第3話:少年達による勇者稼業 後編
「くっ、さすがにつえーな」
「2人ともしっかり!」
悪意を持った電磁波が、人間の子供達を狙う。
それを防ぐのは大きな翼を広げた不死鳥。
見えない壁に阻まれ、その攻撃は掻き消されてしまうものの、衝撃自体が消える訳では無い。
それに3体の召喚獣の内1体が守りに専念せざるを得ない状況で、彼等は火力不足に陥っていた。
「フェニックスがいないというだけで、どうしても決め手に欠けてしまうな」
「しょーがねーよ。オレ達ただの子供だもん。誰かに守ってもらわねーと」
「ユニペガサスもエンドラゴンも、守りには向いて無いからな」
対の勇者たちは、何とかして対策をひねり出そうとするが、上手い事良い手を思い付かず、じりじりと後退して行った。
「ほーほほほ、その程度なの?ふふふ、ならば、今度はこちらからよ!出でよ、ナーガラージャ!」
ギルメディアの言葉に応え、霧の中から巨大な蛇が現れる。
「くっそ!どうにかしねーと!」
「落ち着け大地!……何か、何か手を考えないと!」
「フェニックス、もう少しだけ頑張って……!お願い!」
危機的状況に、少年達の悲壮な声が漏れた、その時だった。
『対象モンスター:ナーガラジャ。蛇・魚系に属する水属性。弱点・腹部、または土、雷による属性攻撃。防御力は比較的低く、打撃よりは金属などによる鋭い攻撃、傷に弱い』
え、と思う間も無かった。
不思議な光点が巨大な蛇の腹部に照射されると、どこからか、ぱあん!という音が聞こえた。
「皆、無事か!」
「お父様!?」「義兄上!」
駆け寄って来たのは異世界組の保護者である元国王、グリフィリオス。
その手には幅広の剣が握られていた。
『今がチャンスだよ!』
誰かが言ったその言葉に全員がハッとする。
「水、雷か。クルル!」
「はい!」
「エンドラゴン!土魔法!」
「ユニペガサス、角を使って腹を狙え!」
父の言葉に、幼い巫女姫は杖を構えなおし炎の鳥に指示を出す。
少年達もそれぞれに、相棒に向かって叫んだ。
一方旗色が悪くなったのはギルメディアである。
「くっ、一体誰がこんなくだらない邪魔を……!!」
頭を押さえ、ふらついていた。
よく見れば、姿そのものが揺らいでいる様にも見えたが、それに少年達が気付く事は無く―――。
「ギガインパクト!」
「シューティングスター・ジャベリン!」
「雷と炎よ、渦を巻け!サンダーフレアストーム!」
3匹の召喚獣の大技で、ナーガは光と消え―――
『変異固定:ナーガラジャ』
「「なっ」」
『回収、召喚器:スリープボックスXXX』
「え?」
ナーガだった光は、いつものように無数の光になって消えようとして……何故かその光は1点に集まり、その塊ごといずこかへ去って行ってしまった。
「召喚器って……」
呆然と見つめたのは大地。
それもそのはずである。
『召喚器』を与えたのも、そもそも長い間管理していたのも、彼の『一族』だったのだから。
「どういう、ことなんだよ」
それに応えられる者は、残念ながらこの場にはいなかったが―――
暗い、真っ暗な部屋の中、機械による無数の色の光が点滅している。
そんな場所で、彼等は先程の少年達によるバトルをずっと見ていた。
「いかがですか」
最初に声を発したのは若い男。
自信に満ち溢れた様子で、戸惑った様子の周囲にいた年配の男性達に語りかける。
「ナーガ・ラジャはこちらでの回収に成功いたしました。次回より戦闘に使えます」
振り返ってそう言ったのは、機械の光に髪を白く浮かび上がらせた眼鏡に白衣の男性。
こちらもやはり若い。
「……そうか。やはり認めねばならんな」
先程の衝撃からようやく落ち着きを取り戻したらしい年配の男性の内、代表者の様な立場の男は、そう重々しく頷いた。
「動作も順調、今の所変な廃熱も妙な動きも無いよ」
明るい口調でそう言ったのは、部屋の機械の中でもひときわ大掛かりな装置を見回っていた若い男。
その装置には、黒い眼隠しをした人が、体のあちこちにケーブルを接続された状態で横たわっていた。
その人―――女性は何も言わないし、動かない。
不意に、中空にホロモニターが現れた。
『電脳隔離空間異常なーしっ!氷魚の意識もしっかりしてるよー!』
映し出されたのは髪の長い少女。
どこか平面に描いたような質感の現実味のない少女は、画面外から誰かを引っ張る動きを見せ、その腕の先から1人の女性―――氷魚の姿が現れた。
『ミッションは無事に終了かな?今から帰っても良い?』
「オーケイ。ツバサ、天馬」
最初に発言したあの自信過剰な男性が声をかけると、それぞれのいる方から「了解」という短い返答が返って来た。
「ナビ、そっちはよろしくね」
『はーい、とりぃちゃんにー、まーかされましたあ♪』
「ツバサ」と呼ばれた男性と共に作業をしていた、髪の短い女性が宙に浮くホロモニターに向かって呼びかけると、いっそ不安になりそうなほど明るい声が返って来た。
「真剣にやろうか、ナビ」
さすがに苦笑する。
『大丈夫だって、信じてるからさ』
「わかった。あんたは戻ることだけ考えてて」
『うん。じゃあ行くよ』
モニターに映った氷魚の姿が光の粒子となって溶けるとともに、各種計測器が反応する。
そして、きっかり3秒後に。
「ただいま」
大型機械に横になっていた女性―――氷魚が目を覚ましたのだった。
氷魚達の居た場所よりもっともっと暗い場所に、彼等はいた。
暗く、淀んだ場所。
それは―――悪意の巣窟。
今は、1人の男女が向かい合って立っているだけだ。
「なんなの“アレ”は!」
憤慨した様子の女性幹部―――ギルメディアは、しきりにそう繰り返す。
体には絶えずノイズが走り、ところどころ彼女を構成するスクリプトが透けて見える。
電子ウイルスではない。対策は万全だった筈だったし、何よりこの状態の彼女に侵攻する誰かなど存在しなかったのだから。
だが実際は“何か”による謎の浸食……そうとしか思えなかった。
「……幻獣ナーガラジャは捕えられたようだ」
男の低い声が空間に響いた。
「わかってるよ!くそっ!」
そう吐き捨てた女は、こんどは「どうにかしなきゃ」と小声で何度も繰り返す。
まるで壊れた録音機の様に。
そこへ、こつりこつりと男が近寄った。
「挑発による計画性のない攻撃、油断による相手への優位の譲渡、敵の侵攻による自身の損壊」
「あんなの分かる訳無いじゃない!」
1つ1つ冷静に上げる男に、声を荒げ、反論とも言えない反論をする女。
だが、そこまでだった。
音も無く、男の右手は女の露出した腹に吸い込まれ―――
「ヴォイジャー……アンタ、なに、を……」
「自身の存在を保てない者を生かしておくほど、“ここ”は甘くないという事だ。お前なら分かるだろう?もともと“プログラム”だったのだから」
「アタシはウイルスに感染なんかしてない!してないったら!ねえ止めてよ!もうバックアップなんか無いんだよ!?」
「……これは、『総意』だ。危険はすべからく、排除せねばならん」
「アタシは危険なんかじゃない!やめてやめてヤメテヤメ……!!」
喚く女は光となって消え、ただ1人残った男も、その深い闇に姿を消す。
「……いよいよか」
暗闇に、ほの暗い響きだけが残った。
それは、何処かじっとりとした粘り気さえ感じさせるような……機械にあるまじき“妄念”ともいうべき感情を孕んでいた――――――。
これで少しは情報が出たかな……?
いやまだ全然ですよねー……
頑張って少しずつ説明入れますんで(^^;)
少年達の戦闘は某電子魔物テイマーズとか遊びの王サマカードバトル編とかのイメージ。
ちなみに『エンドラゴン』は『エンダードラゴン』より(笑)
クラフト動画好きなんですよw