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約束を果たすために  作者: 楼霧
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第百話 十歳の誕生パーティー 中編

「エルスタード家当主、カジィリア様から皆様にご挨拶がございます」


エイディが凛とした声でそう宣言すると、カジィリアが立ち上がる。カジィリアが座っている場所は、会場を見渡せる位置に設置した主催者席である。ちなみに俺は、その隣に座っている。皆の視線がカジィリアに注がれるとカジィリアは徐に口を開いた。


「本日は我が孫、ルートが十歳を迎える誕生パーティーにお越し頂き、ありがとうございます。屋敷の中ではなく、外でパーティーを開催することに驚かれた方が多いと思います。私もルートからその話を聞いた時はとても驚きました。ですが、このように気持ちの良い日差しと色鮮やかな新緑の中で、パーティーを行うのも悪くないと思っております。皆様がご承知の通り、本日のパーティーに出席して頂いたのは、ルート個人が誼を結んだ方々となっております。本当は、私個人が誼を結んだ方々をお招きしてパーティーをしようと思っていましたが、知らない人を相手にするのは嫌だ、とルートに断られてしまいました」


カジィリアはそう言って、悪戯っぽい笑みを浮かべながらチラリと俺のことを見下ろした。まさか、今日の誕生パーティーを開催することになった経緯を暴露されるとは思っていなかった俺は、思わず目を丸くしてしまう。会場のところどころからクスクスと笑い声が聞こえてくる。


エルスタード家当主の挨拶ということで、先ほどまで少し張り詰めた空気が漂っていた。だが、俺の暴露話で空気が緩んだのが分かる。悪いことではないのが、出汁に使われて些か不満だ。俺は少し頬を膨らませてカジィリアに不満を呈すると、カジィリアは楽しそうに俺の頬を軽く突いてから、挨拶を続けた。


・・・絶好調って感じだなお婆様。


「ルート個人の知り合いとなりますため、本日のご出席者は貴族だけでなく、平民の方もいらっしゃいます。中には、不満を感じる方がいらっしゃるかもしれませんが、本日は平民であろうが、貴族であろうが、等しくエルスタード家のお客様として持て成すことにしております。それがルートたっての願いなのです。それでは皆様、本日は気兼ねなくお楽しみください」


カジィリアの挨拶が終わると会場から拍手が起こる。その拍手の中、カジィリアが席につくと同時に、今度は俺が立ち上がる。


「お婆様ありがとうございました。まさか駄々をこねたことを暴露されるとは思ってもいませんでしたので若干、居心地が悪いのですが、一旦それは、脇に置いておきたいと思います。さて、皆様、これからパーティーを始めるに当たりまして、少しお食事について説明させて頂きます」


今日の誕生パーティーの食事はビュッフェ形式とした。色々な料理を味わってもらいたいと思ったからだ。だが、どうやらこの世界では、ほとんど馴染みがないものらしい。こういったパーティーの食事は、フレンチのコース料理のように順番に出てくるのが、一般的なのだそうだ。


「自分で好きに料理を取って頂いても良いですし、側に控えるメイドや執事に申し付けて頂いても構いません。一部の料理は、当家料理長のゾーラがその場にある鉄板で焼いて提供する料理もあります。準備した料理の数々は俺と料理長のゾーラ、それにメイドの中で一番料理が上手なマリーが腕によりを掛けて準備したものなので、味には自信があります。是非、遠慮なく味わってください」


俺の説明に、エリーゼやフレン、ジェイドといった身分が貴族である者たちは、ポカンとした表情を見せているのに対し、身分が平民であるフリードは面白がるような顔をし、クートとクアンは目を輝かせている。対照的な反応に俺は小さく笑ってから、乾杯の音頭に移ることにする。


・・・さて、ここやはり、あの人にお願いすることにしよう。


「それでは乾杯の音頭を、身分的なものを考えるとエリーゼかジェイド卿にお願いするのが通常だと思いますが、本日は未だに声を聞いておりませんので、俺も投資をしているパン工房の第一人者であるロンドさんにお願いしたいと思います。ロンドさん、ご足労をお掛けますが前にどうぞ」

「・・・ハァ!?」


俺がロンドに前に出てくるように促すと、ロンドは素っ頓狂な声を出しながら席から立ち上がった。そのせいで、会場の視線が一気にロンド集中する。皆からの視線を一身に浴びて、引くに引けない状況となったロンドは、ガシガシと頭を掻いてから、前に出てきてくれる。


・・・緊張をしているせいか、手と足が同時に出ているけど、指摘するのはさすがにやめてあげよう。


ロンドは前にやって来て俺の隣に立つや否や、ロンドは俺にだけ聞こえる小声で「やりやがったなルート!」と呟く。俺は「何のことでしょう?」とすまし顔で答えて見せた。


「ほら、ロンドさん。乾杯の音頭を皆が待ってますよ?クートとクアンなんか、早く料理を食べたくてしかたがないって顔をしてますしね。それに、俺はまだロンドさんからお祝いの言葉を頂いていません。もしかして、ロンドさんは祝ってくれないのでしょうか?」


「そんなにも俺のことが嫌いですか?」と追い打ちを掛けると、ロンドは苦々しい顔をしてから、やれやれといった感じに肩を竦めた。


「ぅぐっ・・・あぁ、もう、くそ。仕方ねぇなもう。・・・えー、あの、本来であれば、このような場で発言していいような立場じゃないんだが、あー、ですが。今日の主役に担ぎ上げられたので、乾杯の音頭を取らしてもらいます。ここに招待された方はルート、さまの知り合いだけとのことなので、よく分かっていると思うのですが、ルート様の見た目は年相応だが、本当にまだ十歳なのか?と思うことがしばしばある」


ロンドの発言に招待客のほとんどが同意するように頷いている。謎の一体感が会場に生まれたような気がするのは気のせいじゃない。


「でも、それに助けられた人は多いんじゃないかと思う。現に俺は、それに助けられた。親父が残してくれたパンを捨てずに済んだだけじゃなく、今や王都でも一二を争うパン工房で働かせてもらっている。お陰様で死ぬほど忙しい、充実した毎日を過ごすことになった。今でもこれだけの影響があるというのに、ルート様がこれからさらに大人になったらどんなことになるのか、末恐ろしくすらある。でも、それは良い方向へ向かうものだと俺は思います。ルート様が、節目となる十歳を迎えたこと、喜ばしく思う。本当におめでとう。それでは、乾杯!」

「「「「乾杯!」」」」


役目を終えたロンドは、ホッと息を吐いて胸を撫で下ろした。ガチガチに緊張していた割にはしっかりと役目を果たしてくれたと思う。俺はそのことを嬉しく思いながら、こっそりと耳打ちするようにロンドに話し掛ける。


「ロンドさん、大役、ご苦労様です。話口調が多少おかしかったですが、見事な乾杯の音頭だったと思います。もしかして、予め話したいことを用意していたのでしょうか?」

「うるせぇ!んな訳あるか!」


ロンドは少し恥ずかしそうに顔をそらしながら悪態をつく。フンと鼻を鳴らしてから「それじゃあ、俺は元の場所に戻るからな。役目を押し付けられた分、せいぜい、ルートの料理を堪能してやる!」と捨て台詞を吐きながら、自席へと戻っていった。


それからしばらくの間は、食事の時間である。俺は初めだけ口を出した。ビュッフェ形式を説明したものの勝手が分からないのか、皆動こうとしなかったのだ。乾杯の音頭が終わった後、特にクートは料理を取りに行きたそうな顔をしていたが、ハティナに肩を抱かれて止められていた。


俺はそれを見て、カジィリアから全員が等しくお客様だと宣言してもらっていたとしても、やはり身分的に、動きづらいものがあるということに気が付いた。だから、招待客の中で一番身分が上となるエリーゼと次点のジェイド卿を名指しして、俺も一緒になって例を示しながら料理を取って回った。


それからはスムーズに事が運ぶ。皆好きなように食べたい料理を自分で取ったり、使用人に取ってもらったり、自席に戻って座りながら食べたり、立ちながら食べたりと自分たちのやりたいようにして、料理に舌鼓を打ってもらった。俺もある程度、お腹を満たしてから、方々に料理の感想を聞きに回った。


・・・やっぱり、一番人気は肉料理か。次はサンドイッチ。小さめにカットしてあるから、手軽に色々な味を楽しめるのが面白いらしい。ふむふむ、今日の結果をまとめて、また今度、フリードさんに報告しておこう。


話を聞いて回っているとエリーゼが難しい顔をして料理を並べたテーブルの前に立っていた。料理を選ぶ訳でもなく、ただただ料理を眺めているだけである。もしかして、お気に召さなかったのかと思った俺は、エリーゼに近付いた。近付く俺に気が付いたエリーゼは、料理を指さしながら尋ねてくる。


「どれもこれもとても美味しいかったけど、ルートはこれだけの料理を一人で考えたの?」

「まあ、そうですね。でも、準備したのは俺だけじゃないですよ。さすがに大人数ですから」

「それはそうだと思うけど。それにしてもあなた、本当に何でも出来るわね。ルートって、つくづく不思議な子だわ。一体、その頭どうなっているのかしら?」

「いくらエリーゼの頼みでも、頭を割って見せることは出来ませんよ?」

「誰もそんなこと頼んでません!」

「いひゃいでふ」


冗談で言っただけなのに、またもやエリーゼに頬っぺたをグニグニとつねられた。エリーゼは俺の頬っぺたを堪能しながら、控えていたメイドに料理を取るように指示を出して、自席へ悠然と戻っていく。エリーゼに弄ばれた痛みの残る頬を俺は摩っていると、アンジェとティアが近付いてくる。


「ルートは随分とエリーゼ様と仲が良いのですね」

「同じクラスメイトですからね。でもアンジェ、一方的に頬をつねられるのは、果たして仲が良いと言っていいのかどうかは、とても微妙なところです」


俺はアンジェにそう返すと、アンジェはクスクスと笑いながら「ルートの頬っぺたは、つまみ心地良いですからね。分かります」と言われてしまう。


・・・むぅ、そんなことを分かられても困るんだけど。


「それにしても、ルートは学園で楽しくしているようですわね。ソフィア様からお話は伺ってましたけれど、やはり、突然の別れとなってしまいましたからね。ちょっと心配していたのです。でも、この目で活き活きとしている姿を見て安心しましたわ」

「王命を受けた時、ちょっと暴走してしまいましたからね。ご心配お掛けしました」


俺はアンジェに返答しながら首を傾げる。確かに今日は俺にとってハレの日なので、いつもよりもテンションは高めだと思う。だが、傍から見てそんなにも活き活きとしているように見えるのだろうかと思ったのだ。そんなにも俺は顔に出やすいのかと内心、愕然としながら俺はアンジェに尋ねる。


「今日の俺は、そんなにも活き活きしているように見えますか?」

「今日、というよりかは、この間の戦闘訓練の時ですわ。救護班として、為す術もなくやられていく魔法使いコースの一年を嬉々として、見ていたでしょう?」

「・・・ん?ちょっと待ってください。アンジェがどうしてそんなことを知っているんですか?」

「どうしてって、それはわたくしも戦闘訓練に参加していたからに決まっているではありませんか」


・・・参加していた?戦闘訓練にアンジェが?何で?


「あら?言ってなかったかしら?わたくし、ソフィア様に勧められて学園に騎士コースの学生として入学したのですよ?」

「え?聞いてないかしら?」

「ふふ、どうやら、ルートは全然、変わっていないようですわね」


アンジェが学園に入学していたという驚愕の事実に、思わずアンジェの喋り口調を口走ってしまう。それを聞いたアンジェが、薄らとした笑みを浮かべながら両手をわきわきと動かし始める。


「わぁー、待って待って!わざとじゃないです。頬っぺたさんのエイチピーはすでにゼロなのです。これ以上はやめてあげてください」

「はぁ、全く。一体、ルートは何を言ってますの?本当に変わりありませんわね」


俺は両頬を押さえながら防御態勢を取ると、アンジェはため息を吐いて呆れた顔になる。でも、そのあとちょっと嬉しそうに小さく笑った。


「それにしても、驚きました。まさか、アンジェも学園に入学していたとは。・・・というよりも、戦闘訓練に出ていたのですよね?俺、初めから居たのにどうして気付かなかったんだろう?」

「わたくし、魔法反射のために重装備でしたから。全身鎧に大きな盾を持たされて、とても重たかったですわ」

「・・・あぁ、なるほど。何だか懐かしい魔力を感じると思ったのはそれが原因だったのか。調子が悪いのか、ティアが居るからそう感じるのかと思っていましたが納得しました。あれ?ティアはアンジェが学園に入学すること、当然知っていたんですよね?」

「知ってたわ」

「どうして、入学式の時、教えてくれなかったんですか?」

「ルートのことだから、知ってると思ってたの。でも、知らされてなかったのね」


ティアはそう言うと肩を竦めて見せた。どうやら、アンジェも学園に入学していたという事実は、サプライズで隠されていた訳ではなく、ただの伝達ミスのようである。何でも知っているからと教えてもらえないのはとても困るが、今日のような嬉しい驚きならそれほど悪くない。


「そうですか。何にしても、アンジェも学園に来てくれたのは率直に嬉しいです。ルミールの町で一人きりになってしまったリッドには悪いですが」

「ふふ、リッドは悔しそうにしていましたよ。俺だけ除け者じゃないか!って」

「これは穴埋めとしてリッドに何か贈った方が良さそうですね」

「ふふっ、それが良いのではないかしら?何を贈るかはルートに任せましたわ」


・・・リッドのところって、確か弟や妹が多いはずだから、今度、腐りづらいお菓子を届けてもらうことにしようっと。


アンジェとティアから、俺が王都で離脱してしまった後の話を一頻り聞いてから二人と別れた。それから会場を見渡した俺は、珍しい組み合わせてで固まっているのを見つけて近付いた。


「ティッタ。さっきはエリーゼが居ることに、偉い人来るなんて聞いてない!みたいな感じで動揺していたのにどうして、ジェイド卿だと平気なんでしょう?」

「それはそうなんっすけど。私みたいなのが、魔法ギルドのギルド長にこうしてお目に掛かれるなんて、またとない機会っすから」


俺が近付いたのはジェイド卿とディーリア、ティッタとムートの組み合わせだ。訪問時、エリーゼを見たティッタが、小さな声で騒ぎ立てるという動揺を見せていたのに、今は情報を得れる機会だと普段の明るい様子を見せている。


「それで、何のお話をしていたのですか?」

「もちろん、ルートさまのことっす!」


・・・え?俺の居ないところで、話のタネにするのはやめてくれない?


「あはは、そんなに嫌そうな顔をしなくても大丈夫だよルート君。そんなに大した話じゃない。私たちは魔法ギルドに来るルート君のことは知っていても、学園で過ごすルート君のことは知らないからね。ティッタとムートの二人から聞いていたんだ」

「その代わりに、ルートさまが魔法ギルドで何をしているのか教えてもらっていたっす」

「なるほど、じゃないです。そんなことを知ってどうするというのですか?」

「え?学園ではどんな風に過ごしているのか、面白い話が聞けそうだから」

「ルート様が普段、どのように過ごされているか興味があります」

「ルートさまは魔法ギルドでもご活躍だそうなので、これは是非、広めないとっす」

「良い記事が出来る」


四人から俺の話をすることは、当然のことで興味が尽きないといった感じで言われてしまう。俺の話をすることに肯定的な四人の様子に、何やら腑に落ちない感覚を俺は覚える。だが、陰口を叩かれている訳でもないので、怒るにも怒れなし、止めるにも止めれない。色々と考えた俺が絞り出した答えは「そうですか」の一言である。


・・・楽しそうだし、そっとしておこう。そうしよう。



それからしばらくして、皆のお腹が満たされる頃を見計らって、デザートを運んできてもらう。色々と準備はしているが、やはり誕生パーティーといったらメインはケーキだろう。勉強会の時に一度、ケーキを食べたことがあるエリーゼたちは、嬉しそうに顔を見合わせているのが見えた。


デザートの準備が出来たことを告げ、皆がデザートに口を付け始めて、少し間を置いてから、俺は皆の前に立って全員に向けて話し掛ける。


「さて、皆様。デザートを食べながらで構いませんので、少し話を聞いてください。折角、色々な方に集まって頂きましたので、これからちょっとした催し物を、ゲーム大会をしたいと思っています」

「「「「ゲーム大会?」」」」

「そうです。ゲームの種類は二種類。トランプを使ってのポーカーとリバーシです」


俺の説明に一部の者を除いて皆がキョトンとした顔になる。何を言ってるか分からないと顔に書いてあるのがよく分かる。想定通りの反応だ。俺はクートとクアンの二人を手招きして、ゲームの内容を説明することにした。二人は俺が文字や計算を教える際に、息抜きとして一緒に遊んでいる経験者なのだ。


「まずはポーカーですが、このトランプというカードを使います。トランプは一から十三までの数字が四種類の記号分だけあります。計五十二枚のカードと、一枚だけジョーカーという特別なカードを合わせた五十三枚のカードを使ってポーカーを行います。ポーカーはまず、このように五枚ずつカードを配ります」


俺がクートとクアンの二人にカードを配っていると、興味深そうに皆が自然と周りに集まってくる。


「ポーカーというゲームは、五枚の配られたカードで役を作り、より強い役を揃えた方が勝つ、というゲームです。どのようにカードを揃えると役が出来るのかは、こちらに張り出しますのでご覧ください」


ラフィに移動式のホワイトボードのようなものを持ってきてもらう。それにはポーカーの役を載せた大きな紙を張り付けている。


「当り前ですが、手元に配られた五枚のカードで役が出来ていることは少ないです。ですから、一度だけ、自分が揃えたいと思う役以外の不要なカードを捨てて、その分、カードを引くことが出来ます。それじゃあ、二人とも試しにやってみてくれ」

「分かった。俺はこれとこれとこれを捨てて、三枚引くぞ」

「私は四枚交換します」

「うん、それじゃあ、皆に見えるように出してくれるか?」

「俺は三と七のツーペアだ」

「私はジョーカーを含めたキングのフォーカードです」

「くっ!また負けた。クアンは強すぎる・・・」


勝負の結果にクートが項垂れる。それもそうだろう。ポーカーを教えてからクートはクアンに一度も勝ったことがない。何なら、俺も勝ったことがない。考えることがどちらかと言えば苦手なクートは、以外にもどんな役を揃えるかしっかりと考えながらやるのに対し、考えることが得意なクアンは直観だけでカードを引いている。


・・・多分、今回は一番初めにジョーカーが手元に来ていて、それ以外のカードを全部交換したんだろうな。相変わらず、クアンの引きが良すぎる。普通、四枚交換して、三枚も手元にキングが来るか?クアンは幸運のパラメーターが振り切れてるんじゃないだろうかとつくづく思ってしまう。


「このように、今回の勝負はクアンの勝利です。ちなみにジョーカーの役目はあらゆるカードの代用となります。つまり、キング、あ、トランプの場合、一をエース、十一をジャック、十二をクイーン、十三をキングと呼称します。なぜそう呼ぶかは知りません。一切の質問は受けつけませんのであしからず。それで今回、クアンはキングのカードを三枚とあらゆるカードの代用となるジョーカーの一枚でフォーカードという役を作ったことになります」

「へぇ、なるほどなぁ。面白そうだなルート」

「そうでしょう?フレンでも簡単に出来ると思います」

「おい、ルート。それはどういう意味だ!」


フレンに歯切れのいいツッコミをもらってから、今度はリバーシの説明をする。こちらもクートとクアンの二人が実際に遊ぶ様子を皆に見てもらう。


「このように白と黒のそれぞれの色に分かれます。自分の色で相手の色を必ず挟むようにして置くと、その間に挟まれた相手の石を自分の色に替えることが出来ます。そして、最終的に自分の色の数が多い方が勝つというゲームです」

「へぇ、こっちも面白そうだなルート」

「そうでしょうフレン?わざわざそういうことを言ってくれたということは、もう一度、さっきと同じことを言った方が良いですか?」

「そんな訳あるか!」


・・・振りじゃなかったのか、残念である。


「説明は以上です。このようにして、皆で楽しく遊びたいと思います。でも、ただ遊ぶだけでは面白くありませんので、トーナメント形式で勝敗を付け、上位者から順番にポイントを付けます。そして、ポーカー、リバーシそれぞれの優勝者には、賞品としてもれなく焼き菓子をプレゼント。また、二つのゲームを合わせたポイントが最も高い総合優勝者には、特別なお菓子をプレゼントします。なお、ゲーム大会の参加者は招待客の皆様です。さすがに主催者が出て、賞品を掻っ攫う訳にもいきませんからね。負けてしまって手が空いた人は俺と遊んでください」


俺の説明にやる気を見せたのは、クラスメイトのフレンたちとクート、クアンの兄妹だ。俺がお菓子を振舞ったことがあるメンバーである。大人たちは、賞品が出るいうことよりもゲームそのものに興味深々といった感じの表情をしている。


・・・とりあえず、掴みはオッケーな感じかな?


「すでにそれぞれのトーナメント表は作っています。対戦相手は俺が勝手にくじ引きをして決めてありますので、確認してください。まずはポーカーから初めます」


俺は火属性の補助魔法を掛けながら、ゲーム大会用に準備したテーブルと椅子を道具袋から取り出して、予め何も置いていなかった空きスペースに置く。今日のためにカードを配る訓練をしたディーラー役の使用人を集めて、ポーカー大会の開始である。


「トランプは他にもたくさんあるので、負けた方はそれで遊んで頂いても構いませんし、もし、リバーシ側の対戦相手も負けているようでしたら、どうぞ、リバーシの方を進めて頂いても構いません」


俺はそう告げてから、折角なのでカジィリアとトランプで遊ぶことにした。カジィリアには、事前にゲーム大会をするという話はしていたが、どのようなことをするのかは話していない。カジィリアも興味深々と言った感じだが、何よりトランプを手に持って、俺と遊びたいと顔に書いてあった。


「折角なので、お婆様とは違う遊びをしましょうか」

「違う遊びですか?」


俺はカジィリアが持っていたトランプを渡してもらい、中からジョーカーを抜いて、カードをよくきってからテーブルに裏向きに並べる。


「これは神経衰弱と言って、二枚のカードをめくって、同じ数字なら自分のカードになり、違う場合はもう一度裏返して伏せます。同じ数字を当てた場合は、もう一度、二枚めくることが出来て、外れた場合は手番が相手に変わるという訳です。最終的にカードを取った数の多い方が勝つというゲームです」

「・・・このトランプなるもの、他にも色々な遊び方があるのですね?」

「さすがお婆様。ご明察です。ルールをしっかりと決めれば色々な遊び方が出来ますし、これ一つで、一対一だけでなく複数人同時でも遊べて、中々の優れものなのですよ」

「そうですか。ところでルート、これもまた夢の産物ですか?」

「はい、その通りです」


俺がそう答えるとカジィリアは少し不満そうな顔付きをしながら「このようなものがあるならもっと早く教えてくれてもよかったのですよ?」と呟いた。どうやら、もっと早くに俺と遊びたかったらしい。どちらかと言えば気難しい人だとずっと思っていたので、カジィリアと一緒に遊ぶという発想は全くなかった。


・・・ごめんねお婆様。


カジィリアとの神経衰弱は、カジィリアの勝利で思いの外、早く終わった。今も尚、現役で文官を務めるカジィリアの抜群の記憶力に、カードの引きの強さも相まって、完全なワンサイドゲームである。俺の手元に四枚しかないカードとカジィリアの手元に潤沢にあるカードを見比べて、俺は愕然する。


俺が肩を落として項垂れていると、ポーカー大会が決着したようで、優勝者の名前が宣言されていた。


「優勝者はクアン!」


・・・うん、知ってた。


ポーカーに関しては、よほどのことがない限りクアンが優勝すると思っていたが、案の定その通りになった。決勝戦の相手はエリーゼだったようだが、お姫様補正でも勝てなかったようだ。どうやら、この中にはクアンに勝てるだけの幸運の持ち主は居ないらしい。率直にカジィリアと対戦させたらどちらか勝つか、気になるところだと俺は思った。


俺は立ち上がってクアンの下へ向かうと、クアンが「優勝しましたルートお兄ちゃん」と嬉しそうに笑顔で報告してくれる。俺は「さすがクアンだな」と褒めながら、とりあえず頭を撫でておく。何となく、こうすることで、俺の運気が上がらないものかと思ったのは、ここだけの話だ。


「では、今度はリバーシ大会へ。すでに終えられている方もいらっしゃるようですが、引き続き空いているトランプやリバーシを使ってお楽しみください」


俺はそう宣言してから、今度はカジィリアとリバーシで遊ぶかと思いながら踵を返す。すると目の前に男女二人が立ち塞がった。何とも形容しがたい笑顔を浮かべたフリードとアーシアの二人だ。実は二人ともすでにリバーシも敗北で終えてしまっていて、ある意味では暇をしている二人である。


商人である二人は、計算高く頭の回転が早いところがある。その商人としてのスキルが、リバーシに向いていると思っていたのだが、そうではなかったようだ。と、トーナメント表を見て、ついさっきまでそう思っていた。だが、笑顔で立ち塞がる二人の顔を見て、俺はそうではないことを悟る。


・・・笑顔が怖いよ二人とも。


「二人揃って珍しいですね。何か御用でしょうか?」

「ちょいとルート君と話をしたいんやけどええよな?」

「ルートちゃんとお話がしたいの。良いわよね?」


フリードとアーシアの二人は、俺の返答を聞くこともなく俺に歩み寄ると、フリードが俺の右腕を、アーシアが俺の左腕をガッシリと掴んできた。その次の瞬間、俺の足はふわりと地面から離れると、有無言わさず俺は二人に拉致られた。

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