第14話:事情説明 後編
子供達もグリフィリオスも、皆何も言わなかった。……いや、言えなかった。
「あの事件が起こったのが、私が中等部に入学した年だから……もう7年か。その時初めて私は実家が魔導商家なんて胡散臭い機関に属している事を知ったんだ」
「……うさんくさいって」
自分の家のことなのに、と呆れた目線を送る大地に、氷魚は仕方なさそうに肩をすくめる。
「その頃はまだ今みたいに、商家もおおっぴらに前面に出て、活動していなかったからね」
「当時の商家は、始祖の残した文献を頼りに『悪意』の存在とそれを排除する『勇者』の存在を探してた。クルルちゃんを見つけられたのも、そういった影の努力……っていっていいのかな、とにかくそういうもののおかげなんだよ」
「『悪意』の存在が表面化し始めてから、この世界は少しずつ変わっていった。だから、氷魚の両親の残した召喚器の研究も、誰かが引き継いでやらなければいけない事だったんだ」
「……それで今、氷魚殿が?」
「そういう事です」
グリフィリオスの言葉に、こくりと氷魚が頷いた。
「魔導商家といってもピンキリで、今でも胡散臭い組織だと思っている家も結構ある。……同じ身内にもかかわらず、な」
「派手な魔法が使えなくなってから、もう何十年と経っているからな。血が繋がっているとはいえ、詳しい事情を知らない……知らされていない家も多い」
「遠縁ならなおさらだね。氷魚の家もそう、大地の家も」
「私の家は両親の仕事の都合もあって中途半端に情報が伝わっていたから、余計胡散臭いと思われていたみたいだね。……最初、遺産の相続とか私の身元の引き受けとかで、大分ごたごたしていたよ」
「……まあ」
「……なるほど、それでか」
沈痛な面持ちで氷魚が言うと、クルルは口元に手を当て氷魚を気遣う。
一方得心がいったのはグリフィリオスだ。
氷魚の深層心理の中で言い争いの場面が多々見受けられたのは、きっとそれに由来するからなのだろう。
思えば大地の両親とも微妙な距離を感じていた。
彼は、思いもかけず、氷魚の中の傷の深さと多さを知る事となった。
「結局商家の本筋の方で私を拾ってくれるって事で、奨学金だのスキップの手続きだの、とにかく色々やって貰って……最終的には海外の大学まで行かせて貰えたんだ。両親の研究は、その頃から携わる様になって……」
「では、大地の召喚器は姉上が?」
ロストの言葉に、氷魚はゆるゆると首を振る。
「商家の研究者は私達だけじゃ無いから。当時はすでに、電脳空間の異常についても調査が進んでいたし、方向性が決まれば雛型を作るのは難しくないからね」
「今の形にしたのは俺らだがな。どうだ?かっこいいだろう?」
リュウヤが何故か胸を張った。
「姉ちゃん達は、その、向こうで会ったのか?」
「ああ、そうだ」
「僕達は氷魚と同じ大学にいたんだよ。で、意気投合して一緒にチームを組んだ。そしたら見計らった様に商家が接触して来て、ロボット研究だの電脳空間理論だの、召喚器と電空リンクだの……」
「無茶振りにも程があるよねえ……」
しゃべっていた天馬の声はだんだんと乾き、相槌を打つ鳥居までどこか疲れたような声で言った。
どうもこの頃は色々と忙しかったらしい。
「その分充実はしてたな」
「やりたい事は片っ端からやって来たろ」
ツバサが苦笑しながらフォローに回ると、リュウヤが疲れた表情の2人の背中をばしばしと叩く。
遠慮のないやり取りは、それだけ絆の深さを見せつける。
「んで、『悪意』と本格的にやりあう、ってんで本拠地をこっちに移したんだよ」
リュウヤが話を戻した。
「ドルフィンのお仕事は、ついでなのか?」
ゲームが好きだという大地が、少しがっかりした様子で問うた。
「まあ、表向きの仕事、かな。最終的に今使えない技術……VR技術とかも絡んでくるから、他国からも見張られていたしね」
「実現可能だってところまで開発が進んだ頃から、攻撃される様にもなったしな」
それは電脳空間と現実空間と両方、という事なのだろう。
「敵は『悪意』だけではない、というのが厄介だな」
グリフィリオスが考え込んだ。
「だからこそ、“ここ”なんだけどな」
「“ここ”?」
「“ここ”、ですか?」
ツバサの言葉に、子供達は揃って首をひねった。
「そう。この近所はね、意図的に商家の家系が集められた土地なの」
「ええっ!?」
現地住民であるはずの大地が、一番驚いた。
「この辺一帯は商家の『力』で守られている。例え、出来る事が限られたとしてもね」
「だからいまだに、ロストやぐっさん達がお前ん家にいるんだよ。ここなら、安全が保障されてっからな」
「そ、そうだったんだ……」
リュウヤの言葉に呆然とする大地。
同じ商家の一族なのに、この知っている事の差はなんなのだ、と少しだけ理不尽に思った。
「氷魚殿の使う召喚器は、具体的にはどういった物なのだ?」
グリフィリオスが改めて口を開いた。
「簡単にいえば、電脳空間没入装置、かな。大地のが“外側”に出てきた敵を倒す役目なら、こっちは“内側”から、その発生源をせき止める役目……って感じ」
天馬が実際にスリープボックスを指し示して解説する。
「『悪意』は魔素の代わりに電子や電脳空間を利用している。その構成に手を加えられれば『悪意』に対する有効な切り札になるだろう?」
「例えばホラ、ナーガラジャ。あれも氷魚が回収してデータをいじった結果なんだよ」
何て事ない風に言っているが、それが本当なのだとすれば、かなりの大事である。
「魔物……いえ、守護獣を改造したんですの!?」
「そんな事が、出来るのか?」
「……勝手にそんな事していいのかよ」
大地のみやや呆れた表情なのは、付き合いの長さゆえ、というやつだろう。
「もちろん“対話”はしたよ?『悪意』に染まった情報を洗い出して本来の姿に戻してから、改めて『仲魔』になって下さいってお願いしたの」
「その際、以前の戦闘で取れたデータを付与したらああなった」
「カラーリングを変えたのは、その方が『味方』だって認識しやすいからだな。全身紫よりは白蛇の方が神聖な感じするだろ?」
「ティターンズカラーはお嫌でしょう?」とリュウヤが謎の物まねをすると、大地が「兄ちゃん古い」と蔑んだ目で見やった。
「まあそれはともかく」
こほん、と天馬がわざとらしく咳ばらいをし、少々強引ではあったが話題を切り換えた。
「昨日襲って来たのは、そんな感じで技術を独占しようとする他国の交渉人で」
「交渉する気なんて最早欠片もねーけどな」
天馬の言葉にリュウヤが鋭くツッコミを入れ、逆にうるさいな、と睨まれた。
これ以上話の腰を折るなという事らしい。
「そうだな、あいつらは最初から力づくで技術を手に入れ、自分達を処分するつもりだった」
自嘲するようにツバサが言うと、クルルが気遣うように「まあ……」と呟いた。
先ほどから続く重苦しい話に、巫女姫は小さな胸を随分痛めている様だ。
必要以上に場の雰囲気が暗くならない様にと、若衆達も気を遣ってはいるのだが、こればかりはどうしようもない。
「最近携帯型のダイブシステムなんて作っていたのもその対策だったんだけど、結局逃げる羽目になったし、上手く対処できずにあんな状況になっちゃって……」
氷魚が申し訳なさそうに「びっくりさせてごめん」と、4人に対して頭を下げた。
『これで全部ばれちゃったし、次からは勝手に参戦予定だから』
今まで口を挟まず、ずっと宙に漂い様子を見ていたナビィが、ウィンクしながら『ねっ、いいよね』と勝手に現れてそんな事を言い出した。
どこからか「しゃー」という蛇の鳴き声らしき音も聞こえる。
「どうやら『彼ら』はやる気十分のようだな」
グリフィリオスが朗らかに笑う。
今の一幕で、完全に暗い空気は払拭されてしまった様だ。
「ま、元よりその予定だったしな」
言いたい事の先を越された、といわんばかりに頭を掻くリュウヤ。
天馬が軽い口調で「おエライからもバックアップ頼まれているからねー」と続けると、大地が「おエライって何だよ」と引いた。
「氷魚殿はそれで良いのか?」
「え?あ、はい」
良く分かっていなさそうな氷魚に、グリフィリオスはもう一度、今度は少し丁寧に説明する。
「ダイブシステムに潜るのはいいのか、と。体調には問題無いのか?」
「ああ!」
気遣いが嬉しくて、氷魚はにっこりと笑顔を浮かべた。
「ここ―――本体からなら比較的安全に保護領域を確保出来ますから。外にいた時の様に時間制限も無いですし、電脳空間を通じて異界に行く事も可能です」
きっぱりはっきりそう言ってグリフィリオスをまっすぐ見返した彼女に、彼もまた目を細める。
「対の勇者だなんだって言ってたけど、結局どこが『対』なんだ?」
「皆が勇者で良いのではないか?」
首をかしげた大地に、ロストがほほ笑む。
「そういう、問題かあ……?」
「わたくしは嬉しいですわ!氷魚姉さまと共に戦えるのですもの!」
納得いかないのか首をひねる大地の隣で、クルルがはしゃいだ声を上げた。
「ま、いっか。じゃあこれで本陣突入って事だな!」
考える事を放棄した大地の言葉に、その場にいた全員が「「「おう!」」」と応えた。
『対の勇者』システムに関しては、元々自世界内での解決を想定していた事から由来します。
元々彼らの先祖が戦隊ヒーローの如く複数人で巨悪と相対していた事もあり、適合者を一人だけ選んでその人に全部任せる、というのは、最初から考えていません。言ってしまえば、勇者という呼称もあくまで便宜上のものです。
ただ氷魚の弟が亡くなり、代用……代打として急きょ『対』を探したはいいものの、適合する人がおらず、クルルがこちらに来るまでは実質凍結状態にありました。
その後大地や氷魚が適合し、それぞれがそれぞれの立場で動き出します。
ロストについては、クルルが話した向こうの状況や、巫女としての力を見る為の儀式を通して発見されました。
当初は救出だけを想定していましたが、氷魚やナビィが動き、資質がある可能性に気付きます。
勇者としては弟君の代打のつもりでしたが、そのポジションにはすでに氷魚がいたため、大地のサポートとして実戦部隊入りとなりました。
というかそもそも、クルルまで守護獣使役できるとか知ってたら最初からやらせていた件。
その点は向こう……悪意の方が仕事が早かったですね。
弟君の失敗(当初、抵抗勢力(この場合は地球)に対する切り札(魔物を使役出来、異世界間を渡れる能力がある現地人)として、殺すつもりはありませんでした)も踏まえ、きちんと確保できたようです。
大地に氷魚にロストにクルル。
ここまでくれば残る王様についても推測はできますね。
実際そういう存在がいた事は、魔導商家も把握しています。
王様専用については後ほど……。
っていうか、ここまで説明入れるくらいなら本文で書けよ←ツッコミ




