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約束を果たすために  作者: 楼霧
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閑話 最低で最高な一日

俺はフリット。ルミールの町の警備兵で西門を門番をしている。怪しいやつが入ってこないか目を光らせるのが仕事だ。といっても、基本的に暇だ。西門を使う人は、だいたい決まっており、遺跡調査に向かう冒険者、西門から出た先に広がる農業地帯に住まう農家の人、あとは、森へ狩りに向かう町の人ぐらいだ。でも、半年前の惨劇のせいで森へ行く人はめっきりいなくなったよなぁ。


半年前に起こった惨劇は、俺もある意味では当事者だ。森から逃げてきた子供に助けを求められた俺は、すぐに冒険者ギルドへと走った。魔獣が出た以上、一人で向かうのは危険と思い応援を呼びに兵舎へ戻ろうとしたが、兵舎に戻るよりも近い場所にある冒険者ギルドに、上位の冒険者であるエリオットさんたちが居ることを思い出したのだ。


エリオットさんたちに事情を説明し、すぐに森へと向かったがひどいものだった。

それでも、子供たちで亡くなったのが一人しかいなかったのは幸いだっただろう。まあ、その子は身体すら残されなかったと陰惨なものであったが。・・・それにしても、あの時のこと、ずっと何かが引っかかっているんだけど、それが何かが分からないんだよなぁ。まあ、大したことじゃないんだろう。


そういえば、さっきルート少年が妹ちゃんと一緒に、町に遊びに来ていたな。怪我をしていた子供の中では一番ひどい状態だったのによくあそこまで回復したものだと思う。それは、お姉さんのソフィアさんの治癒魔法がすごいんだろうけどな。強く、凛々しく、美しい、それでいて魔法まで使える素敵なお姉さんがいて実にうらやましい。ソフィアさんは俺たち兵士の間では高嶺の花だ。・・・まあ、今の俺には関係がないけどな。


なぜなら今の俺には彼女がいるからだ。土の季節は実りの季節で、次の水の季節に備えてということもあり、商業が盛んになる季節だ。だから、色々な物が集まるこの時期は結婚をする人が多い季節でもある。だから、俺は今日の勤務が終わったら「結婚しよう」と告白する予定なのだ。勤務時間が終わるのが待ち遠しくて仕方がない。


そんなうきうきとした気分とは裏腹に事件は起こった。太陽がだいぶ傾きもう少ししたら夕方になる頃に、遠くから、獣の雄叫びのようなものが聞こえてきた。


「おい、フリット、今の聞こえたか?」

「はい、先輩。何の鳴き声でしょう?」

「狼っぽかったよな?おい、上から見て何か見えるか?」


先輩兵士が門の両脇にある見張り台にいる兵士に声を掛けた。


「いえ、今のところは何も・・・・・ん?何かが近づいてきてます」

「近づいてって何がだ?」

「あれは・・・クリム?のように見えますが・・・なんかおかしい」

「おい、おかしいって何がだよ?」

「いえ、まだ遠くにいるはずなのにちょっと大きく見えるような・・・じゃない!かなり大きいクリムが走ってきてます!」


下にいた俺と先輩兵士の目にも視認出来るようになってきていた。


「おい、まずいぞ。あいつまっすぐこっちに向かってきてるぞ」

「ど、どうしましょうか?先輩」

「すぐに門を閉じろ!よりにもよってアレックス様たちが居ない時になんだって・・・」


先輩に命じられるがまま、門を閉じてかんぬきを差した。その足で、見張り台まで先輩と上がる。どんどんと迫ってくるクリムは、びっくりするほど大きかった。あんな大きいのを見たのは初めてだ。メルギアの森で討伐があった時に見たクリムとは全然大きさが違う。


「くそ、やっぱり突っ込んで来るぞ。衝撃に備えろ!」と言われ見張り台の縁にしがみつく。


ドーンッと大きな音とともに見張り台が揺れた。


「門は無事か!?」

「大丈夫・・・でもなさそうです。かんぬきが折れ曲がってます!」

「先輩まずいです。あいつまた突っ込んできます!」

「何!?・・・駄目だ。もう、門はもたない!フリット!お前、兵舎戻って応援を呼んでこい!それと警鐘を鳴らして住民を避難させろ!」

「分かりました先輩。すぐに応援を呼んで戻ってきます!くれぐれもお気をつけて!」


俺は全速力で兵舎へと向かった。向かう途中で後ろの方から轟音が鳴り響いていたから、きっと門が破られたに違いない。俺は脇目も振らずに走った。兵舎にたどり着いた俺は、息を切らせながらも状況報告をし、応援要請をするとともに警鐘を鳴らしてもらった。警鐘か、警備兵になってから初めて聞いたな。何か、不安を煽られるようで心がざわついた。


とりあえず、為すべきことを為した俺は西門に戻ろうとした矢先、リーゼ様と出会った。警鐘を聞いて飛んできてくれたらしい。さすがは、元騎士様だ。不測の事態にも慣れていらっしゃる。状況を聞いたリーゼ様はすぐさま指示を出した。アレックス様や隊長クラスの人たちが王都に出掛けていて不在だったため、指揮を取れる人がいなかったから、本当に有り難かった。まさか平和なこの町でこんな事態が起きて隊長たちが不在で困ることがあるだなんて思いもしなかったよ。


その後、リーゼ様が一足先に西門へ行くと言われたので、俺と見回りのために準備が整っていた兵士二人と一緒に西門へ向かった。西門には異変に気付いて駆けつけてくれた兵士が大きなクリムを取り囲むように相手をしていた。先輩たちは?と辺りを見渡すと倒れているのを発見出来た。


リーゼ様は状況を確認した後、その場にいた兵士と俺たちに指示を出した後、踵を返して走っていった。どうやら、大きなクリムはクリムの上位種らしく、俺たちでは勝てないのでエリオットさんたちを呼び戻しに冒険者ギルドへ向かわれた。


残された俺たちは、まずはリーゼ様に言われたとおり、手分けして倒れている兵士の救護に当たった。


「先輩!大丈夫ですか!」


気絶をしていて返事はなかったが、息はしっかりとしていたので安堵した。ただ、遠くに運ぶことは難しかったので、魔獣から見えない建物の陰に怪我人を運んでいった。


「倒れているのはこれだけだよな?・・・それじゃ、正直、怖いけど加勢しに行こう。どれだけやれるか分からないがエリオットさんたちが戻ってくるまでの時間を稼ぐんだ」


こうして、俺は大きなクリムと対峙した。複数の兵士で取り囲み代わる代わるに相手した。相手をするといっても気を引いて攻撃を避けるだけなのだが。それでも、動きの速さに対応出来ず攻撃をくらってどんどんど脱落者が出た。あとから応援も駆けつけてくれたがじりじりと町の中に入り込まれていった。


そして、町の中央付近まで入り込まれた頃には、残った兵士は俺を合わせて二人だけとなっていた。


「そんな、こんなところで俺は終わるのか・・・エミリすまない」と呟いたのを最後に俺の意識は途切れた。


「・・・ここはどこだ?」

「良かったわ。気が付いたのね。ここは兵舎よ」

「ん?なぜ、エミリがここに?それに俺は・・・」

「魔獣が町に入り込んでフリットが襲われたって聞いたから慌てて駆けつけたのよ」


エミリの話によると俺が気絶した後、ルート少年があの魔獣と対峙して、なんと、俺の剣を使って致命的な怪我を負わせたらしい。ただ、それでは倒すことが出来なかったそうで、逆にルート少年は倒れてしまったそうだ。でも、その後すぐにエリオットさんたちが戻ってきて、倒してくれたそうだ。・・・それにしても、俺が剣を当てた時は全く刺さらなかったんだがルート少年のどこにそんな力があるんだろう?驚きだなぁ。


「魔獣を倒した後、エリオットさんとソフィアさんが手分けして、怪我した兵士に治癒魔法を掛けて回ったのよ。そして、魔法で回復しても気絶していた人は、アルさんに運ばれて兵舎に寝かされたって」

「そうだったのか。次、お会いした時にはお礼を言わないとな」

「そうね。それにしても本当に助かって良かったわ。襲われたって話を聞いたときは気が気でなかった。・・・本当に心配したのよ」


エミリは両手を胸元で握りながら、安堵の涙を流していた。そんな彼女を見ていた俺は感極まって、ベットからガバッと起き上がり、彼女の手を取る。


「なあ、エミリ。突然だけど、俺と結婚して欲しい」


急なプロポーズにエミリは目を丸くして驚いた。でも、その後嬉しそうな顔をしながら「良いわ」と笑顔で返してくれた。一時は、死ぬかもしれない目にあって最低な日だと思ったけど、こうして俺にとっては最高の日となった。

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