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掌編小説集5 (201話~250話)

きつねの親子

作者: 蹴沢缶九郎

昔々ある山奥にきつねの親子がいた。いたずら好きで甘えんぼうな子きつねは毎日のように母きつねを困らせていたが、それが親子の幸せであり、日常であった。


ある日、母きつねが病気になった。体調を崩し、床に伏した母きつねに、子きつねは少しでも元気になってもらおうと、川で魚を捕まえてきたり、野原で摘んできた花を渡したりした。母きつねは「ありがとうね」とニッコリ笑ったが、それで病気が治る事はなかった。

相変わらず元気のない母きつねに、子きつねは一つの決心をする。人間の暮らす村に行き、病気を治す薬を買ってこようと考えたのだ。さっそく子きつねは人間の子供に化け、何枚かの木の葉を人間のお金に変化させた。変化は得意ではなかったが、母が病気の今はそんな事を言っている場合ではなかった。


子きつねは寝ている母きつねに、


「待っててね。お母さんを良くするお薬買って、すぐ帰ってくるからね」


と言うと、山を下りていった…。


子きつねはとても心細く怖かった。人間の子供に化けているとはいえ、人間の暮らす村までやってくる事など初めてであり、母きつねからは、「人間は怖い生き物なのよ」と言い聞かされていたのだ。

しかし、子きつねは床に伏した病の母きつねを想うと、不思議と恐怖心や不安を払拭する事が出来た。


そうこうする内に、村の薬屋へとやってきた子きつね。薬屋の主人は、「いらっしゃい。今日はどうしたの?」と、子きつねに尋ねた。どうやら、人間の子供と思い込んでいるらしい。


子きつねは小さな声で、


「お薬…お母さん…病気…」


と答えると、薬屋の主人は、「そうか、お母さん病気なのか…。よし、一番よく効くお薬を出してあげるね」と、棚から薬を取り、子きつねに渡してあげた。


「これでお母さんが治る」


元気になった母きつねの姿を想像し、子きつねはとても嬉しくなった。子きつねは主人にお礼を言って木の葉を変化させたお金を払うと店を後にした。

しかし、元々変化の得意ではなかった子きつねは、薬を手に入れた喜びから気を抜いてしまったのだろう…。お尻からきつねの尻尾が出ていた事に気づいた薬屋の主人は、騙されたと激怒し、店の奥から木の棒をひっぱり出すと、去り行く子きつねの後ろから何度も棒を降り下ろした…。


二度と子きつねが山に戻る事はなく、その日、山からは悲しげに鳴く母きつねの声がいつまでも聞こえた…。

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