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蒼歴前夜  作者: 深月 涼
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第15話:金色の獣


異世界突入。




 氷魚とナーガラジャ……南米産蛇神(ケツァー)が参戦を表明してからしばらくの後。

 彼らは政府機関の重役と交渉し、改めて全員で顔を合わせたり、幾度か勇者としての活動を共にした。

やがて季節は進み、周囲が涼しくなってきた頃、その命は下された。


「やっとここまで来たか、っつー感じだよなっ!」

「ああ。だが気を引き締めろ、油断するなよ」

「わーってるって!」

「ここで終わらせなければならんな」

「ええ、もちろんですわ、お父様」

 異世界≪ディアス≫へと降り立った彼らは、周囲を見回した。

「ここから敵の本拠地を探せ……ってか?」

 周囲は砂岩に覆われ、人ひとり……いや、生物の気配そのものが無いように見えた。

 空は真っ暗だが星が瞬き、その点だけでいえば美しいと言えるかもしれないが、実際に見る者にとっては、否が応にも孤独感と不安感を煽るものでしかなかった。

『その心配には及ばないよー。前回の渡界データもあるし、ナビ(・・)ナビィ(・・・)にお任せ!』

『今のところ、敵意を持ったデータや機体等の反応はなし。でも慎重に行動してね!』

 姿は見えないが、電脳空間サイドからの異界渡りに成功したナビィと氷魚の声が耳元でする。

「……なんかこそばい」

「……いうな」

 男子2名が何故かこそこそと小さくなった。

 耳元で急に妙齢の女性の声がしたら、いくらそれが知人のものであったとしても、反応してしまうのは仕方の無い事だろう。

「2人ともどうした?行くぞ?」

「あ、ああ」

「お、おうっ!」

 王が耳から手を離し振り返る。

 どうやら当座の進行方向が決まったらしい。

 振り返りざま星の光を受け、王の耳元がきらりと光る。

 彼らの耳には、飾り状の小さな通信受信装置がついていた。


『進路約500M以内に敵の存在を感知。右300Mに小部屋があるので、そこで待機』

『ふっ飛ばしちゃっていーから。さーて、乱戦の始まりだよー!』

 楽しそうなナビィの言葉通り、一度見つかってしまえば、その後はわらわらと湧いて出るのを片っ端から屠るだけになった。

「エンドラゴン、ブレスだブレス!」

『おう!』

「ユニペガサス、跳ね飛ばせ!」

「雷で敵を減らしてくださいな!」

 子供達の声に、獣達の咆哮が混じる。

 この世界の魔物であった彼らは、ここでなら意思の疎通も可能だ。

 だがこれでは、主とまともにしゃべる隙も無い。

「くっ、こうも多いと、まともに進む事すらままならんな」

『もう少しだけ耐えてねー』

『ケツァー、呑み込んで!』

 王が渋い顔をし、活路を開くべく剣を振るうと、それに合わせる様に碧白の翼蛇神が喉を大きく開いた。

 情報も機械の体も、分け隔てなく吸い込んで行く虚無の胃袋。

 これはナーガ時代からの奥の手だ。

 とはいえ、一時的に数が減ったに過ぎない。

 与えられた僅かなチャンスを生かすべく、彼らが籠城を止め、敵陣を突破しようとしたその時。


『――――――――――――――ァァァッッッッ!!!』


 まるで百獣の王を思わせる咆哮に、少年たちは思わず耳を塞ぎ、這いつくばった。

「…………まさ、か」

 本能的に恐れを抱かせるその咆哮。

 その正体に気付いたのは、かつての異界の王、グリフィリオスだけだった。


『見事な穴があいているが、聞かずともお前たちの仕業だろうな』

 どこかあきれたような青年は、衝撃から回復しつつあった彼らを見やると、何故か苦笑と呼べるような歪な笑みを浮かべた。

「ヴォイジャー……」

『ここからは自分がお相手しよう』

 そう言って取り出したのは1枚の金の円盤。

 そう、それはかつて彼が、大地と同じ地球の民に託された希望の光。

 だがそれには、当時には無かった機能が付加されている様だった。

『グレートレオンカイザー。金色の王よ、来たれ』

 その言葉と共に、彼らの眼前に現れたのは……、

「でっけーライオン!?」

「馬鹿な、機械兵士が召喚だと!?」

「そんな!まさかあの金の円盤が、召喚器だとでもいうのですか!?」

「やはり……。しかし堕ちていたとはな……レオン……」

 金色に輝く堂々とした体躯の巨獣。

 しかしその瞳は血のように赤く、まるで今すぐにでも、目の前の物を全て喰らい尽くしてしまおうかと言いたげに、爛々と輝いていた。

『……さすがにこれは、予定外かなー……』

『商家は何やってんのよ!?』

 氷魚のつぶやきとナビィの憤りに耳を傾けられるほど余裕のある者は、今この場には存在していなかった様だ。


 こうして、戦闘は再開された。

 だが金獅子1頭立ちはだかっただけで、いとも容易く彼らは圧倒され、肝心のヴォイジャーには攻撃が届かない。

 かといってその力を金獅子に向けた所で、せいぜい撃ち合いになるばかりで、まともなダメージ一つ入る様子もなかった。

 ……さすがは王の守護獣だけあり、ずいぶんと頑丈なようだ。

 さらに、本気を出そうにも出せない彼ら……少年達の守護獣には、ナーガの時の様に滅ぼすのではなく正気に戻さなければならない理由があった。

 それは、現時点では回収先となる召喚器が用意されていないという事。

 酷く傷つければ、そのまま消滅しかねない。

 王の為の金の守護獣。

 今後の戦力の為にも、身を守るという観点からも、そして何より今でも呼びかけている王の心の為にも、本気での総攻撃を躊躇わざるを得ない様な、そんな状況だった。


「くっ……レオン、俺の声が分からないのか!」

 守護獣達の戦いを子供らに任せ、王は独り機械の戦士と剣を交えていた。

 大剣を振りかぶり、振り下ろし押し潰そうとするが、相手も強固な金属で身を守る機械戦士。やはりダメージは微々たるものであった。

「無駄だ。あれの心などとうに無い。今やただの獣にすぎん」

 剣を交えながら、ヴォイジャーは王に語りかける。

 だが王は一笑に付した。

「ふっ、果たしてそうかな。心があるからこそ、こうしてお前のそばにいるのだろうと思っているぞ、俺は!」


 がきぃん


 剣と金属のぶつかり合う重い音があたりに響く。

「レオン!!」

「……無駄だと言ったら無駄だ!」

 ガッ、キィン

「何故諦めようとしない!」

 その言葉に王は答えなかった。

 ただその口からわずかに漏れたのは……。

「氷魚殿……」

 氷魚の名前だけだった。


 暴れ狂う猛火も、するどい角槍の一撃も、すさまじい稲妻も、貪欲な胃袋も、全てかわしていく金の獣。

 まるでこの世の終わりのような光景が繰り広げられる中、この世界にありながらこの世ならざる場所にいる2人は、今必死に作業をしていた。

 電子の世界における仮想の机にしがみつき、いくつもの仮想パネルが開く中、氷魚は仮想のキーを懸命に叩く。

『守護獣達が押し切られるまで、予測ではあと3分無いよ!』

『分かってる……!!っ、出来た!』

『おっけー!侵入開始ぃ!!』

 氷魚の作りだした“回路”は、電脳空間を通じ心と心を繋ぐバイパス。

 守護獣ともあろう高位の魔物が、そう簡単に心を無くす筈はない。そこまでヤワな生物ではないのだ。

 恐らく封じ込められているのだろう。

 ならばその扉をこじ開けて届かせればいい。

 溺れた氷魚をグリフィリオスが助けた様に。

 悪意のもたらした環境の変化は、電脳の世界を通じてこちら側にもたらされた物だけでは無い。

 魔物達もまた、電脳世界における電子生物と同様、変異した魔素の影響でデータ化する様になっていたのだから。

 逆にいえば、それがあるからこそ氷魚や大地が召喚器を手にし、戦えるともいえる。

 彼らの『武器』には、それぞれ電脳空間とつながる魔法装置も組み込まれていた。

 そしてそれらはすべて、あの『異変』と『その先』を見越した魔導商家が、氷魚の両親ら当時の召喚器研究チームに下した方針の賜物だったのだ。


 その手の(しんにゅう)行為に慣れたナビィが電脳空間と金の獣―――その内部を暴き、氷魚がパイプラインを繋げる――――――グリフィリオスと。


 そうして――――――


『王様!!』

「レオン、目を覚ませ!!」

 氷魚が王を呼んだのと、王が金獅子を呼んだのはほぼ同時だった。


『―――――――――アア……ッ』

 びくりと、獅子の体が震えた。

 それから、まるで今までの獰猛さが嘘のようにおずおずと、本当におずおずと振り返り、おどおど、びくびく、そんな怯えも混じっていそうな、百獣の王の名を持つ生き物にしては情けない表情で、かつての主君を見た。


『……通じたみたいだね』

 電脳空間から姿を現した氷魚のほっとした声に、王は彼女の方に視線を向ける。

「氷魚殿……」

『私もがんばったよー!』

 呼びかけると、脇からナビィも顔を出した。

『私はただお互いを繋げただけです。実際に貴方の声が『彼』の心に届いたのは、きっとそれだけの、切っても切れない絆があったからだと思う』

「……そうか、恩に切る」

 微かに笑みを浮かべる。

 半透明で見ようによっては幽鬼の様ではあったが、彼女の姿はグリフィリオスにとっては、十分に安心感をもたらすものだった。

「姉ちゃん!」

『気を抜かないで!まだ終わったわけじゃないよ!』

 魔素の多いこの場所では、電脳空間とのつながりも強い。

 意識せずともいつの間にか、自身の姿を投影してしまっていた様だ。

 だがそれは少年達にとっても分かりやすく、また声だけのナビゲートよりは支援して貰っていると実感が湧く為、返ってやる気を出させた様であった。





若衆についてはしばらく出番なしで。

「「「「ちょっとおおおおおお!!!???」」」」

いやだって話進まなry

それは冗談として、地球に居残る若衆は、勇者チームと直結していません。

ナビィと氷魚とは繋がっています。

地球側からも情報などアシストしていますが、異世界という壁に阻まれ直接は話ができません。

電脳空間からならアプローチ出来るのは、魔素や魔素電子を媒介しているからですね。守護獣達と同じ。

なのでそれらはいったん氷魚とナビィの元に送られ、彼女らの口から改めて語られる形になっています。




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