年との違いは、一対一ではないことです。一体、どの様な闘いを見せて頂けるのか楽しみです。


昨日と同じく武道会の簡単な説明とカジィリア様に一言お言葉を頂いてから試合開始です。鐘の音が鳴り響くと、参加者は昨日とは違う動きを見せます。エイディさんを相手にする組とロベルトさんを相手にする組に分かれたのです。どうやら、一日目の参加者からバトルロイヤルの話を聞いたようです。まずは参加者の中で一番強い者を力を合わせて倒すということなのでしょう。


・・・敵の敵は味方、ということですね。さて、お二人はどうされるでしょうか。


結果として、二日目のバトルロイヤルもふたを開けて見えれば、実にあっけないものとなりました。エイディさんとロベルトさんは、互いにチラッと視線を合わせると、それだけで意志疎通が完了したようです。二組に分かれる形になっていた戦況を、二人は一つの塊になるように皆を誘導します。


そこからは、エイディさんとロベルトさんが互いの背中を預けるように協力をしながら、確実に一人一人仕留めていきました。本当にうっとりするぐらいに見事な連携だったのです。やはり何だかんだとお互いのことを口悪く言っていても、一度は心を通わせた者同士、相性が良いということなのでしょう。


そういう訳で二日目はエイディさんとロベルトさんの二人が勝ち抜けとなりました。これでエルスタード家に仕える使用人の中で最も強い三人、ゾーラさん、エイディさん、ロベルトさんで準決勝、決勝を争うことになります。ルート様は面白くなさそうな顔をされるかもしれませんが、順当な結果になった言えるでしょう。カジィリア様も「こんなものでしょうね」と仰っていました。


・・・「まだ、最後までどうなるか分かりませんが」ともカジィリア様は仰ってもいましたが、何かあるのでしょうか?・・・はっっくちゅん、ずず、風邪でしょうか?明日も大切なお役目があります。今日は温かくして早めに寝ましょう。


三日目、武道会最終日。武舞台の回りにはエルスタード家の使用人が集まって、ちょっと賑やかな感じになっています。今までの二日間とはちょっと違う雰囲気です。同じ使用人同士ではありますが、観客が多いことに私は少し緊張してしまいます。それを察したカジィリア様が、後ろからそっと私の両肩に手を置くと「肩に力が入り過ぎですよ」と声を掛けてくださいます。


「ご心配をお掛けして申し訳ございませんカジィリア様」

「良いのですよラフィ。大役を務めているのですもの。それよりもこれを。最終日用に用意された台本です」

「ありがとうございます」


カジィリア様から渡されたルート様の台本には、勝ち抜けた者が奇数だった場合と書かれています。どうやら、最終日の台本はその状況に合わせて、複数用意されているようです。さすがはルート様。


「これより、第二回エルスタード家武道会の準決勝を行います。まずはくじ引きにより、対戦相手を決定します。ゾーラさん、エイディさん、ロベルトさんは武舞台に上がって、この箱から木札を取ってください」


ルート様が用意された箱の中には、一から四までの番号の書かれた木札が入っています。それをゾーラさんたちは引いてもらって対戦相手を決定するのです。くじ引きの結果、ゾーラさんが一番、エイディさんが四番、ロベルトさんが三番となります。


「木札の結果、第一試合はゾーラさんのみ、第二試合はエイディさん対ロベルトさんとなりました」


私は台本で木札の結果を確認しながら読み上げます。第一試合はゾーラさん一人だけとなるので、私は第一試合は不戦勝になりますね、と思っていると、台本には続きが書かれていることに気が付きます。私は読み上げ忘れるところだったと思いながら、続きを読み上げました。


「なお、二日間のバトルロイヤルの勝ち抜け者が奇数の場合、優勝者が前年優勝者と闘う予定としていましたが、人数合わせのために前年優勝者には、準決勝から参加してもらいます。・・・え?」


ルート様の台本を読んだ私は、今一度食い入るように台本を黙読します。自分で口にしたことですが、自分で何を言っているのかすぐに理解出来なかったのです。


・・・どう見ても私が出場することになってる!?どういうことですかルートさまぁ!?


台本を何度も読み直した私は、台本から視線を外し、空を見上げながら心の中で絶叫します。私は出場しなくても良かったのでは、と思いながら台本にもう一度視線を落とすと、ページの一番下にも何か書かれているのを発見します。


「前年優勝者が、今年の武道会に出ない訳がないでしょう?考えが甘すぎますラフィ。それに俺は、前年ラフィが運だけで優勝した、と一部の者からそう言われているのが少し気に食わないのです。確かに運があったことも事実ですが、ラフィの実力を顧みることがない言われ方はラフィの主として放っておけません。俺はラフィが努力していることを知っていますからね。という訳で、頑張ってくださいラフィ」


・・・ルート様。意地悪かと思っていましたが、私のことを思ってのことなのですね。


ルート様からのエールに私はじんわりと心が暖かくなるのを感じます。そして、ルート様に嵌められたと思っていた自分が恥ずかしいです。私はルート様の期待に応えなければ、と気持ちを新たにしていると、ふと何気なく捲った次のページにもルート様の字があることに気が付きます。


「ちなみに、無様な試合をしたとお婆様から聞いたら、どうなるか分かってますね?」


文章を読みながら、ルート様のにっこりとした笑顔が頭の中で思い浮かびます。これは本当に頑張らなければ、大変な罰が待っていそうだと私は思わず身震いします。


「ふふふ、大丈夫ですかラフィ?」

「カジィリア様はこのことをご存知だったのですね」

「ルートから予め台本に目を通しておくように言われてましたからね。さあ、ラフィ。進行役は私に任せて貴女は闘いの準備をなさい。ゾーラが爛々とした目で、待ち構えていますよ」


カジィリア様にそう言われた私は、カジィリア様が指差す方へ視線を向けます。そこには大剣を素振りするゾーラさんが目に入りました。同じく武舞台の上に居たエイディさんとロベルトさんの姿はなく、すでに武舞台から下りてしまっていました。私の視線に気付いたゾーラさんがニカッとした笑みを見せてくれます。


「この時を待っていたよラフィ。さあ、闘いに興じようじゃないか」

「私は待っていた訳ではないのですが・・・」

「ハッ、そんな甘っちょろいことを言うんじゃないよ。・・・まあ、坊っちゃんの顔に泥を塗りたいというなら話は別だけどねぇ」


ゾーラさんが意地の悪い笑みを浮かべて、私を挑発してきます。もちろん、ルート様の顔に泥を塗る訳にはいきません。私はルート様の御付のメイドとして、主の期待に応えるだけです。私は一度目を閉じてから、キッと鋭い視線でゾーラさんを睨みます。


「私はルート様の期待に応えます。覚悟してくださいゾーラさん」

「ははっ、そうこなくっちゃねぇ」


私は私のために準備されていた剣を手に取って、少し素振りをして身体を温めます。そして、ゾーラさんと向かい合いました。


「二人とも準備は出来ましたね?これより準決勝、第一試合を始めます」


カジィリア様の試合開始の掛け声と共に、鐘の音が鳴り響きました。それと同時に、ゾーラさんが地面を蹴って、大きく大剣を振りかぶりながら私に接近してきます。


・・・ゾーラさんの攻撃を剣で受けては駄目。


ゾーラさんの力が込められた攻撃を、少しでも剣で受けようものなら、間違いなく腕がやられてしまうでしょう。まずは回避に徹した方が良さそうです。私は縦に斬り付けようとしてくるゾーラさんの攻撃を、ステップを踏んで横に逃げます。ゾーラさんの攻撃は外れ、振り下ろした大剣が武舞台を傷付けますが、ゾーラさんは手を止めることなく、すかさず大剣で薙ぎ払ってきます。


・・・くっ、少し服を掠めましたね。危ないところでした。


ゾーラさんは軽々と大剣を振り回して私に襲い掛かってきます。それでも、私は避けることに集中することで何とかゾーラさんの攻撃をかわして見せました。


「ほらほら、どうしたんだいラフィ?避けてばっかりだと勝てないよ?」

「分かっています。ですが、下手に攻撃を仕掛けた方が負けてしまいます」

「・・・へぇ、なるほど。きちんと相手の実力を測ることが出来るみたいだねぇ。となれば、こっちにも考えがあるよ」


ゾーラさんはそう言うと、大剣の柄と剣身の繋ぎ目辺りを何やら弄り出します。カチャンという何かが外れたような金属音が聞こえてくると、ゾーラさんの大剣が真ん中から真っ二つに分かれます。ゾーラさんの大剣は、片刃の双剣へと変わってしまいました。


・・・何ですかそのルート様が喜びそうな仕掛けは!?あ、いえ、今年も武器を準備したのはルート様でしたね。ルート様がゾーラさんの要望を聞いて、嬉々として武器を準備する姿が目に浮かびます。


「それじゃあ、行くよ!」


ゾーラさんは瞳をギラリと光らせると、初撃と同じように片方の剣を振りかぶって、一気に間合いを詰めてきます。ゾーラさんの大剣が双剣へと変貌したことに気を取られていた私は、同じようにステップを踏んで横に飛び退きます。


ですが、大剣が半分になって重さが減ったことで、ゾーラさんの剣を振るスピードが格段に上がっていました。私はゾーラさんのもう片方に持った二撃目の剣を避けきることが出来ず、思わず剣で受けてしまいます。剣の重さが減ったことで、威力は少し落ちているようですが、衝撃で私の手はビリビリと痺れます。


それからのゾーラさんの攻撃は、双剣になったことで単純に手数が倍になるだけでなく、剣速も速くなっており、先ほどまでと比べて四倍も強くなったように思えます。当然、私はゾーラさんの剣を避けることが困難になり、剣で捌かざるを得なくなります。


・・・駄目、もう手に力が。


ゾーラさんの度重なる剣撃により、手が痺れて力が入らなくなってきた私は、遂にゾーラさんの攻撃で剣を弾き飛ばされてしまいます。ゾーラさんは「これで終わりだよ!」と、双剣を大きく振り下ろしてきます。


・・・奥の手を隠している場合ではありませんね。


「魔法障壁!」

「何!?」


私は両手を突き出すように前に出して、魔法障壁を張りました。ルート様の特訓のお陰で身に付けた魔法です。ゾーラさんは攻撃が魔法障壁に阻まれたことに目を大きく見開いてから「そう言えば、ラフィも魔法を使えるようになったんだったねぇ」と嬉しそうに呟きます。


「魔法もたくさん鍛練を積みましたから。まだまだ未熟ですけど」


私はルート様の魔術具で水属性の魔法を使えるようになりました。ただ、水を魔法で出すことと魔法障壁を張ることは、全くの別物と言っていいほど要領が違います。魔法障壁を張る方が、遥かに難しいのです。ルート様は、さも当然のように魔法障壁を張りますが、水が壁になると言われても、私は全くイメージが湧かなかったのです。


・・・今も長くは持ちませんが、この隙に。


ゾーラさんの攻撃を魔法障壁で阻んでいる間に私は剣を拾います。ゾーラさんは「これぐらいのことで」と怒濤の剣撃を魔法障壁に浴びせます。見る見るうちに魔法障壁に小さなヒビが入ると、それがたちまち魔法障壁全体に広がって、魔法障壁が青い光の粒子となって消えてしまいました。魔法障壁は破られてしまいましたが、私が体勢を立て直すには十分な時間は稼げました。


私が剣を構えるとゾーラさんが「魔法で攻撃はしないのかい?」と挑発してきます。私が攻撃魔法をしたところで、ゾーラさんの双剣で斬り払われるだけでしょう。でも、ここは敢えてその挑発に乗った振りをします。ルート様直伝とも言える奥の手第二段です。


私は魔法で握り拳ぐらいの水球を出してゾーラさんに目掛けて飛ばします。それと同時にもう一つ、密かに小さな水球を作り出してから、私はゾーラさんに斬り掛かります。


「攻撃魔法はまだまだ未熟のようだね」


私の放った攻撃魔法は予想通り、いとも簡単にゾーラさんに斬り払われてしまいます。そして、ゾーラさんが私に反撃しようと剣を振り上げた瞬間、ゾーラさんが聞いたこともないような可愛い声で「ひゃぁ」と小さな悲鳴を上げると身体を身震いさせます。私はゾーラさんに出来たその一瞬の隙を付いて、全身全霊で剣を振り抜きます。



「そこまでです!勝者ラフィ!」


カジィリア様の勝利宣言が地下空間にこだますると、試合を見ていた使用人の皆から、わぁっと歓声が上がります。私は全身全霊で攻撃をしたことで乱れた息を整えるのに必死でしたが、「やるじゃないかラフィ」「まさかラフィが勝つとは」といった称賛の声が聞こえてくると、ようやく自分が勝利を掴んだことを自覚してきました。


・・・勝った?私がゾーラさんに?


「はぁ、参ったねこりゃ。ラフィ、最後のあれ、私に一体何をしたんだい?」

「え?あ、はい。ルート様の悪戯で背中に冷たい水を流し込まれたことがあるのですが、あまりにも冷たくて、身が縮む思いをしました。それを魔法で再現したのです」


私が密かに作り出したもう一つの水球は、ゾーラさんの頭の後ろに出しました。目に見えない場所なので、とても扱いが難しいのですが、ルート様を驚かせようと思って頑張って身に付けたものです。


・・・あ、その、決してルート様に悪戯をし返そうと思って頑張った訳ではないのですよ?


「坊っちゃんの悪戯?クックク、あーはっはっは・・・。それはそれは。そんなことで隙を作られるとは思いもしなかったよ。どうやら私が闘っていたのは一人だけではなかったってことだねぇ」


私の説明にゾーラさんは楽しげに笑うと、私がルート様と共に闘っていたと言われます。ゾーラさんの言葉が嬉しくて、私はゾーラさんの言葉を噛み締めているといつの間にか武舞台に上がっていたカジィリア様に「見事な試合でしたよラフィ」と声を掛けて頂きます。


・・・私、やりましたよルート様。



さて、このあとに行われました準決勝、第二試合、エイディさんとロベルトさんの闘いは、誰も予想だにしない結果となりました。何と、今年も二人同時に攻撃をぶつけ合い、二人の守りの魔術具が発動したことで二人とも敗者となったのです。


一撃必殺を得意とするエイディさんの攻撃を、守りから反撃を得意とするロベルトさんが防ぐという流れは前年と同じでした。そして、互いに牽制し合う中、二人に出来た隙を見計らって二人同時に土属性の攻撃魔法を放ち合ったのです。


エイディさんとロベルトさんは二人とも「魔法など不要」と仰っていたはずなのですが、どうやら、私たちには内緒で魔法の訓練をしていたようです。普段、顔を合わせたらあれだけいがみ合っている二人ですが、二人して秘密で魔法を身に付けて武道会の切り札とし、しかも同じ属性を使えるようになっているなんて、本当に仲が良すぎると思います。


・・・もう一思いに復縁してはいかがでしょうか?絶対に怒られると思うので口には出しませんけど。


そういうことで、第二回エルスタード家武道会は、前年に続いてまたもや私が優勝する形で閉幕しました。今年は前年と違って、運だけ勝ったという評価ではなく、優勝出来るだけの実力を身に付け、主譲りの奇策を持っているという評価を私は皆さんから頂きます。私はこれまでの努力が報われただけでなく、改めて主従として認められたような嬉しい気分を味わいました。


・・・予定外の参戦で困惑はしましたが、これでルート様は褒めてくださいますよね?


私は小さな主から褒めて頂く風景を想像しながら、小さく笑みをこぼします。ですが、すぐにあることに思い至り、ガクッと肩を落として項垂れました。そう、今年も優勝したということは、来年も間違いなく行われるであろう第三回目の武道会に、強制的に参戦させられることに私は気付いてしまったのです。

良い感じに進めれていると思いきや、体調不良で全然進まず。むぅ。

次回は、本編に戻ります。



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