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約束を果たすために  作者: 楼霧
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閑話 冒険者ルート 前編

アーシア視点のお話。思ったよりも長くなるので前後半です。

ルートちゃんが私の家に来てから早くも一ヶ月が経ちました。私が夜這いを仕掛けた翌日からルートちゃんは精力的にノクトゥアにある商店や市場を視察します。有難いことにルートちゃんは私に対して何事もなかったように接してくれるので、私も何事もなかったように案内役としてルートちゃんにくっついて回りました。


ちなみに、夜這いを邪魔されないようしたことを、ソフィア様には怒られました。ですが、失敗に終わったこととルートちゃんが、口添えしてくれたお陰でお咎めなしとなりました。義理の姉となるかもしれないソフィア様との関係が、完全に壊れなかったことは僥倖と言えます。


ルートちゃんは程なくしてノクトゥアを見て回ると近隣の農村や町へにも視察すると言い出します。その行動力には目を見張るものがありますが、私にとっては今更なことです。お父様とお母様は目を丸くして驚いていましたが、私はそれぐらいでは驚きません。ルートちゃんなら当たり前のようにやるでしょう。


私が心配したのは、自力で走って視察に行くということでした。自慢ではありませんが、私は勉強が出来ても、運動が苦手です。ルートちゃんに補助魔法を掛けてもらえるとはいえ、不安しかありません。果たして、私はルートちゃんたちについていけるのかしら?と頬に手を当てて息を吐きます。


すると、ルートちゃんがキョトンとした顔をしながら「無理そうなら俺が運びましょうか?」と声を掛けてくれました。私が運ぶ?と思っていると、ルートちゃんは流れるような動きで、私をお姫様抱っこしてしまいます。夜這いの時にも思いましたが、ルートちゃんはどうしてこんなにもお姫様抱っこするのに慣れているのでしょうか。


・・・聞きたかったですが、そういう相手がいるのかと思ったら、少し怖くて聞けませんでした。


そうして、本来であれば数ヶ月は掛かるところを数週間で近隣の農村や町も見て回ってノクトゥアへと戻ってきました。最近のルートちゃんは、リューエル使いになるためにベルダ姉のところへ足繁く通っています。ちょっとリューエルにルートちゃんを取られた気分になりますが、動物相手に嫉妬しても仕方ないでしょう。


・・・ベルダ姉以外のリューエル使いにも、随分可愛がられているという話は少し気になりますが。


私が朝食を取るために台所へ向かうと、ヴェルアとルートちゃんが仲良く朝食の準備をしています。最近では見慣れた光景です。初めからルートちゃんがこの家に住んでいたかのようにルートちゃんは馴染んでいます。私はその光景を眺めながら食卓へとつきました。


・・・本当に、このままずっとルートちゃんがこの家に居てくれた良いのに。


私がそんなことを思っているとお母様がため息を吐きながら私の隣の席につきます。


「どうしてアーシアは一緒に料理をしないのですか?仲を深めるいい機会ですよ?」

「それは分かってるけど。こればっかりは適材適所だわぁ」


私は料理が得意ではありません。それでもルートちゃんのために料理を作る練習をして、ノクトゥアまでの移動中に、私の魚料理をルートちゃんに食べてもらいました。ルートちゃんに、美味しいと言って食べてもらったことがもの凄く嬉しかったのですが、今は料理をしようという気になりません。


・・・だって、ルートちゃんったら、軽々と私よりも美味しく作ってしまうのだもの。


美味しいものを食べるために自ら進んで料理をしてきているルートちゃんに、付け焼刃でしかない私が勝てるはずがありません。私が早々に自分で料理をすることは諦めてしまったことをお母様に告げるとお母様は「仕方ないわね」と苦笑します。


それからお母様は、手に持っていた紙を読み始めると小さくため息を吐きました。私はこの姿を何度か見たことがあります。お母様が持っている紙は、冒険者ギルドからの依頼書なのでしょう。


ロクアートにも冒険者ギルドがあります。ですが、エルグステアほどの活気はありません。それはエルグステアのように強い魔獣や魔物が出たり、遺跡があったりしないためです。しかも腕の立つ者は、大きな商会で用心棒として雇い入れられています。冒険者をするよりも安定した収入を得られるのですから、当然のことでしょう。


そのため、冒険者ギルドに所属する冒険者は、率直に言ってしまえば弱いのです。彼らの仕事は専ら、街の観光案内や荷物運び、家財の修理と言った雑多なものです。そんな冒険者ギルドに時折、荒事の依頼が寄せられることがあります。


もちろん、冒険者ギルドは所属する冒険者で対応出来るかを検討します。所属する冒険者では無理だと判断した場合は、有力商会に雇われている用心棒に打診が行きます。その用心棒でも困難なことと判断された場合、こうして私のお母様の元に依頼書が届くのです。


・・・魔法使いであるお母様が、誰よりも腕が立ちますからね。


「盗賊退治に、亡霊騒ぎ。亡霊はともかく盗賊ですか・・・」

「お母様は荒事が苦手ですものね。私も手伝うわぁ」


私はお母様から依頼書を受け取り目を通します。冒険者ギルドからの依頼は二つ。一つは、モトコルデに出没する盗賊の退治。少量の荷物を運ぶリューエルを使わない小型船が狙われて、被害が多く出ているようです。今のところ、死者は出ていないようですが相手に魔法を使える者がいるようです。


もう一つは最近、真夜中にリベール城で亡霊が出るそうです。すでに光の女神フィーリアスティを崇める司祭様が護衛を引き連れて亡霊の浄化を試みに向かい、実際に亡霊と対峙したようです。でも、翌日の朝、護衛と共にリベール城で倒れているのが発見され、今も意識が戻っていないとのことです。外傷が見当たらないので、なぜ意識が戻らないのか分からないと書かれています。


・・・思ったよりも大変そうねぇ。


私は読み終えた依頼書をテーブルの上に置いて、頬に手を当てながらコテリと首を傾げます。ほぅと息を吐いていると、朝食をテーブルの上に並べるためにやって来たルートちゃんが、青い瞳をキラリと光らせて、興味津々といった顔で、依頼書を覗き込みました。


「冒険者ギルドからの依頼書?アイフィンさんはロクアートで冒険者もしているのですか?」

「いいえ、違うわルート君。時折、冒険者ギルドでは手に終えないような依頼が、こうして私のところへ来ているの」

「冒険者でもないのにアイフィンさんのところへ来るのですか?」


お母様の回答にルートちゃんが首を傾げます。意味が分からないと雄弁に語る顔をするルートちゃんに私は小さく笑ってから、ロクアートの冒険者ギルドの内情を説明します。すると、ルートちゃんは「なるほど」と頷いて、納得のいった顔付きになりました。


「そういうことならその依頼、冒険者である俺とソフィア姉様で引き受けますよ。良いですよねソフィア姉様?」

「本音を言えば、ルゥには危ないことへ首を突っ込んで欲しくないのだけれど仕方ないわね。困っている人を助けるのも冒険者の領分だわ。それにどうせ私が駄目と言っても、もうやると決めたのでしょう?」

「さすがソフィア姉様、よくお分かりで。と言う訳で、その二件の依頼。俺たちが引き受けます」

「ソフィア様とルート君はお客様ですのに。良いのですか?」

「もちろんです。十分お世話になってますし、任せてください」


ルートちゃんは、ニッと笑みを浮かべながらお母様に胸をドンと叩いて見せます。とても心強い姿にお母様は嬉しそうに微笑みます。ちなみに私は苦笑しています。ルートちゃんが、ぼそっと「リューエル使いの訓練がお休みなので丁度いい」と呟いたのが聞こえたからです。


・・・ルートちゃんにとっては、暇潰程度のことなのね。


朝食を済ませたらソフィア様とルートちゃんを連れて冒険者ギルドへと向かいます。他国の冒険者が、勝手にロクアート内で活動することは出来ません。ロクアートで活動してもいいように、冒険者ギルドで形式的な登録が必要なのです。


ソフィア様とルートちゃんが持つ冒険者ギルドのギルドカードの登録を待っている間に、ルートちゃんが「小型船を準備して欲しい」と言い出します。理由を尋ねると商船を装って盗賊が襲ってきたところを一網打尽にするつもりだそうです。それに探す手間も省けるますし、と語るルートちゃんに私は思わず感心してしまいます。


・・・いつの間にそんな作戦を思い付いたのかしら?


私はすぐさまユーニルクス商会で持っている小型船を手配します。ギルドカードの登録が終わったら、港へ向かい、準備してもらっていた小型船に乗り込んで出発です。盗賊退治に向かうのはソフィア様とルートちゃんと私の三人になります。


「さて、盗賊が出るのはここからもっと下流のところでなのですよね?」

「えぇ、そう聞いているわぁ」

「それじゃあ、ちょっと船のスピードを上げますね。このままだと時間が掛かりますから。落とされないように気を付けて」

「え?」


ルートちゃんがそう言うと船が少し前のめりになって傾くと、船のスピードがグングンと上がり始めました。丸でリューエルに引っ張ってもらっているかのようなスピードに、私は思わず目を瞬きます。


「ルートちゃん?これは一体どうやって。・・・まさか川の流れを魔法で?」

「おしいですねアーシア。ちょっと違います。俺は船の後方の水面をちょっと上げているだけですよ。当然、進む船のことを考えて常に位置をずらしながら、ね」

「・・・はぁ、ルートちゃんはどうしてそんなことを思い付くことが出来るのかしら?」

「ルゥは他の人が思い付かないようなことを平気でするから。考えるだけ無駄だと思うわアーシア」


私の肩をポンと叩いてソフィア様が励ましの声を掛けてくれます。ソフィア様のお言葉には、私はそれで苦労している、ということが含まれていそうです。私がそれに小さく笑っていると「む、ソフィア姉様の言い方には棘がありますね」と機嫌を悪くしたルートちゃんが抗議するかのように船のスピードをさらに上げます。


・・・リューエルに引っ張られるよりも早いわ。ふふ、ちょっと楽しいかも。



「アーシア、この辺りが現場付近ですか?」

「えぇ、そうよルートちゃん。・・・それよりも、ちょっとやり過ぎよぉ?」

「うぅ、気持ちわるぃ」


盗賊が出没しているという付近まで近付くと、ルートちゃんが船のスピードをゆっくりなものに抑えます。私はルートちゃんの質問に返事をしたあと、ソフィア様を見ながらルートちゃんのことを咎めます。私も今までに体験したことがないようなスピードと船の揺れにソフィア様が船酔いをしてしまったのです。


「大丈夫です。俺のソフィア姉様はこれしきのことで参るような軟弱者ではありません」


ルートちゃんはソフィア様のことは心配しなくても平気だと言います。でも、ソフィア様は口元を押さえてとても気分が悪そうにしています。このままにしていて本当にいいのかしら?と思った矢先、ルートちゃんが真剣な顔付きになります。


「どうやら目的の人たちがやって来たようですよ」


ルートちゃんはそう言いながら前方を指します。ルートちゃんの指の先に目を向けると、私たちが乗る小型船よりもさらに小さい、大人三人乗りぐらいのボートが全方に見えます。


・・・小柄な男と屈強そうな大男、それにローブを着た・・・あれは女の子?


大男がボートを漕いで、私たちを狙うかのように進路をこちらへ向けてくると、私たちの乗る小型船にぶつかって止まります。ゴッという木と木がぶつかり合う鈍い音がすると、手慣れた様子でボート乗っていた男たちが私たちの船に這い上がってきます。


大男が女の子を引き上げている間に小柄な男が、ナイフをこれ見よがしに振り回しながら「命が惜しければ荷物置いていきなぁ!」と要求してきます。その様子をルートちゃんが難しい顔をしながら窺っていることに気が付いた私は、小声でルートちゃんに尋ねます。


「どうかしたのルートちゃん?」

「いえ、何でもありません。・・・ふむ、アーシア。これから俺が取る行動に一切の手出しは不要です。良いですね?」

「それは分かったけれど・・・」


何でもないと言う割には、ルートちゃんは難しい顔をしたままです。相手とこちらの戦力差を考えれば、そこまで悩む必要はないように思えます。何と言ってもこちらにはルートちゃんが居て、ソフィア様まで居るのです。それでも、ルートちゃんには何か思うところがあるようです。


そうこうしている内に大男が何やら女の子に話し掛けると女の子が右手をこちらにかざします。女の子はかざした手の前に握り拳ぐらいの火の玉を出すと、さらに手を振り下ろして、火の玉を私たちに向けて放ちます。火の玉は私たちからは大きく逸れていきましたが、どうやらわざと外して見せたようです。


・・・あれならエルグステア学園のCクラス、もし、あれが全力でないのならBクラスぐらいの実力はありそうね。でも、まあ、私たちの敵ではないわ。


「どうだ!焼け死にたくなかったら、大人しく荷物置いていきなぁ。言うことを聞けば命だけは助けてやるぜぇ」

「そんなことを言っても騙されないぞ!俺の姉さんたちを慰み者にして、挙げ句の果てには売り払おうって魂胆なんだろう!」


ルートちゃんは丸で子供の声を強調するかのような甲高かんだかい声で、小柄な男を指差しながら叫びます。子供扱いされることが殊の外嫌いなルートちゃんの随分と子供らしい言い方に、私は思わず笑ってしまいそうになります。ですが、ここは笑うような場面ではありません。


一切の手出し不要と言っていたルートちゃんの邪魔をしたら、あとで何を言われる分かりません。私はとにかくグッとお腹に力を込めて、笑いそうになるのを我慢します。


「はぁ!?何を言ってんだこのガキは!俺たちはそ・・・」

「まあ、待て」


小柄な男がルートちゃんに何か反論しようとしたのを、大男が肩を持ってそれを制すると、大男が前に出てます。大男は手に持つナイフの背をもう片方の手にポンポンと打ち付けて、不敵な笑みをこぼしながら宣言しました。


「あぁ、そうだ。だが、大人しくしていれば、丁重に扱ってやってもいいぞ?」

「盗賊の言葉なんか信用出来るものか。姉さんたちには一本も指を触れさせたりしないぞ!たあぁぁぁぁぁぁ!!」


ルートちゃんはそう言うと、拳を振り上げながら大男へと突っ込んでいきます。ルートちゃんのその動きはとても重く、補助魔法で身体強化しているようには全く見えません。案の定、ルートちゃんの拳は大男に簡単は止められてしまいます。しかも、ルートちゃんは大男にくるりと身体を引っくり返されて抱きかかえられると、首筋にナイフを突き付けられてしまいます。


「さあ、お姉さん方。弟を殺されたくなかったら大人しく荷物を置いていくんだなぁ」


・・・ええと、ルートちゃんは一体何をしているのでしょう?


ルートちゃんは本来の力を微塵も発揮することなく大男に捕まってしまい、私は困惑することしか出来ません。なぜなら、事前にルートちゃんから手出しは不要だと言われているので、助ける訳にもいきません。あの状況はルートちゃんが望んで引き起こしたというなのでしょうが、なぜそんなことをするのか分かりません。それはそれとして、私は笑いを堪えるのに必死です。


「わぁぁぁぁ、くそ、放せ!放せ!」

「あ、こら。暴れるな危ねぇだろうが、あ」


余りにも子供らしいルートちゃんの様子に、私はついに手を口元に当てます。これで、弟を盾に取られたことを憂う姉を装うことが出来たでしょうか。出来たと思いたいです。


ルートちゃんが駄々をこねるように大男の腕の中でも暴れると、大男が突き付けていたナイフがルートちゃんの首筋を掠めます。すると、ルートちゃんの首筋を真っ赤な血が一筋、流れ落ちるのが見えました。その次の瞬間です。私は丸で首筋に冷えきった手を押し付けらたかのような感覚に襲われると、背筋にゾクッと寒気が走ります。


一体何がと思いながら私は振り返ると、そこには今までに見せたことがないほどに恐い顔をしているソフィア様が静かに佇んでいました。綺麗な顔立ちをされている分、余計に恐さが増しています。先ほどまで、気分が悪そうにしていた方と同一人物には思えないほどです。


そんなソフィア様を見て、私を襲う異様な感覚がソフィア様の放つ殺気であることに気が付くのは然程時間は掛かりませんでした。


・・・ソフィア様を本気で怒らせるとこうなるのね。


心の中では冷静にソフィア様の様子を考えますが、私はソフィア様の迫力に気圧されて声が出ません。ただただ私はソフィア様のことを瞬きするのを忘れて見つめます。ソフィア様がゆっくりとした動きで、腰に掛けた剣の柄に手を置いた瞬間、目の前からソフィア様の姿が消えました。


私が「え?」と声を出すのと同時に、私の横を強い風が通り抜けます。私はすぐさま正面に向き直すとソフィア様が剣を振り抜いて大男の首を撥ね飛ばしている光景が目に飛び込みます。大男の身体は力をなくすようにして、その場にバタンと倒れました。


「・・・え?あれ?・・・見間違い?」


私の目には確かにソフィア様が大男の首を撥ね飛ばした光景が見えました。ですが、倒れた大男の首は胴体と繋がっているように見えます。私は視線を上に戻すと、ルートちゃんが人差し指を立ててソフィア様の剣を止めているのが見えました。


「そこまでです。これ以上の攻撃は不要ですよ」

「る、ぅ?ルゥ!」


ソフィア様は剣を急いで鞘に戻すと、ルートちゃんの身体を見回します。首筋以外に怪我がないことが分かるとソフィア様は安堵の息を吐いてから、ルートちゃんの頬っぺたに手を伸ばします。間違いなくお説教の始まりです。私も急いで二人に駆け寄ります。


・・・大男は気絶、小柄な男は腰を抜かして戦意喪失、女の子は・・・ローブのフードが邪魔でよく分かりませんね。でも、動く様子はないようです。


ソフィア様がぐにぐにとルートちゃんの頬っぺたを引っ張る中、私もルートちゃんを咎めるために詰め寄ります。


「ルートちゃん!どうしてこんな危ない真似をしたの?ルートちゃんならこんなことしなくても簡単なことでしょう?」

「ふぉれあでふねぇ・・・、そふあええさふぁ」


頬っぺたをぐにぐにされたまま喋ろうとしたルートちゃんは話すのを途中でやめて、ソフィア様をチラッと一瞥します。ソフィア様は仕方なさそうな顔をしながら手を放しますが、まだ満足していないのか今度はルートちゃんの耳を引っ張り始めます。


・・・耳も引っ張り心地が良さそうですね。


「それはですねアーシア。・・・聞いてますか?」

「もちろん、聞いてるわルートちゃん」

「この人たちはなまじ力を持っているからこそ、盗賊なんて真似をしているのです。だから、上には上が居るということを、身を持って体験してもらったという訳です。いつかはこういう目に遭うということが分かっていたら、二度と盗賊なんてしようとは思わないでしょう?」


ルートちゃんはソフィア様に耳を引っ張られながら、何事もないかにように説明をしてくれます。私はその様子に小さく笑ってから、ルートちゃんの説明に妙な引っ掛かりを覚えます。


・・・ルートちゃんの言い方だと丸で・・・。


「助けて頂いてありがとうございます」


私が考え事をしようとしていたら、女の子の声で邪魔されてしまいました。私は声がした方を見遣ると被っていたフードを脱いだ女の子が、両手を胸元でぎゅっと握りしめ、嬉しそうに目を潤ませている姿がありました。


私たちの視線を受けた女の子は、三つ編みにした赤紫色の髪を揺らしながら、こちらへと近付いてきます。私たちの目の前までやって来ると、ルートちゃんの手を取って申し訳なさそうに謝ってから改めてお礼を述べます。


「魔法で攻撃してごめんなさい。この人たちに脅されてしかたなく・・・。本当に助けて頂いてありがとうございます」

「いや、礼には及びませんよ。自ら捕まりに来るなんて殊勝な心がけですね」

「ルートちゃん!?」


ルートちゃんは道具袋からロープを取り出すと、女の子の両手首を縛ってしまいます。私はルートちゃんの突然の行動に目を丸くしますが、ソフィア様は当然、と言った表情をしています。どういうことなのでしょう。


「痛!?な、何をするんですか!?」

「惚けても無駄ですよ。貴女が三人の中で、リーダーなのでしょう?」

「そんな訳ないじゃないですか。私はこの人たちに無理矢理従わされてただけです!」

「はっはっは。そんなこと敵対心剥き出しで言われても、説得力がありませんよ。それにそろそろその幼い少女を気取るお芝居をやめたらどうですか?お、ね、え、さ、ん」


ルートちゃんがジトッとした目を目向けてそう言うと、女の子はルートちゃんの手を振り払って大きく後ろに飛び退きます。手首のロープを魔法で焼き切ると、さっきまでの見せていた可愛い顔とは別人のような顔付きで、キッとルートちゃんのことを睨み付けます。


私は女の子の突然の変貌ぶりに、思わず目を丸くして驚きます。

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