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王子様はストーカー①

1.

この世界では人間は何かと区別されている。

金持ちと貧乏人、都会者と田舎者、優等生と不良、皇帝と奴隷、勝者と敗者。

例を挙げれば数えきれない。

そして非常に残念なことに『区別』は社会に出る準備をする場にあたる学校に入った時から既に始まっている。

先ほど挙げた優等生と不良を筆頭に、リア充とぼっち、快活美人と根暗ブス、いじめっ子といじめられっ子。

そして、学年一の王子様もしくはマドンナと学年一の嫌われ者。

あたしこと喜更木奈々(きさらぎ ななみ)はこの『区別』という概念が大嫌いである。

かのフランス革命の根本となった啓蒙思想を主張したいわけではない。ただ単に、人間はどんなに優れていようが劣っていようが何も変わらない生き物だとあたしは言いたいのだ。

朝に起きて、朝食を食べ、働きもしくは学び、昼食を食べ、再びの労働・学習の後、夜に帰宅し、夕食を食べ、入浴し、排便して、性欲処理をして寝て、また朝に起きる…。

人間というのは所詮この繰り返しである。

そしてそれは、優れた人間や劣った人間とて変わらない。

イレギュラーが生じる時もあるだろうが、そんなことはほぼ稀だ。サイクルを繰り返す限り、人間は『ヒトという生物』という枠を越えられない。

それなのに、この世界というのはいつも人間を『区別』しようとする。ある人間をその趣味、出身、能力、身分、社交性、才能から判断し、先ほど言及した枠をわざわざ細分化させた無数の小さな枠へと強引にねじ込む。そして『枠』から脱出するのはほぼ不可能だ。

いわゆる成功者と言われる者たちは自分の枠から脱出した、不可能を可能にした存在ではあるのだが、どう足掻きどう成功したところで、自分が元々とある枠の中で生きていたという事実は払拭できないのだ。

学生時代いじめを受けていたボクサーは『いじめられっ子からチャンピオンになったボクサー』というレッテルを貼られ続けるし、『偏差値20台だったのに難関大学に現役合格した元不良』も永遠に『不良だった天才』として語り継がれる。自分が過去に縛られていることに気がつかない、気づいていても認めようとしない愚か者なのである。

わざわざ枠を作って区別せず、ただ同じ人生を繰り返す『ヒト』という枠に収まっていればいい。

それをしようとしない『区別』という行為が、あたしは嫌いだ。


2.

あたしは何も哲学の話をしたいわけではない。

今語り聞かせたのは前座で、小噺である。

なぜ、わざわざ枠についての話を延々としたのか。それはシンプルな理由だ。

あたしの通う黒ノ(くろのもり)高校における唾棄すべき小さな枠の一つ『学園の王子様』こと青桐三子郎(あおぎり みねお)からの呼び出しを手紙によって受けたのである。

青桐三子郎の名を黒ノ森高校で知らない者はほぼいないだろう。

成績優秀、スポーツ万能、容姿端麗、高身長、優しい性格で噂によると喧嘩も強く、実の父親はホテル王。

彼には枠に収まるべき全ての条件が揃っていた。あたしも彼の名は耳にしていたし、移動教室で彼を見た時はかっこいいと思った。

ここで一抹の疑問が生まれる。

なぜ、彼がその辺のモブ女子生徒Aであるところのあたしを手紙で放課後の屋上まで呼び出したのであろうかということだ。

あたしは屋上への階段を登りながら、いくつか理由を考えた。

理由その1。

『あたしへの愛の告白』。

……これはない。イケメンが普通の女に惚れるなど少女漫画や御伽話で十分だ。それにあたしは美人でないと成り立たない『シンデレラ』もしくは『サンドリヨン』、『灰被り姫』という作品が大嫌いなのだ。

理由その2。

『「俺と友達になってくれ」』。

いくらなんでも回りくどすぎる。友達を作るのには確かに勇気がいる。だからといって、そのためだけに屋上へ呼び出すのはいかがなものか。

理由その3。

『極悪質なドッキリ』。

恐らくこれが一番現実的だろう。

どんなドッキリかというと、まず青桐があたしに告白する。あたしがそれを受け入れると、物陰から青桐の取り巻きと思しき荒れた様子の男女が携帯電話もしくはボイスレコーダーを持って高笑いしながら現れる。

そして、青桐はあたしを嘲笑って告白するのだ。

「騙された?全部嘘でした!!」

そんな様々な推測をするうちに屋上のドアの前に来ていた。

青桐は何をしかけてくるのだろう。

あたしは深く深呼吸をして、自分に対しこう言い聞かせた。

「期待などするな、身の程を知れ」

ドアノブを掴む右手が僅かに震える。それを抑えてあたしはドアを開け放った。

夕焼けの空を背景に、青桐三子郎が立っていた。

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